ロゼッタはロゼ
俺は弾む気持ちで飛び込んだ・・・
そう、ロゼの居る女の子官舎に・・・夜遅くに・・・だ(ピンチ)
俺は飛び跳ねる様に宿舎に駆け込んだ。
「おい、ロゼ!聴いてくれ」
一番最初に訊いて欲しいと思ったんだ、ツン娘に。
だから駆け込んだ・・・何も考えずに。
「ぎゃあっ?!ルビッ?!」
「きゃーきゃーっ?!」
女性専用官舎へ・・・
飛んでくるわ投げつけられてくるわ・・・
そこら中の備品や装備品が。
だってよくよく考えてみれば、休息時間で夜中だったし。
女性専用の官舎だったから・・・観なくても良いモノを目にしてしまうかもしれないんだし。
考えなくてもプライベート違反だったよな?
舞い上がっていた俺に全責任がある・・・間違いない。
「ん・・・で?言い訳を聞いてみても良いかな?スケベ男君?!」
ツン娘がプルプル震えながら見下ろして来る。
肌着一枚の格好で・・・だ。
その周りには同じく顔を引き攣らせてる新入隊員達の痛い目がある。
「あのさ・・・俺が悪いのは認めるけど。
これはあまりに酷いと思いませんでしょうか?」
おでこに瘤を造った俺が伺いを立てる。
身体中を荒縄で縛り上げられた状態で・・・だ。
「酷いですって?そんなので済んだ事に感謝しなさい!
本当は射殺されたって文句は言えない筈よ?!」
・・・そこまで酷い事をしたのか、俺?
「射殺・・・って。
俺はロゼに聞いて欲しい事があったから・・・すみません・・・」
ジト目で見下ろされ、その恐怖の眼に狼狽える俺。
「聞いて欲しい事・・・なによそれは?」
おや?ロゼの表情が替わったぞ?
「それは・・・この状況で話せる事では・・・」
ピクン
ロゼの顔色が明らかに替わった。
何かを期待するような目になった。俺から何が聞けると思ったのか知らないが。
「おっほん!それでは皆の衆。
この不埒モノの成敗はアタシが片を付けておくわ。
だから、気にせずに休んでおいてね、おほほほっ!」
引き攣った笑みを残し縛り上げた俺を引き摺って行くロゼに、他の者は口をあんぐり開けて見送った。
「何よ話したい事って。アタシにだよね?」
縛った縄を解いて、ロゼが見詰めて来る。
おお、そうだった。とんだハプニングで言いそびれていた。
「そう、ロゼに聞いて欲しいんだよ。
とっても大切な事で、ロゼにしか話せない事なんだ!」
ビクンっと、ロゼが仰け反り居住まいを正そうと下着を引っ張る。
そんな事をすれば、胸が否応にも強調されると知っているのか居ないのか。
「・・・そ、そ、そんなに改まって話す事って?」
アレ?ロゼがもじもじし始めたけど?どっかを蚊にでも刺されたのか?
「そう、改まったんだよ!俺の気持ちが」
ずざざっ!ロゼが仰け反るというより後退ったのだが?
「あああああっ、あ、改まったって?!気持ちが?ルビの気持ちが?!」
???何を慌てているんだツン娘?
「?そうなんだよ、よく聞いてくれロゼッタ!」
改まるからにはちゃんと名を呼ばなきゃと思っただけだぞ。
「にゃぁっ?!にゃんでしょうか?」
???なぜ、ロゼの頭から湯気が湧く?真っ赤な顔になって??
しかもウルウルの眼で、しかも胸に両手を添えて?
静かな官舎の端で、切り出すタイミングを計る俺の耳にロゼの心臓の音が聞こえた気がする。
アレ?もしかしてこれは。
「ロゼ・・・告白は告白だけど・・・とんでもない気の迷いだぞ?」
「にゃぁっ?!告白・・・・ぶわっ」
ロゼが一気に卒倒しかける。やはり思いっきり勘違いされてるな。
「落ち着けよロゼ。俺が言いたいのは・・・」
「にゃにぃっ?言いたいのはぁ・・・(プツ)・・・あ、跳んじゃったかな?!」
急にロゼが身体を前のめりにしてきた。
デレルにも程があるからな、ロゼよ。
このまま訳を話したら・・・後が怖くなってきた。
「うん、あのさロゼ。さっきは復讐を諦めないって言ってたんだけど。
気が付いたというか知らされたんだよ、妹が生きているって。
だから・・・その、復讐はこれっきりにするんだ、もう復讐に手を染めるのは辞めにする」
一気に話して、ロゼの反応を見る。
「はぅ・・・ルビ?!それって・・・本気なの?」
おや?意外と冷静な答えが返って来たな。
「本気、大マジ。妹が生きているんだから、取り戻したいんだ。
どこかに居る筈のノエルを、だから復讐なんて考えない事にするんだ」
「そうなんだ?!ルビの妹さんが生きているのね?良かった・・・」
・・・案外、俺の方が拍子抜けだぜ?
もっとこう・・・残念がるかと思っていたのに・・・さ。
「それで、ルビはこれからどうしたいの?
ノエル・・・ちゃんかな?その子はどこに居るの?」
むぅ?なぜだ?!
ロゼは期待を裏切られた筈なのに、どうしてまともに訊けるんだ?
それとも、俺の方が舞い上がっていただけなのか?
なにか引っ掛かるのだが?
「ねぇ、ルビ。その子にはどうすれば逢えるの?
ルナナイトの子孫なんだよね?ルビの妹さんなんだもんね?」
?・・・子孫?おいおい、なんでそんな聴き方をするんだ?
「ああ、そうだけど?ノエルに逢えるかどうかは時の運らしいけど。
ロッソアの魔鋼騎に乗っているかもしれないんだ、魔女の魂と共に。
だから戦場に行けば逢えるかもしれないって思うんだ!」
俺が騎士と話した、妹との再会方法を答えると。
「ロッソアの?!じゃあ敵として相まみえるかも知れないんだね?
それじゃあ魔女と闘わなくてはいけないんじゃないの?」
「そうかもしれないし、回避できるかもしれない。
だって俺には時の指輪があるのだから」
指輪を突き出してロゼに応える。
「そうよね、その時が来ればルビの魔法で取り戻せれば良いよね。
きっとあの人もそうなれば良いと思ってくれる筈だから」
・・・あの人?!それは誰の事なんだ?
さっきからロゼの様子がおかしいと感じていたが。
普段のツン娘ではなく、デレでもない。
それに明らかに何かを知り、何かを隠している。
話す言葉にもひっかかる。
「・・・ロゼ、もう一つ言っておいても良いかい?」
「うん?なに?」
・・・違う。このロゼは俺の知ってるロゼじゃない。
さっきまでは告白というフレーズに動揺していたのだから。
どのタイミングで別の人格になったのか。
まさかこんな事で時の指輪を使うのは、気が退けるからさ。
試しに訊いてみるか?
「あの・・・ロゼ?お前ロゼだよな?」
「うん、そうだよ。私はロゼ」
やはり別人確定だな。
アタシが私になってる。
それにしても・・・だ。
こんなに早く見つけられるなんて。
ロゼには誰かが宿っている。それも俺の先祖を知っている奴が。
ー ファサウェーさんよ、一体どこを探してたんだよ?こんな近くに居たじゃねえか?
「ロゼさんですよね?オーリエさんの妹の?」
「はっ?!あ、あ、あ、あのっ、どこの誰とお間違いなされておられるのかしら?
おーっほほほっ!嫌ねぇ騎士さまったら」
・・・みえみえじゃんか。
「いつから宿られているのですか?いや、いつから目覚められたのですか?」
「・・・バレた?!」
いや、バレますってば。
「あなたはファサウェーという騎士をご存知ですよね?
その騎士は俺に宿ってるんですが、知っておられますよね?」
「ひゃっ?!ひゃ、ひゃぁいいぃっ?!」
認めたな、しかも思いっきり動揺して。
「いつから?どうして今迄黙っていたのですか?」
「黙ってた訳じゃなくて。君が鈍感だっただけじゃないの」
今度は俺の方が口を開いて押し黙る番だ。
「って、言う事は?いつから?」
「君に救われた時から、初めてこの子が君に逢った時から。分からなかったの?」
全然・・・気が付きませんでした。
単にツンとデレかと・・・思い込んでました。
「あ、君。こっちのロゼは君の事がね、とぉーってもす・・・(プツ)」
「へ?!」
言葉が中断され、ロゼが動かなくなる。
「・・・ぶっはぁーっ!」
「わぁっ?!」
突然動いたと思ったら、思いっきり俺に掴みかかって来やがった。
「ルビ!アンタは何も聞かなかったの!何も聴いてはいないのよ!」
起きたと思えば、これかよ?
「アタシにも変なのが宿ってるなんて?!今の今迄知らなかったのよ!」
「はぁ・・・それはなんともはや・・・」
焦ったロゼが口早に言い訳を話す。
・・・なんて世界なんだ。よりにもよって、俺達は先祖に祟られたか?
「いいことルビ、この事は二人だけの秘密なのよ良いわね?!」
「お、おう。了解だ」
俺達は互いに肩を掴んで俯いた。
なんでなんだよと誰かに訴えたいのを堪えて。
「とんだ先祖が居たものね、これからどうやってプライバシーを守ればいいのやら?」
「それはそうだけどよ。俺はちゃんと告白したからな。ちゃんと聞いてくれたのか?」
・・・・ぎぎぎぃっとロゼの首が回る。
「にゃっ?!にゃんか言ったのにゃ?」
聞いてないないじゃんか?!
「ニャンって言ったのにゃ?もう一回言ってにょー!」
呂律が怪しい、それにデレ過ぎ。
「告白って一度っきりなんだよ、恥ずかしくて言えん!」
「そ、損ニャァっ?!」
気絶したロゼが悪い事にしておくか。
少なくても、大切な事は中の人に伝えれたからさ。
しかし、同じ名前ってのは・・・何かの縁か?
あ、子孫だったっけか・・・・しゃーないな、こればっかりは。
やっちまったな俺。
セクハラなんてモンじゃないな、ノゾキだよ覗き。
これは暫く弄られそうな気配・・・濃厚だよな。
次回 俺の天敵
本当の君はきっとそうだろうと思っていたよ、だって俺の相棒なんだろ?




