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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第1章 月夜(ルナティックナイト)に吠えるは紅き瞳(ルビーアイ)
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ロゼッタ・マーキュリア

原隊の場所まで来たルビ。

だが、彼を待っていたのは・・・無惨すぎる現実だった。

連隊本部から、俺の第2大隊までは400メートルあるかないかの距離。

猟兵中隊はその左端。

僅か500メートルがこんなにも遠く感じたのは生まれて初めてだった。


原隊の所在地まで帰りついたものの、そこに居る者は誰一人として声を出せない躯となっている。

陣地を死守した・・・そう言えば聞こえは良いが。

砲銃撃を受けて、壊滅しただけなんだ。


僅か数時間前には馬鹿な世間話をしていた小隊員は、攻撃に向かって誰も戻って来なかった。


「誰か?誰でも善いから返事してくれ!」


負傷者を探す意味を含め、声を限りに叫んだが・・・帰って来るのは銃砲の音だけ。


「第2大隊の生存者は?!どこの部隊だって良いんだ、返事をしてくれ!」


俺の呼びかけに答えるのは飛んでくる弾だけ。

臥せた俺の耳に、微かだがすすり泣く者の声が入った。


だけど、俺は耳を疑ったんだ。

ここは戦場だぜ?なぜ女の子が泣いている声が聞こえたんだ?

しかも・・・だ。

この声は妹ノエルの声だ・・・ノエルが泣いている?!


弾かれた様に俺は、泣き声のする窪地へ駆けた。

そこは大隊本部を少し外れた塹壕の中だった。


軍帽の端から栗毛が覗いて見えた。

軍服はアリエッタ准尉と同じように見受けられる。

つまり戦車兵ってやつなのか?


シクシク泣いて蹲る少女が、塹壕の中に居たんだ。

足元に転がる、もう一人の戦車兵に謝り続けるように。


俺が塹壕の端に立っている影が眼に入ったのだろう。

恐怖が俺の影を敵だと誤認させたのか、少女が悲鳴のような叫びと共に身を抱えてしゃがみ込んだ。


勢いで軍帽が跳び、隠されていた栗毛の長髪が、ブワッと舞った。


後ろから観ていた俺は、奇跡でも起きたのかと思ったんだ。

声も、後ろ姿も。


「ノエル?!どうしてここにノエルが居るんだ?」


面影に戸惑う。

2週間前に死んだと思っていた妹に逢えたのかと。


「あ、あなた・・・味方?」


振り返る少女の顔。

怯え震える妹の顔・・・でも。


「第2大隊本部は何処にあるんですか?アタシは師団本部からの連絡に来たのですが」


連絡に戦車兵が来るなんて?この少女も恐怖に狂ったのかと思ったが。


俺にはそんな事より、少女が妹でない事の方が重要だった。

見詰めて来る恐怖に怯える顔、その中で印象を一際引き付けるのは瞳の色。

妹ノエルは俺と同じ赤目なんだ。

先祖代々、俺の家系は茶色に赤を混ぜた様な瞳の色をしてるんだ。

怯える少女の瞳は・・・青い。

蒼い瞳を俺に向けている・・・ノエルじゃない。


「顔はそっくりだけどな・・・」


怯えるあまり、自分の身体を掴んで震えている少女。

妹の顔に重なって見えていたのだが、この少女の方がノエルより年齢は上だろう。

ノエルにはない膨らみが腕に挟まれて観えていたのだから。


「おい、しっかりしろよ?大隊本部なんてとうに全滅しちまったぜ?」


「えっ?!全滅・・・」


やっと俺が味方で普通の人間なのだと分ったのか。

少女はゆっくりと俺に顔を併せた。


「全滅って・・・そんな?」


信じられないのか、少女が言い募ったのを俺が指で地を指し。


「言っておくが。アンタの居る処が本部だった所さ」


「嘘・・・嘘でしょ?!」


愕然と俺に食い下がる少女に向けて、俺は言ってやったんだ。


「ボケるのもいい加減にしろよ?周りの惨状を観て気付かないのかよ?

 連隊は本部諸共全滅したんだ!今更何を連絡するってんだよ?!」


大隊だけじゃないと。

連隊自体が壊滅しちまったんだぞって、言ってやったんだ。

そしたらどうだ、少女の戦車兵は泣き初めやがったんだ。


「そんな!ニックは、この子は何の為に死んだのよ?!

 大隊に撤退を伝えに来たってのに!アタシ達は無駄足だったの?!」


言い返されたが、俺にはどうでもいい事のように聴こえたんだ。


「無駄足だったな、確かに。

 その子も死ななくて済んだのだろうにな」


泣く少女に向けて突き放す様に言ってやった。


「酷い!こんなのってあんまりだわ!ニックを殺したのは誰なのよ!」


少女の足元で転がる亡骸。

戦車兵だろう少年兵は、何故死なねばらならなかったのか。


「アタシ達戦車兵の仲間が機動連隊に居たのよ。

 彼等をいち早く整備中隊の元へ帰すようにって師団長閣下がお命じになられたの。

 整備が終わっていなくても彼等は貴重な戦車乗りだからと・・・」


ニックと呼んだ少年兵の亡骸を揺さぶり、少女が俺が訊かない訳を話しだす。


「まだ敵の攻勢も終わるか分からないんだから。

 貴重な戦車の乗り手を失う事になれば、それだけ師団は戦闘力を低下させるのだからって。

 だからっ、生き残っている筈の仲間を呼びに来たのに!」


少女は少年兵を叩いて悔しがった。

俺には関係がないけど、この子はほってはおけないと思った。


「おい、いつまで泣いてるんだよ?撤退命令が出てるのなら引き返した方がいいぜ?」


いつ何時、ニックの後を追う事になるのか分からないから。

妹によく似た少女へ促し、この場から立ち去れと言ったのだが。


「ニックを置いてはいけない。

 部隊に報告しなきゃならない・・・装填手が戦死した事を報告しなきゃ・・・」


「馬鹿っ!そんな悠長なことをしていたら。

 お前だってそいつの後を追うかもしれないんだぜ?」


挿絵(By みてみん)


戦場という物を、一日体験しただけだというのに。

俺は何年も闘い続けた古参兵のような声を掛けていたんだ。

数時間前には新兵だったというのに・・・だ。


全滅しちまった連隊で生き残った俺には、死の恐怖を飛び越えちまった気がしていたんだ。


そうさ。

俺は知っちまったんだよ。

生者と死者の狭間を。


一つの判断が人を狂わせ、一つの運が死を招くのだと。


だから、一つの判断で生きる道を探すんだ。


「アンタ戦車兵なんだろ?敵を撃った事はあるのかい?」


俺が訊くと少女は首を振った。


「だったら、戦車兵として敵に復讐すれば良いじゃないか。

 この子の恨みを晴らすのなら、アンタの持ち場で闘えばいいじゃねぇか?」


俺の掛けた言葉で、少女は友を置き去りにする決心を固めたようだ。


「ニック!あなたの弔い合戦をするからね。

 アタシにあなたの仇を討たせて!敵を撃つ力を貸して!」


少年兵に謝り、死者に誓う少女。


俺と同じになりやがった・・・そう感じたのさ。

俺が死ぬまでに果たそうと誓った想いと重なりやがったんだ、この時に・・・


「ちょっとあなた!師団本部迄同道しなさいよ。

 ニックの事も大隊本部が壊滅していた事実も。

 一緒に来て報告しなさいよね!」


「ああ、解った。ついて行ってやるよ」


快諾した俺に、少女は塹壕から飛び出そうとする。


「待て!まだ敵が居るんだぞ?!」


「きゃぁっ?!」


俺は思わず少女を引き戻した。

後ろから掴みかかり塹壕の中で一緒になって倒れ込んだ。


「馬鹿野郎!死にてえのかよっ、弾に当たりたいのかよ?!」


俺の上になって転んで来た少女に怒りの声を上げた。


(( ヒュン ))


一瞬遅れて頭上を弾が流れ飛んだ。


「観たか?!どこかに狙撃する奴が来やがったに違いない。

 不用意に姿を晒せば一発であの世に行けるぜ?」


敵は居残っているのか。

敗残兵を狙う者が居るのか。

それとも、敵も逃げ場を失っているのか。


「ともかく、俺に続いて来るんだ。アンタは戦車兵。俺は戦車猟兵。

 歩兵の本領ってやつを教えてやるぜ、ついて来な?!」


伸し掛かったままの少女に向けて教えると。


「分かったわよ、着いて行けばいいんでしょ?」


ノエルと同じ声で応えて来た。

そう言えばお互い名乗っていなかったのを気付いたのも、胸の上に感じる膨らみでだ。


「そういやお互い名乗ってなかったな。

 俺は戦車猟兵のルビナス2等兵。アンタの名は?」


先に名乗って促すと、俺の上から退いた少女が言ったんだ。


「アタシも師団直属戦車猟兵団に加えられた車載対戦車砲小隊のロゼ。

 砲手で1等兵のロゼ・・・ロゼッタよ!」


ロゼ・・・ノエルとは違う。妹じゃない・・・分かり切っていたが。


「ではロゼッタ1等兵殿。俺に続いて来てください」


1階級とはいえ上官には違いないだろう?

俺が頼むと、ロゼはこういったんだよ。


「ルビナス・・・って。何歳なの?」


「は?!18ですけど?」


咄嗟に応える俺を視て。


「じゃあ、お兄さんだね。アタシまだ17だから」


「・・・はぁ?!」


だから、年齢がどうしたんだよ?

ロゼは俺を見上げて笑いやがったんだぜ?

てっきり上官に良く居る階級を嵩に偉ぶる輩と同じかと思ったんだぜ?

だけど・・・違ったんだ。


「ありがとうルビ。あなたは命の恩人。

 ルビはアタシの護り神になってくれたんだね?」


眼を潤ませて笑う顔。ノエルによく似た笑う顔。


「ルビ・・・どうかこれからも宜しくね!

 あ・・・ルビって呼んじゃってるの気になる?」


「あ、まぁ。友達もそう呼んでたから気にはならないな」


答えた俺に、


「良かったぁ。じゃあアタシのこともロゼって呼び捨てて!」


「いやそれは。上官だから・・・」


お互いに名を呼び合えと言って来る。


「じゃあ、上官命令って奴で・・・ね、ルビ?!」


さっきまでのツン状態から、いきなりデレか?

でも、それがロゼの本当の姿だと判るのはずっと後だけどな。


俺は頷き、ロゼの命令(命令だからな)を聞く事にした。



ロゼを師団本部迄送り付けて、俺は報告の為と称されて金ベタ襟章の前に立ったんだ。


連隊本部の壊滅と、生存者の有無を。


俺の属していた大隊戦車猟兵中隊は、俺を残して壊滅した。

数名の生存者のほぼ全員が重傷を受け、瀕死の状態で救い出された。

勿論、俺以外は・・・だ。


機動連隊と遭遇戦を展開した敵ロッソア軍も、手酷い損害を出したようで。

それ以上の進撃を辞めて引き返して行った・・・らしい。


多大なる損害を受けた師団は、この方面の防衛計画を見直したようだ。

軍団規模の防衛線を築く為、一時的に後方へ引き下がった。

だが。緩衝地帯とする為に、地雷原を新たに設置。

更にエンカウンター北部にある古城に、特別編成の戦車隊を配置する計画を立てた。


俺とロゼ。

それにアリエッタ准尉。


後方に戻り、次なる闘いに備える部隊の中で。

俺とロゼ、それに魔法の戦車が辿るのは死か生か・・・


俺達の復讐劇は今始まったばかり。

復讐への誓いが、俺達を戦わせていたんだ・・・




ルビとロゼ。

2人の邂逅が、やがて一つの希望を産むのだが。


今はまだ・・・始まりを迎えただけだった。


次回 戦車猟兵の武器


君は彼女に何を教わる?彼女の専門は砲術だぞ?



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