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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第2章 蒼き指輪
18/133

霧中<むちゅう>

ルビ・・・

彼の名は狼を意味する。


ルビナス・・・

彼の名には隠された秘密があった・・・

鋼鉄の嵐が吹き荒れる。


鋼の弾があられの如く飛び来る。


ここは地の底か、はたまた地獄なのか・・・




地に這い蹲って砲撃を避けた。

身を縮めて嵐が止むのを待った。


敵の支援砲撃が止む時、再びこの地は地獄となる。



喚声が沸き起こった。

そこ彼処で。


それを合図に敵味方入り交えての白兵戦が始った。

銃を撃つ者、銃先に剣を番える者。


敵も味方も目の前に居る敵目掛けて突進した。




夜が完全に明け放たれる前、ロッソア軍は攻勢に出た。

昨日の失敗に懲りたのか、夜襲に因り俺達の眠りを妨げてから襲い掛かって来た。


不意打ちの夜襲を喰らった仲間達は、司令部要員達と同じく陣地を放棄した。

残されたのは夜襲を知らなかった者達のみ。


殆どが前方の陣地に居た者達ばかりだった。


そう・・・味方の支援がある者とばかり思い込んでいた、最前列の陣地に配置された者達だ。


味方の支援砲撃が飛んでこないと知ったロッソア軍は、戦車よりも歩兵を先に立てて突っ込んで来た。

昨日の失敗を学んだのか、戦車を歩兵の支援に充てたようだ。


丘陵地帯を攻略するには、合理的判断だろう。


稜線を歩兵で奪い、敵の砲撃から戦車を温存するのは、正しい判断ともいえる。


敵もやはり、歩兵を使い捨ての道具にしか考えていない証拠でもあるのだが。





「「ウラー! ウラァー!」」


ロッソアの兵隊たちが丘を越えて射程内に入って来た。


「味方の迫撃砲陣地が射撃を開始したわ!」


ロゼが座席に降り積もった砂を払い除けて教えて来る。


「まだ、敵の戦車隊は現れないか?」


稜線からは歩兵の姿しか現れて来ない。



なんとか敵の砲撃からも破壊されずに済んでいた砲戦車に戻り、俺達は射撃準備に掛っていた。


「残された弾は徹甲弾だけだぞ。しかも残り5発しかない!」


装填手配置で俺が叫ぶと、ロゼは頷いて。


「5発を撃ち終えたら・・・どうしよう?」


決まり切った事をロゼが訊いて来た。


「俺と一緒に奴等から離れるんだ、軍曹にもそう言われたじゃないか」


敵の攻撃が判った時、小隊長のハスボック軍曹から言われていたんだ。

俺達の車両が使えなかったら、何も考えずに後方へさがれと。


俺はその時の為に、猟兵銃(=穿甲小銃)を2丁載せていた。

勿論、俺とロゼが使う為にだ。


「もう駄目だと俺が判断したら・・・ロゼ。

 二人だけでも後方の味方まで逃げるぞ、いいな?!」


促されたロゼはびっくりしたように俺を視てから、指輪を着けた手を胸に添え。


「うん、ルビがそう言うのなら・・・任せるから」


何時になく大人しい声でロゼが答えて来た。

俺が貸した指輪に何かを願うのか、大事そうに胸に押し当てている。


その横顔は、ノエルが最期の日に見せた横顔と瓜二つに観えた。


敵が稜線を越えて来るのが何時なのか。

味方の支援は期待出来ないのか?

俺はロゼから眼を放し、味方後方に巻き上がった砂煙に気付いた。

砂煙の下に豆粒位に観える物が・・・


ー あれは。確かアリエッタ少尉の・・・


前に一度知った車両が、こちらへ向けて全速で走って来るのが観える。


「なぁ、ロゼ・・・」


「ねぇ、ルビ・・・」


俺達はお互い同時に話しかけた。


「あ、なんだよ?」


「なによ?」


目が合うと、言葉に詰まってしまった。


俺はロゼに何を訊こうとしていたんだろ?

ロゼは俺に何を言いたかったのだろう?


「いや、俺は後で良い。ロゼこそ何を俺に言いたかったんだよ?」


促した俺を視るロゼの瞳は、魔砲でも使っているのか蒼く輝いて観える。


「あ、あの・・・さ。大したことじゃないのよ。

 大したことじゃ・・・ないから・・・その・・・」


急に言い難そうに俯いたロゼ・・・の、左舷装甲板の上に観えていた丘に。


「危ない!ロゼっ、かがめッ!」


咄嗟に俺は砲手席に飛びかかる。


「えっ?!なに?」


逆に俺を観ようと顔を挙げやがった!


「馬鹿ッ!」


飛び掛かった俺にロゼが慌てる。


(( ガンッ! ))


側面の装甲は、小銃弾を防ぐだけの厚さも無かった。

それを身を以って知る事になった。


何かが俺の頭をぶん殴りやがった。

ロゼの奴が飛びかかった俺を殴ったのかと思ったが。


「痛たぁ・・・ルビ?

 ルビ?!・・・ちょっと!なに人の身体に乗っかってるの・・・よ?!」


ロゼの声が聞こえる。

良かった、無事のようだ・・・俺は頭の片隅でそう思ったんだ。


遠退く意識の中で。

頭が重く、意識が喪われていく中で・・・・


「ルッ、ルビ?!どこかやられたの?ねぇッ、ちょっと?!」


もう目が開けていられない・・・俺はこれで死んじまうのか?


「ルビ?!あ・・・あああっ?!嫌ッ嫌よっ!嘘でしょ?!」


ロゼが左砲塔側面に開いた小さな穴に気が付いた。

俺が弾に当たったんだと思い込んだようだ。


「すまんなロゼ、少し・・・眠らせてくれ」


頭を掠めたんだと思う、実際に当たったのなら即死だったろう。

爆風や衝撃波で意識を奪われ脳震盪になるのは、よくある事だ。

まぁ、それが理由で死ぬ奴も居るけどな。


耳にロゼの声が入っていたのも、やがて聞こえなくなった。

気絶する時ロゼが叫んだ声が、俺を三途の川から退き返らせた。


「ルビ!しっかりしてよルビナス!

 こんな所で勝手にくたばっちゃ駄目なんだからっ!

 君の復讐は誰が果たすというの?君を喪っちゃったら誰を憎めばいいのよ?!」


ー ロゼ・・・お前まで復讐に手を染めなくて良いんだぜ?


気を失う瞬間、俺は相棒ロゼの声に心を残した。






霞んだ意識が観ているのは、どこかの霧の中。

そこは俺が観た事のある特別の場所でもあった・・・


「俺はとうとうここに来ちまった・・・親爺、母さん・・・ノエル」


俺の家に伝わる、禁断の聖地。

フェアリアの森の中。

俺達の祖先が眠る、<月夜ルナ騎士ナイト>一族が眠る墓地。


霧に包まれたそこで眠るのは、俺の祖先であり神代かみよから引き継がれた異能の魂達。


「ここに来るって事は。俺もとうとう死んじまったのか?」


違うと分っている。死んだ筈じゃないことくらい。


「なぜ俺をここに呼んだ?誰が俺を死に場所に連れて来た?」


霧の中に墓所が観えて来た。

いや、観えて来たというのは間違いだ。

俺の魂が近寄らされている、誰かに呼びつけられているんだ。


「爺さんか?親爺たちなのか?」


墓所の影に誰かが立っているのが判る。


「ルビナス・・・ルビ・・・」


ロゼの声が俺を呼んだ。

ロゼと同じ姿の少女が立っていた。


「ノエル・・・お前が俺を呼んだのか?」


ノエルだと思って訊いたが、少女は首を振った。

では、誰だというのか?


「私はこの墓所の番人、我が一族の守護神に託されし者。

 ルビナス、あなたを呼んだのは穢されし者を救わんが為」


ノエルの声で、ソイツが言いやがるんだ。


「最早お前にしか頼る事が出来ぬ。

 お前に与えられた魔砲ちからでしか、救い出せぬのだ」


誰を?

俺が訊き返そうとしたんだが、全く声が出せなくなっていた。


「墓所にお前の家族は来ておらぬ。未だどこかを彷徨っておるようだ。

 お前は親兄妹おやきょうだいを救わねばならん。

 彷徨える魂をここに連れて来なければならない・・・」


どうやって?いや、その前にノエル達の魂はどうなったと言うんだ?


「よいかルビナス。我が一族の異能をそなたにも授けよう。

 月夜の騎士として目覚め、一族の元へ3人の魂を連れて来るのだ」


答えろよ!ノエル達がどうなったと言うんだ?ロッソア軍に殺されたんだろ?


「魂の帰還が叶わねば、3人の魂が此処に戻らねば。

 やがて悪魔に因って滅びに使われるだろう・・・永劫に苦しみ抜く事になるだろう」


親爺や母さん、それにノエルが?

何故だ?どうして死んだ者にまで苦しみが与えられなきゃならない?


「よいか我が子孫にして魔砲の騎士よ。

 3人の魂を救い出し、清浄なる者へ戻すのだ・・・この墓所に連れて来るのだ」


だから!どうやって魂を救えば良いんだよ?!

俺に何をさせようとしているんだよ?!


大神おおかみの名を授けられし者よ。

 お前は仲間達の元へ戻り、闘うのだ。

 呪われし者達を打ち破り、我が一族の元へ帰って来るのだ」


少女の姿が霧と中へと消えて行く。

墓所もだんだん離れ、俺の意識がどこかへと退いて行った。


「待てよ!ノエル達の魂がどこに居ると言うんだ?

 俺に魔砲ちからを授けるだって?

 どんな力なんだ?その力で救い出せるのか?」


俺は消えて行った少女へ向けて叫んでいた。

ノエルの影に叫んでいたんだ。


喪われた家族がどこに居るのかと・・・どこに居てどうなってしまったのかと。

そして、俺はこれからどうすべきなのかと。





<ノエル>が、俺を揺さぶっている・・・


「君が死んじゃったら、アタシは誰を恨めば良いのよ?

 こんな所で勝手に死んじゃうなんて、絶対許さないんだから!」


また・・・勝手に思い込んでいやがるな・・・

蒼い目を涙で曇らせた<ロゼ>が観えた。


なんだか長い間寝ていた気がする。


「ああ、ロゼ。・・・久しぶりだなぁ」


そう言うのが当たり前に思えたんだ。


気が付いた俺を観て、ロゼが眼を見開くと。


「な、なによ!人の気も知らないで。勝手にくたばっちまえ!」


ツンとそっぽを向いて俺を放り出しやがる。


「しっかりしてよね!まだ終わっちゃいないんだからッ」


ツン状態になって、俺を突き放したロゼだったが。


「良かった、ホント・・・」


陰で呟いた声が、鼓膜に優しく届いた。


俺に聞こえていないとでも思っているんだろうか?しっかり届いてるぜ?

まぁ、ロゼの事だ。聞き咎めでもしようものなら、ツンツン状態になるだけだろう。


「ロゼ?!奴等は何処まで来てる?それとも退いたのか?」


僅かな間だったのだろう、俺の意識が彼方へ飛ばされていたのは。


「敵戦車はどうなった?まだ現れていないのか?」


続いて訊いた俺に、ロゼは砲手席に戻るとレンズ越しに観測を始めた。


「丘の向こう側には中隊規模の敵戦力が控えているわ。

 それに加えてBT-7や、T-28なんかも・・・準備しているんじゃないかな?」


いよいよ丘を越えて攻め寄せる気か?


「俺達の小隊はどうなった?」


11名居た軍曹以下に、被害があったのかと訊くと。

ロゼは首を振ってから俺と自分を交互に差し。


「ここに留まってるのはアタシ達だけ。

 軍曹達は徒歩で陣地を変えたわ。アタシ達の姿が見えなくなったらしいから・・・」


俺達が車内に倒れ込んだから・・・死んだと思われたのか?

いや、違うな。

軍曹の事だから、俺達に任せたんだろう。

この砲戦車で闘うと信じているのだろう、軍曹達には出来ない戦い方をするのだと。


「それに・・・あの戦車が助けに来てくれたから」


顔を背けてロゼが話す。

ロゼに言われて思い出した。気絶させられる前に話そうと思っていた事を。


「アリエッタ少尉か。また・・・助けられたんだな?」


頷くロゼが、悔しそうに呟く。


「どうして?どうしてなのよ。またアタシ達の前に現れたなんて」


救援に来てくれたアリエッタに、ロゼが反発する。


「アリエッタ少尉はロゼを助けに来たんだろ?

 魔鋼騎士の姉さんは、ロゼを助けに来てくれたんだろ?」


俺は少尉がどうして最前線に来たのかを考える。


「魔砲の戦車で、妹を救いに来てくれた・・・そう考えたらどうなんだ?」


「違うわ!あの人にそんな優しい心がある筈が無いモノ!

 アリエッタは魔法を闘いに使うのよ!魔砲で死を振り撒く魔女に成っちゃったんだから!」


俺の勧めを見事に撥ねつけ、ロゼは憎らし気に戦車を睨む。


「魔女はいつかは誰かに滅ぼされるの・・・きっと、いつの日にか」


不意にロゼが俺の顔を見詰めた。

その眼には魔砲力を宿した蒼き輝きが妖しく燈って観えた。


「ロゼ、それはこの戦場から生きて帰れたら姉さんに言ったらいい。

 姉妹で話し合えば良いじゃないか、二人共生きて帰れたら・・・」


俺は装填手席から丘の上に現れたBT-7に気付く。

この時とばかりに残しておいた徹甲弾を掴み出して。


「ルビ?!・・・・来たのね!」


俺の動作に気付いた相棒ロゼが、照準器に取り付くと。


「いよいよ、ルビの指輪を試す時が来たわ。

 魔鋼機械が着いていなくても・・・魔法力で当てられるのかが試されるの!」


ロゼが俺から借りたノエルの指輪に願いを託す。


「そうか!この時の為に、填めたんだな?」


俺が訊くと、躊躇いも無く頷いて。


「妹さんに与えられた魔法のリング。

 この石が持つ力と、アタシの力で・・・放ってみるの!」


徹甲弾を込めた俺へ、相棒がトリガーに足を掛けて言い切った。


「ようし!ロゼ。奴等に一発喰らわせてやれ!」


距離にして500メートル程か。

この距離から低初速の75ミリ砲弾を当てられるのか。


魔法の力を身に纏い、今、ロゼという魔鋼の少女が撃つ。


「いくわよ!フォイア!!」


ロゼの右足がトリガーを踏み込んだ・・・






ルビナス(狼)は月夜に吼える。

彼の先祖が教えるのは、秘められた力なのか。

それならば、どんな力があるのだろう?


次回 クロスファイア

君は彼女を護らねばならない・・・

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