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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第3章 騎士と魔女
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追跡者

市街地から無事に抜け出た中隊と3突。


そこに現れたのは、一両の追跡してくる車量の姿だった。

そいつは濃緑色に迷彩を施されていた。

ロッソア軍車両特有の色とみて、間違いないと思われた。


「ロッソアの偵察車両と思われます!」


ヘッドフォンから、ロゼの声が知らせて来る。


右舷後方と言えば、俺達としては即座には対応できない方角だ。

3突の砲は前方にしか向けられないから、方向転換を行わねばならない。


「車長!即時敵に向けて反転しますか?!」


喉頭マイクを押さえて、操縦手の俺が命令を求める。


「いや、待て。それよりもスピードを上げて振り切るんじゃ!」


敵車両が攻撃して来るとは考えていないのか、車長ハスボック准尉の命令は明快だった。


「了解です!」


アクセルを踏み込み、巡航スピードを全速迄持って行く。

前方に占位していた味方中隊にも、緊張が奔っているのが判った。

俺と時を同じくして、スピードを上げ始めた6両が砲塔を右舷後方に向け始める。


「ラポム中隊長車からです。本車を援護しつつ振り切るって言ってきました!」


ムックが車長に報告しているのを横目で見て、これならば大丈夫だろうと多寡を括って頷いた。

いくら無謀な奴でも偵察に来ただけなら、7両を相手に攻撃を掛ける訳がないと思ったんだ。


「よしっ、中尉に了解したと返せ」


キューポラから、車長の声が返って来た。


だが、その声はどこかしら警戒しているように感じられた。

油断なく敵に目を配り、何かが起きるのを恐れているようにも思える。


「敵は1両だけなのか?ロゼ、どうなんだ?」


気になった俺が、装填手ハッチから観測を続けているロゼに訊いてみると。


「うん、今観えているのは1両だけ・・・だけど、他にも居るかも知れない」


観える範囲には1両だけ。

そう言ってロゼは周囲を見回している。


「このままの速度なら、味方部隊と合流出来るまで5、6分だろう」


最大速度まで速度を上げた状態を維持できるのならば、だったが。

敵が諦めて帰ってくれれば、それに越したことはないのだけど。


俺達は無抵抗な後部を敵に晒した状態で走り続けていた。

もし、敵が有効射程にまで到達すれば、威嚇射撃が味方中隊から放たれるだろう。


敵が無謀にも攻撃を仕掛けるなんて思ってもみなかった、その瞬間までは。



突然ロゼの絶叫がヘッドフォンを通さずに聞こえたのは、味方部隊にまで後僅かに迫った時だった。


「敵車両が発砲したわ!」


「回避!」


ロゼとハスボック准尉の声が重なった。

頭で判断するより早く、腕が操縦桿を牽きつけていた。

右舷後方からの射撃に対し、命中角度を局限させる左舷側へと舵を切った。


敵を注視していた中隊各車も同じようには舷側に回避行動を執った。


敵が狙ったのはどの車両なのか?

敵弾は何処へ向けられたのか。


そして敵の狙いは偵察では無いというのか?


「敵車両っ、スピードを上げて突っ込んで来る!」


俺はロゼの声に耳を疑ってしまう。

7両に挑みかかる敵の無謀さに、信じられない気分になった。


無謀を越えた自殺行為に思えたからなんだ。

たった1両で7両と闘うなんて、余程思い上がっているんだろうか?

まるで獲物を前にした野獣にも思えてしまう。


・・・野獣?!いや、違う。得物を前にした狩人ハンターなのか?




「敵弾、味方車両へ命中!被害は判りません!」


一両が敵弾を受けたようだ。

6両の中戦車の内、1両が被害を被った。


「被弾を受けた4号、そのまま走行中。被害軽微のもよう!」


続けて聞こえたロゼの声には、安堵を含ませていた。


「味方中隊、応射始めます!」


ヘッドフォンを押さえるムックの声が告げた時、



 ガゥン!ズドム!



周りの中隊からの射撃音が直に聞こえ始めた。

6両の射撃音を聞いた俺は敵車両が撃破されるか、若しくは引き返すものとばかり思ったが。


「敵は回避しながらも迫って来る!」


驚くロゼの声に、理解不能になってしまう。

敵は何を考えているのかと、死にたいのかと。


「それよりも、追いかけてくる意味が解らない」


偵察ならば、先ずは攻撃なんてかけやしないし、ましてや追いかけるなんて無謀過ぎると思う。


じゃあ、奴の狙いは何処にあるのか?


「俺達に死を賭してまで攻撃を掛ける理由。

 もし、俺が敵だったら・・・なぜ突っ込むんだ?」


たった一両で7両を相手に攻撃を掛けて来る理由・・・

考えた結果、俺が導き出した答えとは?


ー 奴は死んでも構わないぐらいに俺達を憎んでいるのか。

  俺が復讐を果そうと願ったみたいに、俺達の中に仇が居ると分ったんだろう?


追いかけて来る車両には、恨みを募らせた奴が居ると踏んだ。

もしかしたら仲間が、いや肉親の誰かが殺された恨みを抱いている奴が居るのでは?


そう思ったんだ。

俺がそうだったように・・・復讐に我を忘れた奴が乗っているのだと感じられた。


「だったら、振り切るのは無理だ。

 目的を果たす迄、いつまでも追いかけて来るだろうから」


闘うしか方法が無いと思ったのは、俺だけじゃなかったようだ。

呟いた俺に同意するかのように、ロゼが砲手席に戻ると。


「車長!魔鋼弾を装填してください。奴を停めてみせますから」


言葉な中に、ロゼの優しさが聞き取れた。

奴を倒すとは告げずに、ロゼは停めると言って寄越したんだ。


観ていて何かを感じたのだろう。追いかけて来る奴が何を想っているのかを。


「なんじゃと?!奴とやり合う気か?」


車長が驚いてロゼに問い質して来る。


「ええ、奴は死に物狂いで襲い掛かってきました。

 でも、もう一度考える時間を与えてやらなきゃって思うんです!」


ロゼは静かに俺を観た。

どうして俺を観てそんな事を言ったのか。


「誰かを想い、その人の為に死ぬのは。

 死に逝くのは、想い人を悲しませるだけだと知って貰いたいんです」


なぜだか、ロゼは俺に対して言っている気がしたんだ。

俺が復讐を旨に、闘っているのを知っているから。


「ロゼは奴を殺さずに停めれるのか?」


問いかけた俺へ、頷き返す魔砲少女。


「うん、アタシの全力で停めてみせるから。

 准尉っ、続けて魔鋼機械の発動もお願いします!」


決意を漲らせたロゼの声が響いた。


「うむ・・・ならば、ラポム中尉に報告するんじゃ。敵を討つ・・・と」


ムックに命じた車長が、魔鋼ボタンを押し込んだ。

忽ちにして砲身が伸びる。魔鋼の力を与えられた車体が変わる。


「敵は全車両を狙っている訳じゃなさそう。

 どの車両を狙っているのかを確認してください!」


ロゼが観測を続消えるようにハスボック准尉に頼んだ。


「奴は・・・どうやらアリエッタ車を狙っておるようじゃな?!」


直ぐに結論を下した車長に、


「アリエッタ少尉を?なぜだろう?」


後ろを確認できない俺は、敵がどんな行動を執っているか知りたくなる。

なぜアリエッタ少尉の車両を見極めたのか?どうしてアリエッタ車を目の敵にしているのかを。


「どうやら、奴は紋章を目安に向かって来たんじゃろぅ。」


中隊の他の車両は、魔鋼騎ではない普通の4号F型だ。

目につく紋章を浮かばせたアリエッタ車が、標的にされたと言う訳か。


「そうだったら、尚の事。奴を停めなくてはいけなくなったわ」


ロゼが瞳の色を変えて呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。

奴の狙いが姉にあると知って、ロゼは覚悟を決めていた。


「ルビ、もしかすると停めるだけでは済まなくなるかも・・・」


仇を討つ為に奴が突っ込んで来たのが本当だとすれば。


「アリエッタ姉様の前に立ち塞がらなきゃいけなくなった。

 返り討ちにしなければならないのかもしれない・・・・」


悲し気なロゼが、姉の車両に目を向けて零した。

敵は偵察を任務としている筈・・・


なのに?!なぜだ?

俺は咄嗟に指輪を構える。

最悪の瞬間が来る前に、唱えられるように。


次回 呪われし二つの魂

それは自ら望んだ戦いだというのか?!敵は死を怖れないというのか?!

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