ロッソアの赤き風 第8話
3両の軽戦車との交戦。
ジープ対戦車の勝敗は如何に?!
3両のロッソア軽戦車が、隊列も組まずにやって来た。
俺達から観ても、指揮がまともじゃないと分かる。
無線で連携を執っているのだろうが、それぞれの車長は自分の手柄にしたいのだろう。
相手は烏合の衆とまでは言わないが、装備もバラバラな野党にしか思っちゃいないのかもしれない。
俺達のジープだってそう映ったのだろう。
まともに戦車とやり合える筈が無いのだと。
「レオン!まだ撃つんじゃないぞ!」
待っ正面から向かい合って、砲撃戦なんて出来よう筈も無いから。
「ロゼ!機銃で奴等を牽制してくれ!アイツ等の右舷に廻り込むから!」
ハンドルを握る俺が、目的を教える。
「レオンに足回りを壊して貰うからな!
近寄るまで他の2両に対して曳光弾を撃ってくれ!」
一番左に居る車両を目指すと、マクシム重機関銃を操作するロゼに頼んだんだ。
「牽制って言ってもさぁ。
アタシは奴等の眼を潰してやるんだからね!」
3両の軽戦車は、旧式の輸入戦車M2型だった。
幾分かロッソア仕様に改造されてはいるみたいだったが・・・
「奴等の装甲は薄いし、なにより防弾ガラスを採用してないんだから。
操縦手の前にあるスリット目掛けて撃ちこんでやるわよ!」
意気軒高なロゼが、機銃を操りつつも教えて来る。
「じゃぁ、ロゼの思うようにしてくれていいぜ。
俺はレオンの擲弾筒が有効射程に入るように運動するからな!」
魔砲の使い手である二人の少女に託した俺が、敵に向けて舵を切った。
ジープは全速力で軽戦車の射線を横切る。
当然撃って来るかに思えたんだが、敵はこちらの速度についてこれないのか、闇雲に砲塔を旋回させるだけだった。
「俺達の見込んだ通りだな!奴等は戦車というモノに慣れちゃいないみたいだぜ!」
相手の出方を確認して、俺に少しの余裕が生まれる。
射線を横切る相手を砲塔旋回だけで追いかけるのなら。
どうしても倒さねばならない相手なら、車体旋回を兼ねる筈だったからだ。
「それとも、俺達なんて眼もくれていないのかな?」
通常のジープ如きと考えているとしたら、それこそ俺達にチャンスは転がり込むだろう。
「奴等の目的はガッシュ達だったという訳だったのかな?
それともジープなんて相手に砲撃した事が無いだけなのかな?」
どっちにしても、最初の一撃は俺達の思う通りにいくだろう。
「撃つわよ!」
ロゼの声と同時に機銃が火を噴いた。
ド ドドドドッ!
マクシム重機関銃から、紅い曳光弾が飛んで行く。
狙うは一番左側の目標車。
側面装甲と砲塔に火花が散り、貫通出来ないにしても相手に脅威を与えられた筈だ。
「なる程ね、この距離でも装甲を抜けないか。
7ミリ7ぐらいじゃ歯が立たないと言う訳ね・・・でも!」
1連射を加えたロゼが、改めて別の車両に照準を併せて。
「後ろに控えた2両は、正面を向けたみたい・・・おあつらえに!」
攻撃した敵の処理をレオンに託し、ロゼはこちらに向いて来た2両に牽制の一撃を準備する。
「早くやっちゃってよね!
それまで機銃でカバーしておくから!」
もう擲弾筒の有効射程圏内に踏み込んだと確信したロゼが、俺とレオンに促した。
先ず目先の一両を破壊しろって・・・な。
「レオン!」
「捉えた!」
敵の側面を盗った。
照準が狂わないように直進するジープから、擲弾筒の発射焔が放たれた。
流れるように白煙を引きながら軽戦車の車輪に吸い込まれた弾が。
ドッ ババァーン!
キャタピラを粉々に粉砕し、側面下部をも破壊した。
「よしっ!先ずは一両だね!」
確認したロゼが、機銃の引き金を絞り込む。
曳光弾交じりの1連射が向かって来る2両に打ち込まれた。
命中光が正面左側に集中する。
明け放たれていた操縦席展望窓に何発かが吸い込まれると。
「おおっ?!やるなロゼ!一両が停止したぜ!」
操縦手が怪我を負ったのか、忽ち狙った一両が車体をあらぬ方向に向けて停まる。
「残り1両!
レオンっ擲弾筒用意!ロゼはそのまま撃ち続けるんだ!」
「了解!」
二人が相槌を打って来る。
「敵が進行方向を変えた!廻り込む気よ!ルビ!」
機銃にドラム弾倉を付け直して、観測報告を入れて来たロゼに。
「よしっ!今度は反対舷から攻撃するぞ!」
右側を指差し、俺が廻り込んで攻撃すると二人に告げた。
反対舷攻撃と知らされたロゼが身体ごと向きを入れ替え、合わせてレオンも擲弾筒に次弾を番える。
「奴が砲塔を廻して来る前に・・・勝負を賭けるぜ!」
一両撃破、一両行動不能に貶めた俺達の攻撃に、ロッソア軽戦車は翻弄されっぱなしだった。
残りの一両に乗る乗員3人が何を想っているのかは知らないが、俺達の攻撃を受けるのはしっているだろうに。
「脱出でもしてくれれば、攻撃なんてしなくて済むんだけどなぁ」
レオンの擲弾筒が火を噴く前、俺の脳裏に過ったのは。
「「ルビ兄は。いつも闘う時に想っていたんだね?
誰かを傷着けずに済めば・・・それが一番良いことなんだって」」
ノエルの声が聞こえて来たが、敢えて返事は返さなかった。
俺にはノエルに答えるだけの資格なんてないと思えたから。
ノエルの言った事は間違いじゃないが、そう考えるのは勝者のエゴにしか聞こえないから。
「レオン!撃て!」
振り払うように、俺は叫んでいた。
ノエルに、自分というモノの存在を示すかのように。
右舷側からの攻撃をもろに被った軽戦車はエンジン室から白煙を上げて停まった。
「3両共、行動不能にさせたね!これでアイツ等にも帰って貰わないと!」
ロゼが遠くに控えている半軌道車2両を見据えている。
「そうだな、歩兵を相手に戦うのはごめんだからな」
レオンも白兵戦になるのは避けたいと思っているようだ。
「ま。これにて敵の追撃を防げたという事で。
俺達も長居は無用だぜ?!」
ハンドルを切って離れ始めた車上で、
「で?これからどうするの?
真一文字に研究所へ向かうの?」
ロゼが後の行動を訊いて来た。
「紅き旗のガッシュとかに、言っておかなきゃならないんじゃねぇの?
民衆蜂起って言ったって、その程度の戦力じゃぁ正規軍になんて太刀打ちも出来ないんだってね」
やや考え込んだ顔をしているレオンに気を遣ってやると。
「ルビ、少し奴等と話しをしてもいいか?」
相談という形で頼んで来たんだ。
「何を話すって?危険かもしれないぜ?」
まだ、奴等を信用した訳ではなかったし、話す事の意味も知らないから。
怪訝な顔で観返した俺に、レオンはこう言ったんだ。
「ルビ、ロゼ。
もしかしたら、私達の力になって貰えるかもしれないんだ。
研究所を攻略できるかもしれないんだ、彼等と・・・彼等の仲間に因って!」
顔を挙げて来たレオンは、俺とロゼに希望を与えてくれようとしたんだ。
「仲間・・って?
あの人達が?でも武器もろくに持ってないじゃないの?」
さっき見た民衆の得物がまちまちで、戦力になるかも分からない程だったから。
「いいや、武器なんてどうにでもなるさ。
それより私達3人だけで研究所を襲っても、巧くいくとは限らない。
やはり人数があってこそ、作戦は成就出来やすくなる。
それには、やっぱり仲間が必要なんだよ!」
言われるまでも無いが、仲間になってくれても作戦に同道してくれるかは分からないのだが。
レオンはそれでも仲間を欲しているのは、研究所の守りを知るからこそなんだろう。
「俺はレオンに同意するぜ。
3人だけで成功するのか少々不安だったからな。
なにせここはロッソア領内なんだし、仲間が居るだけでも気が休まるからな」
指輪の中で妹も賛成してくれている。
自分の身体を取り返すと言った俺に、いつでも魔法で応援するからとも。
「そうかぁ、ルビも納得してるんだったら。
アタシが反対する必要なんて無いわね・・・でも」
賛同して来たロゼだったが?
「あのガッシュとかいう痴漢野郎だけは許さないんだからね!」
・・・なんだよ、まだ覚えてたのかよ?
「ま、まぁまあ。不可抗力だったんだから二人共」
レオンが苦笑いして執成す。
「うん。確かに失礼千万だったな・・・ロゼ」
ハンドルを離して、俺がうんうん頷くと。
ボカッ!
背中から拳骨が飛んで来た。
「失礼千万はガッシュの方よ!」
ロゼの声が鼓膜を打つ・・・気絶しそうな俺の耳へと轟いたんだ。
あっさりと。
敵戦車は藻屑と化したのでした。
そしていよいよ動き始める運命の歯車。
ガッシュとの邂逅が、3人の運命までをも替える?!
次回 ロッソアの赤き風 第9話
仲間になるのか、それとも決裂するのか?君なら手を差し出せるか?




