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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第3章 騎士と魔女
33/133

俺の女神?

挿絵(By みてみん)


ハスボック小隊搭乗員

右よりハスボック車長・ルビナス操縦手・ロゼッタ砲手・ムック無線手

戦車猟兵大隊は布陣を終え、各中隊ごとに補給を完了した。


機甲部隊本隊は前列に配され、砲兵隊は郊外の陣地で射撃態勢に入った。




フェアリア軍は此処、エレニアにて決戦を挑もうとしていた。


交通の要衝でもあるエレニア市街地には、まだ避難を終えていない住民も残されていた。

市街地に入った歩兵部隊は、市民の避難を余所に陣地の構築を急いでいた。

逃げ場を失った市民を巻き込むのも辞さない、中央軍司令部の命令でもあったのだが。




それはフェアリアに短い夏が訪れた暑い日の事だった・・・




「明日か明後日には前哨戦が始まるってのに・・・」


ロゼが暑そうに太陽を拝んで話しかけて来る。


「まだ、多くの住民が居残ってるのよ。

 避難させなきゃいけないのに、お偉い方々は何を考えているのかしら?」


俺もそう思うよ、全くの同感って奴だ。


「市民を巻き込んでも気にしないって事?そんな馬鹿な考えなら辞めたらいいのに」


ロゼが言うのは、市民の安全を確保してから闘うべきだと言っているんだ。

市民を巻き込むくらいなら、作戦を辞めるべきだとも。


「俺達が追い払えば良いんだろうけど。

 砲撃が市内に加えられられるかも知れないし、安全だとは言えないもんな」


ロゼが案じているのが良く解る。

軍がどんな酷い作戦を執るのかを、身を以って知っているから。


「ルビぃ、勝てると思ってるの?

 敵は大軍なのよ、こちらの数倍もの物量で押して来るんだから!」


ロゼが肩を竦めて言って来た。

勝てる筈が無いのだと。俺達には戦力差を跳ね返せる物量が無いのだと。


「こっちは2個師団。ロッソアは14個師団以上なんだから!」


防衛側と攻略軍の鉄則、戦力1対3を大きく超えた数の暴力。

防衛側が敵兵力の3倍までは互角に戦えるという鉄則を、遥かに超えている。


「それでも機知に富んだ作戦だったら、逆転勝利を目指せるだろうけど・・・」


ロゼが肩を落として作戦を思い出した。

ロゼの言いたい事は良く解るし、俺だって理解してるさ。


「真っ向正面からぶつかっても、勝てっこない・・・な」


司令部の執った作戦は、あまりにもありきたりに思えたんだ。


敵軍の行動が判らないから、陣地に籠って待ち構える・・・

当たり前の作戦。敵軍が数で押して来るであろうと読んだ司令部の判断。


そりゃー街道を真っ直ぐ向かって来られたら、そうなるだろうけど。

敵だって分かっているだろう、俺達が待ち構えている事ぐらい。


「だったらさぁ、せめて伏兵くらい配置しておけば良いのに」


ロゼが俺達の3突を見上げて愚痴った。


「その為の戦車猟兵部隊なんだからさ。折角新型車両を手に出来たんだから」


そう。

俺達の任務は、敵戦車部隊の漸減にある。

主力部隊が相まみえる前に、兵力を減らすのが目的で造られた部隊なんだ。


それなのに、待っ正面から突っ込んで来る敵と撃ち合えって言うんだぜ?

これなら普通の砲兵隊と変わらないじゃないか。

というより、俺達の戦車には荷が重いってことだぜ?


居場所がバレた駆逐戦車には、機動力のある敵部隊とまともに闘える訳がないじゃないか。


「身を隠して、横合いから狙撃するのが本来の姿なのに・・・」


全くその通りだよロゼ。


「大隊長の意見具申も通らなかったみたいだし。俺達にはどうしようもないってことだろう?」


作戦とは言い難い、真っ当過ぎる防衛線に諦めにも似た気分となってしまう。


「おまけに、市民を逃がさなきゃいけないんだよ?ホント、嫌んなっちゃう」


陽の光を浴びていたロゼが、暑すぎて堪らないのか襟元を引っ張り汗を拭った。

新しく配られた女性兵士向けの戦車猟兵制服は、サスペンダー付きで襟が赤色になっている。

俺達の男子用とは違って開襟で、胸元が広い。


「それにしても暑いねぇ、早く夜にならないかなぁ」


陽を浴びるのが辛くなったロゼが車体の陰に逃げ込んで来た。


「それを言うなよな。俺の身にもなってみろよ、エンジン点検で暑い車体の上で仕事中なんだぜ?」


陰に入って少しでも涼を取ろうとしているロゼに言ってやった。


「ほーっほっほっ!それはご苦労様ねぇ~(棒)」


暑さのあまりだっている俺に、気のない声を掛けて来やがった。

陰に入ったロゼが胸を押さえていたサスペンダーを両サイドにずらし、襟を引っ張って服の中の空気を入れ替えている。


車体の上から見下ろしていた俺に、ロゼの膨らみが眼に焼き付く。

アリエッタ少尉から授けられた蒼い石の付いたネックレスが、半ば谷間に挟まれて隠れている。


「うわっ?!」


ガン見していたんだろうか?

ロゼのジト目が見上げて来ていた。


「ルビナス・・・鼻の下が長い!」


・・・そう言うんだったら、先に隠せよ!

まぁ・・・俺が悪いのは間違いないんだけど。ロゼって・・・大きいんだなぁ(ボソリ)



挿絵(By みてみん)




戦車壕に納められた3突。


俺達の属する3中隊、第3小隊には。

この一両と随伴兵18名が配属されていた。

車体を預かるハスボック准尉が、小隊長兼車長。

乗員は俺が操縦手で砲手がロゼ、無線手が新兵のムック二等兵で車長の准尉が装填手を兼ねる。

車体に随伴し、敵の警戒や攻撃の補助を為す猟兵が18名。

計22名が第3小隊員の全てだ。


今は明日か明後日に始まる戦闘を前に、準備を整えるに大わらわだ。


大分生産が軌道に乗ったのか、前みたいに銃砲弾が極端にまで少ないと言う訳じゃないけど、

それでも各車の充足率は完全じゃなかったんだ。


時に俺達の3突に着けられた砲の弾は・・・



「魔鋼弾?!なんですかそれって?」


新入りのムック二等兵がくりくりした目で見詰めていた。


「あなた、魔鋼弾も知らないの?学校で何を聞いて来たのかしらねぇ?」


砲手席からロゼのため息混ざりの声が聞こえる。


「この砲には魔鋼の機械が着けられているのよ?!専用の弾なのよ、これは!」


頭部が青色に塗られた75ミリ砲弾を指して、俺に肩を竦めてみせるロゼ。


「そんな事も判らずに戦車兵になれたの?学校では何を習っていたの?」


「はい!トンツーです!」


ムックが指をトントンつついて無電機の操作を真似て来る。


「ああ、まぁそりゃ無線手だもんな。ムックは戦車学校出なのか?」


無線教育も戦車学校で行われていたのはロゼから知らされていた。

砲科、操縦科、無線科、適性を求められ振り分けられるのは教育課程のテストにも由るらしいが。


「いえ、自分は海運学校出ですから」


「は?!なんだって?」


驚いた事に、ムック二等兵は船員教育の学校から陸軍に入ったらしいのだ。


「ですから自分は海の仕事に就きたかったのですが。

 どうした事か陸軍の徴兵に、引っ掛かってしまったようです」


ムックが苦笑いを浮かべて頭を掻いた。


「そうか、徴兵でね。それは可哀想に」


あまり可哀想に感じていない声で、ロゼが慰めを返したが。


「ですから無線手としては、それなりの事は学んできたつもりです」


ムックが砲弾の種別には慣れがないが、無線はお手の物だと言い切った。


「そうかい?それなら問題ないか。だろ、砲手殿?」


話を振ったら、何とも言えない神妙な顔のロゼが。


「まぁね。ここには戦車学校も出ていない人が運転してるから」


俺に嫌味を言って来やがった。


「ルビ兵長も・・・ですか?」


「そう。操縦手様はね、アタシが拾ったんだよ。野良運転手だったのを!」


ノラ・・・だと?


言い返そうと思ったが、その通りだったから辞めにした。


「兎に角、この車体は魔鋼の機械が搭載された魔鋼騎なの。

 君もその乗員になったのだから、自覚するように!」


ロゼが先任搭乗員としてムックに命じた。


「はっはいっ!出来るだけやってみます!」


新米らしいはきはきとした声でロゼに応えるムック。


まだ16歳になったばかりの少年兵は、北欧人には珍しい黒鉄くろがねの眼に白金プラチナ髪。


「ではムック二等兵、今夜の間に無線の手入れを完了させておきなさい」


ロゼが先任として訓示すると、


「はい!マーキュリア兵長殿!」


しゃっちょこばった敬礼を返してきた。海兵の敬礼形式で・・・




一通りの点検を終えた頃には、夜になっていた。

明日には先遣隊が現れるかも知れない。

もう戦機は熟している・・・また地獄の蓋が開けられようとしている。


「なぁ、今度は違うよな?あんな戦いにはならないよな?」


手を添えて俺は呟く。

自慢の装備を誇る車体に向けて。


「それは始まらなきゃ分からんぞ?」


不意にかけられた声に振り向くと。


「アリエッタ少尉、いつから?」


返事を返さず近寄ったロゼの姉が、


「この闘いで負けてしまえば、もう国の半分はロッソアの物になってしまうだろう」


初めて聞いたんだ、戦争の行く末という物を。

アリエッタ少尉は冷静に分析したのだろう、澱みも無く云って除けた。


「このエレニアを攻略されでもすれば、各地の前線は一気に崩壊してしまうだろう。

 北も南も、ここを拠点にして攻め込まれる事になる。

 包囲殲滅されてしまうのがオチだ、前線を後退させなければ・・・」


そんなに重要な防衛線だったら、援軍をもっと寄越して貰わないと。


俺の言いたい事が解るのか、アリエッタ少尉は首を振りながら。


「もはや手遅れだ。明日か明後日かには先端が開かれる。

 我々フェアリア軍の上層部には戦争という物をゲームか何かと思う奴がいるのだろう。

 いや、利敵行為を平然と行う者が居るのだろう」


利敵行為・・・を?

上層部に居る奴が?


「このままではフェアリアは敗戦に追い込まれてしまう。

 戦いに散った者達も浮かばれないまま、敗戦を迎える事になる」


そんな・・・俺達は何の為に地獄で闘ったのか、闘わねばならなかったんだ?

声を呑んでアリエッタ少尉を見詰める。


「私が聞いた話によると、とあるお方が前線に出て来られるらしい。

 その方には皇王陛下も一縷の望みをかけられておられるという。

 この国を救うことの出来るのは、とあるお方に因ってのみだという。

 私の仲間が教えてくれたのだ、もう間も無く時が来る筈だと。

 それまでは何としても護り通さねばならない。時間を稼がねばならん」


凛とした声でアリエッタが話す。

頭の中へ<とあるお方>と、<時間稼ぎ>の文字が刻まれた。


「時間って?どれくらいかかるのですか?何日待てば良いのでしょうか?」


俺の問いに少尉が首を振り。


「それは私に訊かれても答えられないよ。

 唯、言いたかったのはここで敵を喰い止めるのは困難な事だというのと。

 私達の出来るのは、敵の侵攻を遅らせるように闘うしかないの」


言い切ったアリエッタ少尉が、黙ったままの俺に手を指しだす。


「もしかすると。

 これが最期になるかも知れないから・・・握手して?」


眼を見開いて少尉を観る。

最後の別れを告げに来た、ブロンド髪の少尉には微笑みが浮かんでいた。


差し出された手を握って、


「これが最期じゃありませんから。

 俺が握手するのは、お互いの健闘を祈ってですから」


微笑むアリエッタ少尉に答えた。


「そうね、君には女神がついているんだもんね」


「えっ?!ええ、まぁ。腐れ女神ですけどね?!」


姉は妹の異能ちからを女神と言った。

俺はロゼを勝利の女神だと返した。


「あら、腐ってしまったのかしら?それじゃあ新しいのと換えてみる?」


姉は自分を指して笑った。


「いいえ、腐っても女神ですから」


俺も笑って断った。


俺とアリエッタ少尉の笑い声が陣地に流れて行った・・・・




「くっちょんっ!」


「あれ?風邪ですか?」


ロゼがクシャミをするとムックがすかさず訊いて来た。


「うにゅぅーっ、誰か良からぬ噂話をしてるんだわ!」


ロゼは鼻を擦りながら月を見上げて、


「ルビの奴だわ!間違いないっ!」


この場に居ない男の所為にするのだった。(間違ってはいないけど)

俺に幸運を齎してくれるのか?

俺と仲間に必要なのか?


・・・幸運の女神って奴が・・・


そうさ、運命を切り開くのは自らの手なんだ。

女神に頼らなくとも、俺にはコイツがあるんだ。


   <時の指輪>って魔法のリングが・・・さ


次回 エレニア防衛戦

敵に漏洩した作戦を、君は闘いぬけるのか?!

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