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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第4章 Noel
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月夜に舞うは魔女 前編

騎士が語る古の物語。


ルビの先祖は如何なる最期を遂げたのか?

前後編に渉って語りましょう。

月が雲の合間から、光を溢して来た。


魔女が如何にして闇に堕ちて行ったのかが、古の騎士から語られた。


領主たる騎士と魔女の出会いから始り、事件当日までの記憶がルビに語られる・・・




女王リィンの治世が終わりをつげた頃。

フェアリアに再び戦乱の世が訪れた。


隣国ロッソアの度重なる襲来で国が疲弊したフェアリアは、周辺の小国を懐柔し始めた。

ロッソアとの決戦を目論んだ当代の王が自国に獲り込み、国力をつけようと計ったのだ。


フェアリアにより隣の領地が武力で取り上げられるのを観た領主ファサウェーは、

傍に仕える魔女を伴って、宮殿まで談判に赴いた。

迎えたフェアリア王は、なかなか懐柔できない事に業を煮やして騎士の暗殺を謀った。


しかし、どこで計画が漏れたのか騎士と魔女は王宮から脱出し、領地に舞い戻った。

フェアリアの思惑を知ったファサウェーは、直ちに戦闘の準備に掛る。

喩え一国を相手にしても、むざむざ手放す事など出来る筈も無かったから。


領主ファサウェーは、魔女に覚悟を告げて落ち延びるように勧めたのだが・・・・


「いいえ、ルナナイト卿。いいえ、あなた。

 私はあなた様の魔女としてここに残ります、離れたくはありません!」


妻でもある魔女が拒絶する。

赤毛の髪を靡かせ、紅き瞳を騎士たる夫に向けて。


「ですが姉上。義理兄ファサウェー様もご心痛あそばされて仰られておられますのよ?」


傍に居る赤子を抱いたもう一人の魔女が、


「マリキア様の行く末もお考えにならねば・・・」


赤ちゃんをあやしながら姉へ、考え直すように説得した。


「ロゼ!あなたには夫がいないからそんな軽々しく云えるのよ。

 御主人様に受けた恩が、あなたには判らないから言えるのよ!」


紅い瞳を吊り上がらせ、姉は妹の心配さえも否定する。


「でも、オーリエ姉様。

 この子は、マリキアお嬢様はどうなされるのです?

 お二人と運命を共になされるおつもりなのですか?」


ロゼオーリエに言い募ると、


「そうよ!この子だけを置いて、死ねるものですか!」


覚悟の上だと、怒りを顕わにして言い返して来る。

妹は姉の表情に言葉を呑んだ。

子供を道連れにすると言い切る、姉を睨み返して。


姉妹の言い争いを見聞きしていた領主ファサウェーが、仲裁に入る。


「オーリエもロゼも、一旦気を落ち着けろ。

 私は間も無くフェアリアからの刺客達と闘い、ロッソアの軍とも闘わねばならん。

 それは我が領民を護る為でもあるし、我がルナナイトの名を穢さん為でもある。

 死を賭して護らねばならんのだ、どのような方法を執ってでも」


ファサウェーが二人に、それぞれが最善と思われる選択をしなければいけないと諭す。


「私とオーリエが討たれたのならば、ルナナイトの血はこの子に託さねばならん。

 マリキアまで死に絶えれば、我が家系は断絶の憂き目をみなければならない。

 後の世にルナナイトの家名を残し、再興を果すにはこの子を残して行くのが妥当だと思う」


ファサウェーは妻である魔女に言い聞かせる。

子供を託そうではないかと、ロゼの言う通りにしようではないかと。


「しかし、あなた。この子をロゼに託すなんて。

 フェアリアへ連れ帰られたら、私達が勝ったとしても人質にされてしまうのでは?」


オーリエが拒絶したのは、妹がフェアリアからの使者であったから。

オーリエとロゼ姉妹は、フェアリア生まれの魔女だった。


「そのような考えをお持ちになられては。

 私がマリキア様をフェアリアに売るとでも仰られるのですか?」


「ええ、そうよ!ロゼが考えなくとも、フェアリア王は追及するでしょうからね。

 ロゼがマリキアを連れて戻ったのを知れば、差し出せというのは必定よ」


姉はなかなか納得しない。それどころかあからさまに妹の善意を拒否し続ける。

オーリエが拒否するのも判る。ロゼが匿うにしろ連れて行くのは敵の中なのだから。

姉妹は敵味方の仲となってしまった。

ファサウェーに仕える様になり、愛が芽生えて夫婦になったオーリエ。

フェアリア王の臣下であるロゼは、降伏勧告に罷り通って此処に居る。


ロッソア帝国と干戈を交えんとするフェアリアにとって、ルナナイトの領土はどうしても懐柔せねばならなかったのだ。

しかしファサウェーが拒絶した為、フェアリア王は暗殺を企てた。

寸での処で難を逃れたファサウェーとオーリエは郷土の防衛の為に幾度も送られてくる刺客を滅ぼした。

暗殺計画を頓挫されたフェアリア王は軍を動かすと断じ、降伏勧告を魔女に託した。

その魔女というのがオーリエの妹、ロゼだったのだ。


フェアリアにあって唯一人だけ味方に付いてくれていたロゼが敵の降伏勧告を告げに来た事で、

オーリエの妹に対する気持ちは大きく揺るがされてしまった。


信じていた妹に敵へ恭順しろと告げられ、猜疑心を抱いてしまったのだ。


「しかし義理兄ファサウェー様の仰られる通り、そうでもしなければマリキア様は。

 このルナナイトの血筋が絶えてしまうかもしれないのですよ?」


ロゼは必死に姉の翻意を促すが。


「フェアリアに連れられて行っても生き残れる確証があるの?

 敵の中で生きていける保証はどこにあるというのよ?!」


子を想う母の声が屋敷に木魂する。

どうせ殺されるというのなら、手元で共に死なせたいと思うのが母たる心だとでも言いたいのか。


「僅かであっても、生き残れる可能性があるのなら・・・

 私はマリキアをロゼに託そうと思う」


ファサウェーの声が二人に掛けられた。


「我がルナナイトの血を絶やさぬ方法がそれしかないのならば。

 私はロゼにマリキアを託し、この指輪を授けようと思う」


マリキアを抱くロゼに近寄ると、魔法の指輪を外して幼子の指に填めた。

蒼き指輪は赤ちゃんの小さな指に填められると、宛がわれた様に大きさが変わった。


「この子にも我が月夜の騎士たる異能ちからが備わっている。

 私が滅んでも代々続く魔力は残される、この子が伝えてくれるのなら」


オーリエに振り返ったファサウェーの瞳が教えていた。

こうするより、方法は無いのだと。

指輪を授けた意味を、オーリエに伝えていた。


「あなた・・・そうなのですね?」


主人である魔法騎士が、その力の拠り所を手放す・・・その意味が分かったようだ。


「もう、時の魔法も手に負えなくなったのだと。

 私達には最早運命を受け入れざるを得なくなったと仰られるのね?」


悲し気な顔になったオーリエが、夫の顔色を伺って来る。


「そうだ、幾度も試みたのだが。

 結末は変えられない・・・我等は最早取り返しの出来ない処に来ているのだ」


覚悟を仄めかした夫の顔を見詰めたオーリエがすすり泣く。


「だから今は、マリキアに託すのだ。

 この子にルナナイトの家名と力を後の世にまで伝える為に、生き残って貰わねばならない。

 その為にはロゼに連れて行って貰わうのが最上の策と思うのだ」


ファサウェーの言葉に、妹ロゼが今一度訊ねる。


「そう思われるのなら、姉上も一緒に・・・」


母子共々離縁させ、フェアリアに向かわせてはと含ませたのだが。


「それもやってみたが、フェアリア王は許さなかった。

 もっと酷い目に併せようとするだろう、私には堪えがたい屈辱をみせるだろう。

 さんざん利用した挙句、母娘共々処刑するだけだろう・・・私を滅ぼす為に」


時の魔法を使い、回避しようとしたのだろう。

幾度も悲劇から逃れようとしたのだろう。

そのどれもが悲劇的末路を辿り、諦めさせてしまったのだ。


「ロゼにはマリキアが私達の娘ではないと誤魔化して貰わねばならない。

 騙し通して、生き残らせて貰いたいのだ。

 この子を自分の子だと、心の底から想って欲しいのだよ」


ファサウェーの言葉に、妻であるオーリエは悟った。

間も無く自分達に来るのは、最愛の娘との別離。

今生の別れを告げねばならないと、夫から言い渡されたに等しかった。


でも、それがこの子の為なのだと判れば、諦めねばいけなかった。


「あなた・・・私を伴にしてくだされるのね。

 傍に居させてくださると仰られるのですね?!」


オーリエは運命を共にすると言い切ったファサウェーに誓う。


「あなたと逝けるのなら。何も怖くなんてありません」


心残りはマリキアの事だけ。

我が子の行く末を案じた母の想いから、拒み続けていただけだったから。


「ロゼ、マリキアを頼みます。この子をどうか育て上げてください」


後事をロゼに託し、オーリエ騎士ファサウェーに寄り添った。


「ええ、姉上様。必ずやマリキア様を御守りすると誓います」


ロゼが首を垂れて従うと誓う。


「ロゼよ、もし我等に死が来ようとマリキアを護ると誓えるか?

 その子を護る為に如何なることも出来ると言い切れるか?

 喩え人々を欺いてでも、護れると言えるか?」


騎士ファサウェー妹魔女ロゼに念を押した。


「はい、誓います」


顔を挙げて決意を示したロゼに、反意がないのを見て取った。


姉オーリエもファサウェーと同じようにみたのか、<金髪>のマリキアを一頻り抱きしめてから。


「ロゼ、マリキアを宜しく頼みます」


時の指輪を填めた娘を、妹に託した。

オーリエとロゼ姉妹。

魔女の力を持つ2人は、こうして袂を別れさせたのです。

妹ロゼに託されたマリキアが生き残る為とはいえ、

別離させられたのはどんなに哀しく想ったことでしょう。

最善の策を執った筈なのに・・・なぜ?


その訳は後編にて。

人類は古来からなにも変わっていないというのでしょうか?


次回 月夜に舞うは魔女 後編

君は悲しき魔女をどう見る?最後に見た月に彼女が告げたひと言とは?!

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