ロッソアの赤き風 第11話
魔女ロゼが発現した。
信じていなかった者には衝撃的な現実を伴って・・・
月明かりに照らされた横顔。
少女の面影を残しながら、魔女として蘇ったロゼ。
片膝を着き慇懃に主従の誓いを告げて来る姿に、俺は改めて魔法使いなのだと思う。
「うわわぁっ?!本当に魔女なんだ?!
信じられないが信じるより他はなさそうだ!」
ガッシュが飛び退き、驚愕の顔で俺達を観ている。
「そう・・・お前がどれだけ疑おうと。
我が主に仕える魔女ロゼが、ここに居るのを見知っておきなさい」
ロゼの蒼き瞳が見下す様に言って除けた。
「は、はいぃっ!皆にもそのように教えておきますから!」
腰が抜けてしまったガッシュが、這いつくばるように後退る。
「そうね、あなたの頼りない仲間達にも。
私と御主人様が居られるのを教えておくと良いわ」
すぅっと眼を細めたロゼが、逃げ腰のガッシュに手を指し出すと。
「ぎゃあぁっ?!お辞め下さい!やぁめてぇー!」
コケつ転びつ。
ガッシュは逃げ出してしまった。
「なんだよ。俺にはなんにも言いっこ無しかよ?」
呆れて文句を言い損ねた。
レオンも臆病なガッシュを見送るだけで、何も言わずにため息を吐く。
「こんな奴等じゃぁ、頼りにもならないかもしれないなぁ」
「そうだな・・・でもさレオン。
人数が居ればそれなりに作戦はたてられるんじゃないのかい?」
頼りにならない部隊だとしても、人数合わせにはなるだろうから。
「そんなことを言って。
ルビナスはそんな奴等だとしても救いたいという筈じゃないのか?」
痛い処を突いて来るレオン。
「ま、まぁな。無益な殺生を好まないだけだよ俺は」
応えた俺は黙ったままになっているロゼに目を向けると。
「魔女ロゼさん、わざわざ出てきてくれてありがとう」
ガッシュに分らせてくれる為に出て来てくれた魔女へお礼を伝える。
「う、ううん。あの・・・ね、ルビナス。
今の誓い・・・演技だと思ったのかな?」
・・・・え?!
「今、誓いを改に交したの・・・冗談だと思ったのかって?」
・・・・えええええぇっ?!
「あの・・・ね。本当だって言ったら。迷惑だった?」
・・・・ほええええぇっ?!
俯いてしまった魔女ロゼが、上目遣いに訊いている。
「冗談や演技で、契約は交わせないよ?
魔女が仮にも臣下になると契約したら・・・
御主人様が破棄を承諾しない限り、有効なんだよ?」
・・・なんだってぇっ?!
「だからぁ、魔女・・・ロゼッタ(・・・・)の全て。
御主人様の命じるままに・・・分かるでしょ?」
上目遣いに魔女が、頬を染めて見詰めている。
・・・・マジですか?!
「ねぇ・・・御主人様?」
・・・・?!
細めた目で訴えて来るのは・・・
いや。
ちょっと待て・・・よ?!
魔女ロゼは魔砲の使い手ロゼッタに宿っているだけの筈。
躰を全て支配している訳じゃないんだよな?
て、事は・・・だ。
魔女のロゼが出現している時だけ御主人様扱いなんだよな?
普段の時は、あのロゼ様に戻られるんだよな?
「あのぉ?なにを戸惑われておられるのですか?」
うるうる目線で魔女が問う・・・が。
「そうだとしても!
魔女ロゼさんが契約してくれるのは嬉しいし有り難いが!
肝心のロゼッタが、俺を逆に子分扱いしているんだよなぁ!」
<がぁ~んっ?!>・・・と。
魔女のロゼが動揺する。
「そ、それじゃあ・・・つまり?」
涙目のロゼが、結論を先走り驚愕する。
「うん、そうだな。
妹を無事に救出できたなら・・・天秤にかけても良いぜ?」
俺は魔女のロゼとの契約を測りにかけても良いと言ったつもりだったのだが。
「そ・・・そんな?!まさか?」
更にびっくりしたのか、ロゼが後退る。
その心の中に描かれていたのは・・・
ー まさか?!この私と妹を測りにかけると?!
魔女同士とは云えど、方や妹・・・・その妹と一緒になると言われるの?!
恐怖とも思える構図。
兄と妹が恋仲になるとは・・・蚊帳の外にされる自分を想ってロゼは混乱した!
「ど、ど、どうして?!
この私に、落ち度が?!」
頭を抱える魔女のロゼ。
ー そ、そうだわ!いっそロゼッタを懐柔するってのは?
御主人様に靡く様に・・・そうよ!その手があったわ!
思い立った魔女が、力を込めて立ち上がる。
「ルビナスぅ?どうしちゃったのさロゼは?」
「俺に訊かないでくれ」
盛り上がる損な魔女に、俺もレオンも言葉を失うのであった。
「そぉ~よぉ~っ!絶対諦めないんだからぁ~!」
確かに勝手に舞い上がってるようだ・・・
ロッソアの冬が訪れようとしている。
それは明け方の寒さからも思い知らされた。
「うう~っ寒いなぁ。熱い目覚ましをくれよ」
焚火を起こし直しているレオンに頼む。
「あいよ・・・って?」
不意に顔を挙げたレオンに気が付き、視線の先に目を向けると。
「な?なんだ?!」
昨日別れたガッシュの部隊の内、二十人くらいの男達が集まって来る。
「なんだよ?一悶着をまたやる気なのか?」
レオンがウンザリした顔で彼等に呟いた。
俺とレオンが観ているのに気付いたのか、ガッシュが手を振り上げたと思った。
だけど、それは俺の勝手な思い込みだと分らされた。
なぜなら。
「おいルビナス?!あれは?」
レオンが指し示したのは、ガッシュが掲げさせた旗を観たからだった。
「あれ・・・もしかしたら魔女の印じゃないのか?!」
目の前に掲げられた紅き旗。
赤地に魔女を示す月のマーク。
それが表しているのは・・・<月夜の魔女>
そう。
彼等は俺達と行動を共にする仲間達だと分かったから。
悶々のロゼ。
魔女の狙いはルビにあったのか?
彼女が狙うのはルビの心?
一方のルビだが、相変わらず鈍い男。
紅き旗を押し立ててきたガッシュ達に、眼の色を変えるのだが?
果して彼等の本心は?
次回 ロッソアの赤き風 第12話
彼等の願いは・・・民族の解放か?!それとも自分達の欲望の為なのか?




