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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第1章 月夜(ルナティックナイト)に吠えるは紅き瞳(ルビーアイ)
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地獄への蓋が開いた

猟兵部隊員ルビナス


彼の初陣。

その時見たモノとは?!


(ショッキングシーンがございます。ご注意ください)

ロゼを見詰めて、出会った時の事を思い出していた。


あの忌まわしい初陣の戦場。

あの日に起きた戦闘を忘れられる筈もない。


俺はあの日・・・戦争という物の醜さを、人の醜さを知ったんだ。



そう・・・忘れもしない・・・




___________





突然歩哨が叫んだ。

俺は何かの間違いだと思っていた。

だってエンカウンターは国境から離れ、前線はずっと先だと聴かされていたから。


「敵襲っ!前方から戦車部隊が来ますっ!」


何を狼狽えているんだろう。味方の部隊が来たのに・・・


俺は暢気に構えて、そう思い込んでいた。


俺の属していた部隊は、機動連隊の左側に陣を布いていたんだ。

防衛線って言ったって、塹壕さえもろくに掘れてはいない状況で敵が来るなんて思っちゃいなかった。


俺の部隊は戦車を喰い止めるのが任務だった。

所謂いわゆる戦車猟兵ってやつだ。

武装と言えば火炎瓶とか穿甲爆雷とか。

兎に角、幼稚な武器しか行き渡っていなかったんだ。

しかも・・・だ。そいつを使うとなれば肉薄しなきゃならない。

戦車に辿り着いて車体にぶつけなきゃ意味がないモノばかりだったんだ。


俺は敵襲と言った歩哨を小馬鹿にして、多寡を括っていた。

見間違いもほどほどにしろよ・・・と。


だけど、俺の方が間違っていたのが直ぐに判った。


「総員戦闘!全員配置に就け!」


大隊長の叫びにやっと、只事では無いのが教えられたんだ。


俺達は戦闘がどんな物か何て教えられちゃいなかったし、古参兵も知っちゃいなかった。

機動連隊に配備されていた軽戦車は、師団本部に集められて留守状態だった。

あったのは砲弾を運ぶ為の半軌道車のみ。

その武装と言えば、機銃が一門装備されているだけ。

とても敵戦車と闘えれるような物じゃなかったんだ。


敵を発見した歩哨が陣取る場所に敵砲弾が落ちて来た。

最初の一撃は、敵からの砲撃によって齎された。

最前線に位置した陣地が、次から次に落ちて来る砲弾で爆破されていくのが観える。

敵戦車からの砲撃で陣地が破壊されていく度に、そこに居た兵隊が宙を舞った。

榴弾の直撃を喰らった陣地が眼に入ったのも、この時が初めてだった。


爆煙と共に、人の姿を成さなくなった物体がバラバラと空を舞った。

歩兵陣地なんて土嚢もない、剥き出しの穴だったから砲弾が飛び込めば穴は即座に墓穴になる。


怒号と悲鳴が交差する中で、指揮官の声だけはしっかりと聴き分けられた。


「第3分隊は左の戦車に向え!」


俺の分隊に攻撃命令が飛んで来た。

思わず分隊長のオットマン軍曹を見上げる。

彼だって今日が初陣なのだろう。

日頃勇ましい話ばかりをしていた軍曹なのだが、立ち竦んで真っ青な顔になっているのが観える。


「どうした!オットマン軍曹っ、さっさと持ち場に向え!」


小隊長が叫んでいる。

彼だってどうしていいのか、本当は分かってはいないのだろう。


編成された連隊の中で、実戦を経験した者など皆無に等しかった。

則ち、俺達は素人の集まりでしかなかったのだ。

軍隊といえども・・・


「戦車猟兵中隊っ、直ちに敵戦車へ攻撃をかけろ!」


第2大隊指揮下の俺達へ、上官である猟兵中隊長が命じて来る。

機動連隊は3個大隊で形成されていた。

一個大隊は3個の中隊で、中隊は3個の小隊で編成されている。

普通兵科の小隊は、3個分隊約30名で構成されていた。

俺の属する猟兵小隊は3個分隊24名で一個小隊を成している。


オットマン軍曹以下8名の分隊員が命令に従って動き出したのは、

敵戦車が視界内に入ってからだったんだ、俺達の眼の。


「おいっ、一番左の中型戦車をやるんだ!」


オットマン軍曹が目標を決めて走り出した。

目の前にまで迫った戦車に併せ、駆け抜けようとしたんだ。


戦車に装備された車載機銃が吠えた。


軍曹に引率された分隊員達6名が駒を廻すみたいにキリキリと舞い・・・

一番初めに軍曹が倒れた、袈裟懸けに貫かれ体を引き裂かれて。

続いた同年兵達にも銃弾が当り、腕を飛ばされ、頭をぐしゃりと吹き飛ばされ。

悲鳴を上げるまでも無く、次々と血しぶきを上げて倒れて行った。


出遅れた俺ともう一人の少年兵は、機銃弾を頭上にやり過ごして這い蹲った。


戦車の前方を横切るなんて、神でもなければ出来ないのに。

軍曹以下6名は倒れたまま動かない。


「軍曹!」


俺と共に出遅れた少年兵が助けようとしたのか、逃げようとしたのか。

俺の横で不意に起き上がりやがったんだ。

停める暇も無かったんだ、機銃弾の射線に入っていたのだから。


((  ボシュ ))


軍帽に液体が降りかかる。

視界が真っ赤に染まる。

自分が撃たれたのかと思ったほどだ。


何が起きたのかなんて一切判らない。

俺は唯、這い蹲って息を殺しているだけだった。

臆病者だって?

弱虫だって?


何とでも云えば良いさ。

俺は臆病者でも弱虫でもない。

息を殺して待っていたのは敵を油断させる為だったんだぜ?


訓練でやって来た事を正しく実践する為にさ。


機銃弾が止み、他の場所を狙い始めたのが解ると。

俺は腰に下げていた火炎瓶の封を切った。

A液とB液が別けて入れられている火炎瓶ワインボトルを片手に、戦車が前を横切るのを待っていたんだ。


後ろに続く歩兵達にも気を配り、俺は最高のタイミングを計ったんだ。


火炎瓶に因って戦車が擱座するのかどうかなんて考えても居なかった。

唯、目の前を過ぎ行く怪物に、仲間達の恨みを叩きつけてやるだけだった。


敵の歩兵達が、俺と反対の右側に固まっている様子が観えた。

ロッソアの軽戦車BT-7は、47ミリ砲を撃ちながら俺の前を横切って行く。


・・・今だ!


俺の身体が考えよりも先に動いた。


数メートル前を走り抜けようとした瞬間。

ガラス瓶は戦車の後部エンジンルーム上で火を噴いた。


挿絵(By みてみん)


忽ち戦車の往き足が停まる。


喝采を叫ぶ暇もなく、俺は一目散に逃げだした。

勿論、走ってなんかは無理。

這いつくばり、匍匐前進で逃げ出したんだ仲間達の元へと。


当然の事、敵の歩兵に狙われてしまった。

銃弾が逃げる跡を追いかけて来る。

逃げ出し始めてやっと気が付いた。


ー 撃たれてしまう・・・死にたくない


それが本心なのだと気付いたのは、生き残った後だったけどね。


死にたくないと思っていた時、急に銃撃が止んだんだ。

だけど振り返る余裕なんて俺にはなかったし、必死だったんだ。


繰り返すけど、その日まで俺は闘った事なんて無かったんだぜ?


味方の陣地まで這いつくばって逃げた。

味方が生きている陣地にまで匍匐して向かったんだ。


分かるかい?俺の言いたい事が?


逃げても逃げても。

何処の陣地も、どこの小隊に向かっても。

そこに居るのは人だった者の為れの果て。


(解説=これでも幾分かは表現を和らげたつもりです)

出て来ましたシーンにつきまして。

これは作者の創作です。本当の戦場で起きたようには書けません。

死者を冒涜するような表現がございました事を陳謝致します。



ルビは自陣に帰ろうと、必死の逃亡を試みた。

自分の所属していた部隊を捜す間に見たモノとは?!


引き続き、ショッキングシーンがあなたを地獄へと誘います。

戦場で生き残るには何が必要だというのか?!


次回! 戦車准尉 アリエッタ

君は一人の少女を救ってしまう!

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