福光(ふっこう) 第4話
戦争の惨禍はどこまで?!
ルビとロゼは母の元に帰りついたのです・・・
ロゼの家に辿り着いたのは夜も半ばを過ぎた深夜の事だった。
砲撃を逃れた街の一角に建っていたマンション。
そこだけが人間が暮らしているのだと知れたんだ。
灯りが零れている・・・誰かが生きているのだと。
数十メートル先のビルは重砲弾が直撃したのだろうか、半壊して崩れていた。
こんな都の端だというのに・・・・
「お母さんっ?!今帰りました!」
ノックもなしにロゼが飛び込んだんだ。
鍵も欠けられていない自宅へと。
俺とノエルを外に置き去りにしたまま。
「ロゼッタ?!ロゼッタじゃないかい?!」
驚く母らしい声が外まで聞こえて来た。
「只今帰りました!お母様!」
抱き合ってでもいるのだろう・・・二人は。
こみ上げる想いに嗚咽を漏らして、涙にくれているんだろう・・・
「馬鹿者っ!あれ程言っておいたのに!
あなたは戦車に乗ったら駄目だと言ったでしょう!」
・・・ありゃ?怒られちゃってるぜ??
「ご、ごめんなさいお母様ぁ?!」
・・・この親にしてこの娘ありか・・・?
「どうしてお前達はこの母の言う事を護らないの?!
どれほど心配したか分からなかったのっ!」
「ひいぃっ?!お母様ぁ・・・お許しくださいぃっ?!」
・・・中でビンタの音がしたんですが・・・ロゼ、残念。
って、待てよ?ロゼの母親の言い分だと・・・もしかして?
「アリエッタもあなたも!どうして魔鋼の力を使うような事をしたのよ!
そんなだから危ない目に遭ったのよ、母の言いつけを守らなかった罰だと思いなさい!」
・・・って、ことはつまり?
「ロ、ロゼじゃないの!良く帰って来れたわね!もっと遅くなるのかと思っていたのよ?!」
アリエッタの声だ!
生きていてくれたんだ!
思わず突入しちまったよ、身体が勝手に動いちまった。
「アリエッタ少尉!生きていてくれたのですね!」
親子水入らずの中へ、場違いな俺が入ったんだ。
驚かれるのも当たり前だった・・・けど。
「ルゥビィィ~っ?!」
まさか・・・跳び付いて来るとは思わなんだW
「ぎょへぇっ?!ちょっとアリエッタさんっ?!」
ノエルごと押し倒されちまったぜ・・・俺が。
「おおっ?!この子が例の?」
「そうです、俺の妹・・・ノエルです」
抱きかかえたノエルをキョトンと見ているのは、間違いなくアリエッタさん。
「長旅で疲れちゃってるのかなぁ?倒れても起きないなんて」
そりゃあ、訳を知らなきゃそう思うだろうさ。
まさか魂が抜けたままなんて思いもしないだろう。
「姉様、この子は・・・」
ロゼが俺を制して訳を教えようとしたが。
「むぅ、魂を抜かれておるようだのぅ」
あ、お母さん・・・よくご存じで。
そこでやっとロゼの母親を観る事になった。
金髪で後ろで括られた髪が、電灯の明かりで照らされている。
歳より若く見えるけど、ロゼやアリエッタの母なんだよなぁ?
「その通りですロゼのお母さん。
その魂は・・・この中に居るんですよ」
時の指輪を差し出して教えた時、母親の眼が見開いた・・・と、思ったら。
「確かにアリエッタから聞いた通り!
あなた様は我が家の主君、ルナナイトの末裔なのですね!」
いきなり平伏されたんですが・・・?
「あ、あの?もしもーし?どういうことなんですか?」
訳が判らないから・・・おばさん?
「我が家はルナナイト侯爵の領地を預かる者として仕えて来た家柄。
代々に亘り主君と崇めてまいったのです」
「はぁ?!でも今は主君でも何でもない・・・」
そうだろ?だって俺の父親は公務員なんだから。
「違いますぞ!家に纏わる古事は消えませぬ!」
「ひぃっ?!ごめんなさいっ!」
ド迫力で迫られたら・・・恐怖しか感じないから・・・おばさん。
トモカク・・・アリエッタは生きていた。
どうして助かったのかは、本人の口から話して貰った。
「あれはちょうど敵の重戦車隊が突進して来た時だった。
部隊は各々の敵に向けて射撃していたんだが、運の悪いというか運が良かったのか。
私の車両に重砲弾が損害を与えたんだ、キャタピラに・・・だ。
敵前でキャタピラを切られてしまったんだ。
指揮官なら乗員の命を優先しなきゃならないから、思い切って車両を放棄したんだよ」
そう言えば。
アリエッタ車を見つけた時、そこら中が穴ぼこだったような。
「放棄してから私の車両がどうなったのかは知らないが、多分敵の戦車が群れて来たんじゃないかな?
逃げ出した後に自爆装置を入れ忘れていたのを思い出したんだけど・・・」
なるほど・・・それで敵は集中射撃を?
手強い紋章付きの魔鋼戦車だと、生きている魔鋼戦車だと思い込んだんだな。
「そっかぁ!それが幸いして敵の追撃が遅れたんだ。
忘れ物の多かったアリエッタ姉様ならではの・・・」
ボコ!
殴られてやんの・・・ロゼが。
頭を押さえるロゼをほったらかしにして、俺は二人に訊いてみた。
「お願いがあるんです。
ノエルの躰の事ですが魂を連れ戻せるまでの間、匿っては貰えないでしょうか?」
そう、これがロゼの家に来た本来の目的。
アリエッタが殺されていたら出来なかった事。
「オスマンとか言う南の国まで行かなきゃならないんですが。
無理を承知でお願いしたいんです、どうか妹の面倒を見ては貰えないでしょうか?」
頭を深く下げてお願いしたよ。
どうしても果たしたいと思うから。
でも、二人は顔を見合わせてこう言ったんだ。
「それは出来ないわね」
・・・え?!
「そうそう!そんなことは出来ないし、必要ないから」
え?!・・・ええっ?!
親娘は意味有り気に笑い合う。
酷い・・・それじゃあノエルを連れたまま旅立てって言う事か?
「アリエッタ姉様、お母様っ!」
流石に怒ったのか、ロゼも訊き質してくれたけど。
「オスマンに行く必要は無いわ!」
「そう!この都の中で十分よ。ルビの願いは果たす事が出来るもの!」
・・・えっ?それって・・なに?
「どういうことなのですか、教えて貰えませんか?」
勢い込んで俺が訊ねると。
「そうよ!どういうことなの?」
ロゼも真意を質す。
「これを読んだら?私達の言ってるのが判るから」
数日前の新聞を取り出してアリエッタがみせてくれた記事には・・・
「はぁうあっ?!マジカ卿妃が蘇る?!って・・・これはっ!」
「マジか?!魂を闇から転移した?魔鋼の騎士によってだってぇ?」
驚いたというより、半ば呆れてしまったよ。
だってそうだろ、オスマンに行くと意気込んでたのが馬鹿に思えたんだから。
「そう、リーン皇女の侍女・・・じゃなかった。
何とかさん・・・そうそうシマダ・ミハルとかいう魔鋼少女によってよ!」
・・・どっかで聞いた名のような・・・
「シマダ・・・・って?!えええええっ?」
ロゼが飛び上がりやがった。
て?・・・シマダ?
「どえええええぇっ?!まさか、あのプロフェッサー島田の娘か?」
そしてその時になってやっと思い出したよ。
写真の彼女に会った事があるのを・・・だ。
「ねぇねぇルビ!この子・・・観た事ない?」
「あるある!あれはどっかの戦場だったぜ?」
遅まきながら・・・思い出したよ。
「あら?二人共知り合いなの?」
キョトンとしたアリエッタさんが訊き質して来たら。
「知ってるも糞も!」
ボカッ!
今度は母親から殴られやがんの・・・哀れ。
「ええ。ロッソアでこの子の父と出逢ったからです。
その父親から頼まれた事があるのです!」
話を端折って知らせたんだ、事実を。
「そうなの?!じゃあ、尚の事好都合ね!」
なにが・・・とは、聞かずとも解かる。
「シマダ少尉に会えれば、妹さんの魂も元に戻せるかもしれないのよ!」
・・・そう。
そうなれば、二人の言う通りになる。
オスマンに行くのは・・・彼女の方なのだから。
次の朝早く、アリエッタは軍服を纏って用意してくれた。
宮殿に昇れるように執り図る為にだ。
それは謀らずとも、彼女との再会になったんだ。
魔鋼少女ミハルと魔鋼猟兵だった俺との再会に。
よかった・・・
奇跡が起きましたね。
でも、母娘から知らされたのには仰天ですね?!
え?!
勿論っ、次回は<ミハル>が出やがりますw
次回 福光 第5話
君の前に立つのは・・・シリーズ主人公だ!!・・・損な。
作者注・次回のお話と魔鋼騎戦記フェアリアの389話は、
同じ場面を両方向からの視線で書いてあります。
ルビナスから見た復活。ミハルから見た救援。
気になられましたら、こちらからお読みくださいませ。
https://ncode.syosetu.com/n7611dq/389/
魔鋼騎戦記フェアリア第3章双璧の魔女Ep4革命Act32遠のく希望Part5(追加ストーリーです)
3話追加投稿してございます。




