ロッソアの赤き風 第7話
囲まれちまったぜ?!
ロゼがノックアウトなんてするからだろっ!
あ、ちょっと待って。
手を挙げてるでしょー?!
成り行き上での話だって、レオンから言って貰ったけど。
突き付けられた銃口の前では、意味を為さないようで。
「その男が、ロゼッタに触れようとしたのが悪いんだぜ?」
庇うつもりだったけど、ロゼの態度も悪い。
「そぉよ!
・・・って。そうなの?ヤダぁ・・・マジ?」
ジト目で倒れてる男と俺を見比べながら訊くんだもんなぁ。
周り中から痛い視線が降って来る。
取り巻かれた俺達は、どうする事も出来ずに手を上げるだけだ。
「どうするのよルビ?こいつらにこのまま拘束されるのってヤバくない?」
「言われなくったって分かってるよ。
でもさ、目的は果たしたんだから。どっかの時点に戻るか思案中なんだぜ?」
指輪に宿る妹には言ってあるから。
時の魔法を使うかは、この後の展開次第だ。
「むっはぁ~っ、良いパンチだったぜ?姐御」
起き上がって来た指揮官の男が、顎に手を添えて言いやがる。
「やっと起きたな。言ってくれよ、周りの人にも」
レオンが男へ向けて頼んだが。
「俺が何をしたってか?
その金髪の嬢ちゃんの胸元に手を指し出したのが悪いってか?」
悪びれない男が、ニヤリと哂う。
「やっぱり!アタシの胸を触ろうとしたのね?!」
魔女ロゼが殴った相手に、瞬間眠らされていたロゼッタが訳を教えられて。
「アタシの胸を触ろうとしたなんて・・・万死に値するっ!」
胸元の魔法石を取り出して、魔女の力を発動させようとした。
「・・・ロゼッタの方が、数段怖いな・・・」
殴るよりも魔法で懲らしめようとするロゼに、恐怖すら感じた俺。
「いやあのな。
俺が触りたかったのは・・・その蒼い石だぜ?」
ロゼが取り出した蒼い魔法の石を指して、男が言って帰したんだ。
「は?!えっ?!どういうこと?」
キョトンとしたロゼを見ながら、男が口にしたのは。
「斥候からの連絡が来てな。どこかの誰かさん達が狙われているんだと。
ロッソアの正規軍が追いかけてる相手なんだから、
きっと並外れた力の持ち主ではないかってな?」
「え・・・そうだったの?」
応えたのはロゼ。
振り上げた手を降ろす様に、男の話を真に受けて。
「ちょっと待てよ。
俺達がどうして狙われているって思ったんだ?
斥候とか言ったけど、アンタ達は誰と闘う為に居るんだよ?
それにどうして俺達を救おうとしてたんだよ?」
いっぺんに訊いてしまったけど、俺達を助ける意味が知りたかったんだ。
「それは後からで良いだろう?
今は、あいつ等から逃げる方が優先じゃないのか?」
そこでやっと男が指さすのは。
「あ?!奴等が円陣を解いた!こっちに攻め寄せる気か?!」
レオンが咄嗟に身構えて教えてくれた。
このまま数分も放置すれば、軽戦車の射程に入るだろうと。
「撤退するにしても、人の足では逃げきれないぞ?
アンタ達はどうしたいんだ?俺達を?」
捕虜にする気なら、とうに出来ていただろうに。
それもせずに、のうのうと喋っていた訳は?
「ああ、アンタ達を本部に連れて行こうと思っていたんだがな。
成り行きで戦闘状態になっちまったんだ。
まぁ、そこのお嬢と同じだよ。成り行きだったからな」
男は肩を竦めて言いやがった。
「成り行きも糞もあるかよっ!
このままじゃぁ、犠牲が出ちまうだろうに!」
「だから・・・乗り掛かった舟だよ」
あああっ?!こいつと話して立って埒がアカンっ!
「ルビ!どうやら・・・やるしかないってことよね?」
ロゼが振り返ってジープの装備を確認した。
「そのようだな。
レオン!やれそうかな?!」
敵を見張っているレオンの意見を待つ。
「ああ、敵は足並みを揃えてとはいかないようだ。
どうやら3両の乗員達は、殺戮を好むみたいだぞ?」
軽戦車は連携を執らずに、バラバラに進んで来る。
「残った半軌道車は、あそこに留まるようだ!」
だったら、軽戦車さえなんとかすれば。
「そうか、よし!
あの3両を停めれば良いんだな。
足回りさえ壊せば、追手は来れないだろう!」
俺がそう言ったら、ロゼがジープへ走り出した。
周りを囲んでいた男達が、手を下す暇もない程の身軽さで。
「アンタ!名前は?
俺はルビ、ルビナスって言うんだけど?」
立ち竦んだ男に訊いた。
「ああ、俺の名はガッシュ。紅き旗のガッシュ。
人民解放隊のガッシュってんだ!」
名前よりも、ここに集う男達が組みする組織名を覚えちまった。
<紅き旗>だって?人民解放隊?
それじゃあ、此処に居るのは?
「ガッシュ!アンタ達は此処から山際の方に逃げてくれ。
それを追いかける奴等の側面を、俺達が叩く!
いいか、余計なことを考えずに真っ直ぐ走れよ!」
「ルビとか言ったな?!
お前達だけで、あの3両を仕留める気か?」
銀髪のガッシュが、目を見開いて訊いて来やがる。
「ああ、なんとか。仕留める気だぜ?」
自信なんかがある訳が無いが、俺は敢えてそう言ったんだ。
「本気か?さすが魔法使いとでも云うべき処か」
気付いてやがったか。
ガッシュとかいう惚けた野郎だが、魔法石の知識は確かなようだ。
「そう言う事にしておこう。
さぁ、早く出発してくれ。俺達はジープで出るからな!」
そう俺が言った時だ。
目の前にガッシュの手が差し出された。
「後でまたな。話はまだ半分も言ってはいない」
ガッシュの求めに、俺も手を指し出す。
ー こいつ。力だけは人一倍なんだな?
握力が半端ない。
俺の手を熱く握るガッシュに、少々戸惑ったが。
「じゃあな。俺達がそのまま逃げるなんて思わないでくれよ?」
「ああ、期待してるぜ?!」
ルビとガッシュはそれで別れた。
方や人民解放隊の指揮を執る者。
もう片方は少女二人と共に旅する男。
共通点は、二人共男だという事ぐらいか。
いいや、握った手の重みはそれだけで十分だろう。
交された手には、想いが込められたのだから。
「やるぜっ!レオンロゼ!
魔鋼の猟兵ってもんをアイツ等にも見せてやろうぜ!」
エンジンを噴かした俺が、二人の魔法使いを呼ぶ。
「しっかり運転してくれよルビ?!」
レオンは擲弾筒に対戦車榴弾を込めた。
「ルビィーっ?!7ミリ7じゃ当てたって意味が無いから。
眼眩まし程の期待しかないからね!」
マクシム重機関銃に弾を装填し、ロゼがニヤリと笑うと。
「思いっ切り近付きなさいよね!
眼が眩むほどの・・・弾を浴びせてやるんだからっ!」
魔法石を握りしめて、魔鋼の砲手である自信を覗かせてきやがった。
「ああ、頼むぜ二人共!
操縦は任せておけよ、どっちに行きたいかちゃんと言えよな!」
心強い魔法使いに、俺はもう一人の魔女にも頼んだ。
「ノエル、怖かったら眼を塞いでおけよ?
でも、俺が言ったのなら、即座に今の時点にまで戻してくれ!」
指輪の中で妹が言い返して来たんだ。
「「怖いって?大丈夫でしょ?!
ルビ兄が闘うのに、アタシだけ目を瞑るなんて。
出来っこないじゃないの!」」
良い子だよ、ノエルは。
俺はつくづく、良い仲間を持った。
声を呑んで感謝を心に秘め・・・
「それじゃぁ・・・突撃ーっ!!」
アクセルを踏み込むと同時に叫んだんだ!




