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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第2章 蒼き指輪
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クロスカウンター

ロゼッタが射撃する。

彼女に貸した魔法の指輪・・・


蒼きリングが輝く!!

500メートル先の動標的を短砲身戦車砲で捉えるのが、如何に困難なのか。


距離が離れれば敵の未来位置を予測し、そこに間違いなく弾を放てられるか。

目標が予測に反した動きを執っただけで当たらない。

必中を期せば、接近する事が必要だった。


普通の人が砲撃するのなら。



車体を戦車壕に隠し、敵から発見される前に攻撃するのが弱者の鉄則。

俺達の砲戦車には敵と撃ち合うだけの機動力も装甲も無かったのだから。


それが解っているたからこそ、ロゼはノエルのリングを借りたのだろう。

自分に秘められた魔砲力に賭けるために・・・だ。



(( ズドンッ! ))


重い砲撃音と共に徹甲弾が飛び出し、砲煙を吹き出した。

低初速の弾が紅い火を吐きながら目標の軽戦車に飛んだ。


停車して味方陣地を偵察していたBT-7の左転輪が噴き跳んだ。


と、同時に車内から搭乗者がハッチを開けて飛び出して来る。

3人だけ・・・4人乗りのBT-7から。


「撃破!軽戦車炎上っ!」


俺は次弾を押し込みながら、観測した敵状を伝える。


ロゼにも分っていた筈だ、自分が敵に与えられた損害を。


「アタシも・・・いつかは・・・同じ目に遭うんだろうな」


くぐもった声が教えたのは、逃げ出せなかった敵兵の運命と自分を重ね合わせている。


「いいや、ロゼは生きて帰るんだ。

 故郷へと、待っている人の元へと・・・な」


死ぬ事を前提にしたロゼに、俺が言いたかったのは。


「死んでたまるかって、思わなきゃ。こんな地獄の中から帰らなきゃいけないんだ!

 ロゼや俺達には、やらなきゃいけない事が山ほどある筈だろ?」


罪の意識だけでも今は払拭しなければ、闘い抜けないだろう?

罪の意識を押し殺してでも撃たなきゃ、当たるモノも外れちゃうだろう?


ロゼが頷き、再び照準器に目を添える。


「うん、ルビの指輪もそう教えて来るから・・・アタシ達は間違っちゃいないんだって」


ロゼが気になる一言を溢した。


ー ノエルの指輪が・・・だって?

  指輪から教えられたって?なにを教えて来るって?


俺が訊き返そうと口を開く前に、ロゼが敵を再び捉えた。


「次っ、あのT-28!」


稜線を越えて来た中戦車を目標に、砲撃すると言った。

その声に身体が勝手に砲尾から離れる。


っ!」


射撃ペダルが踏み込まれ、捉えた目標に砲弾が放たれる。


俺とロゼはその時まで、確かに狩人だった。

隠れて獲物を狩る、猟師だったんだ。


だけど・・・



T-28に命中光が瞬いた。

確実に捉えていた、命中したのだから。


「あっ?!弾かれた!」


ロゼが絶叫し、俺を振り向いた。


「弾が弾かれたのっ、次弾を早く!」


傾斜部分にでも当たってしまったのか、75ミリ砲弾が滑ってしまった。

敵の装甲板に当たった筈の弾が、弾け飛んで空中に飛び上がった。

軽戦車の薄い装甲なら喰い込んだであろう弾は、幾分か厚い装甲には弾かれてしまったのだ。


俺達は戦車戦という物を理解しきれていなかったんだ。

角度の付いた装甲と、自らの発射角で装甲厚が増大するのを知らなかったのだ。


ロゼの叫びに俺は弾を込めた。

弾を込め終わって、目標のT-28に目を据えたんだ。


ー あれは?どうする気なんだろう?


思考が停まる。

今の今迄、忘れていた訳じゃないが。


ー あの砲手は、俺達が撃ったのに気が付いたんだ?


目に飛び込んで来たのは獲物だった者が、狩人に牙を剥いて襲い掛かる瞬間。

装甲で護られたT-28中戦車の砲塔が、こちらに砲身を向けて来たのが判った。


さっきの弾が弾かれた様子から、次に撃ったとしても撃破出来るかどうかも判らない。

逆に、敵の弾が当てられたら・・・


「ロゼ!逃げるんだ!早くっ!」


待っ正面からお互いに撃ち合ったら・・・負けるのはこちらなのだから。


ロゼは歯を食いしばり射撃しようと席から離れない。


ー 駄目だ!ロゼの身体は砲の一部となっている!


狙った的を捉えている狩人には、善くある話だという。

指が銃の一部になる・・・トリガーを引いてしまうまで身体を乗っ取られてしまう事が。


躰が勝手に砲手席に飛ぶ。


(( ズッダンッ! ))


射撃音が轟いたと同時に、俺がロゼを掴んで飛び出していたんだ。


(( ガシッ! ))


射撃を終えた砲尾が俺のどこかに当たったが、そんな事をいちいち気に懸けている余裕なんて無かった。

ロゼを掴んだまま、転げるように車外へと飛び出した。

その瞬間の事だ。



    バッガァーン! 


後ろから衝撃が押し寄せた。

後部ハッチから車外へ逃げ出した俺とロゼに、エンジンまで貫かれた砲戦車の爆発が押し寄せたんだ。



「うっ・・・ロゼ?ロゼ・・・大丈夫か?」


俺の下敷きになって蹲ったままのロゼに訊いた。


「あ、あああっ?!アタシ達の砲戦車が?!」


驚く声に振り返れば、戦車はエンジンを撃ち抜かれ火災を発生させている。

もう、動かす事も闘う事も出来ない。


振り向いてもう一つ分かった事がある。

ロゼの放った徹甲弾に因りT-28もまた、動きを停めていた。

薄く・・・煙を各部の穴から吹き出して。


奴もまた、これ以上闘う事は出来ないようだ。


ほっと気が緩んだ時、背中と腰に激痛が走った。

どうやら射撃の際、後座した砲尾にぶつかったようだ。


「痛たたた。ぶっつけちまったか」


ぶつけただけで済んだのは幸いだったのだろう。

下手をすれば、骨折してたかもしれない。


「ルビ・・・どこかやられたの?」


俺が背中を押さえて痛がっていると、ロゼが窪地に凭れて訊いて来た。


「アタシ・・・またルビに助けられちゃった・・・ごめん」


切れ切れに謝って来るロゼの姿を観て。


「ロゼこそ?どこか傷めたのか?!」


凭れ掛かったロゼの上着は、ボタンが外れ襟元が破け・・・・


「胸が・・・ね。少し痛いの」


虚ろになった瞳で俺へ話して来る。


挿絵(By みてみん)


「ルビに謝らなきゃいけない。

 折角指輪を貸して貰ったのに、役に立てなかったから。

 ルビにまた助けて貰って・・・ルビに迷惑をかけちゃった」


「何言ってんだよロゼ?俺とロゼは相棒だろう?」


座り込んだままのロゼが顔を逸らす。


「相棒なら助けるのは当たり前の事だろ?

 いいやその前に、人として当然のことをしただけだよ?」


俺から聞きたいのはそんな言葉では無かったのか、ロゼは何も言わずに俯いている。


ロゼが何を求めていたのか、どう俺から話しかけて欲しかったのか。

その時には解らなかった、解ろうともしていなかったんだ。


戦闘中だったから、ロゼの心にまで配慮できる余裕が無かった。

持ち場を失い、これからどうするべきかだけを考えていたんだ。


だって、敵はもう目の前にまで迫っていたんだぜ?


<軍曹達の待っている塹壕に行こう>


戦車壕から味方方向に30メートルも行けば、軍曹達に合流出来る。

そう考えた俺は、背中の痛みを押さえてロゼを促した。


「立てるかロゼ?ここから軍曹達がいる塹壕に戻ろう!」


促した俺を観たロゼが微かに頷くのだが、立ち上がろうとせずに言って来るのは。


「ルビ、これを返しておきたいの。君の物だから・・・今の内に返しておきたい」


指輪を外して俺に差し出して来た。


「アタシには指輪を填めても力が出せないから。

 この石の魔法力を引き出せなかったから・・・ごめん」


自分から借りたのに。

貸して貰った魔法の指輪を、使えなかった自分を責めているのか。


「ロゼが悪いわけじゃないだろう?

 偶々なのかもしれないし、ロゼの異能ちからが原因じゃないかもしれないだろ?」


俺は謝られる意味が分からなかった。

ロゼは敵を2両も目の前で倒したんだから。

魔法のリングのおかげかとも思っていたんだが。


「違うの。君の指輪が話しかけて来たのよ。

 リングは持ち主にしか使いこなせないと。

 本当の持ち主にしか、全ての力は発揮できないんだって・・・」


ロゼが俺を招き寄せ、手に取らせてから。


「この指輪には確かに不思議な力が備わっている。

 戦いに使うことの出来る力があるみたい。

 でも、それは本当に持つべき人によってでしか、使う事が出来ないの」


だから・・・と、返された。


俺の手に指輪リングが載せられる、ロゼの指から。



  ポウッ



俺の中で、何かが燈った。

今迄感じた事も無い、熱い何かが。


「ルビ、何かを感じた?誰かが話しかけて来ない?

 アタシには聞こえたのよ、誰かが返してって言う声が。

 リングに宿る娘からの声が・・・君に返して欲しいって言って来たの」


指輪を手にした瞬間、俺の記憶に蘇ったのは。


「アイツか・・・墓所に居やがった謎の娘か」


気を失った時に観た夢で。

現れた者から告げられたんだ。


・・・俺に何かを授けると・・・


ノエルの指輪にとは言っていなかったが。


「墓所?!ルビは宿る娘と会っていたの?」


いいや、と。俺が首を振って返し、


「霧の墓所で言ったんだよ。俺に何かを授けるんだと。

 この指輪にとは言わなかったけど、何かを授けるんだって。

 俺が気絶していた時に観た、夢の中で・・・だよ?」


だから指輪の中に居る娘とは会ってはいないし、声を聞いた訳でもない。

今だってそうだ。何かを感じたが、声なんて聴こえちゃいない。



ロゼは虚ろになっていた時に、話しかけられたんだろうか?

今のロゼは普通に戻っている。


胸が痛いと言っていたのは、魔法の指輪からの言葉に因ってなのか。

何処にも傷が見当たらないし、今は痛そうにしていない。


おまけに、はだけさせた上着にも気付いていないようだけど。


・・・ロゼって着痩せするタイプらしいな。どうでもいいけど。




「魔法についてはこの際後回しにしようぜ。

 今は軍曹達と合流する方が先決だ!時間も無いしな」


敵の出方を観た俺が、まだ何か言いたそうにしているロゼの手を曳く。


「あ、ちょっと?!ちょっと待ってよ?!」


手を繋いだ俺が、慌てたロゼを無視して早々に走り始める。


「待ってよ!ボタン位留めさせてよぉ?!」


・・・やっと気が付いたか。


だが、俺は走るのを辞めない。

掴んだ手を離す気にはなれなかった。


「みんなの所にこんな姿で行ったら、変でしょっ怪しいでしょ!」


別にこの際関係ないだろ?

喉迄出かかった嫌味を呑んで、俺は30メートルを全速で駆け抜けた。


軍曹達の居る場所へ。

俺達が帰れる唯一つの、仲間達の待つ場所へと。


違和感なく、俺の右手の人差し指に填めることの出来た指輪リング


ロゼの細い指に合っていた指輪のサイズが、違和感なく俺の人差し指に填められた事も。


魔法使いでもない筈の俺が填めているのに。

 

・・・蒼く輝いているを俺達は気付かなかった。




破壊されてしまった砲戦車。

それが間違いの始まりだと気がついていなかった。


ルビもロゼも、生き残れた事を喜んでいたのだが・・・・


次回 届かぬ想い

君は心を貶めてしまうのか?たった一人をも救えない苛立ちのために・・・

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