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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第2章 蒼き指輪
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届かぬ想い

挿絵(By みてみん)


俺達は生きて戻れた・・・だけど。

だけど、身替りになってしまうのか?!

仲間達は俺達を喜んで迎えてくれた。


「いやもうな、駄目かと思うたんじゃ!」


ハスボック小隊長が肩を叩いて喜んでくれた。


「流石というか、若けぇの。不死身っぷりが半端ないのぅ」


それは嫌味じゃないのか?

まぁ。口が悪い人だからしょうがねぇか。


「まさかやられついでにその娘っ子と、いちゃつくとは思わんかったがのぅ?」


・・・は?!


ロゼのはだけた上着姿を思い出したのか、要らない一言を吹き出された。


「ツンッ!」


誤解を招いたのは、俺がロゼの訴えを無視したからかもしれないが。

いつものツンに戻ったロゼが取り繕う暇もなく、俺を蔑んだ目で観ている。


「まぁ、無事なんだから良しとしよう、はっはっは!」


軍曹は大笑い。


「いやあの。勘違いされてますよ、なぁロゼ?」


言い返して助けを相棒に求めるのだが。


「アタシに伸し掛かったりするからよ、軍曹達の前なのに・・・ツーンッ!」


ロゼの方が取り付く島もなかったか。

あれはなぁ、ロゼを護ったからだろ?戦車から飛び出したんだぜ?

その結果は確かにロゼに伸し掛かる事になったんだけどな。


辿り着いてから教えられたのだが。

軍曹達は俺とロゼをずっと観てくれていたらしい。

敵を倒しては喝采を上げ、敵と対峙したら緊張して・・・



「もうこうなれば奥の手を使うしか無かろう。

 皆よく聞け、儂等は此処から逃げることにする。

 他の陣地に移動するように見せかけ、味方戦車と共に撤退するんじゃ」


軍曹が決断を下した。

他の陣地に未だ居る味方へも知らせつつ、撤退するのだと。


師団司令部が、いの一番に逃げ出したこの戦場から。

誰が責任を執るのか、誰のせいで防衛作戦がとん挫したのか。

そして、理不尽過ぎる戦況を誰の所為だと質す為にも。


「儂は絶望などせん。儂等が生きている限りは、もう一度闘えるのじゃ。

 生き残れば次が来る、生きていさえすれば敵に一泡吹かせられるんじゃ」


軍曹はこの闘いだけでは無いという。

生きて戻れれば、必ずチャンスが来るのだという。


「良いか?!生きて帰るんじゃ。

 どれほど辛い仕打ちを受けても、隠忍自重して、捲土重来を量るんじゃぞ!」


軍曹は10名の生き残りに命じる。


「ここより帰還を果す!全員撤退じゃ、師団本部が居る場所に向けて転進!」


俺とロゼを含めたみんなで動き始めた。

後方の味方へと、歩みながらも陣地に居る仲間を加えて。


「味方戦車隊にも知らせるんじゃ、防衛線は破られたのじゃと!」


敵の本隊が追いかけて来る前に、味方を少しでも退きあげさせたかった。

少しでも戦力を残させて、新たな防御陣地を造る為にも。


これが一介の軍曹が執れた、最善の行為だと俺は感じた。

軍に在っては考えもつかない行為だが・・・


「小隊長、戦車隊の1両が退き下がって来ません!」


不意に指を差されて教えられた。


「なんじゃと?!」


8両ほどの戦車が俺達と後退し始めていたが、一両だけ後退してこない車輛が観える。

その車両とは?!


「まさか?!アリエッタ少尉か?!」


見覚えのある中戦車が、敵に砲塔を向けている。


「姉さん・・・まさか、殿しんがりを?」


ロゼにも分ったのだろう。


「危険だな?敵を喰い止めれる筈もないのに」


後退しながらというのなら、殿の意味もある。

だが、その中戦車は紋章を浮かばせたまま、敵の前で立ちはだかっている。

後退する様子も見せず、敵の的になるというのに。


「何とか彼女達を撤退させられませんか?」


質した俺に、ハスボック軍曹が首を振る。


「無線機があれば。話す事も出来るんじゃがのぅ」


肩を竦める軍曹の言葉に、俺はヒントを得た。

差し当たって無線機があるとすれば・・・


「小隊長っ、俺は戦車隊の人に使わせて貰いに行きます!」


「なるほど。その手があったか!」


軍曹も頷いてくれた。


「ルビっ!アタシも行くわ!」


姉の身を案じたロゼに頷き、一番近くに居る車両へと駆けた。

8両居る戦車隊の中で最も俺達に近かった中戦車へと。


歩兵のスピードに合わせて後退する車両の無線手側、左側面前方に駆け寄った俺が呼びかける。


「無線機を貸していただけませんか?殿の車両と交信したいのですが?!」


ハッチが開けられ、車長がキューポラから出てくる。


「なんだお前達は?歩兵には関係が無かろう?」


襟元に輝く階級章は、中尉を表す金星2個。

その車長が俺達を観て駄目だと言って来る。


「自分よりこのに。ロゼッタに姉と話させてやっては貰えませんか?!」


「アリエッタ少尉は私の姉なのですっ、お願いですから一言だけでも・・・」


ロゼの言葉に俺は本心を知った。

憎み合っていると言っていたのは本心からでは無いのだと。

いがみ合ってなどいないのだと。

ロゼは姉を救いたかっただけだと・・・

魔法使いとしてではなく、姉を自分が救いたかっただけだと。


「アリエッタの妹か・・・だったら改心させられるか?」


金髪の中尉が訊ねると。


「早く乗れ!アリエッタ少尉がやられてしまう前に!」


何かを喉頭マイクロフォンで告げた中尉が、ロゼを車体に招く。


「早く、ロゼ!乗るんだ!」


俺がロゼを押して車体に登らせる。

キューポラの中尉が、ヘッドホンとマイクを外してロゼへ手渡す。


「無線は繋がっている。アリエッタ少尉に戻って来いと言うんだ!」


どうやらこの中尉も、後退する事を薦めてみたようだが。


「姉さん!聴こえてるのなら返事して!ロゼッタよアリエッタ姉さん!」


マイクに話しかけたロゼに、殿の車両からの声が返ってきた。


「「ロゼ?!どこから話しかけているの?」」


アリエッタの声はいつも通りに落ち着き払っている。

死を覚悟した者だなんて感じられない。


「姉さん!直ぐに引き返して、みなと共に帰りましょう」


ロゼは撤退を勧告するのだが。


「「いいえ、それは出来ない。

 私達は帰る事が出来なくなってるの・・・機械が暴走しているから」」


「え?!暴走って?」


思わずロゼが戦車中尉を観る。


「アリエッタ少尉の車両には、魔鋼機械が着いているのだが。

 それが先の戦闘で壊れてしまったらしいのだよ。

 もう思い通りには動かせないのだと言っていたのだが・・・」


中尉の言葉に、ロゼの表情がみるみる青ざめていく。


「じゃ、じゃあっ!直ぐに脱出して!車両を放棄して脱出すれば?!」


搭乗員だけでも救出する方法があるのでは?

ロゼも思った事だろう。しかし、返って来たのは。


「「駄目なの、ハッチも・・・操縦装置も。

 何もかも私達の思い通りにはいかなくなってるの。

 魔鋼の暴走で、脱出も叶わなくなってしまったの・・・

 使えるのは無線機と・・・車載された銃のみ」」


「そんな・・・嘘?!」


それでは搭乗員の命は、車両に託されたとも言える。

闘って破壊されねば、停めれないとでも言うのか?


「魔鋼機械を破壊すれば?機械を停められれば?」


銃が使えるのなら、機械を強制的に止めれないのかと。


「「それが出来ないから。

  私達の魔鋼機械は闇に捕えられたの、私が闇に身を任せた為に。

  ロゼが言っていた通りになってしまったのよ・・・」」


銃を以ってしても?

どんな状態なのか、銃で破壊出来なくなっているなんて?


「「ロゼ、お母様はこうなると分ってられたのかしら?

  私の心が闇に堕ちると・・・搭乗員も巻き添えにして」」


「姉さん?!」


車内の状況が判らない。

ロゼは言葉を無くして聞き入っていた。


「「みんな、車体に獲り込まれてしまった。

  私も車体の一部になってしまっているの、機械から出された闇に呑まれて。

  私が闇に負けてしまったから・・・罪の意識を無くしたから・・・」」


「ね・・・え・・・さ・・・ま・・・?」


ロゼの顔から血の気が退いた。

失神してしまいそうにも観える程。


「「ロゼ、もう私達は帰れないの。

  この車体が滅ぶ時、私達も滅び去る。

  だけども、それは肉体の開放でもあるの。

  闇に堕ちる事になるけど、この苦しみからは逃れられる・・・

  だから・・・このまま。お願いだから・・・このまま・・・

  私達に死を与えて!」」


「わ・・・か・・・り・・・ま・・・し・・・た」


絶望がロゼを支配した。

助けられないと分って、心が壊れたかのように。


「アリエッタ姉様は、最早この世には居ない。

 あなたは私とお母様の言いつけを守らなかった・・・だから。

 だからっ、神様が罰を与えられたのよ!身を以って知ればいいんだわ!」


真っ青な顔でロゼが訣別する。

自分が助けようとした姉が、目の前で死に逝くのをどうする事も出来ないと知らされて。

張り詰めた心までも微塵に壊されて。


「さよならアリエッタ。あなたの魂は悪魔に召される事でしょう。

 地獄に行ったら・・・待っているが良いわ、妹が逢いに来るのを・・・」


これ以上話す事は無いというのか、救う事を放棄したのか。

ロゼは無線機を中尉に返すと、車体から降りて。


「中尉殿、彼女達はもう戻っては来れないでしょう。

 我々は彼女達の冥福を祈り、早急に退きあげるのが得策と思います」


謝意の代わりに敬礼を贈った。



ロゼの顔に浮かんで観えたのは、今迄観て来たどの表情よりも深刻で暗く見えた。


「おいロゼ?!どう言って来たんだよ?なぜ諦めたんだ?」


話しが聞こえなかった俺が、死人のような真っ青な顔をしているロゼに訊いた。


「君は知らなくて良い事だから。アリエッタはもう死んだんだから」


「えっ?!アリエッタ少尉が・・・死んだって?」


戦車から離れて歩き始めたロゼに訊いたが。


「そう、アリエッタという姉は。既に死んでいる・・・死んだのよ!」


ロゼが大声で俺を睨んだ。


「あれほど・・・言ったのに。

 戦車兵にならないでってお母様も言ったのに。

 アリエッタは誓いを破ったの、魔法を、異能ちからを戦争に使ってしまったのよ!

 帰る事も出来ない・・・使ってはならない力を使ったから。

 神様はお怒りになって、姉さんを闇へ追放したんだわ!」


真っ青な顔で俺を睨んで叫んでいた。


それがどいう事を意味しているのか、俺にはさっぱり分からなかった。

戦車兵が闘うのが、どうして闇に堕ちる事になるのか。

魔鋼の機械を使う事が、どんな結末を呼ぶというのか。


魔砲の異能ちからが最期を迎える時、その者が辿る行先を知りはしなかったから。


俺は眼が死んでしまったロゼと、

殿の戦車に乗るアリエッタ少尉との仲に想いを馳せることも出来ないでいた。


ロゼの顔は見たこともないくらいに暗く悲痛に見えた。


アリエッタを救えない。

姉を見殺しにする妹の心はいかばかりか?

その時、俺の中で何かが目覚めた・・・


次回 魔法の指輪

君に秘められたのは異能ちからという奇跡を呼ぶ魔法!

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