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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第2章 蒼き指輪
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生きる希望

ロゼとルビは砲戦車で一息ついた。


そう、目の前に来てくれた味方を観て・・・

後ろから追いかけて来るBT-7軽戦車の方が足が速い。


俺達の砲戦車も元はと言えば軽戦車を改造した物だったが。


「75ミリを載せている分、車体が重いからな」


後ろを振り返っても観えはしないが、ロゼの罵倒には答えない訳にはいかないだろう?


「そんな事、今更言われなくったって解ってるからっ!

 アタシの言いたいのは、どうして真っ直ぐ逃げないのかっていうだけ!」


そんな事判り切ってるだろ?

真っ直ぐ走っていたら狙いを付けられて、直撃を喰らうだろ?


俺は車体を右に、左に振りながら砲戦車を走らせていた。

敵が真っ直ぐ追いかけて来るのに・・・だ。


「あああーっ、こんな時に砲塔がついてればなぁ!

 後ろに向けて撃てるのにぃっ、逃げ回るだけなんて癪に障るわ!」


「仕方がないだろ前にしか撃てない砲戦車なんだから!

 地雷でも積んでくりゃ良かったかな?!って、地雷?」


自分で答えて、自分で疑問符を付けた。


ー そうだよ、俺達は元来戦車猟兵なんだよな!

  装備された歩兵用の対戦車兵器を以って倒す兵隊なんだ!

  だったら・・・黙って逃げ回るだけじゃない!


思い出したんだ、俺達の仕事を。


「ロゼ!俺の銃を使ってくれ。

 擲弾小銃が側壁に引っ掛けてあるだろ?」


そうだよ、俺は元々戦車猟兵なんだ、敵の戦車を叩く装備を与えられているんだ。


「穿甲擲弾はリュックの中!火炎瓶も1本入っている!」


軽戦車が相手なら、どちらも有効な対戦車兵器だろう。


「ア、アタシが?!・・・よしっやってやるわ!」


戸惑ったものの、黙って逃げ回るのが嫌だったらしく、ロゼは即座に装備へ手を出した。


「良いか?!擲弾には2種類あるんだ。

 頭の黒く塗装されたのが穿甲弾。銀剥の方が榴弾。

 どちらも装填前に信管を切らなきゃ炸裂しないからな!」


「うん、これね・・・信管を切ったわ!

 装填は?このバネを下迄引き下げて・・・筒先から込めるのよね?」


装填方法を教えると、勘の良いロゼは直ぐに操作を覚えたみたいだ。


「照準は勘に頼るのが多いけど。ロゼなら狙えるだろ?」


訊いたけどロゼからの返事は聞こえてこない。

代わりに聞こえたのは、後部ハッチを開けた金属音。

銃で以って、射撃を試みようとしているのが判る。


「穿甲弾なら、車体のどこへ命中させてもダメージを与えられる。

 装甲を焼き切って車内へ飛び込むんだからな!一撃で倒す気なら車体後部の上に墜とせ!」


戦車のウィークポイントの一つ。

エンジンルームを破壊されたら、動力を停められ動く事が出来なくなる。

そこへ落とせって言ったんだ。

この距離から狙えるかは、ロゼの腕次第だが。


「当てるだけでも褒めて貰いたいもんだけど?!」


擲弾銃を構えるロゼが、初めて撃つ。


  バムッ!


追撃して来るBT-7に向けて放たれた弾は・・・


  ガンッ!


見事・・・BT-7の前面装甲に喰いついた。


「やった!当たった!」


右正面に弾が喰い込んで、装甲を焼き切って破壊を車内へ吐き出した。

少量の火炎が車内を襲った・・・勢いついて追いかけていた車体が行き足を鈍らせた。


「やったわよルビ!一両を停止させれた!」


「ホントーに当てるなんて。ロゼっ、天才だな!」


自慢気に話したロゼに、褒め称える俺。

初めて使った銃で、初めて撃った擲弾を当てられるなんて。


俺には出来ないと思った、真面目な話。


「そーよ!アタシは天才なんだからね!ほーっほっほっ!」


直ぐに調子に乗るんだよな・・・ツン娘は。


「その天才様、引き続いて撃って貰えませんかね?」


逃げるのに必死な俺が、ロゼに頼んだ。


「うん、頼まれたらしょうがないわね!」


端から撃つつもりのロゼが、俺に併せて来る。

そうでもしていないと恐怖に負けてしまうと分っているから。


追いかけて来るのは一両だけではない。

仲間が停車して、更に追撃のスピードが増した気がする。


「もう直ぐ夜が明ける!それまで持ち堪えるんだ!」


俺の励ましが届いたか、ロゼが第2弾を撃った。





ロッソアの部隊長は苛立った声で命じていた。

自分達を欺き、2両を破壊した敵へと向かう指揮下の全車に。


「逃がすなよ!たったの一両で攪乱する気だったのだろうがそうはいかんぞ!」


手に持ったマイクに向けて、指令を飛ばす。


「各車、包囲殲滅しろ!逃げ道を与えるな!」


ロッソアの指揮官は明けゆく空からの光に観える、砲戦車の撃滅を命じた。

隊を分散させ、包囲する気でいた。



「アリエッタ少尉から、射撃準備完了と言って来ました!」


無線手がラポム中尉に知らせた。


「よし!砲戦車を救え!撃ち方始め!」


中隊長車から射撃開始が命じられる。

新型車両であるアリエッタ少尉の75ミリ砲が、いの一番で射撃を開始した。


「少尉に続け!フォイアっ!」


ラポム中尉の乗る3号戦車F型の50ミリ砲が射撃を開始した。

5人乗りの3号戦車の方が、アリエッタ少尉の新型車両より射撃間隔時間さいそうてんが短い。


新型とはいえ、4人乗りの車体を持つアリエッタ少尉のストルモヴィク戦車は、

車長が砲手を兼ねていたから、射撃する度に周りの確認をしなければならなかった。


ラポム中尉達が乗る3号は、車長は独立した配置であり、砲手を兼ねることはない。

各員が各々の持ち場を的確に務める、合理的な配置であり無駄の無い射撃を続けられた。


対するロッソアのBT-7もT-28も、乗員は4名でありアリエッタ少尉の射撃時間に似たような物だった。


突然の射撃に対応が遅れたBT-7隊は軽戦車故に装甲が薄く、フェアリアの50ミリ砲の前に次々と撃破擱座されていった。





陽が昇り始める前の払暁。

薄くなり始めた夜闇の中を逃げ回っていた俺達の前に、それは飛んで来たんだ。


「前方から曳光弾!来てくれたぞロゼ!」


後ろに向けて応戦している相棒に教えた。


「やったねルビ!任務が完了したのね!」


歓喜の叫びが背中から聞こえた。


でも、スピードを緩めずそのまま味方戦車隊に向かって走り続ける。


「いや、まだだよ。奴等を叩いた後の方が問題だろ?」


単に敵戦車を湧出するだけでは無い。

本当の目的はこれからなんだと。


「そうね、後はアリエッタ姉様達が、どこまで引き寄せられるかにかかっているんだものね」


応戦を辞めたロゼが後部扉を閉めて砲手席に戻って来た。


「そうさ、俺達はこのまま師団司令部にまで退きあげる。

 その時、司令部がどうするかに全てが賭けられているんだよな」


ロゼが操縦席の背もたれに手を置いて頷いて来る。


「そう、この戦場から退きあげるか、それとも・・・

 それとも全員に死ねと命じて来るか・・・それ次第ね」


ロゼの心配は、師団司令部が無謀な命令を繰り返さないかという話。


「そうだな、最悪の場合・・・命令を下した奴等に反旗を翻すかもしれないな」


後方の敵戦車から炎が吹き上がる。

味方の砲撃を喰らい、数両が忽ちの内に行動不能となっていた。


「後は。アリエッタ少尉達に任せておこう・・・」


「うん、でも姉様達が巧く惹き付けてくれるかしら?」


前方に観えた味方戦車隊を観て、ロゼが心配そうな顔になる。


「叩き過ぎたら懼れて攻撃してこなくなっちゃわないかしら?」


ロゼは味方が苦戦するとは思っていなかった。

アリエッタが居るから?魔砲戦車が居るから?

壊れていたにしろ、姉が負ける筈が無いと思っているのか。


「心配しなくても直ぐに撤退する手筈だったろ?」


「そうだったわ。忘れてた・・・」


ポンと手を打ったロゼに、俺は笑い掛けて。


「それなら俺達も急がなきゃ。

 軍曹達も首を長くして待ってくれている筈だから。

 俺達戦車猟兵の帰る場所は、俺達の隊なんだから」


生きて帰ると約束したから。

帰ってやることが一杯あるのだから。


「そうね、帰ったら。

 駐屯地に帰ったら。いの一番でやらなきゃ・・・手紙を書かなきゃ!」


ロゼは手紙を書くんだと言った。

その宛先が誰で、何を告げる為に書くのか・・・


「ラブレターか?アリエッタ少尉に?」


俺の軽口に、どぎまぎしたロゼの声が返って来る。


「君には関係ないでしょ!アタシがお母様に報告するのを邪魔する権利があるの?!」


「あ、いや。そこまで怒らなくても・・・」


ツン娘が現れたようだ。


「だいたいねぇ!君の事も知らせなきゃいけないし、アリエッタ姉様に頂いたネックレスの件も知らせたいの!」


・・・なんで俺のことまで教えなきゃならねぇんだ?!

突っ込みたかったが、ロゼの事だ。

またねちねちと言い返しかねない・・・


俺とロゼは、もう生きて帰った気分になっていた。

まさか、師団の決断するのが最悪の方になるとは思いもよらず。


お化け大作戦が成功の内に、終わるんだと思い込んでいたんだ。

作戦は見事に成功裏に終った。

ルビとロゼはほっと一息ついたのだが?!


何かが起きてしまう。

そう、折角辿り着いたというのに・・・暗転する世界。


次回 おきざり

世界が崩れていくような感覚に堕ちる、信じられない事実を突きつけられて・・・

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