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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第3章 騎士と魔女
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怒りと絶望

挿絵(By みてみん)


第3章 騎士と魔女


戦場から帰還を目指した俺達は?!

大軍に追われる者。

騎馬軍馬に追い立てられる者。

味方に見放され、味方に騙され。


荒野の中で二人は追い詰められた。

二人の主従が最期の時を迎えようとしていた。

主たる騎士は、従者の女性に告げる。

良くここまで付き従ってくれたと。善く自分に尽くしてくれたと感謝の辞を与える。

主人に畏まった女性が、謝意を受けて涙する。

どうか最期まで供で居させて欲しいと。願わくば最期を共に遂げたいと。


騎士たる主人に願う女性の眼が蒼く染まっている。

主人に忠誠を誓った女性の手には、蒼き珠が澱みを放ちながら填められている。


主人たる騎士は陰を墜とさせている月を見上げ、従者に笑い掛けた。

最早周りは敵軍に囲まれ、逃げ場など無かった。


二人を取り巻く敵兵がにじり寄る前で、騎士は剣を抜き放ち突き付ける。

その手に填められた指輪リングが青黒く光っていた。


最期の瞬間まで敵と闘うかに観えた騎士が、従者へ促す。

従者の女性が何事かを呟き、蒼き澱んだ珠を掲げる。

途端に黒い霧が二人を包み隠し、騎士の剣が瞬いた。

黒い霧の中で何かが光り、何かが起きた。


取り囲んでいた兵達の前で、黒い霧が晴れた時、そこには息絶えている主従の姿があった。


敵の刃に掛かる前に、自ら自刃したのだろう。

敵兵達は最期を遂げた二人の首を墜とし、最期まで抵抗した敵領主の御印を掲げた。


敵兵は御印を掲げて帰って行く。

敵の領主と従者を討ち取ったのだから。


こうして敵領に攻め込んだ敵軍は、勝利を納めたかに観えた。

この世界では・・・この一つの歴史では。



追い詰められた主従が秘策を練り、敵の包囲を打ち破り帰還した。

まるで敵に内通者が出るのが分っていたかのように、その者を討ち捨てたから。

裏切られる前に内通者を討ち、事前に知っていたかのように撤退を開始したのだ。

少ない兵を無益に闘わせず、戦力を温存して敵の包囲を破って来たのだ。


騎馬軍馬は騎士と従者たる魔法使いの計略に掛かり、まんまと打ち破られてしまった。


どうしてこのような目に遭うのか・・・

敵軍は自分達の中にも内通者がいるのではないかと疑い始め、攻撃を辞めてしまう事になった。


領土を攻め取っても、自分達が内紛して殺し合う事になるのではと懼れたのだ。


ターニングポイント。

一人の騎士が執った計略で、戦争の行方が替えられた。

そう・・・替えられたのだ。


主従二人の異能ちからに因り、歴史は替えられたのだ。


この世界に在る魔法という異能ちからに因って。

月夜ルナナイトに堕ちる影のように、おぼろげな姿が笑っていた。

敵軍が引き上げて行くのを観て、騎士が魔法使いの女性と共に笑い合っていた。


笑い声は遠く彼方まで届く。

敗走する敵には、まるで狼が勝ち誇り嘲る遠吠えのようにも聞こえていた。


騎士は紅き瞳で月を観る。従者の魔法使いは蒼き瞳で主人を見上げる。

二人の異能で替えた、自らの運命さだめを歴史へ記すように・・・

その偉業と偉大なる<タイム指輪リープ>を受け継ぐ者へ残すのだった。







____________







俺達は仲間だと信じていた者達に裏切られ、惨めな敗走を続けさせられた。


敵に追い立てられ、死に逝く者を置き去りにしなければならなくなった。



俺達が何をしたと言うんだ?

俺達の考えが甘かったのか?



仲間の死を目の当たりにし、俺達は呪った。

俺達を敵前に残し、撤退を教えず逃げ帰った者達の事を。

同胞だと思い、仲間だと信じていたのに裏切った者へ憎しみを込めて呪ったのだ。


何としても生きて帰り、俺達をこんな目に遭わせた者へ復讐を遂げたかった。

敵も味方も無い、生き地獄へ貶められた者が復讐を誓ったのだ。


「生きて帰っても監獄に入れられるか、口封じに遭うぞ?」


誰も彼も、絶望を口にする。

生きて戻ろうと地獄が待っているのだと。


ならば、このまま死ねというのか。

このままこの地で死ねというのか?


「どうせ死ぬのなら、恨みを果してやりたい。死んで逝った仲間の仇を討ってから死にたい」


そう思うのは憎しみを募らせる戦意の証。

闘う相手を貶めた者へと向けた証。


「敵軍に投降すれば?命だけは助かるのではないのか?」


或る者は命の延命を願う。


「ロッソアには捕虜を取り扱う収容所なんてないぞ?

 下手をすればその場で射殺されるかもしれないぞ?」


敵に捕らえられたらまだしも、捕虜として扱うかは判らない。

この当時は各国が定めた軍規で対処されていた。

つまり、捕虜の扱いが定まってはいなかった。


特に軍事大国であるロッソアでは、敵将兵の捕虜を獲らない方針だと聴いていた。

強力な軍規に因り下々の兵を束縛し、脱走などを試みないように教育していた。

勝つか負けるか・・・生き残れるか死ぬか。

ロッソアの鉄の軍規は、敵に対しても執られると聞き及んでいた。


「逃げられたら・・・帰れるのなら。

 俺は故郷に帰りたい。ロッソアに占領された筈の街へ・・・」


疲れ果てた俺の瞼に、懐かしいノーストランの景色が映る。

山間の街外れにある俺の家。


― 両親と妹が待っている筈なんだ。俺が帰るのを・・・


疲れた脳裏に或る日の家が映り込んでいた。





「ルビナス兄さん!また隠れて父さんの本を読んでる!」


ノエルが口うるさく俺を咎め立てた。


「良いだろ?家訓の本なんだから、俺にだって読む権利があるんだよ」


家訓とは言ったが、その本に書かれてあるのは・・・


「魔法なんて使える筈がないじゃない!

 お母さんにも訊いたけど、アタシ達に魔力なんてないんだよ?」


ちちゃなノエルが俺を掴んで怒る。


「ノエルはちっちゃいから解んねぇんだよ!

 魔法とか術とかは関係ないんだ。俺は先祖がどんな凄い奴だったのかを知りたいんだよ!」


俺は親爺たちがよく言って聞かせてくれた御先祖様って奴が、どんな奴なのかが知りたかった。

時々聴かせてくれたお伽話は、まるで別の世界での物語にも聞こえていたから。


親爺たちが書庫の中に隠していた家宝の書物の中に、それがあった。

古ぼけた表紙の中に描かれてあったのは、俺の興味をそそるモノばかりだった。


北部の諸侯が結託し、ここの領主だったルナナイト家に闘いを挑んだ時。

御先祖様は魔法を使い、企てを打ち破ったという。

ある先祖は、使役する者と共に敵の軍を討ち祓い、領土を拡充したという。


「みな、立派な先祖ばかりじゃないか・・・」


ページを開くと、皆それぞれに功績をたてている。


でも・・・と、いつも手が停まるページ。

そこに記されているのは。


<月夜に舞うは魔女。月夜に嗤うは悪魔>


俺の家が没落するきっかけを齎した奴が書かれてある。

こいつも先祖には変わりがない。

だけども書かれてある通りなら、こいつは俺達子孫から観れば憎むべき当主だろう。


記されてある通りなら、文字通り悪魔の化身だろう我がルナナイト家にとっても。


俺は書かれてある事に興味を持った。

この先祖が辿ったの運命が、間違いだとは思えなかったから。

強いて言うのなら、哀れな奴だと謂うことぐらい。


だって、信じていた者に裏切られてしまったらしいのだから。

そこに書かれてある通りなら・・・だが。


そのページに描かれてある画には、暗黒面に堕ちてしまった先祖と魔女が嗤う姿が描かれていた。

人々を足蹴に、人々に呪いを掛ける悪魔の姿として。


ページに書かれてある時代には、この辺りは先祖が領主として治めていたらしい。

北の王国フェアリアと、東の帝国ロッソアの境目であるこの辺りは、どちらに組みするのかで諍いが絶えなかったようだ。

この先祖はどうやらフェアリアに組みする気でrあったらしい。

その旨をフェアリアの宰相に告げに向かった折の事だ。

組みする旨を上申した先祖に、宰相が強要したという。

フェアリアに組みするのなら傘下に入れと。王国の一部に成れと迫られた。

懐柔を迫られた先祖は熟考の末、今回の件は白紙撤回すると言い、領地へ帰ろうとした。

断られたフェアリアの宰相は激昂し、先祖を亡き者と図った。

その時付き従った魔女に因り、何とか命だけは取り留められた先祖が復讐の為に立ち上がった。

ロッソアともフェアリアとも間を執る事に決した。

その判断が間違いだったのは歴史も証明している。

領土を護る為に立ち上がった先祖だったが、宰相に懐柔された者の手に掛かり闇討ちに遭った。

死した先祖は呪い、共に果てた従者の魔法使いと堕ちたという。

・・・そう、呪い恨み・・・闇に堕ちたらしい。


人々を恨んだ悪魔と化し、先祖はノーストランの魔王となった。

進駐して来たフェアリア軍にも、攻め寄せたロッソア軍にも。

月夜に現れ、魔女と共に人々を恐怖のどん底に貶めたという。


魔王と化した先祖を、北方の魔女たる娘達が征伐するまで。

月夜は魔王のモノだった。

月夜に舞い踊る魔女と魔王に因り、この地は闇と化したという。


呪いの恐ろしさと、人に裏切られ死んだ未練が悪魔とさせた。

これが事実とは思えないが、人の恨みが持つ因縁の深さを教えている気がした。


魔法という異能ちからが、いつも人の為にあるのではないとも教えている。

使い方を誤れば、我が身に返ってしまうのだとも。



ノエルは本に記された物語を知っているのだろうか?

妹は俺達に流れる闇の力を知っていたのだろうか?


魔法が持つ人ならざる魔力ちからを知っていたのだろうか・・・




「君にはどんな異能ちからが与えられているの?」


歩き疲れた俺の傍でノエルそっくりなロゼッタが訊いた。


「魔法が使えるのなら、アタシ達に構わず果しに行って?」


黒く澱んだ瞳に成り果てたロゼが言う。


「アタシ達を裏切った者共に・・・復讐を果して・・・」


その声に俺は傍に寝かされたロゼを見る。


「アタシ達はもう生き残れない。

 敵に捕まれば、もっと惨めで酷い目に遭わされた上で殺されるかもしれない。

 そんなの耐えれないから、そうなる前に自分で死を選ぶから・・・」


砲弾の破片で傷ついた足に包帯を巻き、担架に載せられたロゼ。

如何に魔法使いだとても、これ以上の理不尽は耐えれなかろう。

死を選ぶとまで言い切ったロゼに、慰めの言葉もかけれなかった。


「死んだら羽根が生えると言うけど。

 アタシにも生やしてくれないかな・・・ルビ?」


俺を見詰めて哀願してくる。


「願わくば・・・ルビと一緒に生きていたかった。

 ルビの力になり、復讐の手伝いをしたかった・・・けど。

 このままじゃあ足手纏いなだけだから。

 ルビだけは生きてよ?アタシ達の分まで生きて・・・生き続けて・・・」


死相が顔に浮き出ている。

足の傷からの出血が停まらず、ロゼの生きる力まで零れだすみたいに感じた。


「もう・・軍曹達が待ってるから・・・逝くね?

 戦争が終わって此処に来れるようになったら・・・お墓を建てて。

 生き永らえたら・・・ここに来て?

 アタシはここでずっとルビが来てくれるのを待ってるから」


ロゼが俺に手を指しだす。

握手を求めているのではない。

自決する為の道具を欲しているんだ。


「駄目だ・・・ロゼも生き残るんだ!」


そう言った俺に、ロゼが涙を浮かべた目で首を振る。


「ねぇ、ルビ。君の腰に下げてある物をくれないかな?」


ロゼが欲しがったのは、手榴弾。

それで自決する気なのだろう。


俺は差し出された手に怯えかえった。

その手に渡してしまえば、俺は悪魔に為ってしまう。


「ルビナス・・・ルナナイト。

 君にこれまでの人生を捧げます、だから・・・生きて」


自分が身代わりになるとでも言うのか?

死ぬ事で何もかも終わらせて良いのか?


「アタシ、君と眼が合った瞬間に想ったんだよ?

 君に全てを捧げたって惜しくないんだって・・・

 君の足手纏いになってしまう位なら・・・

 だから今、アタシはあなたに捧げるの。この命を!」


微笑んだまま、ロゼの手が俺に向けられ。


「さぁ、ルビナス!君は生き続けて、君の中でアタシは生きていくから!

 これからはいつも一緒だから、身体が滅んでもいつも護っているから!」


俺に有無を言わせぬ口調で、最期の言葉をくれた。


「ロゼ・・・必ず・・・俺は復讐を果す!

 ロゼやハスボック軍曹達の恨みを晴らしてやる!」


このまま死んだら、復讐は果たしようがない。

無様でも、死に損ないと罵られようとも。


「俺は奴等の死神となって生き残ってやる!

 いや、死んだとしても呪い殺して恨みを晴らすんだ・・・ロゼに逢いに行けるまで!」


腰に下げていた小型手榴弾をロゼの手に握らせ、俺は叫んだ。


「違う!俺に魔法があるというのなら!

 この場から俺達を救い出して見せろ!

 まだロゼが生きている内に、世界を変えて見せろ!」


指に填めていたリングを掲げ、天を呪うかのように叫んだ。


「闇に堕ちた先祖の気持ちが痛い程判るぜ!

 アンタは今の俺と同じなんだろう?アンタは悪魔なんかじゃない。

 人だったからこそ願ったんだよな、愛する人が居るから魔法を使っちまったんだよな!」


俺は絶叫と共に指輪を掲げる。

戦場の中で。

死に逝く人の前で。


「ルビ・・・ありがとう・・・嬉しかった・・・」


振り向いた時、ロゼの手に在る手榴弾のケッヂが外された。


「振り向かないで!ロゼッタはルビナスを愛しているからずっと!」


俺に叫んだロゼが、担架から横っ飛びに堕ち、身体を丸ませて手榴弾を胸に押しあてた。


爆発が起き、ロゼの肉体はバラバラに噴き跳んだ。

爆風が俺を突き押し、吹き飛ばされるように倒れ込む。


「俺には異能ちからがある筈なんだ・・・俺は替えられる筈なんだ。

 こんな惨め過ぎる結末なんて認めやしない!戻ってみろ、あの瞬間に!」


怒りと絶望に、俺の意識が掻き消える。


最期の瞬間に思い描いたのは、アリエッタ達と別れた師団本部前の陣地。

ロゼが姉の来るのが遅いと言っていた、あの場所あの時・・・


ルビは叫んだ。

死に逝く者達の怒りを、絶望を消し去る為に。


自分に秘められた異能ちからが、世界を換えれると信じて・・・


ひかる指輪。

消え去る意識。

そして・・・


次回 時を司る魔法

君の前に現れた世界には、彼女の微笑が共にあった・・・

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