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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第4章 Noel
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避難しなさい!

母の叫びに戸惑うばかりだった。

しかし、その訳を知る前に走り出さねばならなかった。

父と自分に向けて、声の限りに叫んだ母。

その母が今度は確かめるようにノエルに訊いて来る。


「ノエルには聞こえていないのね、先祖の声が。

 指輪に宿る騎士の声が、聴けないのね?」


母が何を言ったのか、直ぐには理解出来なかった。

自分の填めている指輪からは何も聞こえてはいなかった。


「え?!お母さん?指輪が何を語ったというの?」


聴こえなかったと答える代わりに、ノエルは訊き返す。

マルアは一瞬だけ声を呑んで、娘を見詰めたが。


「ノエルには騎士の力が授けられていなかったの。

 聴こえないのは他の力が授けられているからに違いないわ。

 この指輪は騎士に選ばれた者のみが使えるの、私も騎士では無いから使えない。

 もしかすればルビナスこそが使えたのかもしれない・・・」


「どう言う事?魔法使いは女の子が殆どだって聞いた事があるけど?」


聞いた事があった。

魔法使いを継承するのが女子が圧倒的に多いと、ごく稀にしか男子の魔法使いは存在しないとも。


「私が思い違いしていたの。

 ルナナイトの血を受け継いだ私達には二つの力が混在している・・・

 騎士と魔女、二つの能力を継承しているのが判っていなかった」


魔女は騎士を助け、騎士は魔女と共に在る。

ルナナイト家が衰退し、生き残った子に託されたのは二つの力。

時の指輪を使える騎士の魔力と、騎士の傍に仕えし魔女の魔法力。

二人から産まれた子が子孫に繋いだのは、そのどちらもだった。


「でも、子が二人なら。一人に一つの魔力しか伝えられない。

 騎士の魔力と、魔女の異能は兄妹に一つづつ授けられたの。

 きっとルビナスには騎士の力が、ノエルには魔女の力が・・・」


自分に魔女の力が授けられているなんて考えても居ない。

ノエルは母の言葉を聞いても、確証がないと思っていた。

もし魔女なら、魔法が使えるのではないかと考えたのだ。


「アタシ、魔法なんて使えた試しがないもの。お母さんの想像でしょ?

 指輪の声だって聞こえないんだから・・・」


母には聞こえた指輪の声が、自分には聞き取れなかったから。

魔法力なんて自分に授けられてはいないと断って、


「ルビ兄さんに両方共の力が授けられているかもしれないじゃない?!」


考えていた事を母に言い返した。


「そうかもしれない。

 初め私は、ノエルに二つの力が授けられたと思ったぐらいなのだから。

 こうなるのなら、あの子にも試してみれば良かったかもしれないわね」


残念そうに話したマルアが、ノエルの指輪を摘まんで。


「ノエル、この指輪をルビナスに届けましょう。

 あの子に使って貰えるように、ルビナスが戻って来れるように。

 きっとあの子になら救える命がある筈だから・・・」


寂し気に促す母を観て、ノエルは黙って指輪を外すと。


「これをどうやって兄さんに手渡せば良いの?」


母に向けて訊ねてみた。


「今直ぐにこの家から逃げるの。

 奥の山の中に逃げ込んで、暫く様子をみましょう。

 ロッソアの軍隊が来なければ、駅まで行って隣街まで避難するの」


指輪から聴かされた危険を教え、避難をすると答えて来る。


「そんなに差し迫っているというの?

 それが本当なら近所の人にも伝えた方が良いんじゃないの?」


母の真剣な表情から、嘘偽りでは無いと感じたノエルが心配する。


「そうね、そうしなければ人にも劣る。

 ロリアンさんの所にはノエルの友達も居たわね、直ぐに逃げるように勧告してあげて」


促されたノエルが頷き、玄関に走り出す。


「ノエル、皆さんに伝え終わったら山にある先祖の墓地に来なさい。

 そこでこれからどうなるのかを見守りましょう。

 お母さん達は逃げ遅れた人達とそこで待ってるから」


「うん、分かった!」



父と母は、近所に住む逃げ遅れた人の元へと走っていく。

かねてより役場に勤める者として、近所の人に疎開を薦めていたから。

出来るだけ多くの人に伝えねばならないと言って。


ノエルはナムキーの家に走っていた。

明日には疎開すると言って別れた友の家に。


まだ灯りが点いている。逃げ出してはいない。


「ナムキー!大変なのっ、今直ぐここから逃げ出して!」


玄関をノックしながら呼びかける。


「ロッソアの軍隊が迫っているらしいの!もうここも攻め込まれるから!」


開かない玄関の前で、声の限りに叫んだ。


「ナムキー!居るのなら返事をして!」


灯りが燈っているから居る筈なのだが、玄関は開かれなかった。


ー もしかしたら、もう逃げてくれたのかもしれない・・・


両親と別れて来た事が、急に不安を募らせたノエルが。


「ナムキー!アタシっ、山の墓地に行くね!

 そこに逃げ遅れた人達が居るから、そこまで来てよ?!」


もう時間が無いと思ったノエルが、近所の家々へ呼びかける為にその場から離れた。


ナムキーの家の周りには数軒の家があったが、灯りが燈っているのは殆どなかった。

必死に走るノエルが、駅の方に馬車を走らせてくる一家を見つけた。


「あっ、モラートさん!避難されるのですね?」


馬車を操っていたモラート家の長男が、ノエルに気付いて。


「ノエルちゃんじゃないか!お父さん達に避難を薦められたんだ。

 君は一緒では無かったのかい?」


心配そうに声を掛けてくれた。


「今から墓地で落ち合う事になっていますから。

 モラートお祖母さんもご一緒されておられるのですか?」


モラート家には年老いた御婦人が居られた筈だ・・・思い出して訊いたノエルに。


「ええ、此処に居ますわよルナナイトのお嬢ちゃん」


馬車の中から老婆が答えて来る。


「良かった・・・じゃあモラートさん、アタシは両親の元に行きますから」


馬車を見送ろうとしたノエルに、モラート家の長男が。


「ノエルちゃん、逃げるのならこれに乗って駅まで行かないかい?

 どうも胸騒ぎがするって母さんが言ったんだよ。

 今晩、街に災いが来るって言ってたところだったんだ」


年老いた母を連れだして来たモラートさんの言葉に感謝しながら、ノエルは首を振って断った。


「そうだったのですか。

 お祖母さんには異変が感じられるのですね?」


母が感じた危機に、モラート夫人も同様に感じていたのかと訊いてみる。


「そうよ、ご家族に言ってあげて。

 この街に留まったら、生きては戻れないと。

 墓地に逃げるだけじゃ駄目だと言ってあげて」

 

婦人が答えたのは不吉極まりない一言。


「悪魔達は人の魂を求めてやって来るの。

 人の形をした獣達は、街を生き絶やそうとやって来る。

 だから留まらずに逃げ出さなければいけないと・・・教え直しておあげなさい」


・・・悪魔って?獣って?


ロッソア軍がそう見えるのだろうか・・・


ノエルはびっくりして老婆を観ていると。


「私達は馬車で逃げるのよ。駅まで辿り着いて、汽車に乗る予定なの。

 逃げ切れると思う?あなた達家族の方が生き残れるかしらね?」


この老婆は何を言いたいのか?

一緒に逃げなさいと勧めているのか、両親の元へ行けと言ってるのか?


「あの、モラートお祖母さん。

 一つお願いがあるんです、聴いて貰えないでしょうか?」


迷っている時間が無いと考えたノエルが、賭けに出た。


「この指輪を、ルビナス兄さんに。

 軍隊に入った兄さんに届けて貰えないでしょうか?」


モラートと、自分。

どちらが生きていられるか・・・運命に賭けてみた。

指輪を持って自分が死ねば、指輪は兄の元へは届かない。

逆にモラートおばあさんに託すということは、どちらかが生き残れば渡せる可能性がある。


どちらかが・・・生き残れれば。


「ノエルちゃんのお兄さんは軍隊に行ったんだったね?」


「はい、今日。だから指輪を兄に渡しておきたいのです」


モラートさんは後ろに座る母を観る。

老婆は大きく頷くと、息子に受け取るように促した。


「ありがとうございますモラートさん。

 どうかお願いです、指輪を兄に。

 ルビナス兄さんの元へ届けてあげて・・・」


ノエルは指輪が持つ力に願いを込めた。

兄の元まで自分の想いを籠めて、無事に届いて欲しいと。


受け取った指輪を母に渡すと、モラートさんが馬に鞭を打つ。


「それじゃあ、ノエルちゃん達も早く逃げるんだよ?」


モラートさんが馬車を操り別れを告げる。


「モラートさん達も。ご無事をお祈りしています」


指輪を託したノエルが手を振って見送る。


これで兄の元に届けば良いのに・・・そう思いながら。




馬車が遠く離れて行くのを見送ったノエルが、山の墓地に向けて走り始めた。



街灯の日だけが頼りなのに。

どうした事か、辺りについている筈の電灯が今日に限って消えていた。


昇っている星明りと、月の光だけが足元を照らしている。



 ざわ・・・  ざわ・・・・


木立のざわめきが、ノエルの心を怯えさせた。

たった独りで夜道を駆けている少女の耳に、聴きなれない風の音が聞こえて来る。


 ざわっ・・・ざわっ・・・シュルルッ


モラートさんと別れて、僅かに数分走った時。


少女ノエルの耳に、ざわめきとは全く違う騒音が聞こえて来た。


金属が地面を噛む様な音。

重い発動機エンジンの唸る音。


そして、聞いた事も無い空気を切り裂く・・・砲弾の飛翔音が!


ノエルの耳に飛び込んできたのは、悲劇の幕が開く音。


ノエルの目に飛び込んでくるのは、人の形を執った悪魔。


逃げるノエルは・・・その時何を見るのか?!


次回 無惨

君はその街から無事に逃げ出せるだろうか?!

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