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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第4章 Noel
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別離

ルビナスは陸軍に召集される。

戦争になるかも知れないというのに。


妹は黙って見送るしかないのだろうか?

15歳のノエルには、マルアの謂わんとしているのが分からない。

自分には異能ちからがないから?

この指輪からの声が届かない?



・・・どうして?アタシには聞こえないの?兄さんだったら聞こえるの?


兄妹のどちらかが異能を引き継げるだけなのか・・・と。



「魔法使いがどうして軍隊に必要なの?」


頷いた母に問い直してみた。


「魔法を表す機械が造られたそうだからよ?

 僅かでも異能を認められたのなら、軍隊に採られてしまうそうなの」


母はどこからそんな話を聴いたのだろう?

誰から知らされたのだろう・・・


ノエルは呟く様に話した母の顔を観る。


「ノエル、あなたにはきっと先祖から引き継いだ異能ちからが眠っているの。

 騎士の魔法力じゃない、魔女たる者の魔砲力を引き継いだに違いないわ」


見詰めた母が、自分にも魔力が備わっていると断じた。


「魔女の?魔砲力??」


それがどんな力なのかが、皆目見当がつかない。


「そうよ、魔女の力。

 古から伝わった魔法を放つ力が、ノエルには隠されているのよ?」


じゃあ、それはどうすれば使えるのか?

口まで出かかった声を呑んで、ノエルは指輪に視線を逸らした。


「フェアリアは戦争に訴えるでしょう。

 ロッソアに勝てもしない戦争で応えるでしょう。

 そうなったら、ノエル迄もが招集されてしまうかもしれない。

 魔法を使えるのが知られてしまえば・・・」


まだ15歳の少女に、国家が招集をかけるだろうか。

タダでさえ女の子なのに、無理やり戦争に放り込むのだろうか?


「フェアリアの宰相は、国を滅ぼそうと企んでいるに違いないわ。

 考えてもご覧ノエル。

 戦争に訴えられるのは、勝つ見込みがあると判断出来た時だけじゃないの?

 勝利もおぼつかないのに、開戦へと導くなんて。正気の沙汰じゃないわ」


マルアは顔を背けた娘に言った。


「ルビナスは、そんな狂気に飲み込まれて行こうとしている。

 断る事も出来ず、時代の中に消え去ろうとしているのよ?」


息子が出征する前だというのに。

母親は息子の運命を嘆いていた、還らぬ人になるかもしれないと。

勝つ見込みのない戦争に投げ込まれてしまう息子を案じて。


「じゃあ、今晩兄さんが帰ってきたら停めれば良いじゃない?!

 なんとか言い訳を造って、軍隊なんかに送り出さなきゃ良いじゃない!」


振り返ったノエルが、母に言い募った。


「兄さんの身が案じられるのなら、行かさなきゃ良いだけじゃないの!」


母の心配に、娘は言い返した。


「駄目なのよノエル。

 もしルビナスが行かなかったら、あなたが行く事になるのよ?

 兄のルビナスが兵役に行ってくれなかったら、

 ノエルが無理やりにでも戦場に駆り出されてしまうのよ?」


母の言葉に、先程告げられた魔法使いの宿命を重ねる。


「ルナナイト家の伝説を知る者は多いの。

 魔法使いの家系だと知る輩は、見逃そうとは思わないでしょう。

 ルビナスはあなたを庇う為にも召集を受け入れたのよ?」


マルアの言葉に、ノエルは声にならない叫びをあげる。


アタシの為に・・・兄さんが?!

魔法使いの血を受け継いだばかりに、大好きなルビ兄さんが?


混乱した頭の中で、兄の面影に手を指し伸ばして求めた。


少女ノエルが、兄が軍隊に採られた理由を知る。

どちらかが軍隊に採られるのは必定だった事を・・・


「戦争が長引かなければ、ノエルは行かなくて済む・・・

 あの子はそう考えてもいたのよ、だから行きたくもない徴兵検査に行ったの」


そして母の案じた通り、ルビナスは検査を通過してしまった。

一般の徴兵検査とは違う、とある検査をルビナスは受けたのだとも教えて来たから。


「男子には魔法力が備わる事が、極めてまれだった。

 私もそう考えていたからノエルに指輪を託したの。

 でも、ルビナスだけは違ったのよ?あの子にも魔力が引き継がれていたの。

 我が家に魔法使いの血が残されていると知った者に、検査を受けさせられたの。

 その結果・・・ルビナスは徴兵される事になった・・・魔法使いとして」


ノエルの眼に、涙が湧きかえる。

兄はもう、行かねばならない。逃げることも叶わず、戦争に行かねばならないと知って。


「ルビ兄さん・・・自分に魔法が備わってるのを言って来たんだね?」


頷いた母が、娘に告げる。


「覚悟は出来た・・・って。あの子は晴れ晴れとした顔で言ったのよ?

 ノエルには黙っていて欲しいって言われたけど。

 今、言っておくわ。

 ・・・自分が死んでも泣かないで・・・って。

 自分が死んだら、ノエルは戦争に行かなくて済む・・・とも。

 ・・・あの子に言われたのよ・・・ノエル」


マルアは、悲しげに儚げに教えてくれた。


「馬鹿・・・本当に大馬鹿・・・なんだから。ルビ兄さんって・・・」


頬を涙が伝う。

ノエルは兄の苦渋を想い、涙が止まらなくなる。


「ノエル、あの子には笑顔で。

 もう明日には往ってしまうのだから・・・今晩だけでも笑顔で傍に居てやって?」


泣きながら何度も頷いた。

もう、どうする事も出来ないと。

せめて見送るまでは、涙を見せずにおこうと決めた。


「ルビ兄さんが往ってしまうまで・・・普段通りでいよう」


蒼き指輪へ兄の無事を願って。









見送るまで。

涙を堪えているつもりだった・・・けど。


堪えられる筈もなかったし、もう無理だと分っていた。


兄が出征する時が来た。

汽車が蒸気を吹き出し、出発を告げる。


「ルビナス、身体を大事にね?」


母が車窓から身を乗り出した息子に、別れを惜しんでいる。


「お前が帰るころには、父さんも帰れるだろう。無事で帰って来るんだぞ!」


ムンファーが帽子を取って手を振っていた。

地方運輸局に務める父が、駆けつけてくれたのだ。


「親爺も!母さんとノエルを護ってくれよ!頼んだよ?!」


支給された訓練兵服を着たルビナスが、笑い顔で両親に手を振った。


「ノエルも!親父と母さんの面倒をみてくれよ?」


黙って両親の背後に隠れている自分にも。

願ってくれた兄の笑顔には、みせまいとしていたのだが。


「言われなくても判ってるよ、ルビ兄さん」


必死に堪えていたのだが、もう無理。

自然と足が動いていた。

出発し始める客車に向けて、兄が乗り出した車窓に向けて。


「兄さんっ!お兄ちゃん!ルビ兄ちゃんっ!」


両手を突き出し、ルビナスの元へ。

涙が零れ堕ちても、差し出した手は兄を求め続ける。


「ノエル?!」


「お兄ちゃんっ、行かないで!行っちゃあ嫌ぁ!」


兄妹は、手を携い合えた。

徐々にスピードを増す車体に併せて、ノエルの足も駆け足になる。


「ノエル・・・帰って来るから。約束だから・・・」


「駄目駄目っ!往かないで!約束なんていらないよぉ!」


妹は駄々を捏ね。

兄は妹の手を放しがたく。


「ノエル、手紙出すから。帰れるまで・・・だから待っていてくれ!」


ホームの端が迫って来た。

兄は妹の手をそっと離す。別れがたい想いを振り切るように・・・


「ああっ?!ルビ兄ちゃんっ、嫌だよぉ?!」


ノエルはホームの先端まで走り続けて泣いていた。

兄の手から伝わった想いを感じて。

手を放す時にも、兄は自分を想ってくれていたのだと・・・思えたから。


挿絵(By みてみん)


車窓から観えなくなるまで手を振り続けていた兄に応えて。


「約束・・・約束よ兄さん!きっと帰って来てよ!」


昼下がりの陽が、振られ続ける指先を照らした。

蒼き輝く魔法の指輪を、輝かせ続けていた。



その日はルビナスが郷里を離れた日でもあった。


二国間戦争が、本格的に始まった日でもある。


そう、兄妹が別れた日は、フェアリアとロッソアが干戈を交える最初の一日目だったのだ。


必死に追いかけても・・・もう戻らない。

出征すれば生きて帰ってこれるのかも分からない。


それは戦争が始まる日。

二国間戦争が勃発する日のことだったのだ。


次回 兄が残した手紙

君はその日に旅立った兄を慕うだろう。自分をどう想ってくれていたのかを知って・・・



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