ロッソアの赤き風 第12話
仲間って・・・いいな。
でも、ガッシュって奴は・・・
銀髪を掻きあげて、ガッシュが前を見詰める。
もう、反乱分子なんて呼べない。
彼等は、俺達と共に行動する道を選んでくれた仲間なのだから。
「この旗はなルビ。俺達の拠り所でもあるんだ」
そう言ったガッシュが旗手の女の子に笑い掛ける。
肩下まである栗毛を三つ編みにしている青目の少女が、促された様に頷く。
年の頃はロゼッタやレオンと同い年位か。
面長でおっとりしているように観えていた少女が、旗を見上げて話したのは。
「月夜の魔女と共に進み征くのは、私達故郷の解放が為!
魔女に因って齎されるのは、私達の自由!
我らが征き往くのは、平等なる世界の実現へ!」
旗を一振りした少女の声に、志を同じくした男達が唸りをあげる。
「「我等の闘いは、我等の自由を勝ち取らん為!」」
ガッシュの背後に居る男女22名が、拳を振り上げて唱和する。
「どうだい?俺達を同道させてみないか?」
頼りない男だとばかり思っていたガッシュの、意外な一面を見せられた気がした。
言葉を呑んで聞き入っていた俺達だったが、少なくても今は断る理由なんて見つけられない。
「ああ、アンタ等が願うというのならな。
俺達が目指しているのとは少々目的が誇大だとは思うが」
ロゼとレオンを振り返り、俺は承諾をガッシュに返す。
「確かにロゼッタは魔女のロゼを宿している娘だ。
ガッシュは観ただろうから信じてくれると思っていたよ」
「信じるとも。
それにルビにも秘められた異能が有るのもな。
確か・・・魔女が臣下の誓いをたてる程の力があるんだろ?」
ガッシュが改めて手を指し出して来る。
俺達が共に在るのを、誓う為に。
「そう・・・俺にも魔法が使えるんだ。
時として必要になる・・・時として変えたくなるんだよ、運命さえも」
握り返したガッシュの手は、固く厚く感じられた。
「運命さえも変えれるのか?それが本当なら、素晴らしいことだな?」
悪気があって言われたとは思えないが、そんなに素晴らしい事だなんて思えない。
「本当なら。俺の魔法は使わないに越したことはないんだ。
俺が魔法を放つ時は、決まって最悪な状況に追い込まれた証でもあるんだぜ?」
嘘じゃない。
俺の魔法である<時を戻す魔法>は、使わない方が良いに決まってるんだ。
<時の指輪>を発動させなきゃならない状況に追い込まれたくはないからな。
「そうかい?便利なようでそうじゃないんだな?」
勝手な事を言ってくれるぜ、ガッシュって男は。
交した手を放し、俺はロゼとレオンに向けて。
「これでノエルを救い出すチャンスが増えたな。
俺達でロッソアの研究所から救いだそうぜ、妹と魔法少女達みんなを!」
「ああ、ルビ!私が案内するから、仲間を一つに纏めてくれよ!」
レオンが胸を叩いて承諾してくれる。
「ルビィ?!妹ちゃんだけじゃなく大風呂敷になったじゃない!」
ロゼはニヤリと笑って。
でも・・・心から喜んでくれているみたいだ。
「ああ、誰だって理不尽な研究なんかに付き合わされるのは御免だろうしな!」
「そりゃぁーそうだよ!妹ちゃんだけじゃなく、皆を救い出してみせようじゃないの!」
「いいねぇ、ルビロゼ!私もそう思ってたんだ」
俺達は、仲間を得て力強く思えた。
今迄たったの3人で闘わねばならないと考えていたのだから。
「ガッシュ、恩に着るよ。だが、他の人達はどうするんだよ?」
此処に集う以外の、人達はどうするのかと訊いたのだが。
「それは構わなくても良いんだ。
同志の元に行けって言っておいたよ・・・
紅き旗を押し立てた部隊の処まで行けって・・・な!」
「紅き旗?同志って?」
ロゼが怪訝そうに訊く。
「俺達の志は、ニーレンという男が唱えた社会主義にあるんだ。
帝国なんかじゃ実現不能の、人民による政治を志した男と共にあるんだ」
「人民の・・・政治?」
レオンも眉を顰める。
「人は皆、平等であらねばならない。
ニーレンはそう唱えているんだ、誰もが自由で平等であらねばならないんだと!」
「誰もが・・・自由で平等?そんな世界が実現できるのか?」
俺には、夢み事と思えたのだが。
「出来るさ!何年かかるかは分からないが。
志を忘却しなければ、必ず実現できるさ!」
ガッシュや、その友たちは皆、信じているようだ。疑いもせずに。
頷き合う姿には、自分達の未来を託した想いが滲んで見える。
「そうか・・・そう信じているのなら。俺達は羨ましく思うよ」
フェアリアが勝っても負けても。
そんな思想は産まれては来ないと思うから。
同じ帝国主義国家でありながら、ロッソアは変わろうとしているのだ。
変えようとしているのは偽政者ではなく、民の力に因ってだという。
クーデター・・・国家転覆。
しかし、亡国とはならないだろう。
民が一つに纏まれれば、新たな国が産まれるだろうから。
「そんな国が出来るのであれば・・・見て観たいな」
闘いの無い平和で、人々が自由に暮らせれる・・・
「俺達も、平和になれるのなら。少しだけだとしても手助けするよ」
研究所を破壊すれば、対外戦争中のロッソアにダメージを幾許かは与えれるだろう。
そうする事で、此処に居る仲間達の負担が軽くなれば。
「そうなんだな?!
ガッシュ達の狙いは、研究所の破壊と魔法使いを仲間に率いれる。
帝国にダメージを与え、魔法使いを味方にする。
則ちそれは、帝国を崩壊へと導く手段」
臆病な田舎の若者とばかり思い込んでいたが。
「そうだよ、仲間は強力な方が良いだろう?」
やっと気が付いたんだ。
ガッシュという惚けた男の本性を。
「策士だな、お前って」
「そうかい?お褒めに預かり、恐縮だね」
見た目とは裏腹に、ガッシュという男は油断ならない奴だ。
俺達が本当に魔法使いだと確認する為に、さっきは芝居を打ったのだと分かったから。
それと、俺達の目標が<魔鋼の研究所>だと分かると。
「それじゃぁ、早速案内して貰いましょうか。
レオンさんが知っているんですよね、秘密の研究所って場所を?」
道案内をもさせようとしているんだ。
「ふっ!ホントーに。アンタって男が信じられないわよ?!」
レオンが悪態を吐き、肩を竦めてみせる。
「まぁ、良いじゃないか。
策士であるのなら、いざという時に力強い味方になってくれるだろうしな?」
騙されたと言っても、裏切られた訳じゃないから。
「そうだよなガッシュ?仲間になった俺達を騙すなんてしないだろ?」
「ああ、保証する。俺達は同じ目的に挑むのだからな」
これで。
俺は保証を得られた・・・裏切られないと。
だけど、信じるに値するのかは別だ。
ー ノエル・・・頼むぜ?
指輪に宿った妹に、ポイントにしてくれと頼んだんだ。
「「うん。ルビ兄の言う通りに。
魔女のロゼさんもそう勧めているから・・・」」
魔導書に魔法ペンを奔らせるノエル。
「「でも・・・ルビ兄。信じても良いと思うよ?」」
指輪に宿る妹が笑い掛けて来る。
「「彼はね、お兄ちゃん・・・と、同じなんだよ?」」
微笑んで来るノエルが、ガッシュを見透かすように言って来たんだ。
「「彼って。微かだけど魔法力があるみたい・・・なんだ」」
妹が感付いていたようだ。
そして、こうも言ったんだ。
「「ガッシュって人も。
誰か大切な人を奪われているみたいなんだよ?」」
俺にはノエルの声が告げた意味が、直ぐに理解出来たんだ・・・
「「多分・・・だけど。
彼も研究所に大切な人が居るんじゃないのかな?」」
そう。
俺も・・・そう思ったよ。
だから・・・仲間になると言ったし、手伝う気になった。
俺達を仲間にして、手伝うと言って来た。
本当は、俺達を仲間にしたかったのはガッシュの方だと・・・解ったんだ。
「「だからルビ兄。研究所に行くまでは裏切られないと思うよ」」
ノエルの言葉が耳に刺さった。
いいや、心の中に・・・と、言った方が良いだろう。
「心しておくぜ。
ガッシュが保証すると言った言葉を・・・な」
妹とガッシュに向けて。
ノエルには注意しておくという意味で、ガッシュには疑わないという正反対の意味で。
俺はこれからの闘いに向けての心つもりを告げたんだ。
ロッソアの平原を車両が走る。
俺と仲間達が目指すのは、魔鋼を研究している筈の秘密基地。
戦術用に開発しているという魔鋼の研究所から、人体実験に晒されている魔法少女を救う為に。
俺達は、紅き<月夜の魔女>の旗を押し立てて進んだんだ。
ウラルの山々が見える荒野を・・・
<次回 悪夢の研究所へと続く>
仲間となった20数名が向かうのは。
ロッソアに此処にだけある魔鋼研究所。
そこには、ルビナスの妹ノエルの肉体も魔法少女達も捕えられている。
果して、ルビ達は救出に成功するのか?
次回 悪夢の研究所 第1話
荒野に黒雲が湧き出す。あたかも運命を指し示すかのように・・・




