終わりと始まり 第11話
俺の謀ってのは・・・・
みんなの異能を集うことにあるっ!
反政府運動家達の思惑は違った展開に向かう事になったみたいだ。
自分達があわよくば政府の実権を?ぎ取ろうと試みていたらしいが。
中核をなしていた不平分子である一般市民の間から、離反する者が絶えなくなった。
労働者を先導した紅き旗は、次々に降ろされる事になったのだという。
それというのも・・・
「我が政府は、近く全国民から公平なる選挙を以って選ばれた議員300名で執権を行うものとする。
議会選挙を行い代表者である首相を選出し、内閣を運営する事になるだろう」
僅か一週間も経たずに宣言された。
公に内外に示したのはロッソアが初めての事ではないだろうか。
衛星国にも同様に議会が持たれ、独立する是非を問う事になるんだとか。
それもこれも、王女エルが皇位を引き継いだからでもあったのだが。
「やっと・・・落ち着きそうだね?」
ハフハフとロッソア饅頭を食べているロゼが、上機嫌で話しかけて来る。
「そいつはどうかな、魔女さん。
まだ選挙も準備が整えられていないみたいだし、まだ地方の争乱も片付いていないぜ?」
髭のバラッシュが、机の上に足を投げ出して応える。
「まだ、損害の補填が貰えてないのかよ、おっさんたちは?」
遊牧民の命である羊の補償が貰えていないのか、バラッシュ一家は都に留まったままだった。
「まぁな、なんでも羊の用立てが間に合わないそうなのだ、ケシカランではないか」
そりゃぁ、羊なんて早々簡単に用立てできやしないよ。
代わりに賠償金を支払おうかって言われたのに、断ったのはお前さん方だろう?
カインも頭を悩ましてたぜ?
「それはそうと。ルビナス達はいつ帰るんだ、フェアリアに?」
そうなんだよ、俺達は帰らなきゃいけないんだけど・・・
「それは・・・そこの魔女にでも訊いてくれよ?
春が来るまでってぬかしやがるんだぜ?寒いの・・・嫌の一点張りなんだ」
魔女は呪いから解放された筈だったんだけど。
フェアリアの<光と闇を抱く者>に因って、果たされたのにさ。
「うるひゃいっ!モグモグ・・・アタシは移動中の寒さが弱まるまでって言っただけよ!」
・・・同じ事じゃねぇか?!
「ルビナス・・・苦労してないか?」
髭親爺に言われちゃぁお終いだな・・・俺。
そう・・・一つの闘いは此処に終わりを告げていたんだ。
戦車猟兵として、また魔法の使い手としての戦争って奴は。
それは蒼く晴れ渡った空の下。
今から一週間前の話。
宮殿に詰めかけた市民の前に、王女エルが姿を見せた。
捕らえられた貴族達を足元に見て、自分の執った経緯を教える為に。
それは宮殿の中で皇帝と対峙した後の事だった。
ノエルと俺が考えたんだ。
魔法を使える俺達にしか出来ない事を・・だぜ?!
まず最初にカインに訊いた。
「アイスマンは人を仮死状態に出来るのか?」
答えはイエス。
次にロゼに言った。
「仮死状態の人間を蘇らせれるのか?」
答えは無論。
それで最後に王女殿下に訊いてみた。
「皇帝は死ぬが、父親は死なせたくはないだろう?」・・・って。
意味が分からなかったのか、答えは遅かったけど。
答えは勿論・・・希望。
ってことで。
俺に一存されたんだぜ?
謀って奴を・・・ね。
ベランダに出たエルが俺の言う通りに話し出した。
「我々の望みは果たされたのです。
悪政を揮っていた者共は皆収監しました。
貴族達の特権をはく奪し、皆から奪った資産も国に返却させる事になるでしょう」
先ずは民衆に訴えなきゃな、エル達が成し遂げた事をさ。
そして、ここからが本番なんだぜ?!
「既に聞き及んだかもしれませんが、先帝である私の父なのですが・・・
罪を自ら償ったのです、全ての犠牲者に報いる為。
奸賊達に操られていたことを恥じ、奸賊達への審判を求めて。
自ら自刃して果てたのです、ロッソアの未来を私に託して・・・」
まぁ、これだけで済む筈は無いと思うんでな。
エルの傍に居るカインに合図を送った。
カインは小さく頷くと、バラッシュ達に寝台を持ち上げさせる。
そこに横たわっていたのは・・・
「皆の前で晒すのは、私の父であった先帝・・・あなた方の恨みの元。
父は皇位を私に託しました、因って今は私が皇位に在るのです」
死人(死人)にしか見えない紫色の顔色。
ピクリともしない躰・・・
「見知っている者には判るでしょう、父の替え玉ではないという事に。
そして間違いなく死していると・・・その証拠は」
そう!ここからが見せ場だぜ!
カインから短剣を受け取ったエルが、白刃を抜き取り・・・
「皆、よく見ておきなさい!
これがロッソア帝国最期の皇帝に突きつける刃!
これで全てが終わるのだという事を!」
亡き父目掛けて短刀を突き立てた。
おおおおおお~っ!
どよめきが市民達から沸き起こった。
誰の眼にも、皇帝が死んでいると思えただろう。
短剣を突き立てられても、ピクリとも動かないのだから。
「ほれ、今だ髭親爺!」
タイミングを計っていた俺が、一家の主に声を掛ける。
「よ、よしっ! ・・・万歳!」
「声が小さいっ!」
「新王エルリッヒ様、万歳ッ!新ロッソア万歳!」
もっともっとと、俺が煽り立てる。
やがて唱和は宮殿の外に移り、市民達は挙って万歳を唱える。
そう、やれば出来るじゃんか。
大声援が宮殿を包み込む様は、王女エルに感動を覚えさせた。
勿論、俺は陰からガッツポーズを決めてやってたんだけどね。
真実を知らない人達を誑かしたようで気がひけたのは、暫く鳴り止まない歓呼の声に気付いてからだったんだけど。
それからの方が大変だったんだ。
皇帝の亡骸を埋葬して、墓を建て、そして市民達に布告するまでの間。
市街には紅き旗を信望する人達が居るし、まだ納得できていない人だって居たんだから。
直ぐに執り行わなきゃならない事に、カイン初めエル達ロッソアを変えようとする人達は奔走したんだ。
俺達だって手伝ったさ、怠けてなんかいなかったんだぜ?
特に誰も来ない夜の墓場で掘り起こすのは、嫌な仕事だったぜ?
「もう大丈夫だろう、カイン術を解いたらどうだ?」
棺桶ごとアイザック卿宅まで運んだんだ。
皇帝だったエルの父親を、墓場から連れ戻して来たんだぜ?
うら若き乙女ならいざ知らず、ムサイ親爺を掘り起こすなんて・・・
「魔女のロゼ、頼むぜ?」
躰は氷から解け、体温は戻っている。
後は、仮死状態の解除だけ。
蒼き光に包まれたエルの父が、目を開いて行く・・・成功だ!
「お父様!お父様!!」
抱き着くエルを抱えた皇帝だった親爺から、俺に感謝の言葉が。
「そなた・・・名を何と言うのか?
まだ聞いてはおらなかったな・・・教えては貰えないだろうか」
「ルビナス・・・月夜の魔鋼騎士、ルビナス・ルナナイト」
指輪を翳して見せてやったよ。
俺の名と、俺の称号ってもんを。
「ロッソアを代表して、そなたルナナイトに謝意を表す。
二つの国を代表してルビナスを讃えよう」
そう・・・俺は両親を戦争に奪われた復讐を、今果たし終えたんだ。
敵も味方もないと知り、誰もが死なずに済む平和を手に出来て。
やっと、死の連鎖を断ち切れたと・・・思えたんだ。
たった一人を救えただけなのに。
こうして、ロッソアに来た俺の旅は終わりを迎える事になった・・・筈だったのに!
「ルビィ~っ!お腹がぱんぱんで動けなぁ~ぃいっ!」
なんでロゼがぶくぶく肥えてるんだよ?!
防寒具を着て無くてもシロクマ君みたいじゃねぇか?!
「あああっ?!どうなるんだよ俺は?」
待遇が良過ぎて居付いてしまうのか?
俺達はそもそも秘密裏にロッソアに入ったんだぜ?密航者と同じなんだぜ?
いや、もっと言えば密入国してたんだぞ!
「いっそのこと、強制退去して貰おうかな?」
新しい政府が正式に誕生する前に、帰らないと大変な事になるぜ?たぶん・・・・
どう?
巧くいったぜ?
これでやっと復讐を遂げれたぜ?
なぁ・・・そうだろノエル
次回 福光 第1話
終った戦いの果て・・・俺達は郷里に帰らなきゃ・・・な!




