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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第5章 鋼鉄の魔砲少女(パンツァー・マギカメタル)
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心を開いて

ルビナスはハッチの中を覗き込んだ。


重戦車の中に居た者とは?!

車内は薄暗かった。

だけど一目で分かる。一目見れば彼女が別人だと判別できる。


「他の搭乗員はどうしたんだ?!」


ロッソア語なんて分からないけど、雰囲気で解って貰えると思ったんだ。


「ここから脱出しなきゃ、いつ炎上するか分からないんだぞ?」


車内に居るのは彼女一人。

他の搭乗員は既に脱出したのだろう。

俺は拳銃を片手に持つ女の子に手を差し伸べる。


栗毛の髪を肩まで伸ばしたロッソアの戦車兵。

車内には彼女だけが残り、脱出を試みることもせず俺を見上げて来る。


フェアリア兵が覗き込んでいるのに驚いたのか、彼女は拳銃を向けるでもなく佇んでいる。


「どうしたんだ?!早くこっちへ!」


指し伸ばした手を観ても、彼女は固まって動こうとしない。


「焼け死にたいのか?捕虜になるのが怖いのか?

 今は生きることを諦めるな、簡単に死ぬ事を考えるな!」


どうしてそんなことを口走ったかは、俺も分らない。

だけど、目の前で死に逝かんとする者を見放すなんて、敵だからと言って出来はしない。


「さぁ!早くっ。俺に掴まるんだ!」


煙がだんだん酷くなり始めた。この車体も間も無く炎上してしまうのだろう。

ほっておくと炎に呑まれ、車内に置かれた砲弾に火が移る。

そして、誘爆してしまうのだろう。


「死ぬのは生きる努力を諦めなかった後にしろ!

 まだ生きるチャンスがあるのに、諦めるなんて死んだ者に対しての冒涜だぞ!」


何処と言って怪我をしている様には観えない彼女へ、俺は手を指し出し続けた。


「・・・死者への冒涜?!そう言ったのか?」


彼女の声が耳を打つ。


「そうだ!死ななくても良かったのに死んで逝った者への裏切りだ。

 生きることを諦めるのは、仲間達の想いをも踏みにじるみたいなもんだ!」


躊躇なく想いが溢れ出す。

闘いに散っていった仲間や、生還を待ってくれている仲間への想いが。


「裏切りか・・・そうかもしれないな」


少女の手がゆっくりと俺に向けられてくる。


「そうだ!俺は君を捕虜になんてする気はない。

 この戦車について話を訊きたかっただけなんだ!

 だから脱出してくれ、今直ぐに!」


彼女の手が停まる。

捕虜という言葉に反応したのかと思ったが。


「この魔鋼騎についてか?

 それなら極秘だ、話す事なんてできない」


「違う!この戦車に描かれた紋章についてだ。

 魔鋼機械や車体についてなんて訊こうとも思わない。

 君の乗って来た車体に描かれた紋章が、魔女の紋章と同じだったから!」


停まっていた手を、強引に掴んで引っ張る。


 ーーーパチーーー


俺の魔法力とロッソア兵の放つ魔力が交差した。


「君・・・君が魔砲使いだなんて・・・」


「そうだ、私はロッソアの魔砲使い。

 このISイシュフスターリンの主、魔鋼の魔女だ」


掴んだ手の反対に持っていた拳銃を突き出される。

手を引き寄せる俺を停めるかのように・・・だ。


だけど、撃つなら撃てばいい・・・俺は手を放さず瞳を見詰めて。


「良いかい?脱出するんだ今直ぐに!」


掴んだ手に力を込めてキューポラに引き上げる。

彼女は拳銃を俺に向けたまま、大人しく引き上げられて。


「まさか・・・奇跡なの?この温もりは・・・時の指輪?」


今迄とは全く違う声色で訊いて来た。

俺が填めている指輪の名を知っている・・・間違っていなかった。


耳に飛び込んだ声に、俺は確信した。


ー 指輪を知っているのなら。此処に居るのは魔女オーリエ。

  いいや、俺達の先祖。闇に堕ちた魔女オーリエに関わりのある者・・・つまり


「ノエルなのか?

 オーリエさんなのか?この子に宿っているんだろ?」


退きあげられた少女は、紅い瞳で俺を観た。


「どうしてその名を?お前は何者なんだ?」


手を放さず、キューポラから引き出して。


「俺かい?俺の声を聞いて思い出さないのか?

 俺の中に宿っている騎士ファサウェーにも訊いてみたら?」


「ファサウェー?!なぜあの人の名を?」


これで確定した。

この少女に宿っているのは間違いなく月夜の魔女、オーリエさんだ。


「魔女オーリエ、この男と知り合いなのか?」


宿られている少女が、中に居る魔女に訊いた。

どうやらこの少女は意識を保ちながらも魔女と話せるようだ。


「君、今はそれよりも戦車から離れないといけない。

 いつ爆発するか、炎上するかも分からないんだから!」


掴んだ手を放さず、俺達は重戦車から降りた。


「それに、もうそれは必要ないだろ?片付けてくれないか?」


左手に持たれた拳銃を、仕舞ってくれと頼んだ俺に頷いて。


「ああ、分かった。お前は丸腰なんだからな」


武器を持っていない俺を観て、腰のベルトに差し込んだ。






重戦車ISイシュフスターリンは炎上しなかった。

薄くキューポラから煙を吐き、紅い紋章を浮かばせていた。


「お前、私の中に居る魔女を知っているんだな?」


不意に栗毛の少女がフェアリア語で訊いて来た。


「ああ。知っているけど、名前ぐらいしか解っていないんだ」


栗毛の少女は俺よりだいぶ背が低かった。

ちょうどノエル位かなって思った。2つ下の妹くらいかなって。

見上げて来る少女の瞳は、俺と同じく赤色に染まっている。


「オーリエを知っていると言ったが、魔女とはどんな関係なんだ?」


この少女には魔女が宿っている。

闇に堕ちた筈の魔女なのに、この少女からは悪意を感じられないが?


「それは・・・俺も宿られちゃってるんだよ。困った事に・・・ね」


肩を竦めて訳を話す前に。


「そうそう、俺はルビナス。フェアリア軍猟兵部隊に所属する兵長なんだ」


自己紹介を先に切り出す。


「・・・ルビナス?・・・ルビナス・・・そう・・・か」


少女が再び口を閉ざした時。

瞳の色が澱みを消し去ったようにも観えたのだが。


「私はロッソア戦車隊レオン少尉。この重戦車に閉じ込められていたんだ。

 バローニアとかいう将軍の研究員達に因って。

 魔鋼の力を悪用する将軍が私を戦車に閉じ込めて闘わせていたんだ」


「なんだって?!魔砲使いを戦車に閉じ込めて戦わせた?」


理解し難かったけど、レオン少尉は嘘を言っている気配がない。


「でも、他の搭乗員は?

 戦車に乗っていた他の人達が居た筈だろ?」


戦車に閉じ込められていたにしろ、他の人達までも道連れにしようとしたのかと訊いたんだが。


「居ない。この重戦車には私独りだけが乗っていた。

 いいや、正確に言えば。私専用の車体だった・・・とも言えるんだ。

 バローニアは魔砲使いの魂を縛り付ける技術を開発していた。

 ・・・でも、私は束縛から解放された。

 車体が壊れて、私は自分を取り戻せた。つまり技術は未完全だったようだ」


苦笑いを浮かべるレオンを、俺は呆然と観るだけだった。


「それより、これから私をどうするつもりなんだ?

 ルビナスは捕虜にしないと言ったが、後ろに居る奴はそうではないようだが?」


ツイっと俺の後ろを目で指し、レオン少尉が手を上げる。

教えられて振り返るとそこには、ベレッタを構えたロゼが立っていた。


「ルビ!そいつから拳銃を抜き取って!」


筒先をレオン少尉に向けたロゼが、


「何を話したのか知らないけど。

 ロッソア兵に油断しちゃ駄目よ、ルビは誰にだって優し過ぎるんだからっ!」


話していただけのレオン少尉に威嚇して来る。


「はぁ・・・ロゼ。いいからお前も銃を降ろせよ」


「んなっ?!ルビはとうとうロッソアの少女にまで手を出すの?!」


・・・どっからそんな発想が生まれるんだ?


挿絵(By みてみん)


「なにを言ってるんだよロゼ。レオン少尉には魔女が宿ってるんだぜ?

 お前に宿っている魔女の姉が・・・さ」


横目でそっと教えた。

ロゼッタの中に居るもう一人の魔女へと。


「えっ?!まさか?・・・この子に?」


ベレッタを降ろしたロゼが、目を見開く。

横眼で観ていた俺は、正面のレオン少尉が腰の拳銃を掴み出そうとするのを咄嗟に停めた。


「待てオーリエさん。話を聞いてくれないか?

 ロゼの中に居る魔女が話すのを。ロゼというアンタの妹が話したいと言ってるんだぜ?」


拳銃を掴み出そうとしたレオン少尉に宿る魔女へ向けて、俺は頼んでみた。


「アンタがどう思っているのか、どれほど恨んでいるのか。

 俺に宿る騎士からも聴いてるよ。だけど本当の事を知ってからでも良いんじゃないのか?」


「な・・・なんだと?!」


さっきまでレオン少尉だった者は、瞳を澱ませて俺を観た。


「俺じゃあ納得できないというのなら、ファサウェーに話して貰おうか?」


指輪をレオンに宿った魔女へと突き出してみせた。


「さぁ、心して聞いてくれ。

 アンタの妹は、裏切ってなんかいなかったんだ。

 ロゼさんはファサウェーやオーリエさんとの約束を果した。

 どれだけ辛い想いを受けようと、二人との約束を守ったんだって・・・」


掴んだ手を放し、指輪をレオンの手に添えた。

指輪から現れる騎士に全てを託す為に。

闇に堕ちた妻を救わんとする夫の魂を呼び覚ます為に・・・・

魔女に呼びかける。

恨みを募らせ、闇に堕ちた魔女へと。


時の指輪から現われし魂は、魔女に何を語るのか?!


次回 因縁

魔女の魂は真実を求める・・・ロゼから放たれた光とは?!

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