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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第7章 明日への希望
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福光(ふっこう) 第3話

フェアリアはいまだに混乱したままだった。


混乱の中、ルビ達は彼女を探し求めた・・・

ロゼは必死だったんだ。

俺もだけど必死に探したんだ彼女を・・・アリエッタの姿を。


俺達は戦士扱いになっていたらしい。

激戦の中未帰還者に入れられ、遺骨もないのに死人扱いにされてたと知った。


こうして生きているのに・・・だぜ?

冗談じゃない!死人がうろつくなんて、映画やマンガじゃないんだ!


両親の埋葬を終えた俺達は、まず最初に原隊を探した。

そこには懐かしい顔ぶれが居ると思ったんだ。


だけど、それは甘い夢でしかなかった。

あれから3か月の間で原隊は無くなっちまっていた。

いいや、全滅の憂き目に遭っていたんだ。


押し寄せたロッソア軍との攻防で戦車猟兵隊は潰え去り、おまけに街ごと地上から抹殺されたんだと聞いた。

生きて還れたのは司令部だけだとも。


なんてこった!

僅か3か月前は、こんなことになるなんて思いもしなかった。

送り出してくれた仲間の殆どが行方不明か、戦死しただなんて!


だから方々に行って聞いてみた。

生き残りはどこに居るのかと、誰か知ってる者は居ないのかと。


だけど、返って来たのは絶望ばかり。

エレニアより都に近い小都市で起きた激戦で、ハスボック小隊長も小隊の仲間も。

全ての仲間達が死んでしまった・・・死んだのだという。

戦車猟兵隊が壊滅したのなら、随伴していた戦車隊は?

そう訊いたら事情を知ってるお婆さんが虚ろな目で教えてくれたよ。

<魔鋼の戦車が一両、最後まで奮闘してくれた>と・・・


お婆さんはそう言って・・・死んだよ。

病院も破壊された街の端で。

看取ったのが俺達だったのは、何かの縁だったのか。

アリエッタ少尉の最期だとも言える証言に、ロゼは気が狂ったように取り乱した。


たった一人の姉の死を受け入れられずに。


だが、お婆さんの言葉には<戦車>とあったんだ。

アリエッタ少尉本人が死んだとは言ってはいない。

だから諦めなかったし、諦めきれなかった。


その戦車ざんがいを見つけるまでは。


砲塔が吹き飛ばされ、天地が逆向けになって転がっていた。

車体には何か所も穴が穿かれ、周り中を囲まれた状況が手に取るように分かった。


つまり・・・乗員は助からない・・・だろうと。


残骸に描かれた紋章。

それはロゼの家に受け継がれた月夜ルナナイトを護る魔女の証。

間違いなくアリエッタ少尉の愛機の証・・・


ロゼはそれでも諦めていなかった。

もしかしたらどこかに生きて居てくれるのではないかと。

絶望するなんて出来ないからと。


俺も探すのを手伝った、全力で。


だけどフェアリアの国情は、ロッソアよりも遥かに悪かった。

街は燃え尽き村は消え、そして道路も寸断されていた。


これが母国の有様。

地獄に堕ちた様な光景を見せられ続けた。

少し行けば墓所がある、しかも真新しい。

小さな村に行けば親を亡くした子供が飢えに苦しんでいる。


平和になっても尚、フェアリアは地獄のような有様だった。


「これが俺達の母国なのか?!こんな国に誰がしたんだ!」


新しい怒りが沸き起こる。

戦争当事国ロッソアから帰って観れば、そこはまだ何も終わってはいなかった。


停戦が発効して一週間経つんだぞ?

銃砲は止んだというのに、何も為されていないどころか未だに停戦を拒む奴等がいやがる。

俺達の車の傍を、軍の強硬派がビラを撒きながら通り過ぎる。


「気が狂ってる!政府は何をやってるんだ?!」


それが俺の心に闇を振り撒いた。

折角戦争が終わると言うのに、軍人達は戦争の継続を叫んでやがるんだ!


こんな国にしたのは誰だ?!

国民を地獄に突き落とした奴等は、まだのうのうと生きてやがる!


ロッソアの皇帝の方がよほど真面まともだ!

悪魔の方がマシに思える・・・こんな醜聞を見せられれば。


「都のお母さんなら・・・知っているかも・・・」


心折れたロゼの声が耳に痛いよ。

身寄りを失っていた俺は、ロゼを都迄連れていく事にした。

途中の道すがら目にした新聞の一面には、王家の皇女達が停戦を告げている写真が躍っていた。

それが場違いに思えてならなかった。

上辺だけの虚構に観えて仕方がなかったんだ。


「こいつらは国の中を観ちゃぁいないんだな。

 いいや、こいつらこそ本当の悪魔なのかもしれない・・・」


そう思えたよ実際。

写真に写るドレスを着こんでいる王女に、憤りさえ覚えちまう。


「いっその事、フェアリアの王家こそ滅ぼした方が良いのかもしれないな」


そうだろ魔女のロゼさん。

アンタはこいつらの先祖に疎まれ続け、命まで狙われたんだからな。


本当の仇はフェアリアに居たのかもしれない・・・そう感じたよ。


「ロゼ・・・もしも。

 もしも、アリエッタさんが殺されていたのなら・・・俺と復讐を果さないか?」


絶望の淵にあるロゼに訊いた。


「もし・・・そうなら。ルビは誰を殺すというの?」


そう・・・ロゼの言う通りだ。

俺は誰を殺して望みを叶えるというんだ?

誰を殺してやれば気が済むんだ・・・あれ程復讐を忌み嫌ったというのに?


「終わらせるんだよ。

 なにもかも・・・ロッソアと同じように」


俺の紅い瞳が相手を見つけた。


手にした新聞に居る皇女を睨んで。


「大切な人を奪われた者の恨みを、こいつらに分からせてやるんだよ!」


新聞に写る二人の内、ドレスを着ている長い髪の皇女を指した。


「このリーンとか書かれてる皇女を殺せば、残された奴等も判るだろうさ!」


俺はこの時ほど呪われた言葉を吐いた事は無かった。

故郷の国に帰って来てみれば、そこは地獄にも思えたから。

実行するかはロゼの母親に会ってからだ。

もしアリエッタさんが死んでいるのなら・・・俺達は悪魔に身を堕とすのも厭わないと思っていたんだ。



新聞を握りつぶした俺は、この時もう一枚の写真を見落としていた。

一面トップの写真に気が向けられ過ぎて、もう一人の娘を観ていなかった。


小さな枠に囲まれて映っている少女の事を忘れていたんだ。








停戦が発効し、帰還命令が下された。


部隊を率いて帰って来れた皇女リーンと仲間達の姿が皇都にあった。


数々の闘いの末、幾多の仲間が散って行った。

それでも、辿り着けたのは和平への道。

一年戦争の末、やっと手に出来たのは停戦発効という代え難いもの。


軍部の中には、未だに参謀長の声がかかった者達が画策に奔走していた。

終戦を頑なに拒み、発効した停戦を覆そうとする者。

それは国民を扇動し、停戦を求めた政府に反乱を呼びかけていた。



「折角終えられようとしてるのに・・・」


金髪を靡かせたリーンが傍に居る黒髪の少尉に呟いた。


「まぁ、納得できない人達もいますから。

 あれ程の犠牲をだしたのですからね、仕方がありませんよ」


紅いリボンで黒髪を結った少尉が蒼い瞳を皇女に向ける。


「私達に出来るのは、これ以上の惨禍を喰い止める事なのですからね」


クリッとした目を向けた少尉が皇女に対して臆面もなく諭している。


「そうねミハル・・・」


宮殿の外に集まる不平分子の声に耳を傾ける皇女が、黒髪のミハル少尉に頷いた。



停戦発効から一週間が過ぎていた。

まだロッソアからは正式な終戦の返事は来ない中、フェアリアでは内閣を以って終戦に応じる用意が為されていた。

正式なる終戦が訪れない限り、不安は拭えない。

皇室の長たるフェアリアル2世は、皇位を娘ユーリに譲る為、退位を宣言していた。

終戦までの間の一週間、フェアリアは未だに道は定まってはいなかった。


もし、今ユーリやリーンの身に何かが起これば・・・


もしもフェアリアに内紛が起これば・・・・則ち。



「良いかよっく聞けよ!リーン殿下とユーリ皇太子姫を御守りするのが最期の務めと心しろ!」


重戦車と中戦車を任された曹長が栗毛を振り乱して指揮を執っていた。


「分かってますよラミル先任」


中戦車のキューポラから癖赤毛の軍曹が空を見上げて答えて来る。


「本当に分かってるのかよミリア?」


先任准士官のラミル曹長が腕を組んで睨んで来るのを、すっとぼけた顔で応えて。


「もう敵なんて居ないんですから、寝てたって大丈夫ですって!」


空に向けて背伸びをしていた。




そう。

それは俺達が終わりを迎える一日前の話だ・・・



帰ってこれたら大切な人がいない?!


それが戦争当事国の宿命とでも言うのか?

怒りはやがて・・・


次回 福光ふっこう 第4話

君は・・・幸運を信じられるか?

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