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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第2章 蒼き指輪
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指輪<リング>

ロゼは俺に指先を見せて問う。


似合っているか・・・と。

師団本部からの回答は、ハスボック軍曹の予想通りだった。


「残念ですが。軍曹の小隊には補給は参りません」


戦車中隊長から告げられても、軍曹は笑うだけだった。


「いや、良いんですよ中尉殿。予備の砲弾なんてこちらに廻す余裕も無いのでしょう」


年嵩の軍曹が笑って応える。


「でも、それでは・・・」


自分よりもずっと若い上官さえ、理不尽な司令部に対し憤りを覚えたのか。


「まるで見捨てた様なものではありませんか?!」


ハスボック軍曹の代弁を言うのだった。


師団は人員こそ居るのだが、肝心要の武器弾薬が不足気味だった。

与えられた戦備に不満を募らせるのは、司令部も同じだろうと。


「いいえ中尉殿。我々に与えられた装備で闘うだけですから」


大隊の生き残りは僅かに11名に過ぎない。

自分達に配るだけの余裕も無いのだろう・・・いや、無駄だと思っているのだろう。


<どうせ、死地へ向かわせるのだから>


軍曹は戦車中隊長へお礼を述べて、小隊に戻っていく。

その後ろ姿を見送っていた中戦車の車長が。


「彼等に贈られるのは名誉なる死・・・だけか」


蒼い目を伏せ気味に、少女士官が嘆く。


「不条理に過ぎやしませんか、車長?」


同じように軍曹を観て、彼女の装填手が訊いた。


「その不条理な戦場に私達も居るのよ。彼等だけじゃないわ」


車長が軍曹から眼を逸らし、彼の持つ最有力の武器を観て。


「いつかは私達にもその日が来るかもしれない。

 彼女の様に・・・死に物狂いの戦場へ行かねばならない・・・」


その乗員を想い、自らの最後を予告した。


車長の蒼き瞳には、何かを秘めた様な輝きが燈って見えた・・・







「ねぇ・・・ルビ?」


俺に訊いて来る相棒の指には、輝くノエルの指輪が填められている。


「どうかな?似合うかな?!」


蒼い石がキラリと光った。

魔法の石で造られていたなんて、母さんからも聴いていなかった。

家に古くから伝わる指輪だとだけしか、教えられていなかったんだ。


「ああ、多分ね。似合ってるんじゃないかな?」


我ながら気の良い奴だと思うよ。

形見の指輪を、相棒だとは言え他人に渡すなんてさ。


「なによその言い方・・・でも、本当にぴったりと指に合ってるの」


右の人差し指に填めたまま、ロゼが俺の顔に伺って来る。

渡した瞬間から、ロゼの瞳は前とは色が変わって見えた。


黒い瞳孔までも蒼く染め抜かれ、瞳の印象ががらりと変わっていた。


「・・・おまけに髪の色まで、蒼さを滲ませてるもんなぁ」


確か、この指輪を填めた母さんも時々、こんな感じになっていた事があった。

まだ俺が幼かった頃、まだノエルに指輪を渡す前に。


「そう?やっぱり気になる?」


長い髪を手元に手繰り寄せたロゼが、上目遣いに訊いた。


「いや、母さんも。俺の母親も似たような色になってたのを思い出してな」


「え・・・ルビのお母様も?」


ロゼが不意に指輪を胸に抱く。

愛おしそうに、済まなそうに。


「俺の家に伝わる指輪なんだ、妹に与えられるまでは母さんが填めてたんだよ」


教えられたロゼが指輪を額に押し当てて。


「ルビの家にはどんな言い伝えがあるの?」


「言伝え?家訓とか何かか?」


首を振ったロゼが、俺が判っていないと訊き直す。


「君の家には昔から伝えられたお話はないの?

 例えば誰かから何かを与えられたとか、守ったとか?」


ロゼが訊いた事に覚えが無いが、


「そう言えば。

 親爺が善く言っていた事がある、月夜には魔女が舞うって・・・」


両親と月を観ていた時に聞いた事があった。


「魔女を倒すのは、やはり魔女なんだって。

 その魔女が現れるのは月の満ちた晩、月夜には魔女達が舞うんだってさ」


「ふぅ~んっ、なんだかロマンチックなお話だね?」


話半分の処でロゼが口を挟んで来た。


「ロマンチックなのはそこまで。

 話はまだあるんだ。

 月夜に舞う魔女を倒すのは魔女・・・その魔女を狩る者が居るんだ。

 それが・・・俺が受け継いだ家名、ルナ騎士ナイト

 狼が獲物を狩る様に、魔女を狩る者。それが俺の名」


月夜の狼。

ルビナス・ルナナイト・・・俺の本名。

魔女を狩る、きし・・・俺の継承した名。


「ルビ・・・まさか。まさか君にも魔砲力が備わってるの?」


ロゼが驚きの声で俺に訊くが。


「あのなぁ、そうだったらずっと持っていた俺の眼も蒼く染まってるだろ?」


端から魔法使いじゃない。

俺にそんな力があるのなら、初めから使ってる。


「そ、そうよね。そうだよね・・・あはは」


苦笑いを浮かべるロゼが、ノエルの指輪を大事そうに持って。


「必ず返すから。君の宝物だもんね」


「当たり前だ。この地獄から出れれば、賃貸料を請求してやるからな」


冗談めかして俺が言うと、ロゼが一瞬頷いてから・・・


「賃貸料ってさ、夫婦の仲では払わなくても良いんだよね?」


すっとぼけた答えを返して来やがった。


「?!なんのことだ?」


眉を顰めて言ってやった。


「えっ?!いやほら・・・綺麗な石だなぁって・・・」


口が滑ったのか、ふざけたのか。

ロゼは指輪を掲げてくるっと背を向け、何事かを呟いている。


「そうか、ルビナスって名の由来には訳があったんだ」


ノエルの指輪を填めたロゼが俺に振り向き、


「いつかきっと、君の中に眠る力が目覚める。

 その時、アタシは君の傍に居られ続けているのかしら・・・ね?」


蒼い瞳で俺に語り掛けて来る姿。

夕日に染まる事なく蒼く光る瞳で。


「俺が何に目覚めるって?俺には何か力があるのか?」


俺の前で、ロゼの髪が舞った。

赤栗毛だった髪が、夕日に輝き金色に見える。


「判らない?じゃあ・・・教えてあげない!」


悪戯っぽく笑う少女ロゼ


俺にはその顔がノエルと重なって観えていた。


いや・・・死んだ筈の妹が蘇ったかに見えていたんだ。




そう・・・もう二度と喪ってはならない。


・・・愛しき微笑みを・・・











夕日が堕ちる。


闇が来ようとしている。


戦場に、死の姿が再び迫っていた。



その夜は、月の出が遅かった。

陽が落ちた時、あるべき月はそこには無かった。


影を造る星も無く、地上に闇を齎した。


唯、闘う者達に迫るのは死の影。



「敵襲!ロッソアの夜襲だ!」


昼間の疲れで居眠っていた歩哨に気付かれる事なく。

白刃を抜き放ち、音もなく忍び寄って来たロッソアの歩兵達。


師団側面に夜闇に乗じて迫った歩兵に因り、夜襲が決行された。

あっという間に味方陣地に動揺が奔る。


夜襲の報に叩き起こされた若年兵達は、銃を手に取る者と逃げる者とで大混乱に陥った。

部下を掌握出来る士官は殆どおらず、我先に陣地を放棄する者に銃を構えるだけだった。


夜襲はほんの数十人で敢行されただけだったが、その奇襲に因りフェアリア軍は戦意を喪失する結果となった。


陣地を無断で放棄した者には厳罰が下される・・・筈だった。

だが、厳罰を下す筈の司令部要員達が逃げたのでは話にもならない。


夜襲に気付いた勇敢な者達に因り、陣地崩壊だけは免れたのだが・・・



「何だろうルビ、なにか嫌な予感がする・・・」


「ロゼ、何も考えるな。俺達は生き残る事だけを考えれば良いんだ」


夜が開け放たれる前。

夜の間には観えなかった味方陣地を観て。


「間も無く奴等が攻め寄せて来る・・・なのに」


「ああ、いよいよだな。俺達が生き残れるか、味方も当てにならない」


ロゼが心配するのを、励ます事さえ出来なくなった。


俺達の後ろに在った陣地の大半が放棄されているのを観たから。

いつの間にか居なくなった味方に、やり場のない怒りさえも覚えて。


「どうしよう・・・ルビ。

 此処に居るのはアタシ達と同じ、取り残された人達だけよ?」


彼等に戦意があるのなら。

彼等と共に闘うのなら・・・


だが。


戦場はあくまでも非情だった。

俺達がどうする事も出来ずにいた頃には。



「「 ウラー ウラーッ! 」」


ロッソア軍の突撃する歓声が津波のように押し寄せて来たんだ・・・


ルビ達の前に再び地獄の門が開かれる。

戦場に安息なんて在りはしないのだから・・・


突然の弾が襲い掛かって来たとき。

俺は意識を奪われてしまう。

そして、俺は来てしまうのだった。

あの霧の中へと。


次回 霧中むちゅう

君の先祖は何者だったのだ?その霧の中で見たモノとは?!

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