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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第1章 月夜(ルナティックナイト)に吠えるは紅き瞳(ルビーアイ)
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新米は直ぐヤラレル

大隊は再び渦中に嵌る。


俺達の前に圧倒的火力で挑みかかる!

その時俺は・・・

戦車猟兵大隊は、師団の前衛とされた。

任務が敵戦車の漸減に在るのだから、致し方ない事だが。


陣地は丘陵地帯の最前方。

敵からしてみれば、そこを無理から抜かなければ本陣に辿り着く事は出来ない。


つまり・・・だ。


「敵は大隊の中央を目指していない!大隊本部のある第1中隊を目指している模様!」


俺達の第2中隊より右に陣を構える第1中隊へ攻勢を掛けて来た。


第1中隊の布陣する丘との距離は約1キロ。


こちらの丘は右に比べて幾分かは急こう配だった。

戦車が攻め駈けるには適していないと読んだのか?


「敵の横腹を狙えるぞ!砲撃準備に掛れ!」


第2中隊に配備された砲戦車が一斉に車体の向きを右に向ける。

だが、俺達の居る場所からは・・・


「第3分隊っ、どうした?」


小隊長のレイリィ少尉が吠えるが。


「どうもこうも。撃ちたくても弾が届きませんって」


分隊長のハスボック軍曹が肩を竦めてみせるだけだった。


そう。1キロも離れているんだから、狙って当たる訳がない。

昨日の戦闘から何も学んでいないのか?


昨日発生した防衛戦で、味方の援護射撃が出来なかった事を忘れたのか。


「敵が歩兵なら、榴弾を撃つ事も出来るでしょうが。

 相手が今度も戦車というのなら、撃つだけ無駄ですよ」


最古参の軍曹に窘められた少尉が歯ぎしりして睨んで来るのを。


「それよりも、今度は敵も本格的に攻めて来たようですぜ?」


双眼鏡で第1中隊と交戦中の戦車を指す。

少尉も慌てて双眼鏡を構え、戦況を確認しようとする。


「あっ?!敵が攻めかかって来る?!」


右の丘に向かった一部の車両が、進行方向を僅かに振って来た。

その数およそ9両・・・全て軽戦車のBT-7だ。

距離にしてこちらから約800メートル。


「間も無く敵の砲撃が始りますぜ。

 相手から見ればこっちは唯の対戦車砲陣地パックフロントにしか見えんでしょうからな」


丘の下から見れば砲身を突き出した陣地にしか観えないだろうと、軍曹は警告を出していたのだ。

直ぐにでも砲戦車を隠蔽させるべきだと、言葉を変えて具申しているようだ。

陣地に籠った砲戦車は、敵から姿を隠せていられれば有効な対戦車兵器になれるが。


「装甲も無い砲戦車に榴弾を撃ちかけられたら、手も足も出なくなりますぜ?」


軍曹は機動力のある戦車が有利なのだと教えたつもりだったが。


「見つかったのなら、やられる前にやれば良いだけだろう!」


少尉は戦闘の何たるかを忘れていた。

闘う前に肝心な事を忘れてしまったようだ。


ー 駄目だな。少尉は自分が撃つ事だけを考えている。

  敵も撃って来るのを忘れている・・・撃ち合えばどうなるかを考える余裕がないのだろう


陣地に籠ったままの砲戦車対、機動力のある戦車。

こちらが敵の倍以上の戦力を誇っていたとしても、撃ち合いは避けるべきなのに。


俺は軍曹がどう判断を下すのかに注目していた。


「ルビ一等兵、初弾はどうするのですか?」


補助装填手のラク二等兵がロゼより俺に訊いてきた。


「敵戦車を撃つのですか?それとも後方に続く歩兵隊を狙うのですか?」


ラクに言われるまで観えていなかった。

操縦席に座る俺には土嚢より下側は観えなかったから。


「なんだと?どれくらいの勢力なんだ?」


問い質した俺に、ラクが詳細に人数を数えていると。


「およそ2個中隊、数にして200名ってとこかしら・・・ね?」


照準器を通して数を数えたロゼが、同じく数え終えたラクに確認を取ると。


「間違いないです、ロゼ砲手の言われた通りです」


俺は二人が答えた人数に眉を顰めた。


「だとしたら。榴弾で敵の進撃を喰い止めねばならんな。

 弾さえあれば・・・だが」


俺が言った訳は、この車両に載せられてある弾数が不足していたからだ。


「榴弾はたったの3発しか載せてない・・・ここぞって時にしか撃てないわ」


他の車両に比べても強力な、75ミリ砲弾が撃てるのに。

肝心の弾がないときた。

今更弾をどこかから持って来られる筈もない。


「そうなれば・・・撃てるだけ撃って・・・後は車両を放棄しなきゃならんな?」


俺達は本来歩兵なんだ。

戦車猟兵部隊員なのだから、砲撃を終えれば歩兵戦に加わるのが妥当だろう。


「そうね・・・それが一番なのかもね」


いつも文句を垂れるロゼでさえ、そうするのが当然だとばかりに言う。


「ですが、戦車に攻めかかられたりしたら?」


ラクは怯えるように敵を見詰めたままで訊く。


「ものの言いようだよラク。その時は退くしかなかろう?」


「そ、そうですね。敵に蹂躙されるのを指揮官が、ほっておく訳がありませんよね?」


ラクは初めての戦場だったから、期待を込めて言ったのだろう。

だが、俺やロゼには解っていた。

遠く離れた司令部に居る者達が、前線の兵士がどんな目に遭おうが知った事ではないと思っているのを。


「ま、そん時にゃー、一塊になって逃げるだけだよ」


ロゼが振り向きもせずにブスッと答えた。






第1中隊は良く善戦した。

敵を喰い止めて良く闘い抜いた。

大隊長のマッキンガム少佐は、中隊と共に任務を果たした・・・戦死しつつも。


敵の第1派は戦車数両を撃破され、一時的後退に移る。

だが、今度の敵部隊は本格的侵攻を目指した正規軍だった。


後から後から押し寄せて来る部隊は、師団規模を超えていた。

俺達の一個師団に対し、軍規模で押し寄せて来たんだ。


俺には解らなかったんだが、後に訊いた処に因れば、

ロッソアの侵攻軍は各地で雪崩を打つように攻めて来ていたんだという。


フェアリアの陸上軍全体よりも多い、4軍併せて30万人もの兵力だったそうだ。

その内の一軍、南方攻略軍が俺達の相手。

総数6万人以上の兵力で襲い掛かられていたとは、俺達には知りようも無かったんだ。


第2師団の人員数1万3千人、対してロッソア軍は3個師団の6万人。

防衛側が有利に戦える、攻略軍3倍の原理を優に超えた一方的な数の暴力。


その只中に俺達は貶められていたんだ。


今はその最前方の部隊が相手だったから、知らずに戦えた。

もし、そんな軍を相手にしていると知っていたのなら、こうまで闘えただろうか?

一握りの国土を護り、一握りの希望に縋れただろうか?


無益な闘いはこうして泥沼と化していったんだ。



そう、俺が敵弾に気絶させられたあの時も・・・






「敵戦車が第1小隊に向かってる!」


ラクが防盾から身を乗り出して叫んだ。


二両を擱座させられた敵は、怯む事無く丘を登って来る。


「ラク!騒いでいないで弾を込めろ!」


操縦席から俺が叱りつけるのだが、当のラクは戦場に舞い上がっているのか。


「前方からも歩兵が近寄って来る!」


まるで他人事のように叫ぶのは、自分が置かれた状況から逃れたい為なのか。

装填手が使い物にならなくなっていた。


戦場に初めて出て来た少年には、見る物全てが地獄に観えたのかもしれない。


弾が当たった戦車が、搭乗員を乗せたまま炎上する。

焼けただれた搭乗員達が、先を争ってハッチから飛び出る・・・のを。

次の瞬間にはどちらの弾とも言えない銃弾が、薙ぎ払って身体を引き裂いた。

味方の犠牲をものともしない戦車からの砲撃で、敵を擱座させた砲戦車が火を噴く。

砲撃した味方の位置を確認した敵野砲が忽ちにして陣地を穴だらけにした。

落ちて来た弾に当たった者は、爆焔と共に霧散する。血の霧と成り果てるのだ。


跡形もなく叩きのめされた砲陣地に、生きる者の気配は残されていない。

砲陣地よりも前にある対戦車壕では、戦車に追従して来た歩兵との白兵戦が執り行われた。


ロッソア兵は、白刃を煌めかせ踊り込む。

塹壕の中では銃剣が舞い、拳銃が放たれる。

双方の生死を賭けた闘いに静寂を齎せたのは、仲間討ちをものともしないロッソアの野砲によって。


塹壕は誰の手足かも判らない物が飛び散り、ぬかるんだぬめりの池と化す。

砲弾で爆散した身体は躯と化し、どちらの将兵かも分からなくした。



なまじ、初陣の少年兵にみせる物では無かった。

いや、歴戦の将兵にだってキツイものがあるだろう。


一号車に乗ったハスボック軍曹でさえも、口数が少なくなったようだ。

これほど悲惨な戦場が、この世にあるとは思えない・・・と、言った処か。


ー そうさ。俺達は戦場に駆り出されたんだ、地獄という戦場の只中へ


敵も味方も関係ない。

そこに在るのは阿鼻叫喚の地獄。

人の姿をした悪魔達だけが笑っているのだろう。


俺の復讐するべき相手が・・・そこに居る筈なんだ。


闘う度に解って来る。

本当に倒すべき相手が、誰なのかというのが。


ー 俺は敵の魔鋼騎を狙っている。紫の紋章を浮かべる奴を倒すのが望み。

  だけど、敵の魔砲使いを殺しても、この戦争は終わりはしないだろう・・・


紛争も戦争も。

政府も皇帝も。

戦場へと駆り出した者達を倒さねば、本当の復讐ではないと気付かされた。


ー だとしたら俺は何をすれば良いと言うんだ?


巨大過ぎる宿敵に、考えが纏まらなくなる。


ー ラクのように怯え震え、気が狂っちまうだけで良い訳がない。

  死ぬまでに何かを成し遂げねば死んでも死にきれない・・・


死に急ぐ俺達に、どうしろというんだ?

誰かが俺達の死んだ後に想いを晴らしてくれるのか?


ー 違う、俺達が生き抜いて成し遂げなきゃならないんだ・・・


だとすれば、今は何をすればいい?


俺は近寄る敵兵に目を向ける。



「やるべきことは唯一つ。

 生き残る為に敵を撃つ・・・生き残れさえすれば次がある!」


咄嗟に俺はギアを後進に入れた。

アクセルを思いっきり踏み込み、全速後退に掛かる。


「ルビ?ルビっ?!」


命令も無く後退し始めた俺に、ロゼが訳を訊く声がしたが。


((  ダッダーン  ))


今の今迄居た陣地が炸裂音を揚げて爆破された。


「ぎゃっ!」


俺が注意を与えていたのに、ラクは未だ装甲板から頭を出していた。


「ラ?ラク?!」


ロゼの声が聞こえた。

それが何を意味しているのか、炸裂した砲弾の音が教えているような気がした。


「ルビっ!ラクがっ、ラクがやられちゃった!」


ロゼの声で確認した。

だが、俺は後退するのを辞める気にはなれなかった。

自分の勘が頼りだった。

陣地から離れた俺には、仲間達がどうなったのかを知らねばならなかった。

陣地に戻った時観たモノは、無惨な仲間の死。


そして、俺は・・・


次回 間違った判断

君は自らの行為に・・・恐怖する!

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