痴話喧嘩?!
生きて戻れた心ゆえか。
ロゼと俺は馬鹿噺を繰広げ・・・てたら。
彼女も現れたんだよなぁ・・・・
夜の帳が堕ちた頃。
月が中天に浮かんだ頃・・・
「帰り道で話してたことなんだけどぉ?」
「・・・んだよ、ロゼ?今手が放せないんだけど?」
帰り着いた駐屯地で、俺達は車両の整備を手伝っていたんだ。
俺は重いキャタピラを取り付けながらロゼを見上げた。
「良いからっ!聞いてよ。
騎士と魔女の伝説を知ってるんでしょ?」
「ん?ああ、それがどうかしたのか?」
キャタピラを取り付けた俺が、ロゼに訊き直すと。
「その伝説に出てくる魔女ってさ、どんな姿をしているの?
魔女は騎士とどんな間柄だったのか知ってる?」
質問が多いな・・・と、思い出そうと記憶を辿った。
「確か・・・騎士の従者だよな?」
「そうじゃなくて!魔女って騎士様のどの位置に居たのかって事よ!」
そうぽんぽん言われたって、思い出せる範囲がだな。
「確か・・・魔女は騎士に付き従い、命を共にしていた・・・」
「そう!そうなのよ!魔女は騎士様を誰よりも愛していたのよ!」
ロゼの眼がキラキラしてる・・・少女が恋バナを話すみたいに。
「んで?なにが言いたいんだよ?」
ジト目で俺が訊くと。
「ん?!あ、ごほんっ。
つまり魔女は騎士様と運命を共にする程の仲だった・・・と、言う事よね?」
「・・・それが?ロゼの言いたい事が解らんのだが?」
俺には恋バナなんて似合わないし、興味もないのだが?
「あ・・・分かんないかなぁ?いつもに増して鈍感ねぇ。
その魔女って言うのが、アタシの祖先様みたいなのよねぇ」
「・・・は?」
意味が解らないを通り越して、訳が判らないのですけど?
「だからぁ!ルビの祖先とアタシの祖先は同じ流れを汲む者だっていうこと!」
「・・・もう一回言ってくれないか?」
底抜けに間抜けだと思うよ、ロゼの言いたい事が解らないなんて。
「つまり、君の祖先とアタシの祖先は同じ血族だってこと。
魔女がマーキュリア家、騎士たる領主がルビの家を残した。
いいえ、マーキュリア家から魔女が輩出され、君の先祖に付き従った。
君のルナナイト家から輩出された、騎士様のお付としてね」
「つまりなんだ、ロゼの祖先の内一人が、俺の先祖と一緒になって伝説を創ったのだと?」
ちんぷんかんぷんの俺にロゼが頷き、
「早く言えば、君の先祖と深い仲になったアタシの先祖が魔女。
その魔女と共に在った騎士が君の御先祖ってことなのよ」
・・・なんだか分かったような解らないような。
「だからルビとアタシが出逢ったのも古来からの因縁。
きっとご先祖様が導きになられたのよ、二人で新たな伝説を創る為に!」
・・・ロゼの眼が・・・キラキラ。
「で、でもさ。ロゼがそうだとは言い切れないんじゃ?
ロゼの他にもマーキュリアの血族は居るんだろうし…」
それに俺じゃなくノエルだったのかもしれないしさ。
それ以上言い澱んでいた俺に、ロゼがキラキラした目で・・・
「いいえ!騎士と言えば殿方。魔女と言えば乙女。
アタシとルビに決まっているわ!間違い・・・」
「無い事はないんじゃないかしらね?!」
ロゼの言葉を遮ったのは。
「姉様?!いつからここに?」
動転したロゼがアリエッタに振り返る。
「先程からずっと居たわよ?それにしても・・・ロゼッタ。
あなたいつからそんな熱い娘になっていたのよ?」
「あついこ・・・って。
姉様こそ!隠れてないで真っ向正面から話しに加わったら良かったでしょ?」
姉と妹が・・・再び相まみえるのか?
「加わるも何も。あなたが一方的にルビナスにアピールしてただけじゃないの?」
「ぐっ?!言い切られた・・・」
二人の会話に俺はこそこそと逃げ出す。
その場に居たら、修羅場に巻き込まれそうだ。
「だいたいねぇ!ロゼッタは身体ばっかり発育して。頭まで栄養が届かなかったのよ!」
「にゃっ?!なんてことを言うのよっ?!お姉様こそっ、綺麗な顔の割にはどす黒い心なんだから!」
・・・痴話喧嘩かよ?!
俺は二人にバレない様、こっそりとその場から離れた。
「ほーっほっほっ!何とでも言いなさいな。私の美貌に掛かればあの子だって靡くわ!」
「ニャァ―はっはっ!アタシに掛かればルビなんてころっと堕ちゃうんだから!」
どっちも・・・大概だな・・・・
聴こえて来た二人の声に、大げさなため息が零れてしまった。
「ああ?!ルビナスが居なくなってる?!」
「あぎゃっ?!呆れられちゃった?!」
・・・似た者姉妹だと、良く解ったよ・・・
それにしても、俺の先祖とロゼの先祖がなぁ・・・
二人から離れて考えてみた。
俺とロゼの関り。
俺に時々見せるデレは、もしかしたら先祖還りって奴なのかもな。
それが本当だとしたら?
ロゼの気にしていない内に身体が反応しているのなら?
もしかすれば、先祖の魂が宿っているのかもしれない・・・
俺の中に先祖の力が眠っているから。
その力に引き寄せられているとしたら?
ロゼには黙っておこう。
独り考えて空を見上げた。
空に浮かんでいた月が、雲の中に隠されていく。
ちょうど月が霧の中へ沈んでいくみたいに。
「うん?指輪から光が?」
填めていた指輪から蒼き光が零れている。
・・・そう観えたんだ。光の粒が涙の様に零れて観えたんだ。
「なんだよこれ?!何を言いたいんだ?」
指輪に秘められた力があるのはロゼからも聴いていた。
でも、俺には話しかけて来る事なんか一度も無かった。
この瞬間まで。
「何が言いたいんだ?何を教えようとしている?」
指輪に向けて俺が叫んだ時。
「「お前には替えられただろう?悲劇を停める力があるのだろう?」」
どこかで聴いたような声が聞こえたんだ。
「誰だよお前は?!」
思わず訊き返しちまった。
空耳かもしれないのに。
だけど、次に聞こえたのは・・・
「「お前に果たして貰いたいのだ。我が愛するロゼリタの魂を救って貰いたい。
我がルナナイトに付き従った魔女たる娘の魂を」」
俺の先祖。
彼の悪魔たる騎士の魂が、話しかけて来たんだ。
「「我は悪魔と呼ばれし騎士。我が領土を穢す者らに滅ばされた魂。
フェアリアに組みし裏切者に因って貶められた魔王・・・
そう呼ばれて来た・・・だが、事実ではない。
我とロゼリタは守るべく闘ったのみ」」
指輪からの声は、伝説を否定した。
悲しみに満ちた声が、リングからの雫となって観えた。
「「そなたには我等ルナナイトの血が流れて居る。
そなたには時を操る異能が引き継がれた。
月夜の騎士たる魔力が受け継がれているのは知っておるか?
指輪に秘められた力を、輪廻が放てるのを分っておるのか?」」
俺にどんな異能が秘められているんだ?
その力はいつ使えば良いと言うんだ?
「「どうやら・・・解っておらんらしいな。
ならば教えてやろう、<時の指輪>の使い方を。
そなたが引き継いだ魔法というものを・・・」」
俺の前で蒼き指輪から光が噴き出し、目の前が真っ青に染められた。
視界が開けた時。
そこは俺の居た場所ではなくなっていた。
周りにあった建物は掻き消え、木立の中に立っていたんだ。
唯、月の光が影を墜とす、騎馬たちの前に二人と共に立っていたんだ。
俺に話しかけてくる指輪。
先祖らしい男が話すのは?!
俺に秘められた魔法と運命。
次回 騎士と魔女の時代
君に話されたのは古からの記憶・・・それは騎士たる先祖が辿った物語。




