応戦!
激戦続く!
ロゼの砲撃能力は並外れていたのだが・・・
ラポム中尉の戦車隊が応援に来てくれるまで、持ち堪えねばならなかった。
戦車猟兵中隊の3両は、後退しながら敵を阻み続けていたのだが。
押し寄せる敵兵力は次第に増え、街の中へと侵入を開始し始めた。
「車長!第2小隊長車被弾!」
無線機からの悲鳴を聞きつけたムックが振り返る。
「残りは儂等と中隊長車だけじゃぞ!ルビ、急ぎ後退せいっ!」
連携を執ろうにも中隊長車との距離が開き過ぎていた。
敵との距離を考えると、中隊長車に近寄る事もままならなくなった。
「もう、ここらが潮時じゃ。歩兵達の後を追って市街地から脱出するんじゃ!」
ハスボック准尉に命じられたが、ルビには反転する気にはなれなかった。
待っ正面から敵が近寄りつつあったから。
「ロゼ!真っ正面に見え隠れする2両を何とか撃てないか?
ここから後退しようにも、あいつ等が居ると後退するにも危険だ」
第2小隊長車が被弾し、行動不能となった今。
敵の狙いは、この車両に集中していると考えられたから。
「早くしないと囲まれちまう!」
ルビの焦りが伝播するのか、右に座るムックも砲手席に振り向く。
「焦らないでよ!奴等の内、どっちかが飛び出すのを待ってるんだから!」
建物の影に潜む2両の戦車。
連携を執って射撃に出てくると考えたロゼは、射撃諸元を調整して待っていた。
「敵の内どちらかが飛び出した瞬間を捉えてやるわ。
連携を執られる前に、片方だけでも撃破してやるんだから!」
ロゼはチャンスを捉えようと照準器を睨む。
射撃ペダルに足を載せ、いつでも撃てるよう射角ハンドルを握り締めていた。
ルビ達の3突が停車し、敵2両と対峙していた時。
「中隊長車から無線!新たな敵3両がこちらに向かっていると言ってます!」
ムックの叫びは、俺の度肝を抜いた。
2両でさえ、手が回り兼ねるというのに。
新たな敵が3両も増援に来られたら・・・
「ロゼ!ここは無理でも退き下がろう。そうじゃないと本当に囲まれちまうぞ!」
敵を威嚇しながらも、なんとかこの場から逃げなくては囲まれてしまう。
砲塔がない駆逐戦車が周りを囲まれてしまえば、側面や後部を撃たれてしまう。
前面装甲はそれなりに厚いが、側面や背面は3号戦車のままだったから。
「囲まれたら20ミリ程度しかない側面装甲を撃たれちまうんだ。
45ミリでも易々と貫通されちまうんだからな!」
そうなったら、俺達が倒した相手と同じように、撃破され破壊に呑まれてしまうだろう。
「判ってるわよ、そんな事ぐらい!
でも、正面の奴等はタダでは下がらしてはくれない、こちらが動くのを待っているのよ?!」
俺達はジレンマに嵌ってしまった。
どこかから近寄って来る敵の気配を感じ、それでも動けない苛立たしさ。
動きを見せたら、正面の2両が飛び出して来る・・・
「動くと見せかけてチャンスをものに出来ないか?
俺がエンジンを吹かし、排煙を上げるから。ロゼは敵が動いたら躊躇せず撃つんだぜ?!」
真っ正面の敵から観れば、排煙を上げた3突が後退を始めたと勘違いしてくれないかと思った。
「よし、やってみろルビ。敵が嵌れば儲けもんじゃ!」
次弾を持った准尉が促して来た。
「ロゼ、いくぜ!」
俺がギアをニュートラルに入れたまま、アクセルを踏み込んだ。
急激なエンジン振動を感じ、排気管から真っ黒なディーゼル機関の爆煙が舞い上がった。
「出て来やがれ、コン畜生共メ!」
ムックも思わず叫ぶほど、じれったく思っていたらしい。
敵はこちらが逃げ出したと捉えたようだ。
それとも味方がもうすぐ傍まで来ていたからか。
飛び出したT-28の左転輪が観えた瞬間。
「撃っ!」
ロゼが射撃ペダルを思いっきり踏み込んだ。
ズドッ!
徹甲弾が距離僅か200メートルを飛び、狙い違わず命中した。
ガッ!
紅い火花がT-28の車体左前方に飛び散る。
と、同時にこちらへ向けていた砲身が垂れ下がった・・・
バガァーンッ!
垂れ下がった砲のまま、搭載弾薬が誘爆したT-28の至る所から激しく煙と炎が噴き出た。
撃破を喜ぶ暇もなく、車長は次弾を装填し、ロゼはもう一両を警戒した。
そして俺はクラッチを繋ぎ、今度は本当に後退を開始した。
「もう一両は仲間が撃破された事で躊躇しているわ!今の内よルビ!」
後退を急いでと、ロゼが急かす。
頷く暇なんて俺にある訳がない。
「お嬢ちゃん、無線手!見張りを厳にするんじゃ!」
キューポラに上がった准尉の叱咤が飛ぶ。
ロゼは正面の1両を睨み、出て来るのなら撃とうと油断なく観測し、ムックは側面の点視穴から右側を探る。
俺はバック状態のまま下がり続けていたが。
「まだ敵は狙える位置に居るのかロゼ?」
一刻も早く180度反転したかったから、状況を訊いた。
「うん、もう少し。後30メートルこのままで。
そこまで下がれれば、敵の死角に入るから。そこでUターンしよう!」
ロゼの言葉にやっと目途が付き、一息吐けたのだったが。
「敵と思われる物、こちらに向かって来ます!」
現れたのは味方じゃないのか?
敵がわざわざ右側、つまり中隊長車の方から出て来るのか?
「敵が右から?中隊長車は何処を観てたのよ?!」
同感だったロゼが、俺の代わりに訊いてくれた。
「本当に敵なのか?ラポム中隊では無いのか?」
准尉にも、まだ掴めていないようだ。
無線機に何事かを呼びかけたムックが、一瞬押し黙ると。
「中隊長車から返事がありません!無線機の故障と思います!」
ムックの声は、俺達に危機が迫った事を告げていた。
戦闘中に突然無線機が壊れるなんて。中隊長車は無線機が突然使えなくなる事態になったのだ。
車体に何らかのダメージを受けて、無線機が押し黙らざるを得なくなった・・・破壊されたのだ。
「被害報告も出せずに・・・か」
准尉が、中隊長車のいると思われる箇所へ目を向けると。
微かに黒煙が見て取れた。
そこで何が起きたのかを証明するように。
残されたのは俺達1両だけ。
敵に囲まれようとする3突が、タダの両だけ・・・
「反転して、市街地から脱出するのは間に合わん!
そこのビルに逃げ込め、車体前方だけを敵に向けてじゃ!」
咄嗟に准尉が命じて来た。
こうなればビルを盾に籠城するのだと。
車体側面と背面を敵に晒さなくし、防御しつつ交戦するのだと。
「了解ですっ!」
俺は言われた通り、ハンドルを引いて斜め後方の建物の壁をぶち破り侵入した。
「ムック無線で味方の援護を要請し続けるんじゃぞ!
敵が新たに、3両が来ておる事も添えてじゃぞ!」
「はいっ!」
無線に取り付き、味方へと報じるムックを観てから。
「お嬢ちゃん、いよいよ魔砲を使わねばならんようじゃ。
心つもりは良いかのぅ?魔法の準備は出来ておるかのぅ?」
済まなそうに准尉がロゼに頼んで来た。
「それがこの車両を与えられた訳ですから。
アタシに出来るというのなら、成ってみせますから・・・」
ロゼは胸のネックレスを取り出して答えて来た。
「そうか・・・じゃったら。
魔鋼機械を発動する・・・かかれっ!」
砲尾の下に備えられている紅いボタンを拳骨で叩き込んで叫んだ。
「魔鋼騎戦、発動!
魔砲の使徒になるんじゃ!」
魔鋼機械が動き始めた。
内蔵された蒼い水晶が回転を始め、魔砲の力を求めだす。
「ルビ・・・アタシ。
アタシ・・・姉様と同じ位強くなれるかな?」
ポツンと呟いたロゼが、ネックレスを翳して俺を観た。
「なれるさ、ロゼになら。誰かを護ろうとするロゼになら!」
俺に頷いた少女の眼が蒼く輝。
「そう!アタシは皆を護りたい!
ルビと一緒に生き続けたいから!」
掲げられた魔法の石から、蒼き光が溢れ出した・・・・
決死の闘いが続く。
敵も味方も無い。
唯戦う者は、生き残ろうと抗うのみだ!
次回 間違った選択
君は正しいと思うからこそ異能を使う。だが、人は神ではない・・・・




