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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第1章 月夜(ルナティックナイト)に吠えるは紅き瞳(ルビーアイ)
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ハスボック軍曹

俺達の戦車猟兵大隊に出撃命令が下された。


指揮を任されているのは、古狸。

古参の軍曹であるハスボック軍曹だった。

エンカウンターから引き揚げて、再編成された部隊にも出動が命じられた。


「良いか!我々が先遣隊となり、本隊が到着するまでの間に偵察を完了させる!」


新しく配属になった戦車猟兵大隊のマッキンガム少佐が壇上から命じていた。


「我々大隊が命じられたのは師団が目指すタウロウニム郊外の索敵。

 まだ敵が進行していない筈だが、前例があるから油断出来ん。

 各中隊は偵察隊を組織し、少数の兵員で常時監視に当たる様に・・・」


大隊長の命令で、各中隊並びに小隊の行動目的が判った。


「それでは、諸君の健闘を祈る」


まだ大隊本部は進出しないのだろう。

マッキンガム少佐は壇上から降りると、師団本部の方に歩いて行った。


師団には戦車猟兵と呼ばれる大隊が複数あった。

特に珍しい事でもないが、敵戦車をいち早く見つけ、主力たる歩兵部隊に知らせる義務が与えられていた。

それだけなら普通の歩兵でも出来るが、戦車猟兵の本領は敵戦車部隊の漸減にあった。


つまり・・・







「レイリィ少尉殿、我々だけで喰い止めるなんて考えないでくださいよ?」


小隊長のレイリィ少尉に、第3分隊長のハスボック軍曹が話していた。


「解ってますっ!それくらいの事は!」


苛立たし気に小隊長が、最古参の分隊長ハスボックに返した。


嫌味だと思われたのかと、分隊長は苦笑いを浮かべて。


「だ、そうだ。いいか、俺達の任務は敵の発見だぞ!」


年嵩の軍曹、ハスボック。

俺には親爺に近い年齢だと思っていた。

新兵に近い部下達を預かり、言葉荒く命じることも無い。


「先ずは陣地をこさえてからだな!穴掘りを終えたら先ずは食事じゃぞ?!」


長い間退役していたんだという。

招集されて再び舞い戻って来たという。

白髪が交る頭を掻き、着崩した軍服で上官に意見する。


俺には親爺の様にも感じる馴染みやすい分隊長だった。


「おい、そこの二人。砲戦車での戦いは初めてじゃろ?」


俺とロゼを指して呼び止めた。


「え、まぁ・・・はい」


俺が優柔不断な答え方をすると、わき腹をコついたロゼが。


「はい、軍曹!まだ実戦では砲撃しておりません!」


姿勢を正してはっきりと申告した。


「そうかい?若けぇの、お前もか?」


ちょいちょいと俺達を指で招きながら確かめて来る軍曹に。


「なんでありますか?」


ロゼが姿勢を正したまま訊く。


「いいか、こっそりと聞いておけよ。

 俺達の小隊長は学校上がりの堅物だ。

 由って命令されても良いと判断できる事だけをやるんじゃぞ?

 これはおかしいと思うのなら、聞かなかった事にするんだ・・・此処だけの話だがな」


びっくりした。

今の今迄、こんな上官に会った事が無い。

命令を無視しろと言ったにも等しい。

軍隊にあって、上官の命令は絶対だと教え込まれて来た俺には驚きの一言だった。


「まぁ、そんな事態にならなきゃ良いが。

 あの小隊長を観てたら危なっかしくてなぁ。

 俺が生き永らえれたのは、今言ったのを実践してきたからなんじゃぞ?」


軍曹ハスボックが俺達に教えてくれたのは、自分が生き残る術。

命令されたとしても聞こえなかったのならどうしようもない・・・嘘だけど。


自分が生き残る為には、無理強いな命令は無視したら良いんだと。

古参の分隊長が教えてくれた。


「でもよ。俺が逃げろって命令したら、どう考えたにしろ逃げるんじゃぞ?

 古株が危険だと判断したんだ、まず間違いないと思ってくれよ?」


生き残って来た古参者のいう事だけは聞いてくれと頼まれた。


「軍曹が?・・・了解しました」


俺は即座に承諾した。

その通りだと思ったからだ。

親爺みたいな分隊長が逃げろと言うのなら、間違いなくやばいのだろう。


「でも・・・良いのですか?勝手に後退したら他の部隊に影響が出るのでは?」


ロゼは自分達だけが逃げるのを躊躇して訊いたようなのだが。


「死にたいのなら・・・拒むが良いんじゃ」


俺はこの時、軍曹の言った一言が気になった。

返事に困ったロゼの顔を観ている、軍曹の眼と共に。



半日がかりで陣地を構築した。


軽戦車並みの大きさの土山を造るのが、こんなにも疲れる作業だなんて思いもよらなかった。


「これが戦車壕ってもんだ。敵に見つけられないように・・・なんて。

 無理な話だがな、何もないよりはましだって事じゃよ」


陣地の出来栄えを見回りながら、ハスボック軍曹が教えてくれた。


「軍曹は戦車兵には観えないのですが・・・よくご存じで?」


俺がいらない事を言った脇から肘鉄が飛んでくる。


「ルビ!余計な事を言うんじゃないわよ!」


ロゼの肘鉄も今日で何回目か。


「俺か?俺はなぁ、こう見えても元は工兵だったんだぞ?

 もっとも、彼是10年も前の話だが」


そうすると、軍曹は10年も軍から身を引いていた訳か。


「工兵にもいろんな役職があってな。

 当時は戦車と言えば大柄で巨大な熊だったんだがなぁ。

 その熊野郎達の面倒をみていたんじゃぞ、俺達は」


そうすると、今で言う整備兵ってやつか?


「その当時の戦車には工兵が乗り込む決まりだったんだ。

 直ぐに機械が壊れるし、キャタピラだって抜け落ちたもんだよ。

 その度に外に出されて砲弾が跳ぶ中を直したもんだよ」


なるほど・・・工兵でも最前線で闘ってきたのか。

だから・・・危険を察知することが出来るようになって・・・


「生き残るには、時として仲間をも見捨てなきゃならん。

 その事だけは忘れるなよ・・・若いの」


ロゼを見ながら、古参兵が言い渡した。

ハスボック軍曹は小隊の中でたった一人の女の子に、エラクご執心のようだ。


いや・・・親爺のような年嵩の上官は、ロゼに何かを感じ取っているようだ。

それが何なのかを知る前に。


奴等が来たんだ。



「小隊長!砂煙が観えます!」


斥候に出ていた第1分隊の少年兵が叫んだ。


「なんだと?!敵なのか味方なのか?それとも避難民じゃないのか?!」


神経質なレイリィ少尉が、まるで他人事のように訊き返す声が聞こえた。



「ロゼ、ルビ!いいな、俺が退き下がれと言ったら何も考えずに逃げるんじゃぞ!」


軍曹は持ち場に走り去る。

俺達に生きる道を残して。


「ハスボック軍曹?!」


ロゼが引き留めて訊き直そうとしたのだが。


「ロゼ、今は戦闘準備にかかろうぜ?」


俺が停めた。


俺の勘が、何かを教えていたから。


その勘とは・・・





「目標は敵機甲部隊!砂煙の下には見渡す限りの戦車が居ます!」


少し離れた陣地からの報告を受けた。

俺は小隊長達上官がどうするのかと考えた。


だって・・・俺達だけでは防ぎようがないじゃないか。


前方から真一文字に進んで来る砂煙の規模を見れば自ずと解る。


ー ・・・勝ち目なんて、これっぽっちも無いぞ!


俺は、俺の勘が当たってしまったのを懼れた。


ー まともに闘うなんて・・・死にに行くようなもんだ!


戦車猟兵大隊には、戦車部隊と機動戦を挑める車両なんて在りはしなかった。


「ルビ・・・ルビ。どうしよう?」


俺が怯えるのは、こんな場所でまともに正面から挑む暴挙を執らされること。


「ああ、ロゼ。判ってるよ、いざとなれば・・・」


軍曹も言っていた。


「逃げるしかないかもな・・・」


迫り来る機甲部隊に、俺達は眼を見開いてその時を待っていた・・・


挿絵(By みてみん)

目の前に現れたロッソアの戦車隊。

再び始まる闘いに、ルビとロゼは当惑する。


また、地獄への蓋が開いてしまったのかと・・・


次回 意外な命令

君達は敵を前にして戸惑う。何もでき無い事に苛立ちさえ覚えて。

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