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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第1章 月夜(ルナティックナイト)に吠えるは紅き瞳(ルビーアイ)
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妹(ノエル)

俺には妹がいたんだ。


両親と家に残して来た・・・ノエルが・・・

 後僅かで・・・ケリが着く筈だった。


数時間に亘って繰り拡げられた両者の戦闘が、終焉を迎えられるというのに・・・



仲間達は敵弾に倒れ、命を奪われていった。


栗毛色の髪を土に染め、戦闘服は泥に塗れ。

手にした銃は硝煙に燻ぶる。


ロッソア帝国と干戈を交えた祖国との境界線で、生き残った兵士は慚愧に憂う。

友を奪われ、仲間を喪い。


未だ続く砲火の中で・・・





遠くで俺を呼び続けている・・・


あのの声が。


ノエルと・・・そっくりなひとが。


「ルビ、ルビナス!しっかりしてよっ!」


紅茶髪あかがみを靡かせた少女のが見下ろしている。


「まだ終わっちゃいないんだから!こんな所でくたばっちゃ駄目なんだからっ!」


少女の涙が俺の頬に零れ落ち、やっと目を覚ましてくれた。


「ああ、ロゼか。久しぶりだなぁ・・・」


直ぐ傍に落ちた迫撃砲弾の爆風で、気絶させられた俺を起こしてくれた。

記憶が混乱してしまい、一緒に闘い続ける相棒にボケた声を掛けてしまった。


「しっかりしてよ!まだ終わっちゃいないんだから!」


涙を零し揺り起こしてくれる、紅茶髪で瞳を戦闘あお色に染めているロゼッタ。

薄青く光る双眸が、俺を正気へと戻してくれる。


「ロゼ、敵は何処まで退いた?ロッソアの戦車隊はどれくらい残ってるんだ?」


俺の手に擲弾銃のストックが触れる。


俺達は敵戦車を猟る戦車猟兵。

手にする銃は対戦車戦に使用する穿甲はこう擲弾を撃つ事が出来る特殊小銃。


「おそらく丘の向こうには、中隊規模の部隊が居残ってると思う」


ロゼが俺を掴み起こして教えてくれた。

気絶する前となんら変わりがしないのだと教えながら。


「そうか。俺達の小隊員は何人生き残ってるんだ?」


周りの惨状を観て、絶望的な答えを予想していた俺に。

ロゼは静かに首を振りながら自分と俺を交互に指差す。


それは、今此処に居る二人だけを指している。


「機甲部隊に歩兵が随伴して来るのは奴等の常套戦術だからな」


いつもながら歩兵は、機甲部隊相手に戦えば無力でしかないと教えているのにも等しい。


戦車だけが相手なら、接近戦を試みない限りは生き残れるだろう。

だが、戦車に随伴する者が居れば話は別だ。


戦車の火力に護られた歩兵が付き従っていた場合、歩兵部隊だけで守備するのは無謀の他にならない。


今の俺達がそうであったように。




だけど、俺達は闘う運命から逃れる術はなかった。

上官からの命令を拒む事は出来ない、それが軍隊という物だから。



「なぁロゼ。敵はもう一度陸を越えて攻め寄せるかな?」


俺の問いに頷く相棒の瞳は、未だ戦闘色に染められたままだ。


「間違いないよルビ。どのタイミングで来るかは分かんないけどね」


敵戦車が一旦退いたのは、単なる偶然だったのか。

味方を壊滅へと導いた敵が、何故退いたのか。


「だけど、こっちにも戦車隊が応援に駆けつけてくれたから。

 敵もそう簡単には攻めて来られないんじゃないかな?」


答えはロゼが知らせてくれた。

指を後方に向けて・・・味方部隊が居ると思われる方角を指し示して。


俺は気絶するほんの数分前に見た、味方車両を思い出していた。

ロゼに言われた通りだと考えて。


丘を越えて突っ込んで来た数両の戦車を悉く撃破した1両の戦車を思い出して。


「アイツが来てくれなかったら、俺もロゼも危なかっただろうな。

 悔しいけどあの人にまた助けられちまったんだよな?」


俺は、敵戦車に立ち塞がり砲撃する車両を思い浮かべる。

車体に描かれた紋章を思い起こして・・・・


「そうだね、ルビのいう通りかもしれない。

 アタシ達にとっては忌み嫌うべき人なのに、助けられちゃったんだよね」


俺と相方のロゼは、硝煙が燻ぶったままの窪地に潜んだ車両を観る。

新型の中戦車に描かれた紋章は、古の魔女を表している。

青色で縁取られた紋章が持つ意味は・・・


「ああ、また。あの人に仲間を護るなんて気があるとは思えないけど。

 魔砲を使う魔女に救われちまったとはね。

 俺達が忌み嫌う魔鋼騎乗マギカナイトりに・・・なんて」


俺の声を聞いたロゼの顔が曇る。


「うん、戦車乗りの魔法使いなんだよね。

 あの車両に乗っているは・・・」


寂し気に、悲し気にロゼが呟いた。

その碧い瞳は戦車に乗る娘を想い、伏し目がちに瞬かれる。


「ロゼ。

 アリエッタ少尉はお前を護る為に来たんだろ?」


俺はロゼが気にしている理由を言ってやった。


「アリエッタ姉さんはロゼを護る為にここまで来てくれたんだろ?

 魔鋼騎士の少尉アリエッタは、妹のロゼを救う為に来てくれたんだろ?」


俺の掛けた言葉に相棒ロゼは唇を噛んで応える。


「違うわよ!アリエッタは魔法を死の道具に使う魔女!

 戦車に乗って死を振り撒く悪魔になったのよ!」


アリエッタ少尉を憎んでいるロゼが毒づく。

魔法を使う事が出来る姉の事を悪魔と呼ぶ。


「私はアリエッタが姉だなんて思わない。助けて欲しいなんて考えない。

 お母さんの頼みを断ってまで、戦車乗りになった人を姉だなんて思わない!」


ロゼは俺にしがみ付いて訴える。


悲しい運命に翻弄される魔鋼の姉妹と出逢った日を思い出しながら、

俺は相棒の少女ロゼの肩を抱いてやった。



「どうして?どうして・・・こんな戦争が始まったの?」


ロゼが訊いてくる。

俺にではなく、彼女に・・・だ。


「どうして魔砲の力を隠しておけなかったの?」


そして自分へと・・・


「なぜ?アタシの前に現れたの?」


戦場では、偶然が重なる事がある。

悪い意味でも、良い意味でも。


俺は姉妹が出会う事になった戦場で、偶然居合わせた。


悲劇の戦場で。

戦争の片端に在った俺の運命を変えた、あの場所で。


・・・そう。

俺は戦車を狩る、戦車猟兵としてあの場所に居たんだ。

俺がまだ新兵に毛が生えた様な存在だったあの戦場ばしょで・・・








ーーーー<俺>の始り・・・ーーーー




俺の故郷はロッソアから近いノーストランの郊外にあった。

田舎の街に相応しいのんびりした故郷だった。

奴等の軍が攻め寄せるまでは。


確かに昔からロッソアの影響を受け、なんどか国境紛争があったと言うけど。

俺の家族は平穏に暮らしていたんだ。


本格的戦争になる前の事だ。

俺達の街にも少しずつであったけど、戦争になるかも知れないという噂が立ち始めていた。


それまで兵役義務なんて無かった国に突然降って湧いたのは、

15歳以上の少年少女に兵役検査と称する身体測定が行われた。


その当時、中央政府が戦備を急いでいる事を知らされていなかった俺達には、まるで寝耳に水のような話だった。


その事からも、街には戦争になるとの噂がまことしやかに流れて来た。

戦争となれば相手国は一つしかない。


隣国で強大な軍事力を誇るロッソア帝国。

紛争をいつも繰り返し、領土拡大を目指して他国を懐柔している国家。

帝政をき、内外の民を苦しめる皇帝に治められる強国。


そんな国と国境を前にした街に、戦争ともなればいの一番に来るモノは。


「街から避難しなきゃ、忽ちの内に戦場になるぞ!」


誰も彼も。

一刻も早く逃げ出そうと慌て始めた。


俺の家族だってそうだった。


俺の家族は両親と妹の4人だった。

まだ15歳にならない妹のノエルは、徴兵検査も受けていない。

だから3人で親戚の居るウエンタムまで逃げることにしていたんだ。


一方俺はというと、あの忌々しい検査をパスしちまっていた。

つまりは・・・



「ノエル、父さんと母さんを頼んだぞ。

 俺が軍隊に行ってる間、二人の面倒をみてくれよ?」


「兄さん、早く帰って来てよね?」


俺が別れを告げても、ノエルは顔を向けてはくれなかった。

いつもツンケンとしているいつもの通りに。

それがノエルの心を表わしているのだとは、分からなかったのだが。


「ああ、ノエルにボーイフレンドが出来る頃には帰るさ」


何気ない俺の返事に、ノエルの顔が曇る。


「じゃぁ・・・帰って来れないじゃん・・・」


ツン顔のままだが、呟くノエル。


「馬鹿だな、ノエルは!」


「兄さんこそ!イィーダ!」


やっと、そこで俺に向って顔を向けてくれた。

涙を薄っすらと浮かべた、紅い瞳で兄である<俺>を見詰めて。



俺は一緒に行けなかった。

軍隊に入る事が決まっていたから。

3人と一緒に行く事が叶わなかったんだ。


その時、俺は無理にでも一緒に行くべきだったのかもしれない。

軍隊に入るのを遅らせるべきだったのだ。


3人と共に逝くべきだった。


紛争が始ったのは、3人と解かれた翌朝。

たったの数時間の差だ。

軍隊に入る事になった俺を心配していた3人と別れた後の事だったんだ。


街に火の手があがった。


防衛線など、まだ構築される前。

砲撃が街を襲い、敵ロッソアの軍が雪崩を打って侵入して来たのだ。


俺がそれを知ったのは、入営を遂げた後の話。

陸軍第9師団に入隊し軍務の始りを知らされた時には、俺の家族は亡き人に成っていた。


そう・・・俺は聞いた。

避難民の中に、近所の小母さんがいた。

彼女曰く、俺の家は砲弾の直撃で爆破されたのだという。


涙ながらに話された俺には真実だとは思えなかったが、

軍事教練を受けていた或る日に、上官から知らされた。


「「ルビナス2等兵、君の御家族の遺品だ」」


手渡されたのは・・・ノエルが身に着けていた筈の焦げた蒼い指輪。

母から貰って喜んでいたノエルが肌身離さず着けていた蒼い石の指輪リング


見間違う筈は無い。

だって、指輪には俺の家に伝わる家紋が刻まれてあるのだから。

狼を模る家紋が、指輪が誰の物かを教えていた。


上官に俺は聞いた。

遺品があるのなら、遺骨や遺体は見つかったのかと。


俺の問いに上官は首を振って応えるだけだった。

だが、焼け落ちた民家の中で指輪だけが残されていたのだとも答えてくれた。


燃え堕ちた自宅の中で、肌身離さずに持っていたであろうノエルに何があったのか。

調べる必要もないだろう・・・分かり切った事を。


その時から、俺は憎み、呪った。

押し寄せた敵国を。

そして何もせず敵が攻め寄せるに任せた中央政府の役人共を。


敵も味方も無い。

あるのは唯、憎しみより他はなかったんだ。


戦争になったのは、俺の家族が国境の街で殺されてから15日も後だった。

紛争から戦争へと格上げされた事で、闘いも変わるかに思えたが。

味方の不利は変わらなかった。


俺の属する陸軍歩兵第9師団にも出動が命じられ、部隊は戦地へと赴く事になった。

軍事列車に揺られて向かった先は、初めエレニアという街の予定だった。


だけど、先発していた第4師団が壊滅的敗北を喫して、部隊が改変された。


俺の属した第9師団は名称を改め、第4師団になった。

歩兵部隊だった俺達に、機動連隊が編成された。

数両の軽戦車と半軌道車が、機械化された連隊を形成していた。


俺はその中に加えられ、新しく第2機動連隊と呼ぶようになった部隊と共に、移動したんだ。


あの忌まわしい戦場へと。


大分後方になる場所だからと安心していた訳じゃないが。

こんな場所で交戦するなんて思いもしなかった。


遥か彼方の山には古城が聳えて観える・・・ここは。


「エンカウンター・・・か。どうでも善さそうな場所なのになぁ」


横に居た友達がポツリと溢したのを今でも覚えている。


そう。

ここは畑が遠方まで続く農作地。

隠れる場所さえ見つけられない平原。


鉄道の最終駅のある農村。


・・・エンカウンター、古城が見下ろす平原の村・・・


記憶の先で。

俺の復讐。

家族を奪われた俺に残されたのは・・・憎んでもあまりある者への恨み。


そうさ、俺は戦争という物を知らな過ぎたんだ。

復讐なんて戦場には通用しないと思い知らされる事になったんだ。


俺達の初陣は、あまりにも惨めで・・・惨かったんだ。


<次話は3回に別けてお贈りします>長過ぎましたので。

初陣の戦車猟兵・・・彼は生きて帰った。地獄から・・・


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