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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第4章 Noel
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妹 ノエル

やっと原隊へ帰還できたと思ったら。

なんだか騒がしくなってきた?


新入隊の女の子達にロゼが引き攣った顔で見てくるのだけど?

俺がなんかしたってのか?

エレニアが陥落してからというもの、戦線は後退の一歩だった。

どこかで戦車連隊が一人残らず殲滅されたとか、暗いニュースばかりが飛び込んで来ていた。


それでも尚、厭戦気分にならずに済んでいたのは。



「新入り、お前達は学校で何を教えられて来たんだ?」


仲間の古参兵が新入隊して来た女の子達に訊ねた。


「女の子ばかりで・・・情けないなぁ。

 フェアリアには男の子はもう居なくなったとでも言うんだろうか?」


もう一人が呆れたように幼い少女達を観て嘆いている。


「あ、ロゼ兵長の事を言ったんじゃないですから」


まだ新入り扱いだったムックが執り成してきたが。


「情けなくて申し訳ありませんね、ツーンだ!」


誰彼ともなくツン状態のロゼ。その理由は?


「ちょっと!ルビっ、こっちに来なさいよ!」


またまた俺に有るのかよ?

ジト目で観て来やがるロゼに、仕方なく付き合うと。


「ルビィ~ッ、あの子達を物色してたでしょ!」


・・・はぁ?!


「あんな色気も無い幼女のどこが良いのよ?!」


・・・はぁ?!幼女は言い過ぎじゃないのか?


「あんな娘達となんて、比べる方が間違いって気が付かないの?!」


・・・何を言いたいんですか?


「ルビはアタシの下僕だって言ったでしょ!アタシの許可なく見ることを赦さないんだから!」


・・・ツンとデレが抉れたか?いつから俺を私有物にしたんだよ?


黙って聴いてたらとんでもない事を言いやがる。

呆れてモノが言えないとは、こういうモノを言うんだな。


「分かった?!ルビは息をするのもアタシの許可が・・・」


ロゼがツン状態で言い募っていると。

背後に殺気が・・・


「誰の何の許可がいるんですってぇっ?!」


・・・またややこしくなりそうな・・・


アリエッタ少尉が仁王立ちで睨んでいる。


「あ、いや。その・・・これには訳という物が・・・」


びくついたロゼへ、お構いなしの一撃が。


「訳?!ほほぅ、教えて貰いましょうかねぇロゼッタちゃん」


「ひぃっ?!お姉様っ怖い?!」


またもや・・・姉妹が漫才を繰り広げるのか・・・

でも、ここは俺としても言っておかねばならん、訊かねばならん!


「ロゼ、言っておくけど。新入隊の女の達は皆戦車兵だってさ。

 お前の後輩達じゃないか、面倒を見てやれよな。

 それからアリエッタ少尉、少女兵の配属は戦車隊なのではありませんか?

 どうして猟兵隊に配属になったのです?」


真面目な問いに、姉妹がキョトンとして眺めやがる。


「ルビ・・・熱でもあるんじゃない?」


「ルビナスがまともな質問をしてくるなんて・・・何か変なモノを食べた?」


・・・あああっ?!全然話にならん!


「もう良いです。後は宜しく・・・」


ポカンとしたままの二人をその場に置いて、車庫の方へと歩を進めた。





戦場から帰還した俺達に待っていたのは、軍の再編成って奴だ。

新たな機材配給に見合った人員の確保。

まだ年端も行かない少年兵達が繰り上げ卒業の後に、軍隊に召集させられたんだ。


なんでも、魔法力を持つ者を優先的に戦車兵に仕立て上げ、部隊へ送り出している。

俺達の部隊にも戦車は有るのだが、魔鋼騎はたったの一両。

ロゼが砲手を務める俺達の3突、唯一両。


少女達が魔法使いかどうかは知らないが、あんな女の子が最前線で務まるのだろうか?


自分が経験して来た戦場を思い起こし、少女達が生き残れるかが不安になった。


「そういえばロゼやアリエッタ少尉が、どう思いながら闘って来たのか訊いてなかったな」


始まりの戦場から、ずっと共に闘って来た仲間である二人。

死線を潜りぬけて生き残って来たロゼは、戦場に出るのが怖くないのだろうか?


「そう言う俺は?戦場へ連れ出されるのをどう想った?

 地獄のような戦場を観て来た俺は?再び戦場に行くとなれば、どう思う?」


数度の戦闘を切り抜けられたのは運が良かっただけ。

次の闘いでは死が待っているかもしれない。


「俺が闘った敵の様に。死んでしまった仲間みたいに・・・

 無残な屍を晒してしまうかも分からないのに。

 戦場へ連れ戻されるのにも、何も感情が湧かなくなってる?」


戦争という理不尽な世界に放り込まれた。

悲惨過ぎる闘いに身を置いて来たから。


「生き残った者は、みんな俺と同じなんだろうか?

 戦争という化け物に飲み込まれてしまったんだろうか・・・」


戦場で仲間や敵が疵付き倒れる姿を観て、次は我が身なのだと恐怖に怯えていたんだ初めの頃は・・・


でも、何時の頃からか忘れたが、恐怖は薄れ怯えは麻痺してしまった。

いや、恐怖は未だにある。必死に闘う内に抑え込めるようになっただけだ。

生き残る事に必死になって、忘れようとしているだけ。


生きることを諦めたら、その時点で死神が寄り添いやがるだろうから。


「果たして、あの少女達には判るだけの時間があるか?

 生き残る道を知るまで・・・戦場という地獄で生きていられるだろうか?

 心を闇に貶めて、心無い罪を背負ってしまうのか・・・」」


少女達の無邪気な横顔を思い出した俺には、どうしても信じたくなかった。

新兵が初陣を終えた後、俺達と同じようになってしまうのを。

死に慣れ、恨みを抱き・・・心を闇に閉ざされた、魔物と化してしまわないかと。


「敵にも女の子が居る。魔法使いの少女達が乗る戦車がある。

 いずれ俺もその子達を討つ・・・あの少女達みたいな穢れなき子まで・・・」


自分の手を観て想った。

この手で何人の敵を殺して来た?この手で何人の人を殺めた?

ロゼを救う為?自分自身が窮地を逃れる為?

全ては言い訳にしか過ぎないだろう。

戦争だから・・・なんて、ていの良い逃げ口上だ。


握り締めた指に、時の指輪リングが光っている。

この指輪があったから、助かったのかもしれない。

時の魔法を、俺自身の為に使った・・・はっきりとは断言できないが。

薄っすらと記憶されている、何度か願ったのを。

唯、時の魔法を唱えて過去へ戻っても、やり直しただけだ。

今居るこの時間の流れが正しいとは言い切れないし、やり直された訳も知らない。


「いつの日にか、この指輪を手放せたとすれば。

 戦争という地獄から解放された・・・時だろうな?」


蒼き指輪は何も語らない。

宿った騎士も、今は喋りかけて来ない。


再び地獄の蓋が開く時、俺は誰と何の為に生き残らねばならないのだろう?


運命の狭路は、間違いなく分岐路に近付いていた。

俺の意図しない場所で、蠢き始めていたんだ・・・・










フェアリアとロッソアとの国境くにざかい


ルナナイト家が永年治めて来た小さな街。

紛争地帯から僅かに逸れたここでも、異変は起きた。


それはルビナスが徴兵検査を受けた次の週・・・


マルアは窓辺から観ている。

手にした裁縫用具を取りこぼし、哀しげな顔で娘が郵便配達人から受け取っている姿を・・・・



「お母さん!ルビ兄さんが検査を通っちゃったの!」


金髪に近い栗毛のノエルが涙目で、居間に駈けこんで来た。


「そうよ。あの子も成人になったって事なのよ?」


マルアが、飛び込んで来た娘も観ずに、裁縫を続けて答える。


「でも、急に徴兵制度を始めたのには、戦争に向ってのことなんでしょう?」


兄が軍隊に採られてしまうのを、妹は嫌がっているのだ。


「近所のおじさん達が言ってたもの。戦争になるんだって・・・だからっ!」


兄が戦争に駆り出され、帰って来れなくなるのでは・・・そう怯えている。


「戦争?!いつもの小競り合いでしょ?」


昔から国境を巡っての紛争が絶えた事が無かったから、母はそう答えたのだろう。


「でも・・・今度ばかりは違うんだって。

 ロッソアの景気が悪くなって、衛星国からの徴収金が足らないらしいの。

 だから、もっと衛星国や支配地を増やさなきゃならないらしいの」


昔から、ロッソア帝国という帝政国家が執って来たのは。

他国に侵入し、懐柔を図る。つまり侵略戦争を幾度となく行った。

周辺国は巨大な軍事力を持つ国家に、生き残る道として衛星国に入る選択を余儀なくされたのだ。


この度起きた紛争は、戦争の口実を求めたロッソアが仕掛けて来たとの噂が立っていた。


「もし、本当に戦争になったら。

 ここにもロッソア兵が押し寄せて来るのかな?」


兄は戦争に採られ、住む場所も奪われかねない。


「ノエル、この地は御先祖様からずっとルナナイト家が護っていたのよ。

 今はフェアリアのものになっているけど、本当は我が家の領地だった。

 あなたにも話してあげた事があったわよね?」


何代か前、フェアリアとの領土争いで破れたルナナイト家。

今は名だけが残されている、領主たる血筋の末裔。


「ルビナスにも言った事があったけど、ノエルも知っておかねばならないのよ。

 このフェアリアには悪魔が住んで居る。

 騙し討ちで、御先祖を亡き者にした奴が居るの。

 我がルナナイトの仇。未だにフェアリアに存在する仇がね」


マルアが話したのは、家に伝わる家宝に描かれた伝記。

どうしてこの地が、フェアリアに奪われたかを記した古門書。


「いいこと、ノエル。

 兄がフェアリア軍に召しだされても、あなただけは往ってはならない。

 もしもノエル迄フェアリアに召集されても、拒否しなければいけないのよ」


蒼い瞳の母が諭す。ノエルの紅い瞳を見ながら。


「招集なんて来る訳がないじゃない。

 アタシは女の子だし、兄妹揃って軍が呼び出す訳がないじゃないの!」


兄を軍隊に採られ、残った妹までも軍が執る訳がない。

普通なら当然の事だ。もし二人共死んでしまえば、家系は断絶してしまうのだから。


「ノエル、今は普通の闘いじゃ済まなくなったそうよ。

 国中の魔法使いをかき集めて、戦場に出させるようなの・・・」


戦争と魔法使いが、どんな関係があって言うのだろう?

ノエルは不思議そうな目でマルアを観た。


「この戦争に因って、世界が終焉へと向かう。

 魔法使いを機械へ捧げてまでも、欲深き人達は為そうとするの。

 神の逆鱗に触れると判っていないのよ、国の中枢にいる者達には」


相手国の中にも、フェアリア皇国にさえも。

愚かな者は己の欲に溺れ、戦争という災禍を企てている。


母の言葉に、ノエルは黙ってしまう。


「私には聞こえるの。時の指輪が教えてくる声が。

 ノエルに引き継いで貰ったけど、聞こえて来なかったかしら?」


何を母は言っているのだろう?

填めていた指輪を観てから、母に訊く。


「この指輪から?お母さんはどうやって聞いたの?」


裁縫を停めたマルアが、ノエルの手を取る。


「こうやって。ノエルに触れれば、指輪の声が聞こえるのよ?」


ノエルの前で、母の眼が一段と蒼く染まる。


「魔法・・・そう。私には時の指輪の声を聞く事が出来る。

 普段は絶対に人に話してはいけないのだけど。

 あなたなら聞こえているかと思ったのよ?」


母に首を振るのが精一杯。


「ノエルにも魔法使いとしての血が流れている。

 私の先祖である魔法使いの血と、騎士たるルナナイト家の血が。

 もし、ノエルに訊く事が出来ないのなら、ルビナスへ渡した方が良いのかもしれないわね?」


マルアが微笑んで言う。


ノエルは指輪を見詰めて訊き返した。


挿絵(By みてみん)


「お母さん?!魔法使いの力が軍隊に必要なら、兄さんは?

 兄さんは魔法使いだから軍隊に採られちゃったの?!」


娘の真剣な瞳を見て、母は微かに頷いたのだった・・・

ルビ達はこの際置いておきましょう。


戦争が始まった日。

ルビの家族は本当に死んでしまったのか?

魔法の指輪はどうしてルビの元に辿り着いたのか?

全ての始まりがここから語られていくのです。


次回 別離

君は大切な人へ手を指し伸ばす。届かぬ想いと知りながらも・・・

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