表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第7章 明日への希望
125/133

終わりと始まり 第10話

遂に明かされる事実。

俺の魔法は時を戻す。


そして秘められ続けてきた真相を明かすんだ!

もうこれまでだと感じた。

このままだと取り返しのつかない事になると思ったんだ。



俺達の足元には衛兵が倒れ込んでいる。

勿論殺したんじゃないぜ、眠って貰ってるだけさ。


魔女の魔法はこういう時にこそ使うべきだよな。

一方のカインは、見境もなく凍り付かせやがったけど。


「良いのか?!今なら全員揃ってやがるぜ?」


言い争う声が絶えない会議室の外で、俺達は聞き耳を立てて待っていたんだ。


「いや、未だだ。まだ肝心なことが話されてはいない」


カインが小声で推し量っていた。

この中に入るには、核心部分を聞いてからだと。


「お父様・・・闇に支配されていたのではなかったのね?」


王女エルが唇を震わせて涙を零している。


「だったらなぜなの?どうして私を追い払うような真似を?」


カインの後ろに居たエルの手がドアへと伸びていく。

その手を掴んだのはカイン。

王女付武官であり王室に近い貴族でもあり、なによりもエルの幼馴染。

そのカインがエルを押し留めているのだ。


声には出さないが、エルの瞳は<なぜ?>と問う。


「真実を聞かねばならないだろ?」


人質としてロッソア帝国の貴族の元へ養子に入ったカインハルト・フォン・アイザック。

人質なのになぜエルリッヒの幼馴染となれた?

なぜ今迄エルの傍に留め置かれ続けられたのか?


「それが僕の真実でもあるし、皇帝陛下の御意志でもあるのだから」


カインの言葉に魔女が気付いた。

カインハルトという男は、初めから知っていたのだと。


「あなたは本当にアイスマンね。策士に加担するだけあるわ」


ロゼッタの口から魔女のため息が漏れる。


「全てを知りながら、今迄騙し抜いて来たのね・・・全ての者を」


ロゼの言葉にエルが眼を見開きカインを観た。


「どういうことなの・・・カイン?」


信じていた者からの答えは返って来なかった。

敢えて無視していたのではない、部屋の中から聞こえて来た罵声に反応したんだ。


「エル!さぁ入るんだ!」






ホルスターから拳銃を掴み出し二人の後を追った。

魔女ロゼは即時に魔法を放てるように宿り直している。


ここが本当の決戦場だと言えるのだから。




「なっ?!なぜお前達が?」


貴族たちが王女とカインを観てざわめき立つ。


「衛兵は何をしておるのだ!」


部屋の外で眠っている衛兵を呼びつける官僚に、俺は拳銃を突きつけて黙らしてやった。


「アンタ等の犬達は眠っちまったよ、魔女の魔法でね」


傍らの魔女に目で合図する。

無言で威圧するロゼが、手の先から魔力の光を燈し出した。


「ひぃっ?!本物の魔女だ!」


居合わせた閣僚と思われる貴族たちが怯えて立ち竦んでしまった。

流石、古の魔女ってところだぜ、ロゼさん。


俺とロゼによって、室内の空気が替えられた。

そこに居合わせた貴族達は、逃げ出す事も出来ずに震え慄くだけになった。


が、もう一人だけは怯える様子も見せずにいやがった。


「陛下・・・お父様。なぜなのですか?なぜあんな真似を?」


そうさ、エルの父親である皇帝だけは魔法にも銃にも臆さないんだ。

じっと娘に顔を向けて、声さえも出さなかったんだ。


「カインと私を訴追した訳は?

 どうして私の言葉に耳を傾けようとしなかったのですか?」


王女はゆっくりと皇帝に歩み寄る。


「そなたはここに来てはならぬ。

 そなたは帝国とは無関係になったのだぞ、なぜ戻って参ったのだ?!」


初めてエルに返されたのは、戸惑いとも哀しみともとれる父の声だった。


「そなたは最早王女では無いのだぞ、王女エルリッヒはロッソアから居なくなったのだぞ。

 余が皇位を託す者は、もはやこの帝国には居らぬようにしたのだぞ!」


初めは戸惑い、やがては憐れむ様に・・・王女は父である皇帝に問い質す。


「陛下は私を亡き者にしたいのでしょうか?

 忌み嫌い、愚かにも逃げた娘だと思われておられるのですか?」


「・・・逃げたのではない、逃がしたのだ」


エルに返されたのが本当ならば。


「アイザック卿に頼んだのは余だ。

 此処に居れば巻き添いになるかも知れなかった。

 民の前で断罪になる虞があったからだ。余の望みが果たされた暁に」


真実が当人から零れだした。

傍に居たカインに王女を託したと言い、自らの運命を示してみせた。


「エルリッヒよ、なぜ舞い戻ったのだ。

 そなたはカインハルトと結ばれる筈では無かったのか?

 余はそれを望んだのだぞ?

 そなたに暴君と罵られようと、悪魔と呼ばれようと構いはしない。

 余の復讐を果し、呪われた帝国を瓦解できるのならば」


皇帝から聞かされたのが事実ならば、何もかもが虚ろになる。


「それでは父上は初めから?」


信じられない想いなのだろうエルには。

涙を堪えて父と対峙して、声を詰まらせて真実を求める。


「そうだ、今あるのは復讐の為。

 余の父から姉を奪い、その果てに殺した者への復讐。

 そして宮殿に宿る悪魔への復讐・・・それを果す為に嘯いて来たのだ。

 だが、それも今果たされようとしておる。

 古よりずっと呪われ続けた、ロッソア帝国の終焉と共に」


真実ならば、この皇帝こそが真の咎者。

自分の復讐の為に国を巻き込み、数多の人を殺した・・・大罪人。


だけど魔法を司る俺には、皇帝だけに罪があるとは思えなかった。

だってそうじゃないか、戦争は相手が無けりゃあ出来ないんだぜ?


「余は、小奴等が憎かった。

 議会を独占し、逆らう者は謀殺まで行い排除した。

 その上で栄華を極め、国民から多くの富を奪い去ったのだ。

 思い上がった小奴等に余の父も母も誅殺され、姉までも他国に追い出された。

 衛星国からは奴隷を求め、高い税で苦しめ抜いた。

 いつの日にか終わらせねばならなかったのだ、貴族達のロッソア帝国など。

 どれほど犠牲を出そうとも、余の手で終わらせねばならなかったのだ。

 この不幸な帝国を後にまで残してはならなかったのだ」


エルの前で皇帝が貴族院長を睨み、腰に手を廻した。


「良いかエルリッヒ、そなたはこの場から立ち去るのだ。

 民衆が宮殿になだれ込む前に、この宮殿から逃げてカインと自由を手にするが良いぞ!」


そこまで話した皇帝は腰から短剣を抜き放つと、貴族院長に飛びかかった。

白刃が煌めく、最期の復讐を果さんが為に。


だけど、おっさん。娘の前ですることかよ?!


俺が拳銃を放つ前に光ったんだ、蒼き光が。



 バシュンッ!



魔女のロゼが魔砲を撃ったんだ。

皇帝の翳した短剣目掛けて・・・


「いい加減にしなさいよ!

 黙って聴いてりゃ勝手な事ばかり!

 アンタには正論かもしれないけど、巻き込まれた者は堪ったもんじゃないのよ!」


ブルーマリンの瞳から炎が見えてるような気がするぜ。

俺には魔女の言葉の方が正論に聞こえるんだがな、おっさんよ。


「いいこと?!王女を思っていたのなら、どうして誤魔化していたのよ。

 自分だけが悪者になって済む筈が無いじゃないの!

 王女だったエルリッヒにも危害が及ぶと、なぜ思いつかなかったのよ?

 王家の者全てが断罪になるかも知れないのよ、娘を断首台に昇らせる気なの?!」


そ、そこ迄は思いつかんかったよ、魔女のロゼさん。


「はっきりと言っておくわ。

 不平不満の民が、自分達の肉親を奪った者を赦す筈が無い。

 同じように一人残らず根絶やしにする、喩え他国に逃げたにしても。

 復讐を果す為に追いかけて来るでしょうね。

 もしそこまで考えられなかったのなら、人間学を学び直しなさい。

 復讐の怨唆から逃れられないのは、自分を観たら分かるでしょうに!」


まぁね、ロゼさんの言うのも尤もだけど。

俺は別の意見があるんだけどな、時の魔法を司る身だから。


「あの、訊いて良いかな?

 皇帝さんは自分の復讐を果した今、どう感じてるんだい?

 国を崩壊させて人々に不幸を振り撒いて・・・どう感じてるのか教えてくれないか?」


「ふふふっ、虚しいだけかもしれん」


そう・・・そうなんだよな。

俺も一時期は復讐に燃えていたんだよ、だけど知ってしまったから。


「虚無とは言わないけど、恨みを晴らすだけじゃあ何も変えられないぜ?

 どれだけの罪を犯した奴でも、最期は同じなんだ。

 残ったのは虚しさと次なる復讐。

 分かるかい?復讐は復讐を産むんだぜ?

 負の連鎖に入っちまうだけなんだ、こっちが望もうと望まぬと・・・ね」


そうだっただろ?

フェアリアで知っちまったんだよ俺は。

復讐は際限なく闇を呼び、果たされた後は新たな復讐を産むんだってね。


魔女ロゼも判ってくれる筈さ、オーリエさんを思い出せれば。


「そなたの言う通りだったのかもしれん・・・が。

 最早手遅れなのだ、救いは余の前には無いのだよ」


皇帝は自らの犯した罪に押しつぶされている。

数万人もの犠牲を出した戦争も、厳しい税で苦しめたことも。

全て自分の所為だと思うのだろうか?


「なぁ、アンタ。

 こいつ等こそ悪の張本人だと言ってなかったのか?

 アンタの親兄妹もこいつらに殺されたと聞いたけど、審判を受けさせる気は無いかい?」


俺は拳銃で貴族達を指した。


「ば、馬鹿なことを言うな。なぜ私達が審判を受けねばならんのだ?!」


貴族は判っちゃいないらしい、時代が変わるのを。


「一つ言っておこう。間も無く宮殿は反政権軍に占拠される。

 どいう意味かが分かるかい?

 市民も近衛隊も、全てアンタ等に愛想を尽かしたんだよ。

 新しい政権が出来るのは間違いないって事さ」


俺は俺なりに、優しく解るように言ってやったつもりだぜ?

つまり、お前達は裁判を受ける事になるぜってね。


「そして次はアンタ達の番だぜ王女エルとカイン。

 宮殿の外には仲間達がいるんだ、真実を告げる勇気はあるかい?」


皇帝と俺を代わる代わるに観る二人に、俺と指輪が教えたのは。


「なぁ、魔女のロゼ。こんな時にこそ魔法ってモンがあるんだろ?」


カインに向けては持てる魔力を、エルに向けては真実の暴露を。

そしてロゼには・・・





最初に乗り込んで来たのはバラッシュ達だった。

勿論レオンとノエルの躰もだったけど。


寝かされた皇帝の傍に傅く俺達を見て、誰もが黙り込んでしまったんだ。


「陛下は御罷れました・・・」


魔女ロゼの声が午前会議室に木魂した。


そう・・・それが俺の考えた解決法だったんだ。

ロッソアとフェアリアの間には架け橋があった。

皇帝の姉がフェアリアに嫁いでいた。

それをも謀殺したのか?前の皇帝や妃まで?!


そりゃあ怨みもするぜ、一族の殆んどを殺されたら・・・


だけどもおっさん、あんたも同じことをしてきたんだぜ?

復讐を遂げるだけじゃあ何も解決しないんだ!

恨みを断ち切るのが本当の正義だとは思わないかい?


俺はとある方法を思いついたぜ!


次回 終わりと始まり 第11話

任せておけよ!王女エル。俺には最強の仲間がいるんだぜ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] なんと王様はフリをしていただけなのか。 そうか、お姉さんがいたのね。 オバちゃんって無駄に強いですよね。 豪胆というか。 母は強しというかなんというか。 そりゃ家族を無残に奪われたら、恨…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ