ロッソアの赤き風 第10話
魔女の言葉が。
魔砲少女たるロゼッタから零れたのだが?
驚愕の眼でガッシュが見詰める。
金髪を掻き揚げて、男を睥睨するような瞳を向けるロゼを。
「本当に月夜の魔女なのか?嘘じゃないんだな?!」
驚愕の眼と思っていたのだが。
俯いたその顔に映るのは、信じているとは言えない翳りが。
「あのねぇ・・・今更それを訊くの?」
ガクッと肩を落としたロゼが口を窄めてぶつくさ文句を垂れた。
「はははっ。
信じられないのも無理はないと思うぞロゼ。
どこからみても魔女とは思えない姿なんだからさ」
苦笑いを加えて俺が二人の間をとると。
「なにか証明出来るような魔法でも見せてくれるのか。魔女である証ってものを?」
信じきれないガッシュが魔女に問う。
「証明って言われてもねぇ。私の魔法は闘う時にしか表せないから。
この娘に宿っているだけだから・・・困ったわね」
魔女の異能を発揮するのは、ロゼッタが魔鋼の力を振り絞る時。
魔鋼機械を扱う時くらいしか異能をみせれないと考えているようだ。
「いいや、ロゼ。俺にいい考えがある。
魔女としての能力をみせれる方法があるぜ?」
茶々を挟む気は無いが、ガッシュに古の魔女が宿っているのを分からせる方法があるんだ。
「何よルビ?その方法って?!」
自信の魔法力を知らない者に解らせられると聞いてロゼが食いついて来た。
「見せられるモノなら見せて貰いたい。
それによって俺達は力強い仲間を得たと内外にも知らせられるからな」
ガッシュも乗り出して俺を促して来る。
二人が俺を見詰めて、何を言いだすのかと耳を傾けている。
ー おいノエル。ロゼを魔女だと分らせたいんだけど、頼まれてくれないか?
指輪に宿る妹を呼び出した。
「「なに?ルビ兄。アタシに何を頼むっていうの?」」
指輪の中からノエルが訊き返して来る。
ー ああ、ちょっと魔導書の書き出し部分を視てくれないか?
そこに書かれてある筈なんだ、騎士と魔女オーリエの話が。
「「ちょっと待って・・・あ、あったよ?」」
ノエルが魔導書を開いて呼んでくれているのが感じられる。
ー その辺りにロゼの事が書かれてないか?なんだって良いんだけどさ?
「「ふむふむ・・・あ、ビンゴ!騎士の元に来たところが明記されてるよ!」」
探り当てたノエルが知らせてくれた。これで問題は解決だな、ロゼが覚えているのなら。
俺が黙り込んでいたから、焦れた二人が更に乗り出して待っている。
漸く俺が二人に目を向けて来ると、ロゼが何を言われるのかと生唾を呑んで。
「なに?アタシに何をさせる気なの?」
やや懼れ気味に訊いて来た。
「なにも。俺の質問に答えてくれれば良いんだよ」
結果は如何に・・・だなロゼ?
頷いたロゼが何を問われるのかと黙ると、おもむろに訊いてみた。
「月夜の魔女ロゼよ、アンタは初めて騎士に逢ったのは姉オーリエより先立ったのか?」
「はぁ?!そんな話で私が魔女だと証明出来るの?」
率直に言ってそれで証明出来るとは思っちゃいないさ。
だけど、続きがあるんだな・・・これが。
「質問に答えるんだ、魔女に成る前に騎士と出逢ったのか?」
「・・・そ、そうよ。その事で魔女を証明出来るの?」
認めたという事は、ロゼは記憶を失ってはいないようだな。
「それじゃあ、騎士と会ったのは何処で?いつ?」
ノエルに因って答えは知らされていた。
記憶が無いのなら答えようがないだろうが、今はっきりと会ったと言ったから。
ロゼの記憶は正確で、俺の問いに答えられると思った。
「あれは・・・そうねフェアリア皇都で。
ルナナイトの称号を持った騎士として伺候された時だったから。
フェアリア歴でちょうど77年だったわ・・・」
大当たり。
ノエルも間違いないと言って来る。
「どうして騎士がチェックポイントとしてロゼと会った時を、記憶に残したのかは分からないが。
間違いなく年代と場所はあってるよ。
時の魔法を司る騎士の魔導書に書かれてある通りだって・・・な」
「え・・・騎士様が?初めて聞いたわよ、その話は」
驚きの声を上げる魔女のロゼ。
「それを踏まえてもう一つ訊く。
ロゼはロッソアと闘った事は無い筈だが、なぜ月夜の魔女を名乗る?
どうしてオーリエ以外の魔女が名乗れるというのか。
強大なる魔女の力をどうして持てたというのだ?」
問い詰める俺には確信があった。
勿論、ノエルに読んで貰えたからでもあるんだが。
「どうして・・・って、言われても・・・それはその。
姉様に代わって・・・護らねばならなかったから。
あのお方の情けを頂いたから・・・よ、多分ね」
言い辛そうに魔女が教えた。
俺が魔導書を語ったから、隠しても無駄だと判ったのか。
そこまで黙って聴いていたガッシュが、
「おいおい?一体何のことを言っているのか皆目わからんぞ?」
古のルナナイト家を知らない者には、何の事やら分かろう筈も無い。
横槍を入れられた俺が、黙っているように指で示し。
「今解るさ。この魔女ロゼも良くは判っちゃいないようだしな。
俺が解き放ってやるんだよ、魔女ロゼの頑なな魂をも」
戸惑う魔女のロゼに指輪を突き出した俺が、最期に問うのは・・・
「証明してみせるんだ魔女のロゼよ。
宿りし子孫の身体を以って、己が力を示してみるんだ!
それが愛した騎士の子孫である俺への忠誠。
ルビナス・ルナナイトへの忠義だと思え!」
時の魔法。
蒼き指輪が光る時、古の力が放たれる。
魔女に浴びせられた光により、輝が消えるまでの一瞬だけ時が戻る・・・ロゼの。
「私は!私はあの方と姉様を救いたかった!この力で!」
記憶が戻されたのか、ロゼが記憶を混乱させて叫んでしまう。
俺達の前で、蒼き光に充てられた魂が魔力を解放した・・・
バシュンッ
月夜にそれは瞬いた。
魔女が放つとされる魔法。
古の強大なる魔法は、辺りの空気を震わせた。
魔女ロゼの目覚め・・・本当の発現。
辺りの空気は一瞬で変わった。
宿る魔女の顕れは、力の波動という衝撃波を産んだ。
「やはり・・・か、ロゼ?
アンタは今やっと自分の心を曝け出せたんだな?
もう、ロゼッタの躰から抜け出したって良い筈だぜ?」
シュウシュウと空気が震える。
さらさらと金髪が靡いている。
蒼い瞳を俺に向けた魔女のロゼが此処に居る。
「ひぃっ?!
本物の魔女だ!本当に魔法使いだ!」
ガッシュが怯え、恐怖に顔を蒼褪めさせる。
「最初から言っていただろう?
この娘は月夜の魔女だって・・・さ」
言い切った俺が、ロゼを見る。
そこには俺の知るロゼッタではない魔女と化した少女が佇んで・・・
「新たなる騎士様に。
我が魂を呼び覚ました主人に。
月夜の魔女ロゼとして・・・永遠なる忠誠を誓います」
俺の前に跪いて誓ったのだった。
そう。
急な話になったが、俺は魔女を本当に呼び覚ましちまったみたいだ。
しかも、妹の前で。
指輪の中に居る妹が、停めたのに。
なぜ?ノエルは停めたのか?
なぜ?魔女ロゼとの誓いを停めようとしていたのか?
それは魔女ロゼがロゼッタの想いと重なるのを拒んだからなのか。
次回 ロッソアの赤き風 第11話
想いが募れば思わぬ迷いが起きるもの・・・悶々・・・?!




