表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第2章 蒼き指輪
25/133

おきざり

やっと戦場から抜け出せたと思っていた。

その矢先の事だ。


悲劇が襲い掛かって来たのは・・・・



敵戦車隊は一時的に追撃を辞めた。

特出してしまった事に漸く気が付いたのだろう。

自分達が攻め寄せた位置に、やっと気が付いて停まったのだろう。


「いやしかし、こうまで巧くいくとは。儂も思わなんだ」


小隊長ハスボック軍曹が、感嘆とも呆れたともとれる声を上げた。

それはそうだろう、利敵行為ともとれる作戦で俺達は此処まで帰れたのだから。


「被害も無く済んだのは、お前達の功績じゃぞ!」


ポンと肩を叩かれ、俺とロゼは恐縮する。


「みんな、これで帰れると喜んでいるからな。お前達が誘い出す事に成功したからじゃぞ!」


周りに居る仲間達の眼も、讃えるように俺達に注がれている。


「後はラポム中尉の返事を待つばかりじゃ。

 それまで一休みして英気を養っておくんじゃぞ!」


地獄から生還したかのような軍曹の破顔を観て、俺もそう思っていたんだ。


 基地に帰って一刻の平穏を迎えられる・・・と。





アリエッタは聞き間違えたかと思った。


「何故です!なぜそんな命令を訊かねばならんのです?!」


ラポム中隊長が眦を上げて叫んだ。目の前に立つ上官に向けて。


「軍規は知っておるな?

 貴様に与えた命令を不服とするなら、直ちに更迭するぞ?!」


佐官の参謀が中尉へ命じ直す。


「戦車隊は直ちに後方アーンヘム市街にまで後退せよ。

 一緒に後退して来た歩兵達は師団の殿として現在地に残す。

 我が師団はアーンヘムを経て、部隊再建の為皇都に帰る。

 ・・・以上だ、反問は許さない。直ちに準備に掛れ!」


取り付く島も無いとはこの事か。

一緒に聞いていたアリエッタも、あまりの理不尽さに声を失っていた。


ー こんな馬鹿な話があるものか!

  それでは残された者達に死ねと言うに等しいじゃないの!


今迄共に闘った仲間を置き去りに、自分達だけが逃げ帰ると言われたのだから。


戦線を放棄するのは、戦力差があり過ぎるから判らないでもない。

しかし、全部隊を撤収させるのならまだしも、少数の兵達だけ置き去りにするなんて。


「戦車隊は既に後方へ引き上げたぞ。残っているのはお前達だけだ。

 直ちにこの場より撤退しろ、歩兵達には決して知らせるな。知らせることは許さんからな!」


しかも、置き去りにする兵達には知らせず、自分達だけで逃げるというのだ。


ー こんな事が赦される訳がない。残された者達が知れば、どれ程恨むだろう?


アリエッタは残される者達の中に、最愛の妹が居るのを知っていた。

妹に知らせたかった。妹を一緒に連れて帰ろうと思った。


・・・だが。


「マーキュリア少尉、君はこれより私達と同道して貰うぞ。

 魔砲を撃てる貴重な人材なのだからな、中央軍司令部からも伝達されておる。

 貴官を魔鋼騎士に任ずる為にも、我々と一緒に来て貰うぞ!」


参謀に合図された憲兵が、アリエッタを取り押さえた。


「それでは諸君、アーンヘムでまた会おう」


拘束されたアリエッタは、口を拘束具で塞がれ手錠迄填められて、無理やり連行されていく。


「アリエッタ少尉になにを?!

 なぜだ!なぜこんな理不尽な行動を執るのでありますか!」


ラポム中尉の叫びは、戦車のエンジン音に掻き消されてしまった。





ラポム中隊が師団本部に向かってから、既に2時間が過ぎようとしていた。


「遅いなアリエッタ姉様達・・・」


食後のコーヒーを手に、ロゼが心配気に幕舎のある方を観て呟く。


「まぁ、次の行動を練っておられるんだろ?」


俺は食べかけのパンを置いて、ロゼを見た。

さっきまで帰れるとばかり踏んで燥いでいた姿は、次第に憂いへと変わって行く。


「アリエッタ少尉の事だから、俺達に遠慮してるのかもしれないぞ?」


「なにをよ?アタシ達に遠慮するなんて必要ないでしょ?」


俺は休養を与えられているからと、言ったんだが?


「アタシとロゼの関係に気を遣っているとでも?

 なにかとんでもない思い違いしてるんじゃないの君こそ!」


・・・それはロゼの方じゃないか!


ツーンと横を向いたロゼ。

黙っていれば可愛い女の子なのに・・・残念娘め!


やっと休みが与えられ、気を抜いていた俺達だったが。

やがてとんでもない事が発覚し始める。



「ハスボック軍曹!大変ですっ、野砲大隊が居ません!」


「連隊が何処にも陣を置いていません!」


「どこを探しても傷病者以外は見当たりません!」


辺りの偵察に出ていた者が帰って来て、交々言うには。


「我々以外の部隊は、もうこの辺りには存在していません!」


「馬鹿な・・・それでは儂等は?!」


小隊長の顔が青ざめた。

今迄観た事も無いまでに・・・


「戦車隊は?!ラポム中隊は?」


ロゼが偵察に行った兵に訊き求める。


「それも・・・全車共見当たりません」


全員が声を失った。


俺達は・・・置き去りになった?


「アリエッタ姉様が何も告げずに行く筈が無い!

 姉様はアタシに、この石まで授けてくれたのよ?!」


信じ切れないロゼが叫ぶが。


「確かに静かすぎるとは思うたが・・・まさか儂等だけ残して?!」


有り得ない。

だが、これが現実なんだ。


「軍曹!傷病者を集めて、直ちに撤退にかかるべきです!」


俺は此処に居る仲間達と共に帰ろうと願った。

少しでも早く、出来るだけこの場から遠くへと行こうと思った。


「うむ、直ちに撤収!傷病兵を担架に載せろ!

 ある限りの物資をかき集め、敵に対しても備えるんじゃ!」


軍曹は決断した。

状況としては最悪ともいえる。


撤退した味方は、傷病兵達まで置き去りにしたのだ。

此処に居る仲間は僅かに50名に過ぎない。

頼りにしていた戦車隊にも見放され、敵軍に包囲されようとしていたからだ。


「良いか!これからは自己の判断で行動するんじゃ!

 誰の為でもない、自分の責任で生き延びろ!生きるんじゃぞ!」


軍曹の叫びに、誰もが戸惑い困惑する。


軍に居るというのに、命令を受けずに生きろと命じられたから。

最早軍とは言えず、最早生還もおぼつかず。


「これからは仲間だけが信じられる者と思うんじゃ!

 此処に居る仲間だけで帰らねばならん!生きて帰るだけを心掛けるんじゃ!」


「はい!」


軍曹は先に立って傷病者を担ぎ歩き始めた。

ここに留まって戦う真似を取らず。

味方にも見放された状況で、襲い来る敵から逃げきると。


地獄から生還した筈だった。

最前線から返って来れた筈だったのに。


俺達は味方にも裏切られ、宛ても無く逃げる落人と成り果てた。

燃料を調達できなかった砲戦車が、後どれくらい走っていられるのか。

弾の尽きた砲で、闘えるのか?


傷病兵を連れた小隊は、敵に追い立てられ逃げるしかなかった。


唯、生きて帰る為に。


どうしても許せなかった・・・味方に裏切られて。


生きて帰り裏切った者へ、復讐を果したくて。



俺の傍に立つ少女の眼が曇っていた。


俺と同じ思いになった少女が、俺に言った。


「ルビ・・・あなたと共に復讐したいの。

 君の力になって、奴等を殺してやりたいの・・・」


信じられるのは、想いを同じくする者。


ロゼの瞳は黒く澱んで観えた・・・古の魔女の様に。


戦争は個人の力ではどうにもならないのか?

折角助かったと思っていたのに・・・


これで第2章は終了です。

次の第3章の始まりでは・・・


悲劇の中、世界を変える異能ちからが発動します。


そう。

彼の魔法に因って・・・・


次回 第3章 騎士と魔女 怒りと絶望

君に訪れた悲劇。君は無慈悲すぎる世界に叫ぶ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ