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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第4章 Noel
47/133

堕ちる妹と復讐の魔女

少女は鹹くも生き残った。

魔女の魂に見初められ、彼女は復讐を誓ったのだ。


そして・・・

進撃する戦車隊の中で、T-28中戦車一両だけで山の裾野を進んでいた。

残敵掃討の為なのか、単に闘うのを怯えているのか。

仲間の戦車から離れ、歩兵も連れずのろのろと進んで行く。



「やっと朝日が昇り始めたな。これで視界が広がる」


車長がキューポラから声を掛けた。


「ええ、サハテ中尉。不意打ちは回避出来るでしょうね」


装填手がキューポラの車長に答えて。


「進発した奴等は、もう街を完全に掌握したことでしょう」


前方遥かに観える味方戦車の影を見据えて言った。


「そうですね、敵の反撃も無かったようですし。無益な戦闘だったと思いますよ」


操縦手が煙を揚げ続ける街を観て、言葉少なく作戦に批判を加えた。


「一般市民を根絶やしにする戦法を執るなんて。

 ロッソア帝国軍として情けないの一言ですよね・・・」


無線手も同調し、周りの惨状に嘆くばかりだった。


「車長が機関故障を指揮官に告げるように命じて下さらなかったら。

 我々も悪魔の所業に加担しなければならなかったのですからね。

 本当に車長には頭が上がりませんよ、感謝の想いしかありません」


操縦手はどこも故障していない動力系統を操作しながらキューポラを振り仰いだ。


「当たり前だ、誰が無慈悲な行為に加担するものか。

 民間人を一人残らず駆逐しろだなんて命令を聞ける筈が無いだろう?

 罪もない人々を殺せる筈が無い、我々は敵国と闘う為に戦車に乗っているのだからな」


車長は戦車兵の誇りを言ってのける。

戦車兵は敵戦車や、敵兵と闘うのが本分なのだと。

抵抗する者が居れば戦うのも辞さないが、逃げ惑う民間人を根絶やしにするなど以ての外だと言ったのだ。


「せめて・・・何人かが生き残ってくれればいいのだが」


焼け野原になった街を見詰めて、サハテ中尉が呟いた。


「サハテ中尉!人影が観えます!」


無線手が突然叫んで来た。

即座に左舷方向に目を凝らしたサハテ車長が、影を確認する。


ゆらゆらと蠢く影が現れ出た。


「停止っ!停止するんだ!」


煙の中から現れ出た影が、こちらへ歩いて来る。


「お、女の子だ。住人の生き残りだな?」


幽鬼の様にゆらゆらと歩いて来る姿に、何故だか寒気を催す。

長い髪を振り乱した少女が、ゆっくりと向かって来ていた。


「どうします車長?捕虜は執るなと命じられていますが?」


怯えるように装填手が訊いて来る。

人を殺すのかと、女の子を撃ち殺すのかと・・・懼れているのだ。


「全員、周りに味方がいないかを調べるんだ!」


サハテ中尉が命じると、3人は観える限りの範囲を探った。


「どこにも歩兵は観えません!」


「味方車両は街の中心部に固まっています!」


「辺りに人影はありません!」


サハテ中尉も自ら辺りを観測し、目撃者がいない事に一息吐くと。


「いいか、あの娘を連れていく事にする。

 このまま放置しておけば、後続する特務隊に因って殺されるのは必定なのだ。

 奴等の残虐性を知っているだろう?」


「車長?!しかし、そんな事をすれば我々も?」


命令に背けば、自分達には反逆罪がつけられてしまうのではないかと恐れた装填手に。


「いいか、私達の車両には欠員がある。

 幸いなことに補充兵が来るのが間に合わなかった。そこでだ・・・

 彼女を補充兵に見立てて載せていこうと思うのだ。

 本当の補充兵が来るまで、誤魔化し通してやるのだ」


少女を救うと言ってのけた。

理不尽な殺害をせずに済む様に、車内に連れ込むと命じるのだった。


「どこまで誤魔化し続けられるか。

 どのタイミングで逃がしてやれるかは分からないが。

 放置するよりは余程良い、後から罪の意識で悩み続けるよりは・・・な」


停車した車内は、安堵と感謝の声に満たされる。

車長の命令に3人が同調し、即座にハッチから飛び出した。


血に塗れた服を着た栗毛の少女に走り寄ると、


「君、独りだけなのか?他には生き残った人はいないのか?」


声を掛けても少女は呆然と歩くだけ。


「言葉が分からないのか?他の者達はどうなった?」


装填手が駆け寄ってきて少女の肩を掴んで訊ねる。


「・・・殺された・・・みんな・・・死んだ」


ポツリと溢した少女が、近寄ったサハテ中尉に顔を向けて。


「悔しい・・・恨めしい・・・アタシの家族を返せ・・・」


誰も生き残っていない事を匂わせて来た。


「・・・何て事だ。この子以外は皆殺しに遭ったのか?!」


装填手が掴んでいた肩から手を放して驚愕する。

味方の軍が何を行ったのかを知らされて。信じたくない虐殺が行われたのを聞いて。


「君、これから私達と来なさい。そうしないと君も殺されてしまうぞ?」


サハテ中尉が少女に話しかけ、手を掴んで戦車に誘おうとした。


「?!」


まるで静電気が奔ったように思えた。

手を掴んだ瞬間に、何かが身体に訴えかけた気がした。

サハテ中尉は、少女の手を見詰めてそれが何を表しているのかを悟った。


「君っ?!君にも魔法力があるんだね?」


魔法使い同士が初めて触れ合う時、異能の力を指す。

お互いが魔力を意図せず交す時、触れ合う瞬間に感じられるという。


紅い瞳をした少女を観て、サハテ中尉は知ってしまった。

この子は魔法使いなのだと、このまま放置しておける筈が無いのだと。


ー この子を宛て駒にしてみるのも良いかもしれない。

  どうせ拾った命なのだろうし、私達の宿願の為に利用させて貰っても罰は当たるまい?

  このままにしておけば殺されるのは必定。

  魔法を求めている将軍の元へ連れて行けば、生き残れる可能性があるのだから・・・


捕虜を獲る条件が特別に加えられていたのを思い出した中尉が、


「将軍が言っておられた。

 魔法力を持つ者を集めろと、実験に必要な娘を捕まえろって内々に命じられたのだからな」


とある将軍から下された密命を、乗員に話し出した。


「ええ、何でも東洋の島国が開発した魔鋼戦車を造るのに必要だとか。

 ヤポンと同盟関係にあるフェアリアには、既に戦力化が進んでいるらしいですからね」


「我々の戦車にもぼつぼつと出現しているようですが、まだ研究が必要なのですね?」


操縦手と装填手が車長の言葉に捕捉する。

士官であるサハテは分っていたが、兵たる二人には実情が知らされてはいなかった。


「良い機会だからはっきり言っておく。

 我が軍には己が欲を満たさんとする者達が暗躍しているのだ。

 魔鋼の力を使って我が帝国を牛耳り、

 尚且つ世界をも征服しようとする者達が居るのだということを」


暗躍する者達の存在をサハテ中尉は分っていた。


「あの将軍・・・奴等は何者かの傘下に居る。

 魔法使いを集めて、何に使おうとしているのか。

 帝国に背く為なのか、単に己が欲を満たそうとしているのか?

 今は未だはっきりと分かってはいない・・・我々の同志に為り得るのかが・・・な」


自分達が目論む事に将軍の密命がどう係わるのかがはっきりするまでは、

様子見を決め込まなければならないとサハテ中尉は考えていた。


「この子を連れて行けば、何の為に魔法使いを捕らえているのかが判るかもしれない。

 将軍達が求めるのが何なのかが判れば、皇帝に対する切り札になるかも知れない」


「中尉、そうだとすれば。我々人民解放同志にとっての希望という事になりますね」


サハテ中尉の言葉に、装填手が眼を輝かせる。


「しかし、将軍達の狙いが別にあるのなら。

 研究の結果が人民に苦痛を齎すというのであれば、我々はそれを奪わねばならん。

 敵に利する行為だとしても、断固として阻止せねばならん・・・」


紅く澱んだ瞳を向ける少女を車内へ引き込みながら、サハテ中尉は3人の同志に告げた。


「この子を将軍の元に連れて行き、どうするのかを見極めよう。

 何に利用するのか、どんな研究に使うのか・・・我々と志を同じくするのかを知らねばならない」


「ええ、我々帝政打倒を志す者に組みしないというのが判れば、いずれは敵になるのですから。

 今の内に奴等の狙いを知っておいても無駄ではないでしょうから」


操縦手は車長サハテ中尉に頷き、自分達が皇帝に反逆を企てている事を仄めかした。


半ば自我を喪っている少女を車内に連れ込むと、無線手に打電させる。


「指揮官宛に連絡しろ。

 本車はこれよりバローニア少将の元へ、密命を果す為に向かうモノとする。

 詮索は無用だとも付け加えておくんだぞ!」


「了解しました!」


キューポラに立つサハテ中尉が続いて操縦手に命じた。


「反転180度。これより方面軍司令部に向かう」


「了解!」


T-28は、車長の命で元来た道を戻り始める。


「途中、検問されてこの子を観られても、密命だと言って降車を拒否する。

 憲兵達に訊かれたら、密命だと言って惚け通せ!」


前線から単独で後退するのを咎められて調べられた場合を想定して、サハテ中尉は部下に言い含める。


「いいか、我々の本意を悟られるなよ。

 この子にとっても生き残れるかの勝負になるのだからな」


実験がどのようなものかを調べ、味方になる存在かを質す。

もしも実験が自分達の理想に仇名すのなら、妨害を企てる必要があると思った。


「それにしても、この子にはどんな魔法が使えるというのだろう?

 見た所、魔法石などは持っていないようだが?」


血に塗れた服を着、呆然と瞳を曇らせている少女。

躰には外傷もなく、起きた現実のショックで心神喪失状態だけだと思えるが。


「まぁ私の様に、魔法使いとして存在しているのは間違いなさそうだ」


狭い砲塔内に座らせた少女を見下ろして、中尉が肩を竦める。


「研究がどのようなモノなのかは知らされていないが、まさか人体実験などではなかろう?」


サハテ中尉はその時、バローニア少将が企てている事を知る由も無かった。

新兵器を追及する将軍が、まさか人に災いを齎す者だとは思いもよらなかっただろう。


「恨んでやる・・・アタシから全てを奪った奴等を。

 必ず復讐してやる、必ず仇を討ってやる・・・この身が滅ぼうとも・・・」


蹲る様に座っていたノエルが呟く。

誰にも聞こえない心の叫びを・・・


「譬えロッソアの軍隊に入れられたって・・・必ず遂げてみせる」


戦車に因って連れ去られる、たった一人の生存者。

この先に待つ運命がどうであれ、復讐心だけが支配していた。


「魔鋼の紋章を浮かべたロッソア

 助けに来てくれなかったフェアリア軍。

 そのどちらをも恨む・・・アタシは魔法使いを討ち果たすのが望み・・・」


紅く澱んだ瞳の奥にあるのは、ノエルとは違う者の魂。

恨みを募らせた魔女の魂が宿っていた。

継承された魔力を、己が復讐に向わせる為に。


「くっくっくっ!ロッソアだろうが構わない。

 私を裏切って闇に貶めた者へ復讐出来るのならば、両方の国に復讐出来るのならば。

 私はこの子を使って恨みを晴らすのみ・・・」


ノエルに宿る者は、どこの魔女を恨むのか?

魔女同士でいがみ合っていたのか?


「いつの日にか、相まみえるだろう。

 戦争が長引けば、その時私の宿願が果たされる。

 奴の子孫達に、私を騙し裏切った報いを与えてやる!」


恨みを溢す魔女の魂が、ノエルを乗っ取り呟く。

延々と恨みを溢し続ける魔女と化して。


醜く歪む頬を引き攣らせ、ノエルに巣食った闇の魔女がそこに居た。








ノエルはロッソアに連れ込まれる。

魔女に宿られ、半ば意識を失いながらも。


闇に染まり、両親の仇を討たんが為に彼女は行く。


次回 魔鋼の狩人

彼女は一体これからどうなってしまうのか?!兄の姿も見えなくなってしまうのか?

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