福光(ふっこう) 第7話 最終回月夜に魂は舞う
一つの旅が終る。
魔鋼の少女が熱砂の砂漠へと旅立つ。
一つの物語が終わる時、新たな物語が始まります・・・・
暫くの間、アリエッタさんとロゼッタのお世話に甘える事になったんだ。
自分達の故郷に帰るのは、生活できる基盤を作ってからにしようと思うんだ。
都では戦争からの復興事業が始まり、人で不足になっていたんだ。
だから直ぐに就職先も見つけられたんだ。
尤も見つけられたのはロゼのお母さんの口利きがあってのことだったけどね。
軍に残ればってアリエッタさんが勧めてくれたけど、俺は軍に飽き飽きしていたし信じ切れなかったんだ。
おまけに魔法力も無くなった俺に出来るのは、新兵に戦場の生き残り方を教えることぐらいなもんだったからな。
それも真面な方法じゃなかったし・・・ね?
ノエルは俺との生活を一番喜んでくれてる・・・と、思う。
口うるさいのは母さん譲りだけど、しっかり者の妹はいい加減な俺の手綱を引いてくれてる。
何より家に帰れば話し合える相手がいるのは、代えがたい幸せだと思うんだ。
ロゼッタは相変わらず俺達の面倒を見るのを止めない。
それどころかノエルと一緒に食事を造ったり、一緒に買い物に足を運んだりと世話焼きに忙しそうだ。
たまぁ~に、二人揃って大失敗をやらかしやがるのには目を瞑るけどな。
兎に角、俺達はみんな元気に生きているんだ。
あの悲惨な戦争を生き延びられたのだから。
「なんだか・・・またきな臭い感じがするよね?」
魔法力を失った俺とノエルに、同じく魔女を眠らせているロゼが新聞を見せて来た。
紙面には南獏の国の政変が大きな見出しと共に報じられている。
<友邦オスマンから支援要請来る!>
見出しに書かれたこと以上に、俺達は内情に眉を顰めたんだ。
そこに向かう支援隊が、結成されるってことにだ。
熱い砂漠へどうしてフェアリアから支援なんかに向かわねばならないのか。
そもそも二国間戦争を終えたばかりの国に、なぜ支援を求めて来たのか。
一国の内紛に、他国を巻き込もうとしているのか?
俺達はオスマンという帝国に、不審を募らせるしかないのだが。
「彼女達は・・・行くんだろうな、両親を救い出す為にさ」
俺が言う彼女って言うのは。
「シマダ姉弟ならね・・・行くと思うよルビ兄ィ」
俺達を闇の呪縛から救ってくれた魔鋼の乙女。
<光と闇を抱く者>でもある魔鋼の巫女なら、プロフェッサー島田を追い求めていくだろうと思う。
「そうねノエルちゃん。
でもアタシが言うのはね、オスマンじゃないの。
ここフェアリアと、東プロイセン王国との話なの」
一面トップの下に小さく書かれてある記事には、難民達の流入が止まらない東方の国交事情が書かれてあった。
王国である東プロイセンは、西プロイセンとの小競り合いが続いていたのは聞いた事があった。
西プロイセンは共和制の軍事国家。対する東の王国は農業国家。
普段から諍いが絶えない両国に危険を感じた人達が国を捨てて逃げ出しているという。
「下手をすれば、東は西に飲み込まれてしまうかもね」
ロゼの心配が現実のものになってしまうのは、僅か1月も経たない事だったけど。
その時は大変な事になるなんて思いもしなかった。
だって、自分達は戦争を終えられた直後だったから。
世界中が争い合う時代の波が、いつ果てるともなく押し寄せているだなんて。
生きることに精一杯だった俺達には、遠い事の様に思えてたんだ。
暗い話を続けてもしょうがないと思ったのか、ロゼが明日の話を切りだして来た。
「ねぇルビ、ノエルちゃん。
あしたは見送りに行くんでしょ?
きっとあの子達は船で送られる筈だよオスマンに」
「あ・・・もう明日なんだ出陣式ってのは」
カレンダーに目を向けて、丸印のついたのが明日だと判る。
「もうっルビ兄ィは!恩人の門出も忘れてたの?!」
・・・いつものことだろ?俺が抜けてるのはかわんねぇよ?
「ああ、行くよ行くよ。でもどこで見送れば良いんだろ?」
隊門の中には関係者以外は入れないし、アリエッタさんは当日は勤務があるしな。
道端で手を振ったって一瞬だからな・・・目も合わせられねぇよな。
「う~んふふっ・・・いい情報を持ってますぜ旦那!」
ニヤリと哂うロゼ・・・お決まりのパターンか?
「姉様からの極秘情報なんだけど、聞きたい?」
「勿体つけてないで言いましょうね、ロゼ姉さん!」
お・・・ノエルがびしっと決めたよ。
「うっ?!ノエルちゃん・・・酷い」
姉妹漫才は良いとして、さっさと話せよロゼ。
敢えて俺はノエルに任せた・・・ロゼの扱いを。
「ううっ、言います言うからっ!実はね・・・」
ビクついたロゼの口から教えられたのは・・・・
桟橋には艀が繋がれていた。
その先にあるポンツーンには、馴染みのない旗を翻した海軍艦艇が停泊している。
埠頭に停車したトラックから、フェアリア国オスマン派遣隊の面々が降車して来た。
「おっ、見送りに来てくれたのかい?」
マモル軍曹・・・モトイ、肩章は准士官を標している。
「ええ、皆さんが旅立たれると聞きましたので」
ノエルがお辞儀をしてから微笑むと。
「あの、ミハル少尉さんはどこに?」
姉の存在を訊ねたんだが。
「あ、ごめん。ミハル姉の事は暫くそっとしてやって貰えないかな?」
マモル准尉がバツの悪そうな顔で応えてくれた。
「どうかされたのですか?」
ロゼがすかさず訊ね返したら。
「すみません、ミハル中尉ですよね。指揮官は今ものすごーくナイーヴですので」
マモル准尉の同僚らしい癖のある赤髪の准尉が教えてくれた。
彼女の言葉で、彼女は派遣隊の指揮官だと分った。
「ミリアさん、聞かれちゃいますよ・・・ほれ!」
最後に降車して来た黒髪の士官を指差して、マモル准尉は片目を瞑る。
俺達を解放してくれた魔鋼少女は、少し悲し気な顔をしていたんだけど。
「ミリア?!何か言いましたね、今!」
ツン状態になって准尉を聞き咎めた。
「ひぃっ?!乗艦手続きを行いますぅ~」
よほど怖いんだろうか?ミリア准尉は逃げ出した・・・よ?
「お久しぶりです皆さん。もう落ち着かれましたか?」
熱帯用の茶色い耐熱軍装を纏ったミハル中尉が、表情を緩めて声を掛けてくれた。
「ええ、やっと職場も決まって。ありがとうございます」
「そう、良かったですね」
応えてくれた微笑みには、すこし翳りが見て取れる。
ミハル中尉は旅立とうとしているのに、なにか心残りでもあるんだろうか。
そう感じたのは、ミハル中尉が俺達を通り越して埠頭の中に何かを探しているような気がしたから。
「誰かをお探しなのですか?」
よせば良いのにロゼが訊きやがった。
「あ・・・いえ。誰も・・・いいんです」
良くないよ・・・あからさまに悲しそうじゃないか。
後ろで結った紅いリボンさえしょげかえって見える。
「それじゃあ・・・皆さん。どうかお元気で・・・」
何かを諦めたのか、悲しげな声を残してミハル中尉は部下達の元へと戻っていく。
「中尉も!ミハル中尉もお元気で!」
ノエルが大きな声で励ますと、一度だけ振り返ったミハル中尉が片手で別れを告げていた。
「どうも・・・別れがたい人を置いて行くみたいね」
ロゼが、ふんっと胸を逸らして腕を組む。
「だよねぇ~っ、ロゼ姉さん」
こちらはうんうんと頷くノエルさん。
「別れがたい人って誰の事だよ?置いて行くってどういうこった?」
意味が計り知れなくって、野暮なことを訊いちまった。
「アンタ馬鹿ぁ?そんなの恋人に決まってるじゃない!」
「ボケを噛ますにも程があるよルビ兄ィ?!」
言われるとは思ったけど、あまりの云われようだな。
「そうか、まぁあれだけの美少女だから恋人の一人や二人・・・」
ドゴッ!
頭をどつかれるかと思ったら蹴りが来た・・・Orz
「デリカシーってもんがないの!アンタには!」
「げんめつぅ~」
そこはそれ・・・喩えなんだからさぁ・・・
ミハル中尉を見送っていた俺達が、しょうもないコントを繰り広げていた後ろから。
「あの・・・シマダ・ミハルをご存じなのですね?」
派遣隊員の少女が声を掛けて来た。
「ええ、そうですけど?」
銀髪の少女はミハル中尉の背を睨みながら俺達に訊いて来た。
「彼女は・・・人殺しだと聞き及んでいますが、間違いないんでしょうか?」
その声には、何かしら怨念じみているように思えたんだ。
それに蒼い瞳には魔力めいた物さえも見て取れたんだよ。
「物騒な事を言う子だな?
あの人は俺達を闇の中から救ってくれたんだぜ?
戦争中に何があったのかは知らないけど、断じてそんな子じゃない!」
はっきりと教えてやったら、銀髪の子は瞳を緩めたんだ。
「そう!そうですよね!
魔鋼騎士ミハルなんですよね、憧れは間違っちゃいないんですよね!」
急に元気な声を張り上げて俺達に頭を下げたんだ。
「おおーい!出発だぞぉ、第3小隊は集まれ!
そこの新兵!早く来ないか、置いて行くぞ」
埠頭から呼ばれた少女がびっくりしたように跳ね上がって。
「はっ、はいっ!置いてかないでくださいっ!」
とびっきりの敬礼を俺達にしてくれたんだ。
軍隊上がりの俺とロゼは、反射的に答礼しちまった。
「あの、すみませんでした!今の話は忘れてください」
手を降ろして走り去る前に、銀髪の子が頼んで来る。
「あ、君は?君は派遣隊の何て言う子なんだ?」
咄嗟に訊いてしまったんだ、その子の名を。
「はいっ!私はシマダ分隊第3小隊に所属するマーブル二等兵。
いいえ、ミハル隊長の元で魔鋼騎士になるチアキ・マーブルですっ!」
ノエルと同い年位の少女は、蒼き瞳を輝かせて応えてくれた。
俺達が出航する軍艦に手を振っていると、埠頭の脇に滑り込んで来たあずき色の車から白いドレスの貴婦人が飛び下りて来たんだ。
徐々に観え辛くなっていく軍艦に追い縋るように手を差し出して、金髪の乙女は泣いていたんだ。
誰かを引き留めようとするかのように。
離れていたから良くは聞こえなかったけど、高貴な乙女とだけは判ったんだ。
必死に軍艦に叫びかけている姿を観ていたロゼが息を呑んだのは、俺の耳にその名が聞こえたのと同時だったんだ。
「「帰って来るのよミハル!どんなことがあっても戻ってきて!」」
白いドレスの乙女は、魔鋼少女ミハルを呼んでいたんだ。
「「きっと・・・きっとミハルは帰って来てくれる。
きっと約束を果たしてくれる。私との約束を!」」
溢れ出す想いを言葉にして。
乙女は別れを口にしている・・・
「あれって・・・リーン皇女殿下だわ!新聞で見たもの!」
「え?!ロゼ姉さん、本当?!」
俺もノエルも、ロゼの声にドレスの乙女と車に掲げられた王家の紋章を観たんだ。
「まさか・・・ミハル中尉が待ち焦がれていたのがリーン様だったなんて・・・」
ロゼもノエルも絶句したけど、俺は声も出せなかったぜ。
皇女と騎士・・・たしかロッソアでも、こうじゃなかったのか?
ロッソアでは恋が実り、方やフェアリアでは別れになった・・・のか?
ドレスのリーン皇女は軍艦が観えなくなるまで手を振っていたが、崩れ落ちる様に座り込んで泣きじゃくっていた。
車からお付きの者が連れ帰さなかったら、ずっとその場で泣き続けたのかも知れない。
まぁ、俺達が観ていたのは知らないようだったけどね。
皇女の車が埠頭から離れた時だ。
「あれ?なんだろう・・・あのリボン?」
ノエルが空を指して訊いて来たんだ。
「わっ?!なんだあれ?」
ロゼも風に流されて来た紅いリボンに気付いた。
「コッチに来るよ?」
ノエルの声を聞く前に、俺は走り出していた。
その紅いリボンが誰の物かが分っていたから。
「ミハル中尉が!きっと皇女リーンに捧げたんだ!」
彼方に消えゆく艦から、彼女が贈ったんだろう。
届いてくれと、皇女リーンの元まで飛んで行けと。
「ああ・・・飛んで来たんだ。あの子の願いを載せて」
海の風に煽られたリボンが舞いながら飛んでくる。
俺に拾ってくれと言わんばかりに。
もう少しだ!もう少しで手が届く・・・
思わず空を見上げたままリボンを追い続けていたら。
「ルビ兄ィッ!落っこちちゃうよ!」
・・・ノエル。もう少し早く言ってくれ・・・
ボチャッ!
埠頭から海へダイブしちまったよ。
浮き上がった俺の上に、紅いリボンが舞い降りて来た。
もうなにも考えられない、必死に掴んで埠頭によじ登ったんだ。
「良かった・・・濡れずに済んだ」
そうするのが当たり前に思えたんだ。
だって彼女の想いを濡らす訳に行かないだろ?
海に浸かる前に手に出来たんだ、浸す訳にはいかないじゃないか?
「よし、良くやったルビ!」
「やったね!ルビ兄ィ」
褒められたけど・・・春の海は泳ぐには早かったぜ。
リボンを丁寧にたたんだロゼに感謝しつつ、俺達は急ぎ宮殿へ向かったんだ。
勿論・・・着替えてからだけどね。
始め門前払いを受けそうになったんだけど、警護隊のラミル少尉が見つけてくれたんだ。
訳を話す前に紅いリボンを見せた途端、奪うようにして泣いてくれたよ。
押し抱いて、友を抱擁するように・・・ね。
これで良かったんだ。
やっと一つだけだけど恩を返せた気がしたよ。
ノエルもロゼも満足そうだったし、海に墜ちた俺もそうだった。
<光と闇を抱く者>ミハル・シマダは仲間達と共に熱砂の国へ渡って行った。
数か月前に俺達が辿ったのと同じように・・・だ。
だから彼女もきっと取り戻せるって信じている。
プロフェッサー島田とお母さんを・・・俺達には出来なかった事でもやり通せるって思うんだ。
魔鋼の乙女。
<光と闇を抱く者>・・・その子の名はミハル。
神と魔王の魔法を受け継ぐ者なら・・・きっと
エピローグ
終戦の調印が為され平和が訪れた。
ロッソア共和国とフェアリア国の新政府の間で。
両国の間に不可侵条約も同時に調印された。
正式に国際間で認められる条約として。
両国に跨る国境の<月夜に掲げる指輪の街>に、再び灯が点っていた。
「やっと、内閣も信任出来たわ・・・お父様」
金髪を靡かせるエルリッヒが、庵に佇む紳士に微笑む。
「そうか、苦労したろうエルリッヒ?」
「いいえ、忙しいだけよお父様。苦労なんて言ったら罰が当たるわ」
庵に佇む紳士の前には十字架が備えられている。
それに向かって懺悔するのが紳士の日課。
神に赦しを乞うだけの一生を送ろうとしていた。
「アイザックはどうしておるのかね。早く結婚しなければいけないよエルリッヒ?」
「もうっ!またその話?まだ早いわよ結婚なんて・・・」
恥ずかしがる娘の指には、愛を交わした者同士が填めることの出来る指輪が光っているのを、父は目を細めて観ているのだった。
「おおいっ!次はフェアリアの近所まで行く事になったぞ!」
髭親爺が牧男に笑い掛けた。
「そんなぁ~っ?!これだけの羊を引き連れてですかい?大将?!」
一家の主に宣告された牧男達が、天を仰いで文句を垂れる。
「なんじゃぁ?!ワシの言う事が聞けんというのなら、晩飯は抜きじゃぞ!」
「へいへいぃ~っ」
数十頭もの羊を引き連れたキャラバンが、西へと向かう。
「若けぇのに逢えるのが楽しみじゃわい!彼是もう半年になるかのぅ?」
髭親爺は息子に会う様に親し気に青い空へと問いかけるのだった。
両国の間に跨る旧名<ルナナイトの地>は、戦争の傷跡も整備されようとしていた。
山間部には新たに墓地が造成され、戦争の悲惨さを訴えたモニュメントも建立された。
住民の殆どが殺戮された為、土地の権利を譲り渡す為の審議が執り行われた。
役所には係わりのあった者達が列を作り、自己の権利を訴えた。
その中にあって一人の青年が土地の権利を復権させた。
栗毛の髪で紅い瞳の青年は、そこに我が家を建てるという。
そこに生まれ育った家があったというだけで、彼は主張したのだ。
「ここは俺の生まれた家があったんだ!誰にも渡す訳にはいかないんだ!」
紅い瞳を燃え立たせて、青年は立ち退きを拒み続けた。
家の跡に一本の苗を植え、青年は必ず帰ると約束して姿を消した・・・
それから時を経ずして人類規模の大戦争が勃発した。
全人類を巻き込んだ戦争が吹き荒れたのだ。
この地も例外なく戦禍に巻き込まれてしまった。
だが、奇跡的に一本の苗は焼かれずに済んだ。
新たに建てられた家々が破壊されても。
奇跡のような楠は育っていった。
殲滅戦争と呼ばれた神魔大戦が終結して数年後の事だった。
やがて彼の家の跡には、誰言うとも無く噂が立った。
そこに在る筈もない光が見えるのだと。
満月の晩にだけ現れる二つの光が舞うのだと。
愛し合った者が戯れ合う様に青い光が見えるのだという。
植えられた楠の苗の上を、月夜の騎士と魔女が舞う様に・・・
「ねぇ、ここがそうなの?」
幼い少女が両親の手を握って訊いていた。
「前に叔母ちゃんから聞いたの。ここにお家があったって」
楠の木陰へ連れ立って入った少女が、父親を見上げて訊いてくる。
「そうよ、この木が証拠だもの」
「どうして?この木がお家だって証拠なの?」
少女が母親に聞き返すと、
「これはね、お隣の国から贈られた苗が大きくなったのよアクァ」
「お隣?ロッソアの木?」
頷いた母が、娘を抱き上げる。
金髪の母親に抱かれた幼子は栗毛の髪を靡かせ、父が懐から十徳ナイフを取り出すのを観ていた。
「そうさ、この楠はエルとカインがくれたんだよ。
ロッソアの王様たちが友情の証に渡してくれたんだよ」
十徳ナイフを楠に当てた父親が、幹に何かを彫り込んだ。
「さぁ、これでこの木が俺達の表札になった」
彫り込まれた文字を観て、少女が笑う。
「お父さん、それって?」
幹に彫り込まれたのは・・・月夜の騎士・・・
微笑む幼子の瞳が蒼く輝く・・・蒼く・・・魔法を秘めたように。
遠い昔から此処に残された<絆>
新たに伸び行く楠木。
そして・・・新たな命
Fin