ロッソアの赤き風 第3話
廃村に潜んでいたルビ達。
そこは何者かが見張っていた。
そして砂煙が近付いて来るのが見えたのだ・・・・
双眼鏡を砂煙を上げて近寄る物体に向けた。
「奴等が来るぞ?!あれは間違いなく政府軍だ!」
岩陰から監視を続ける者が声を荒げる。
「判った!仲間に知らせよう」
すぐさま、横に居たもう一人が無線機に手を伸ばす。
「いや待て。奴等の目的がなんであるのかを知る必要がある。
こんな廃村に向かって来るのは、いくら考えてもおかしいじゃないか?」
双眼鏡を構える男が停めてから、今一度廃墟にレンズを向け直した。
「もしかしたらだが。アイツ等を追って来たんじゃないのか?」
女連れの若い男が入った廃墟の前には、乗って来たジープが置かれてある。
正規軍車両である軍用車両の荷台には、幌が被され何かを隠しているようなのだが。
「政府軍に追われているのなら、俺達と同じじゃないか?
だとすれば、俺達の仲間と為り得るかも知れんぞ?」
「そうだが・・・確証がないからな」
偵察に来ていた二人連れは、廃村に入った3人を見張り続ける事に決した。
ノエルに因って危険が迫りつつある事に気付いたルビ達。
酔っぱらっていた娘達を起こして、相談を持ち掛けたのだったが・・・
「うにゅぅ・・・本当に敵が来るの?」
まだ酒気が抜けきらないロゼが、定まらぬ目で訊いて来る。
「この廃村の持ち主が戻って来たんじゃないの?」
これはレオンの問いかけ。
少しは質疑に応じられるみたいだが。
「あのなぁ、数か月の間どこかに行ってたんなら分かるけど。
もう何年も帰ってきた様子が無いんだぜ?
それに帰って来るのなら、俺達を見張っている意味がないじゃないか。
持ち主なら家に不法侵入されるのを黙って観ている訳も無いんだしさ」
俺の反論にレオンが何か言いたげだったが。
「偶然ってこともあるんだしぃー、敵だとばかりは言えないんじゃない?」
お気楽に答えるロゼの声に阻まれたようだ。
「それも言えるけど。用心に越したことはない。
だってここはロッソア領内なんだぜ?
俺達はいつだって捕まえられる理由があるんだからな。
喩え正規軍じゃなくても、警察や自警団にだって捕まるかも知れないんだから」
俺達は越境して此処に居る。
ノエルを研究所から取り戻す為に・・・だ。
「ルビの言う通り。
私等は犯罪者と同じなんだからな」
研究所迄の道案内を買って出てくれたレオンの言葉に、ロゼも納得せざるを得ない。
「そうと決まれば。さっさと村から離れようぜ」
まだ近寄る集団から逃れられると踏んだ俺が促すと。
「シャワー浴び損ねた・・・」
文句たらたら、ロゼがのろのろと起き上がる。
「シャワーくらい我慢しろよ。命あっての物種だぜ?」
酒気の抜けきらないロゼを引っ張り、外へと出ようとした時。
「待て!ルビ、ロゼ。砂煙が見える!」
窓辺に姿を隠し、レオンが停めて来た。
「なんだって?!砂煙ということは・・・車両を伴って来やがったのか?!」
ますます危険度が跳ね上がる。
敵は援軍を待っていたのか?
しかも砂煙を上げて来るのなら、それ相応の戦闘車両だと思える。
「戦車じゃない事を祈らざるを得ないな。
仮に戦車だとしても中戦車とかじゃなければいいのだが・・・」
窓辺でレオンが、見え始めた砂煙の下に居る物を予測して唸った。
「兎に角だ。装軌車両には違いないだろう。
それとも数両の車両が固まって動いているのか・・・
どっちにしても厄介な事になる前にここから離れないとな」
ジープに仕舞ってある武器を想いつつ、俺は逃げ出す算段を考える。
「一刻も早く村から逃げ出さないと。村ごと包囲されかねないからな」
遮蔽物と云っても、こんなあばら家の壁では小銃弾も防げない。
仮に敵が戦車なら、間違いなく家ごと吹き飛ばされるだろう。
それが軽戦車の小口径砲弾だろうと。
「そうだな、戦闘準備を執りながら走り逃げるのが得策だな」
レオンも意見に沿って逃げ出す事に同意して来る。
「決まりだな。それじゃあ車輛に乗り込むぜ。
ロゼは後部座席で幌を外してくれ!」
ドアを蹴破る勢いで、俺は運転席に載ってイグニッションをオンにする。
軽快なセルの音が鳴り、内燃機関を作動させた。
「いくぞ!砂煙から遠ざかる!」
ギアをぶち込んで俺が準備を整えようとしている二人に言った。
「オッケー!行けっルビ!」
幌を取り払った後部には、重機関銃を備えた荷室が観えた。
ロゼとレオンが取り付き、機銃弾を装填している。
ベルト給弾式7ミリ7機銃を後部に向け終え、ロゼがボルトを引いて。
「レオンっ、敵車両用に擲弾筒を!」
対戦車戦に備えて、迫撃砲の準備をさせた。
相手が軽戦車くらいなら、迫撃砲弾でも足ぐらいは停めれるから。
「まだ戦闘になるなんて思わないでくれよ?!
逃げられたら無駄な撃ち合いなんて御免だからな」
アクセルを踏み込んで発進させながら、俺は砂煙から遠退く様に車体を操る。
「ルビっ!それは無理ってもんみたいよ。
アッチからも何かが迫って来たわ!」
後方に向けた機銃に身を任せていたロゼからの叫びが、俺に覚悟をさせた。
戦闘は回避出来ないのだと・・・
「ノエル・・・俺が叫んだら・・・頼むぜ?」
時の指輪に宿る魔法使いの妹に、俺はそっと呟いた・・・
「やっぱりだ!アイツ等はやって来る者達に追われているんだ!」
双眼鏡を降ろし、傍らにいる無線手に知らせた。
「政府軍を相手に追われているのなら、俺達の仲間と言える。
仲間とは違えども、これから同志になってくれるかもしれん」
無線手に報告させる男が、改めて砂煙の下に居る部隊を観測する。
「軽戦車らしいモノが3両と、兵員運搬の半軌装車が2両。
どうやら1個小隊規模で追って来たようだな、たったの3人を」
男はルビ達3人を追いかけて来たものと判断を下した。
「3人じゃぁ荷が重いだろう。
たった1両の車両じゃ逃げきれない筈だ・・・」
もう一度双眼鏡をジープに向けた男が、ある事に気付く。
「おいっ?!ありゃーなんだ?
奴等は魔女なのか?!蒼く光る石を持っているぞ?!」
後部座席にいる栗毛の少女の胸元に見える蒼い石が、光を放ったのを観て叫んでしまった。
「魔女がこんな所でなにをしようとしていたんだ?
もしかしてアイツ等は脱走兵なのか?!」
「それが本当なら、どうしても仲間に引き込まねば!
俺達<紅き風>には、正規軍と闘う魔女が必要だとニーレン同志も言われていたから!」
二人の前で、ジープに乗った少女がみせた蒼き石。
魔法を司る者の証である石の存在が、戦闘を変えようとしていた。
「おいっ!急いで仲間に報告しろっ。
援軍を求めるんだ、<紅き旗>をこの場に呼ぶんだ!」
無線手に双眼鏡を持ったままの男が、戦闘が始ろうとしている荒野を観て叫んだ。
援軍を呼んだ男が言った<紅き旗>とは?
ロッソア軍に追われるルビ達の運命は?
ロッソアの大地に、意図しない戦闘の幕が切って落とされようとしていた・・・
いよいよヤバイ?
現れたのはロッソア軍。
見張っているのは一体?
赤き旗とは?仲間にするとはナニにだ?
さぁ、いよいよ戦闘か?
次回 ロッソアの赤き風 第4話
近付く敵部隊との戦闘は回避不能?!君達は生き残れるのか?!




