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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第3章 騎士と魔女
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魔鋼騎士アリエッタ

砲弾は敵へ向って飛んだ。


そう・・・闘いは新たな次元へ。

双方の新型車が砲戦を交わすのだ!

ロゼの放った75ミリ砲弾は、狙い違わず命中した・・・


「弾きやがったようじゃぞ?!」


確かに砲塔正面に命中光が瞬いたのだが。


「角度が浅かったようじゃ!次射は車体を狙うんじゃ!」


装填手配置に居りていた准尉が素早く次弾を籠めると、


「装填良し!撃て!」


続けての砲撃を命じる。


フォイアっ!」


歯を食いしばって狙いを付け直したロゼが発砲する。


敵は一弾を受けても動いては居なかった。

当たった弾が何処から飛んで来たのかを確認でもしていたのか?


それが彼等の命取りになった。



 ガボッ


まるで喰い破った弾の音が聞こえたような気がした。

傾斜した正面装甲に75ミリ徹甲弾が当たり、そのまま車内へ貫き通した。


徹甲弾は車内に衝撃波と破壊を齎す。

こちらへ向けていた砲塔から突き出ていた砲身が、力なくうな垂れたのが眼に入る。


「よしっ!見事じゃ!」


観測鏡で確認した准尉からの声に、敵の撃破が判る。


車体を半ば遮蔽物に隠した状態では、俺から観える範囲も僅かだったから。


「敵はこちらの存在に気付いた!敵の出方次第では後退しなきゃならんぞ。

 ルビ、いつでも動かせられるように待機せいっ!」


自身も元は工兵として戦車に乗り込んでいた経験からか、准尉の命令に澱みは感じられなかった。


「了解!」


エンジンを一吹かしして、俺はいつでも下がれられるようにギアを後進に入れた。


「敵部隊に動きが見て取れます!こちらに気が付いた模様!」


戦車とは違って砲塔を持たない駆逐戦車は車体が低い。

敵も発見がし辛いだろうが、砲撃が飛んで来た方に注視していたのだろう。

建物の影に砲身を見つけたようだ。


「待て!まだ敵はこちらが駆逐とは思ってないかもしれん。

 敵が対戦車砲と思い榴弾を撃って来るのなら、もう一撃は可能じゃぞ!」


ロゼの観測に、准尉が応えて。


「徹甲弾を撃って来たのが判れば、即座に後退するんじゃ!」


俺に一瞬の躊躇いも与えて来なかった。



真っ先にT-34が撃破された敵は、仲間達との連携を執ったようだ。

数両の軽戦車BT-7とT-28 中戦車が散開しながら建物を遮蔽物として近寄りつつあった。


両車に備えられてあるのは45ミリ砲。

俺達が乗る3突G型の正面装甲は80ミリの厚さを誇っている。

余程近寄られない限り、弾く事も可能。

特殊砲弾さえ撃たれなければ、ダメージは極小だろう・・・足回りさえ撃たれなければ。


正面から向かって来たT-28中戦車をロゼが捉えた。


「距離500!敵速30っ、動標的につき3シュトリッヒ前方を狙え!」


装填手席に突き出た観測鏡を操って、准尉が的確に指示を出す。


「射撃準備よし!」


即座にロゼが復唱する。


っ!」


短く車長が射撃命令を下す。

ロゼの右足がペダルを踏みこむ。



 ズドンッ!


射撃音


 カシャァーン!


空薬莢が尾栓から排出され金属音を奏でた。

戦闘室後部に備えられたファンから排出煙が噴き出す。

少しだけ硝煙の臭いがしたが、それも直ぐに収まった。


狙った敵戦車がどうなったのかも分からずに、俺は命令されるのを待ち続ける。


「敵が発砲した!衝撃に注意!」


響き渡る准尉の叫び。

何を考えるなんて出来はしなかった。

反射的に顔を逸らせた位のモンだ。


 ガッツーン!


音は凄かったけど、衝撃波も弾も内部へは襲っては来なかった。

どうやら上の方に弾が当たったみたいに感じられて。


「ロゼ?!車長?大丈夫ですか?」


咄嗟に振り向いた俺に、


「大丈夫!敵は榴弾を撃って来たのよ!」


砲盾にでも当たったのか、敵弾は内部へは被害を齎さずに爆発したようだ。


「そうか、良かったな」


俺は心底、新しい車体に感謝した。

弾が当たったのが前の砲戦車だったら、こうはいかなかっただろう。

オープントップだった砲戦車になら、榴弾だって脅威だったのだから。

この3突は、完全に囲まれた戦闘室を持っている駆逐戦車なのだ。

上面にだって装甲を施され、榴弾の断片なんかでは破れやしないだけの安心感があった。


「敵T-28は炎上中、撃破だ」


45ミリ榴弾を弾き返したこちらに対し、敵は脆くも打ち破られたようだ。


市街地外縁部で火災を起こした敵2両の救援を放棄して、敵が次々と近寄り始めた。

目測で500メートルを切ったらしい。


「中隊長車から無線!射撃を継続しつつ、後退を始めるって言ってきました!」


他の2両に装備されているのは威力のやや劣る43砲身長の75ミリ砲だった。

俺達の砲よりやや短い砲って言うだけではなく、射撃制度が劣っていたから。


「敵に近寄られるのは痛し痒しだが。しょうがない、ルビよ後退するんじゃ!」


仲間に併せなければ連携が執れないと判断したハスボック准尉が、


「ロゼッタ、建物の影にも注意するんじゃぞ。いつ飛び出して来るかもしれん」


不意打ちだけには注意するように言い含めた。


「無線手!味方戦車隊との連絡は?!」


援軍に来てくれる筈の中戦車隊の情報を求めると。


「後、5分はかかるそうです!」


まだもう少しかかりそうだと返してきた。


「5分か・・・長いのぅ」


僅か5分。されど5分・・・


闘う俺達には、騎兵隊の登場が待ちきれなかった。

見え始めた敵戦車の数が、後から後からどんどん増え始めていたから。







「ラポム中尉!

 市街地にはもう敵がとり付いたようです!」


ヘッドフォンから無線手が教えて来た。


「なんだと?遅れたようだな」


主戦場だった位置から漸く市街地まで辿り着いた所で見え始めていた。


「奴等の一部は初めから北方より廻り込んで来たのか?!」


ラポム中尉は、自軍の計略に引っ掛からなかった敵が不思議に思えた。

鶴翼の陣を張って待ち構えた裏を執り、南方側から攻めて来た。

そして時間差を於いて市街地へは北方から攻めかかった。


「まるでこちらの計画を誰かが敵にリークしていたかのようだな?」


計画が誰かに因って敵に漏らされたのではないか?

ラポム中尉にはそうとしか映らなかった。


「どうしますか?このまま後退しますか?」


砲手が見上げて訊いた。


「馬鹿を言え。このまま何もせずに帰れるかよ?!

 俺達は味方と敵の間を奔り回っていただけじゃないか。

 一発だって撃ってはいないじゃないか!」


ラポム中隊長の言った通りだった。

折角新式のF型を装備していたのに、仲間の撤退で戦闘にさえ加われなかった。


「それに・・・あの娘だって気が気じゃないだろうしな?」


第2小隊長車へ振り返り、ラポム中尉がキューポラに出ている人を言う。


「妹があそこに居るんだよ、助けに行きたいに決まっているじゃないか!」


手先信号でその人に命じた。


「俺達に構うな!先に行け!」


アリエッタ少尉の乗る魔鋼騎に、先行しろと手を振った。


キューポラに出ていた少尉が敬礼を贈って来ると、車体が猛烈な加速に入った。


「はははっ!行った行った。あいつ、魔砲力を使いやがった!」


自分達を素晴らしいスピードで追い抜いて行くアリエッタ車には、


「やはり魔砲って云うのは凄いものだな。

 あれが同じ4号とは思えん・・・全くの別物だよ」


追い抜き去った車両を見送る中尉が笑う。

元が4号とは思えない程変わった車両形態を眺めて。


「あれがマーキュリア本来の魔砲力って奴なのか。

 それともあのお方から授けられた、石の力だって言うのだろうか?」


砂塵を巻き上げて突き進むアリエッタ車。

前方装甲板が傾斜し、砲塔が増厚され、そして砲身が伸びていた。


「蒼き紋章を掲げる者・・・か。

 そういやどこかでも観た気がするな・・・確か新車両開発部だったかな?」


ラポム中尉が軽口を呟いていた。

アリエッタ車の力強い変化に気分を良くして。


「そうそう。

 ありゃぁー本部でバスクッチ曹長と一緒に居た・・・

 金髪の娘にも与えられていたっけな、魔鋼騎を。

 あんなに可愛い少尉候補生リーン・マーガネットの姫殿下に・・・」


あっという間に追い抜かれ、走り去る魔鋼騎を観ていた中尉が。


「俺達にはアリエッタが居てくれる。

 蒼い魔法石を授けられた魔女が。

 マーガネット殿下から授けられた魔法石を持つ、我等の魔女様が・・・な!」


喉頭マイクをわざわざ押して、車内に聞こえるように喋っていた。


走り去る魔鋼騎。

魔女が魔砲を放つ時、異能ちからが示されるという。


アリエッタ車にも紋章が現れていた。

魔法の石が秘める力を示し、蒼く輝のは<盾の魔女>。


古からフェアリアに居たとされる魔女を模った紋章が描かれていた・・・

その士官候補生って?

もしかしたら・・・皇女様?


アリエッタ少尉は知っているのだろうか?その娘が何者であるのかを?


戦闘は依然として膠着状態だった。

新たな敵が増援に来た時、ロゼの魔砲が力を放つ!


次回 応戦!

君の力は魔法の機械を動かせる!闘え魔砲少女!

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