表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第4章 Noel
54/133

俺の天敵

気懸かりな事がある。

妹ロゼの魂はなぜ裏切ってしまったのか?


どんな訳があったのだろうかと・・・想っていた

目の下に隈を造って、底なしに機嫌が悪い。


俺じゃないぜ、相棒が・・・だよ。


「そ、そろそろ無線機の点検に掛かりたいと思います」


ビクビクとムックが砲手席を伺いながら訊いて来る。


「サッサと執りかかりなさいよ」


「ひぃっ?!了解ですー」


怯えるムックが哀れでしょうがない。


「うむ。無線手、執りかかるんじゃ」


車長のハスボック准尉も、キューポラから顔を背けて車内を観ずに命じて来る。


「そ、それじゃあ。各員マイクとヘッドフォンの調子を確認してください」


オドオドとムックが車内回線を開いて呼びかける。


「ああ~っ、こちら操縦手ルビナス。聞こえますねぇ~」


俺は敢えておどけてみせるのだが。


「聴こえてるわよ、この薄らポンたん!」


・・・あまりの云われようだ。


「コッチの声は聞こえてるのかしら、薄ら頓智気とんちき!」


・・・俺が何をしたってんだ?


「聴こえたのかって訊いてるのよ!このむっつり弩すけべ!」


・・・が付いてるんですが、弩が?!


「まぁまぁ、その辺で許してやったらどうなんじゃ?」


流石に堪り兼ねたのか、車長がとりなしてくれたのだが。


「嫌です!女性官舎に飛び込んでくるような弩スケベには、これ位が妥当な言い方だと思いますから!」


棘だらけじゃんかよ?

確かに昨日は俺が悪かったとは思うけど。

それだけでこんなに怒っちゃいないんだろう?


「ロゼさん、お怒りを鎮めて頂けないでしょうか?」


ムックもいたたまれないのか、とりなそうと言ってくれたが。


「アンタには関係ないでしょ!」


「ひぃっ?!ごめんなさいっ!」


一撃で撃破されたよ・・・


振り向くと砲手席に座ったロゼが、ツン状態を拗らせて眼を吊り上げて俺を睨んでるのが判る。


・・・怖過ぎる・・・


「おーっほんっ。それでは進出地点に向かうとするか。

 ルビ、中隊最後尾の占位場所まで進め、発進はじめ!」


車長の命令で漸く進出を始めれた。

キャタピラが道路を噛み、軽快なリズムで微振動する車内。


「いいか、今度の目的地はエンカウンター西方30キロに位置する第3戦車師団との連携だそうだ。

 今度は近衛軍団が出張って来て居るらしいから、本格的な戦闘になる筈だぞ」


戦車猟兵部隊として改変されたルビ達の所属する大隊は、改めて支隊となった。

規模こそ大隊だったのが大幅な増強を加えられ、作戦に応じて転進する支隊として任務に当たれるまでになっていた。


一個小隊に一両の戦車と、対戦車砲。整備班に加えて本来の対戦車歩兵としての装備が与えられた。

実質要員は25名、その内4人の戦車乗りと6名の対戦車砲員、8名の整備員。戦車随伴員が残りの7名。


中隊は小隊を3つ合わせた物。大隊は中隊を3つ合わせた物。

そして作戦を指示する大隊長以下の司令部要員達17名を併せた690名が戦車猟兵支隊として、今度の作戦に出撃したのだった。




「何でも聞いた処じゃ、この度の邀撃戦には中央軍参謀部の連中が間接指導に来ているらしいな」


「へぇ、お偉い方も本腰で作戦指導に乗り出した訳ですか?」


ムックが手持ちぶたさに車長に応じている。


「そう言えば聞こえは良いがのぅ。実際は作戦なんて指導できるとも思えんがのぅ」


車長は指導しに来る参謀達を、あまり良くは考えていないようだ。


「だってさ、ロゼ。また酷い戦いにならなきゃ良いのにな?」


振り返らず前方スリットを見詰めながら話しかけた。

が、返事は返って来ない。


・・・まだ拗ねてるのかよ?


そう思った時の事だ。


((つん つん))


背中をコついて来るロゼの気配を感じた。


「?!」


口に出さず横目で振り向くと、ロゼがヘッドフォンとマイクを外している姿が目に飛び込んだ。


「小声で・・・ね、きみ


指を唇に当てたロゼが、聞こえるぎりぎりの小さな声で話しかけて来た。


「なんだよ?内緒話・・・か?」


俺はその時、相棒だとばかり思っていたロゼが別の人格になっているのに気付いた。


「ん?!分ったみたいね。

 ちょうどこの子が居眠りに入ったから。

 話しておきたかったんだ、騎士様にも」


そう、宿っている方のロゼが現れているようだ。


「時の指輪の騎士にもか?どんな話?」


こそこそ噺をする俺とロゼに気付いているムックは、ヘッドフォンを敢えて外さない。

気を遣っている気なのだろう、後でコーヒーの一杯でも御馳走してやるか。


「あのね、私の事ってどう思われてるのかなぁって。

 さぞや酷い女だと思われちゃってるのかなぁ・・・て」


そういえば、騎士の話では裏切者扱いだったよな。

マリキアっていう娘をフェアリアに売った事になっているんだよな?


「騎士様の娘をフェアリア王に渡した・・・そうなってるのよね?

 騙し通せたのなら、そう後世に伝えられててもおかしくないから」


?騙し通せた?どういうことだ?

俺の顔色を伺っていたロゼが、やっぱりとため息を吐く。


「伝えられていないのね。

 王を騙し、マリキア様をお助けしたのも、私が犯した罪も。

 あの時の真実さえも伝えられてなかったのね、君の祖先にさえも」


ロゼが落胆とも嘆きともとれる嗚咽を漏らす。


「だから騎士様にも分って頂けてないのね。

 義理兄ファサウェー様にだけは知って頂きたいから、君に聴いて欲しいの」


俺の中に宿る騎士の魂に話すという。

どうしてマリキアを王に差し出したのかを。

どうしてフェアリア王はマリキアを殺さなかったのかを。

いや、マリキアはなぜ生き永らえて子孫を残せたのかを話し始める。


義理兄ファサウェー様と別れて私はフェアリアに帰った。

 マリキア様をどうやって御守りすれば良いのかと考えながら。

 そのまま王の元へ連れて行けばろくなことにはならないと思っていた。

 当時の王は欲深く疑り深い愚かな王だったから、マリキア様を生かして措く筈も無いと思った。

 だったら匿うしかないと思ったの。

 でも、どうやって匿えば良いというの?王に追及されるのは目に見えている。

 ・・・そこで私は罪を背負う事に決めたの。マリキア様の身代わりを立てることに決めたの。

 フェアリアに帰った晩、私はマリキア様と同じ年頃の子を探した。

 ええ、勿論女の子で栗毛の子を・・・最近死んだばかりの子を・・・墓場に出向いて」


火葬の習慣がない当時の事だ、貧しい民の中では幼子を亡くした親は共同埋葬が当たり前の事だったという。

棺に納められた子の亡骸を大きな石室に納めるのが、一般的な埋葬と言われていた。


「墓守にまいないを与えて、探し出した・・・女の子の亡骸を。

 顔形は違っても、女の子であり栗毛だったから。

 その子や親には申し訳が無かったけど、私にはどうしても必要だった。

 マリキア様を御守りするには・・・だから私は罪を被るのを懼れなかった。

 亡骸の子にマリキア様の衣服を着せて、私はフェアリア王に謁見した。

 そして王を騙すのに成功したの、マリキア様を盗み取った際に殺したのだと嘘を吐いて」


ロゼの顔が真っ青に染まっていた。

死人の様だと言えば分かって貰えるだろうか?

宿った方のロゼに成りきっているのだと言えば、解って貰えるだろうか。


「フェアリア王は私に言ったわ。これで馬鹿な騎士一族も絶えたのだと。

 ファサウェー様を殺してしまえば領土とそこから得られるモノ全てが我が物となるって。

 みさげ果てた王だと分ったの、これが栄えあるリィン女王の曾孫だなんて思えなかった。

 私はその時を以って臣下であることを辞めたの。

 王も真実を知る私の口封じに手を染めなくて済むと考えたのか、国外追放だけの処分で終わらせたわ。

 私は勇んで国外に逃れた、マリキア様を我が子と偽って連れて行けたの。

 そしてマリキア様を育てたの。マーキュリアって名を改めて・・・」


ロゼの名がマーキュリアになった由来。

俺の相棒がロゼッタ・マーキュリアである由来。

先祖の魂を宿した相棒の女の子が、俺の遠縁である証。

今、俺に明かされた真実は、騎士の魂に届いただろう。


裏切ってなどいなかったと。

むしろ辛い罪を背負い、生きていかねばならなかったロゼに感謝しなければいけないと思う。

ロゼが罪を被らねば、俺もここには居なかっただろう。存在さえも無かった筈だ。

時の指輪も、ルナナイトの名も。ロゼが居たからこそ残されたのだと思う。


「真実が伝えられれば、オーリエさんも判ってくれる。

 魔女と化したロゼの姉も、恨みを解いてくれると思います」


俺はロゼを姉の前に連れて行きたいと思った。

どうやってでも、呪いを解いてやりたいと願ったんだ。


「そうね、姉上にもう一度逢って聴いて貰いたい。

 それでも赦して頂けないのなら、私は姉上に殺されても構わない。

 でも、この子は無実。新しい命を授かったロゼは殺させたりしないわ」


俺に胸元の蒼き珠を見せて、覚悟を告げたロゼが。


「君にお願いがあるの。

 姉上が宿る者と出逢えたら、この石を突き付けて。

 姉上の魂に出逢えたら、魔法石に宿って粛罪を求めるから」


どうあっても姉に解って貰おうと決意を示して来た。


「それがロゼの求めなら。それで俺のロゼが救えるのなら。

 俺が出来る事をするだけさ、俺自身の手で守れるのなら」


時の指輪が蒼く光る。

宿った騎士の魂も納得しているかのように。


「ファサウェー様、義理兄様。どうか信じてください。

 私はあなた様を裏切りはしなかったと。ファサウェー様を姉同様にお慕いしていたのを。

 心から誓ってお慕いし続けて居りますことを・・・」


ロゼの口からいつくしみが零れる。


「ほぉう、ロゼは姉と騎士を奪い合ったのか?」


鼻を掻いて、俺が茶々を入れる。


「だから、姉妹は痴話喧嘩をするのか?」


先祖の血は争えんのか・・・ってな。


「・・・それは、この子に訊いてよ?」


毒気を抜かれたロゼの声が少々大きくなった。


「ふぅ~んっ、ロゼは一人の男を姉と取り合っていたんじゃないのか?

 身を退いたのよって、奥ゆかしい事を言いたい訳?」


「誰が・・・よ?」


・・・うん?もしかして・・・やばかったか?

目覚めの時の様に、低い声が返って来た。


「誰がアンタを姉様と取り合っていたですって?!このアンポンタン?!」


しまった?!ロゼさん、そりゃないよ?

元に戻すのなら、そう言ってからにしてくれよ?!


「ルビぃ~っ、戦車から降りたら・・・覚えてらっしゃい!」


・・・ひいいぃっ?!どうしてこうなる?!


つくづく、先祖って自分勝手だと思ったw



魔女ロゼの告白に依り、潔白が知らされた。

やはり妹は裏切りはしなかったのだと。

悪魔に身を墜とした姉に告げ、改心して貰おうと願っているのが分った。


そうとなれば、俺には希望が湧いて来る。

魔女と闘わなくて済むのなら、宿られた妹とだって戦わずに済むと思うから。


後は、いつ、どこで出逢えるかだけだと・・・考えていたんだ。



「ルビぃ?!何をにやけてるのよ?!停車したらアタシの肩を揉みなさい。

 いいわね、これはアタシの下僕に対する命令ヨ!」


唯、俺には天敵がいるようだが・・・

 

宿る妹ロゼはやはり潔白だったのだ。

その言葉には嘘を感じられない。

怨まれているのに逢いに行く訳がないから・・・


いよいよルビ達は次なる戦場へと向かう。

そこで待ち受けて居る者は?


次章 第5章 鋼鉄の魔砲少女パンツァー・マギカメタル


次回 進出ス!

君達の前に立ち塞がるのは・・・初陣の戦場。

 君達は生き残る事ができるのか?!


追記・次章では彼女達の姿も見れますよ?誰かって?もちろん・・・言わないよ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ