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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
<ロッソア>編 第6章 紅き旗
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ロッソアの赤き風 第1話

北辺の国に風が舞う。

新たな時代を開かんと、紅き血潮の風が舞うのだ・・・


<ロッソア>編、コレより開始です・・・・



挿絵(By みてみん)

 荒野に紅き旗が翻った。


人民の滾る血潮を表した旗が翻っている。


隊列を組むでもなく、集う者達は各々(各々)手にした得物を担いで進み征く。

それが意味するのは、軍隊では無いという事。

集う者達は、自らの意志でそこにいるのだ。


彼等は自らの手で時代を動かすのを目指しているのだ。

生きていく為に、自らの生存権を掴む為に。

武器を手にして帝国に反旗を翻す者達なのだ。


彼等はまだ蜂起したばかりの小さな勢力に過ぎない。


集う者達は、独りの男に心酔していた。

自らの理想を民に印し、悪政を振りかざす皇帝の打倒を理念として説く男に。


彼は人民による人民のための政治を夢み、人々に蜂起を促した。


民衆は挙って彼の声に耳を傾け、密かに彼を慕うようになる。

特に、帝国外縁部に位置する衛星国に住む者達は、独自の政府を立ち上げんと反乱を起こした。


最初は小さなうねりも、やがては大きな波となる・・・


肥大する国土を統治出来なくなりつつあるのは、ひとえに悪政が故。

自らは権力を振りかざし、民から莫大な税を取立て栄華を誇っているかに見える帝国。

だが、悪政のツケは次第に人民の心を離反させる事になる。




時は帝国歴794年、ロッソア王朝最後の皇帝が君臨した初秋の頃の話だ。







ロッソア帝国首都、ロッスクワ。

代々の皇帝が居を構える帝国髄一の王宮。

市街地から見上げる尖塔が、金色の光を放っている。


権勢を極めた帝国は、討ち従えた衛星国からの利益で栄華を誇っているかのようだった。

王宮はきらびやかに市街地を見下ろし、人民の畏敬を集める存在だったのだが・・・





ロマネスク様式の廊下をヒールの音も高らかに歩み来る、ドレス姿の少女が居た。

腰まである白金髪プラチナブロンドを結い上げた、蒼いドレスの少女。

気高い表情の少女の眼はマリンブルーに輝いて観えた。


「アイスマン!アイスマンは何処に控えているの?!」


アイスマンと呼んだ少女の元に、廊下の影から銀髪の男子が現れる。


「ここに。エルリッヒ姫のお傍に・・・」


恭しく首を垂れる銀髪の男子に向けて、姫と呼ばれた少女が。


「アイスマン!どうなっているの?!

 私が聞いたところに因れば、またウラルの東で暴動が起きたというじゃない?」


立止まり、銀髪のアイスマンに下問した。


「確かにそのように聞き及んでおりますが。

 エルリッヒ姫にはご心痛に在らせられますのでしょうか?」


伏せたまま男子が肯定した後、下問の意味を探って来る。


「心痛・・・ね。

 私はどうして帝国に反旗を翻そうとするのかが分らないの。

 反逆者達は、何が望みで暴動を起こしたのかが知りたいだけなの」


真っ直ぐ向けていた顔を、傍に控える男子に向けたエルリッヒ姫が訊き直すと。


「姫君には、そのような下賤の輩など気に懸けられる必要も無いと存じますが。

 我が帝国に反逆する者など、根絶やしにすれば済む事なのですから」


非情なる言葉で返されたエルリッヒ姫が、眉を一瞬顰める。


「アイスマンって呼ばれる訳がよく分かったわ。

 あなたは私の侍従士官であり、近衛士官でもある。

 そのあなたがそう言うのなら、私も民に辛く当たらなねばいけないと言うのね?

 昔はそんな非情な言葉なんて吐かなかったのに、私のカインハルト卿は・・・」


悲し気な顔になったエルリッヒ姫が、銀髪の男子の名を呼んだ。


「エルリッヒ姫。

 私は姫の侍従士官を拝命したおり、自らを捨てたのです。

 私の身体も命も、姫の為になら惜しむ事はないでしょう。

 全てはエルリッヒ姫の為なのです・・・そう考えておるのですから」


アイスマンと徒名される銀髪のカインハルト卿が、鳶色の瞳を向けて答える。

自分はエルリッヒ姫の為だけに存在するのだと。


「カイン、本当のあなたは何処へ行ったというの?

 アイスマンなんて呼ばれるようになってしまうなんて・・・

 私の幼馴染カインハルト・フォン・アイザック卿は、死んだとでも言いたいの?」


蒼い瞳を悲しみに彩らせたエルリッヒ姫が、傍に控える士官に訊ねる。


「私は大帝に姫の守護を託されたのです。

 姫に仇名す者から御守りせねばなりません、喩え心を悪魔に捧げようと。

 傍に居ります間は、氷の心にもなりましょう」


再び首を下げたカインハルト卿に、エルリッヒ姫は唇を噛み締めて何かを耐えていた。


ロッソア帝国に落日が迫ろうとしているなど、若き二人にどうして分かろうか。

姫と従者たる若者に、運命など知る術があろう筈が無かった。








________________







フェアリア国境からロッソア帝国領内へ200キロも分け入った場所には・・・・



「ガス欠にならずに済んで良かったなぁ」


栗毛を掻き揚げて一休みする。


「そうねぇ、流石土地勘のある人が一緒だと心強いって訳ね」


ブロンドの髪を後ろで結った少女が、ひょっこりと車体の陰から現れる。


「何を呑気に言ってるんだ。まだ行程の半分も来ていないんだぞ?」


ブラウンの髪を掻きながら、空になったガソリン缶を荷台に載せるもう一人の少女に。


「レオン、あとどれ位かかりそうなんだい?ノエルの居る研究所までは?」


ガソリンタンクの蓋を締めて訊いた。


「そうだなルビ。あと3日ってとこかな?

 こいつで今迄通りのスピードで行けるのならさ」


蒼い指輪を填めた、栗毛の男子に答えたレオンに。


「そんなにかかるんだぁ?!

 しかも・・・泊まらずに走っての話でしょ?!

 やだぁ~っシャワー浴びたいよぉ」


駄々を捏ねるブロンドの娘。


「ロゼ・・・そりゃ無理だろ?」


ルビが諦めるように言い聞かせる。


「そうだよなぁ・・・私ももう3日も浴びてないし・・・」


「おいおい。レオンもかよ?!」


愚痴とも取れる女子の言い草に、ルビの方が慌てだす。


「シャワーって言ったって。

 どこにお湯が出せる宿が残ってるんだよ?

 ここはゴーストタウンなんだぜ?」


周りに立ち並ぶ家屋には、人っ子一人残ってはいなかった。

確かに数年前までは人がいた様子が伺えたのだが。


「この調子ならさぁ、どこかで火を起こせられるかもしんないし。

 シャワーが駄目ならドラム缶風呂でも良いんだけどなぁ」


結っていた髪を振り解き、ロゼが髪をくしゃくしゃと掻く。


「女子として。

 アタシは当然の権利を主張するわ!」


「同じく。私もだ!

 ひとっ風呂浴びたって時間に大差は出ないだろ?」


ロゼとレオンが口を揃えて主張して来た。


「むむむっ?!ノエル、お前はどう思う?」


蒼き指輪に声を掛けると。


「「そりゃー、当たり前だよルビ兄ちゃん。

  案外お兄ちゃんもデリカシーないんだねぇ」」


ー ・・・案外は余計だろ?!


心の中で毒ずくルビが、肩を竦めて二人に同意した。


「分かったよ。ここら辺りで野宿するよりは家の中の方が安心かもしれないしな。

 どこかで水を手に入れて風呂を沸かそう」


「やった!」


ルビの提案にロゼが即時に手を上げる。


「でもな、火を起こせば煙が揚がるぞ?

 誰かが気が付けば唯では済まなくならないか?」


レオンが二人に忠告すると。


「それは考慮済みだよ。

 夜間に家の中で沸かせば良いんだ。

 灯りが目につかないように気をかければ、そう簡単には気付かれないで済む筈だよ」


ルビの一言に、小首を捻りつつもレオンは承諾する。


「これで決まりだね。

 泥棒さんみたいだけど、許して貰わなきゃね」


如何に人が住まなくなっても、他人の所有物だったから。


「今は戦争中だぜ?

 俺達は追われる身なんだ、構っちゃいられないだろ?」


ルビはそう言ってから、目ぼしい家屋を物色し始めた。



敵国の中に紛れ込んだルビ達は、一晩の宿をゴーストタウンと化した村に求めた。


フェアリアから抜け出し、レオンの手引きに因ってウラールへと向かっていた。



戦場は遠く離れ、ロッソア帝国領内に侵入した3人。

軍を抜け出す時に手に入れた武器を隠した車両。


ウラールへ辿り着くのが目的だった為にレオンが選んだのは。


「じゃあ、俺はジープから小銃を持って来る」


ルビが軍用ジープの荷台から機関小銃を手にして、二人の後に続いた。


数軒のあばら家が残された村で、一晩の安らぎを求めようとした3人。


夕日が傾く中で、一軒の家に入ったルビ達。

3人の姿を遠くから探っているレンズがあったのには分らなかった。


「あれは帝国軍のジープだぜ?!」


ルビ達が停めたジープを指して、男が脇に居るもう一人へ教えた。


「奴等はあんな廃墟で何をする気なんだ?」


男の持った双眼鏡が、夕日に照らされて反射光を放った。



ルビ達はロッソア国境を越え、辺鄙な村に辿り着いていた。


目的地まで後3日の場所まで来た。

ソコは辺境とは言いがたいロッソアの地の筈だったのだが・・・


次回 ロッソアの赤き風 第2話

君は生きて帰ることが出来るのか?!

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