魔鋼の狩人
妹はサハテ中尉に連れられロッソアに赴いた。
そこで待っていた運命とは?!
宿る魔女とノエルの運命を握るのは?!
戦争が始まった日、何もかもが喪われた。
両親も、友も。
そして、心までもが喪われた。
ノエルはサハテ中尉にロッソアへ連れて来られた。
その後、サハテ中尉により少女はとある人物の元へ手渡される事となった。
少女と宿った魔女に、幾許かの時が流れた・・・
「この子も・・・アタシと同じになったのよね?」
薄く開けた目で見下ろす。
「レオン少尉も復讐したいよね?」
躰に火傷を負い、半死半生になっている娘に微笑みかけて。
「あなたの大切なお兄さんや同僚を奪った奴等に・・・恨みがあるよね?」
全身を包帯に包まれた娘の目が開く。
「だったら・・・アタシを受け入れなさい。
魔女の魂を宿すのを認めれば、力になってあげるわよ?」
片目を薄く開けたレオン少尉が、微かに頷く。
「良い子ね。認めるのよねアタシの存在を。
魔女の魂に宿られるのを認めたわよねぇ?」
ベットで息絶え絶えのレオンに嗤う。
「アナタは認めた。アタシが宿るのを・・・
魔鋼の技術に因って肉体から分離したアタシに宿られるのを認めたの。
もうアナタは人では居られなくなるの、魔鋼の魔女に成るの!」
見下ろしていた影がレオンの中へ入り込んでいく。
少女の姿をした影が、レオンと重なった。
ボオゥ
重なり合った影から、紅いオーラが舞い上がる。
と、同時に死に体のレオンが起き上がった。
身体を巻いていた包帯を外しながら起き上がったレオン少尉だった者が嘲笑う。
「ふふふっ!確かに宿ったわよ。
今からこの身体はアタシのモノ。今よりレオンは闇の魔女。
アタシと祖先の魔女、そしてあなたの復讐を果す為に闘うのよ!」
起き上がったレオンが、頭部に巻いていた包帯を外した。
そこから現れたのは、レオン少尉だった者の顔ではない。
死ぬ寸前だった少女の顔ではなく、恨みを抱いて死んだ者の顔。
「必ず復讐してやる。兄さんと友の恨みを果してやるだけだ!」
「アタシの故郷を、両親までも奪った奴等にも・・・」
「ふふふっ!良いわよ二人共。それが呪い、それが復讐者たるモノ」
3者の恨みが重なる。
ロッソアの戦車兵レオン少尉に宿った恨みが、闇の力を呼ぶ。
魔女と化した娘が、誓いを新たに呪うのは。
「フェアリアの紋章付き戦車。
先ずは手始めにそいつを闇へ葬ってやらねばな・・・」
躰の持ち主であるレオンの恨みを晴らさせてやろうと魔女が言う。
「その後は、レオンの身体を完全に支配しても構わぬだろう?
フェアリアに居る裏切者の血を絶やす迄、この身体は私が貰い受けるからな」
古の魔女が言い放った。
レオンの復讐が終われば、この身体は自分の良いようにすると。
「構わない、どうせ一度は死んだのだから。
どう使おうがお前達の好きにすればいい」
復讐心がそこにある全てだった。
魔女達の存在意義は、復讐を果すだけに在ったから。
「ならば、バローニア将軍に求めよう。
フェアリアの魔女を狩りに行く為に必要なモノを貸せと。
レオンの敵討ちに必要な戦闘力を差し出せと命じよう」
古の魔女が言い放つと、レオン少尉はベットから抜け出す。
身体中にあった傷や火傷の痕は、どうしたというのか見当たらなくなっていた。
「ふむ、これがノエルの魔法力か。
治癒魔法・・・便利だな、死ななければ復活出来るという事か」
魔女は子孫の魔法力を持て囃した。
「そう、それがアタシの力。
この魔法の石に因って引き出された魔力」
レオンの首に填められた首輪には、紅く輝く魔法の石が光っている。
邪なる力を宿した、魔法の石が着いていた。
「そうだこれは兄さんの形見。
兄さんが私にくれたルビーアイ・・・祈りの石だ」
レオンの声に、少女の魂が微かに正気を取り戻した。
ー なにか・・・忘れているの。とても大事な人を忘れている気がする・・・
復讐心の中に埋もれてしまったモノに気付けず、ノエルは躊躇うのだった。
ー アタシには大切な何かがある筈なのに・・・闇の力が忘れさせているの?
躊躇いは疑問に替わり、答えを求める。
「躊躇うな我が子孫よ。仇を討つ事こそが我等に与えられた宿願。
それ以外に、我等が存在する意味などないと知れ」
魔女から湧き出る闇の力に因って、ノエルの魂は沈黙する。
穢された魂に、微かな光を秘めたままで。
「さぁ、今よりは復讐の為だけに異能を使うのだ。
我等の望みを果す為だけに闘うのだ!」
月夜の魔女が嘲る。
邪なる魂の魔女が、二人の少女を支配した。
躰はレオン、魔女とノエルが宿る魔鋼の狩人。
狙うは、フェアリアの蒼き紋章を浮かべる戦車。
魔鋼騎と呼ばれる魔砲の戦車・・・・
ノエルは躰と魂を別けられてしまった。
魂が抜けた身体は一体どうなっているのか?
なぜそのような事が出来たのか?
研究室に将軍が佇んでいる。
目の前には少女達が眠っていた。
「どうかね?やはりその道の第一人者を連れて来なければならんのか?」
数人の研究者達が頷き、
「我々には計り知れない事ばかりなのです。
やはりヤポンの研究者を招聘された方が宜しいかと」
自分達ではこれ以上の進展は見込めないと答える。
「そうか、やはりフェアリアに居る内通者に求めねばならんか。
一刻も早く実現せねばならんのだ、この究極の魔鋼弾を。
魔法使いの魂に因って齎される破滅を、手に入れねば・・・」
「しかし、バローニア将軍。このような弾を使う時が来れば・・・
人類そのものが破滅してしまいませんか?<無>を撒き散らすような事に?」
研究者が将軍に訊ね返す。
どうしてこのような兵器を開発するのかと。なぜ急ぐのかと。
「我々が手を出す理由は一つだ。
敵に同じ性能を持つ武器が現れる懸念があるからに他ならない」
自分達が開発する事を、敵が手を出さないとは限らない。
いや、もう敵は開発を終えているかもしれない。
将軍の答えは誠に的を得ているように聴こえるのだが。
「しかし、人の魂を内部に閉じ込めるなど、考えるだけでも怖ろしいですな。
魔法使いの魂を閉じ込めて爆弾と化し<無>を撒き散らす・・・
その<無>の連鎖に因り人間を殲滅するなど、悪魔の所業としか思えません」
一人の研究者が溢すのを、唇を歪めて聴いていたバローニア将軍が。
「それが出来ないというのなら、どこかから専門職を連れて来ねばならん。
魔法少女達を無駄に使っても良い筈がなかろう?」
研究室には数人の少女が眠ったままだった。
生きているのかも分からない位、少女達は動かなかった。
「魂を取り出す事には成功したのですよ。
唯、その魂を保管するモノが分からないのです。
弾に封じ込める方法が分からないのですよ」
研究者は簡単に言い返し、
「収納方法が判れば、弾は作れるでしょう」
肝心の部分で躓いたのだと答える。
「ふむ、取り出した魂は何処に行っているのかね?
元の身体に戻れないのか?どうすれば身体に戻せられるのか?」
バローニア将軍が魂が元の身体に還れないかと問うと。
「一度離れた魂が元に戻るには。悪魔の力が必要になると文献には記されています。
我々の関知していない部分ですが、方法はどこかにあると思います」
「悪魔・・・か?」
研究員から視線を外し、バローニア将軍が眠る少女達を観て。
「あそこに居るのは先程捕らえた娘だな?
やはり魂が分離された状態なのか?」
栗毛の少女が眠っていた。
「ええ、彼女が此処に居る者達の中で最も強力な魔法使いでしたよ。
残念ですが、彼女を使っても無駄でしたがね・・・」
将軍に答えた研究員が肩を竦めてみせた。
「どうやら魂が抜け出た状態のままなのです。
帰還する事は望み薄だと思われますが?」
研究員は暗に処分を聴いて来たのだ。
「ふむ・・・処分するのは今少し待つが良い。
彼女とは事前に話してあるのでな、弾に込められなくても使いようがあるのでな」
バローニアは口元を歪めて答える。
「彼女は進んで実験につき合ったのだ。
こうなる事を承知で臨んだのだとだけ、私は言っておこう」
少女に一瞥をかけた後、将軍は研究室を後にする。
「間も無く内通者達に因り、研究の権威が連れて来られる。
その時、極大魔鋼弾は進歩を遂げる。間も無く、我等の偉大な努力が報われるだろう」
嘯いたバローニア将軍が去り際に言い残した。
「そうなれば、この世界は我々の物となる。
我等が主の元に、闇の世界が与えられるのだ!」
バローニア将軍の声が研究室に流れた。
何か異質な匂いを残し、戦争だけにではない含みを持たせて。
栗毛の少女は眠り続ける。
フェアリアから連れて来られたノエルは、数人の魔法使いと共に眠っていた。
レオンに宿った魔女。
レオンの対となったノエル。
3人の魂は闇に堕ち、復讐を誓うのだった。
フェアリアにいる仇を討つために・・・
次回 魔女の行方
君の前に現れる過去の幻影。その時君が見るものとは?!
出て来ました!「魔鋼騎戦記フェアリア」のサブキャラ達。
ロッソア軍の中でも、ミハルに倒されたボスキャラ級の将軍が・・・
詳しくはhttps://ncode.syosetu.com/n7611dq/ 「魔鋼騎戦記フェアリア」を御覧ください。




