翻弄される希望 第1話
2つの道が合さる時。
一つの道が開かれる・・・
出逢いが齎すものとは?!
ガッシュ等と袂を分かち、俺達は一路フェアリアへの道を辿ったんだ。
ノエルをしかるべき人に預ける為に。
味方も居ない、荒涼たる山野を抜けて・・・だ。
「ねぇルビィ?道に迷ったとか言わないでよね?」
地図を広げた俺とレオンに、痛い一言を言いやがるのはロゼ。
「まさか、レオンも現在地が判んないなんて言わないわよねぇ?」
チクリと棘が刺さるんだが。
「しっ、仕方がないだろ!周りを観てからものを言えよ!」
ほら見ろ。レオンがブちぎれたぜ?
俺達が停車してるのは、雪が遮っていたからだが。
周り中一面の雪に阻まれたからじゃなくて・・・
「目印や地図に描かれた町や村さえも見えないからじゃないか!」
道しるべとか建物が見当たらなくなっていたんだ。
確か、方位磁石では間違ってはいない筈なんだが?
「私の記憶では、ここらに村があった筈なんだ。それが見当たらないのがどうにも分からないんだ」
レオンも勘が狂ったのか、小首を傾げるばかりだ。
「磁石が狂ってるんじゃないの?半日前にはこんなに雪深くなかったじゃない。
間違えて北に来ちゃったんじゃないでしょうね?」
寒さに弱いロゼが、身震いして周りを見渡す。
「それは無いと思うが。
景色に変化がない処を観ると、どうやら道に迷ったのは間違いないな」
匙を投げたのか、レオンが道に迷ったのを認めやがった。
「ほ~らぁ!やっぱり・・・」
続けて文句を言い掛けたロゼに、片手で制した。
「?!」
言葉を切られたロゼが怪訝そうに睨んで来るのを停めて、耳を澄ましてみる。
どこかから地鳴りのような響きが聞こえて来たんだ。
「静かに!何かがやって来るぜ?!」
咄嗟に俺はレオンを促して車上へと戻る。
「何かってなによ?」
防寒具に頭まですっぽり包まったロゼには聞こえていないのだろう。
地鳴りに近い音・・・その音の意味しているのは。
「敵部隊?!いいや違うな。
戦闘車両ならもっと複数から聞こえ始める筈だ!」
レオンには届いているようだ。
しかも元戦車兵だから、音の聞き分けが正確なのだろう。
「あ・・・あれは何?」
音のした方角を観ていたレオンよりも早く、ロゼの奴が見つけやがったのは偶然か。
山の間に浮かんだ煙が、俺達じゃなくて左側に向けて伸びているのを見つけたんだ。
「なんだ?もしかして汽車なのか?」
答えたレオンの眼が光る。
「そうか!地図にあった鉄道じゃないか?」
閃いたレオンがもう一度地図を開くと。
「しめた!鉄道に沿っていけば、<キャシミール>まで辿り着けるはずだ!」
訊き馴染みのない地名を告げたレオンに。
「<キャシミール>?そこって安全なの?」
怪訝な表情のロゼが問い質す。
「安全かどうかは知らないが、駅もあるし街もある。
少なくとも食糧燃料の補給には事欠かないぞ」
レオンの言葉にロゼの顔が華やいだ。
「食料ぉ~っ?!」
そっちかい。
「いや、ちょっと待て。それじゃあ軍隊も駐留してやしないか?
こっちにはノエルだって居るんだし、危ない橋は渡れやしないぜ?」
下手に近寄っては危ないんじゃ無いのかと、俺が訊き咎めるのだが。
「たぁべぇものぉ~っ、温まりたぁいいぃ~っ!」
ロゼの野郎が駄々を捏ねだした。
「だぁ~っ!うるさいっ、わぁーたよ、行けばいいんだろ行けば!」
無駄な口論なんて意味もないし、俺だって先行きが分からない道どりを走るのも嫌だ。
「仕方ないなぁ、あの煙に併せて走っていこうぜルビナス」
レオンもそうする方が良いと判断したようだ。
「たっべもの!たっべものぉ!」
・・・約一名は蚊帳の外においておいてくれ。
最後尾の貴賓車輛に乗り込んでいたエルとカイン。
まだ、目的地には辿り着いてはいなかった。
「ねぇカイン。次の駅にはどれ位停車するの?」
数駅を経て、機関車の石炭を補給する為に停車すると車掌から聞かされていたエルが興味深そうに訊ねて来た。
「そうだね、二時間くらいかかるんじゃないかな?」
長距離を走り抜ける大陸間鉄道には、汽車の補給基地が数か所設けられていた。
「そう?じゃあ、その間は外に出ても良いんだよね?」
エルが嬉しそうに同意を求めるのだが。
「エル、単なる旅行じゃないんだから。危険な目にでも遭遇しないとも限らないんだよ?」
カインに駄目だと断られてしまう。
「そうよね・・・浮かれちゃってたわ。ごめんなさい」
自分達が逃避行中なのだと改めて思い出したエル。
しょげかえったエルの顔を観たカインは、そこで一計を考えた。
「そんなに落ち込まないでエル。
それなら僕のそばを離れないって約束し直して。それと二人で変装してみないかい?」
顔を挙げたエルが、眼をパチクリしてみ返すと。
当座の資金と換え上着の入った旅行鞄から、自分の服を取り出したカインが笑い掛けるのだった。
それから間もなくして。
駅に滑り込んだ列車から、乗客たちが降りて来た。
流石に戦時下だけあって服装もまばらだったが、一様に皆が整った服を纏っている。
その中で目についたのは、最後尾から降りた二人の青年達だった。
すらりとした男性に手を取られたもう一人の青年は、華奢な手を取られながらも嬉々として歩んで来る。
深く被った目差し帽に顔の半分を隠してはいたが、口元は流麗で男装の麗人に近かった。
プラットホームの半ばまで進んで来た華奢な青年が、眼下に広がる街を眺めてこう言った。
「ねぇカイン!自由っていいね!」
駅名の看板の前で手を伸ばし、背伸びをした青年の帽子からは金色の髪が零れだして見えていた。
頷いたもう一人の青年が看板に寄りかかる。
そこに記されてある駅名は・・・
<<キャシミール>>
ジープをそいつらから見えない陰に停めた。
一時は戦闘になるかと思えたのだが・・・
「やばかったなぁ。もう少し気が付くのが遅れたら銃撃を受けたかもしれないぜ?」
レオンが冷や汗を拭う仕草を見せる。
「いいや、まだ安心するのは早いと思うぜ?」
双眼鏡で敵状を確認しつつ、俺が周りを見張って言うと。
「たぁべぇものぉ~っ」
喰いっぱぐれたロゼが駄々を捏ねやがった。
物陰に潜んで様子を視る事になったのは、<キャシミール>に到着する僅か前の事だ。
それまで順調に進んで来たのに、突如前方に現れたロッソア部隊に気が付いた。
同じ方向に向けて進んでいたから気が付かれずに済んだんだが。
「もし側面や前を進んでいたら、車輪の轍から気付かれていたかもしれないな」
こちらがジープという車輛だったのも幸いしたのかもしれない。
双眼鏡に捉えたロッソア部隊の規模は、それほど強力とは思えない。
「ざっと見て、兵員輸送のトラックが2両と軽装甲車が3両。
兵員輸送車に一個分隊12名として2両で24名って処だな」
レオンが素早く人数を数え上げる。
俺達3人が相手にするには余りある数だ。
「奴等の目的が<キャシミール>に在るのは間違いないだろう。
素通りしてくれたら良いのだが、居座られるとなると近寄れんな」
確かに無駄な戦闘は控えるべきなのだが。
「えぇ~っ?!たぁべぇものぉ~っ」
うるさい奴が愚痴てやがるんだが・・・
「いい加減にしろよロゼ。食べ物なら他の場所まで辛抱しろ!」
「いぃやぁだぁ~っ」
レオンに窘められても・・・まだごねてやがる。
これだけ言われてもウダウダ言ううのなら。
「魔女のロゼさん、代わってくださいませんかね?」
最終奥義を発動させてやった。
「温かいぃ~ものぉ~がぁ~欲しいのよぉ~っ」
魔女のロゼさん・・・ですか?
「初めっから魔女なのよぉ~っ」
・・・・は?!
振り返った先に居るのは・・・魔女?!
「だぁってぇ~っ、寒いのは苦手なのよぉ~」
・・・駄目だこりゃ。
同じ想いなんだろう、レオンがポカンと口を開けてる。
「そ、それじゃあ?どうするって言うんですか?」
結果は火を観るよりも明らかだったが、聞くだけ訊いてみた。
「アイツ等を吹っ飛ばしてぇ~、温かい食べ物を奪取するのぉ~」
・・・おい。
「そしてぇ~っ、汽車に乗って帰るのぉ~」
・・・寒さに弱いのは判るけどさ。
「あの・・・一言いっても良いかな?
あの汽車はフェアリアなんかには行きはしませんけど?」
レオンが額に指を添えて教えた・・・ら。
「そんなのどうだっていいのぉ。
この寒さから逃れられるのならぁ~」
・・・そこまで言う?
呆れてレオンも俺も言葉を無くす。
「だってぇ~っ、ルビの妹ちゃんも温めてるのよぉ~。
魔法力も食べなきゃ保てないのよぉ~?」
?!それは思いもしなかった!
もしかして魔女のロゼさんがノエルの躰も温めてくれているのか?
「ロゼさん?!それは本当なのか?ノエルを魔力で温めてくれていたのか?」
感謝と謝罪を込めて訊いた。
「そう思うのならぁ~、早く食べ物がある処まで連れてってぇ~」
俺は改めてロゼの優しさに感動を覚えたんだ。
いくら仲間の妹だからって、自分を犠牲にしてまで尽くしてくれるなんて、と。
ー あのさ、ルビ兄ぃ。ちょっと違うんだけど?
指輪から本人の魂が断りを入れて来る。
「なんだ?何が違うんだよ?」
妹が言う違うという意味は?
ー 魔女さんが温めてくれてるのは確かだけど。
魔力なんて使っちゃいないよ、魔力で体温をあげるなんて出来ないもん!
「・・・へ?」
なんだ?なにがどうって?
ー いやあのね、だから魔女のロゼさんは本当に寒がりなだけ・・・だと思う(断言)
「・・・はいぃっ?!」
ノエルが言うには・・・感謝損ってことなのか?
「もしや・・・単に寒くてもう嫌になったとか?」
「ぎくりっ?!」
ノエルを救出した折から、魔女ロゼは気が抜けたようだ。
自分も救われる筈だったのに、救いの手が遠のいたから。
まぁ、気持ちは分からないでもあるのだが。
「どうするルビナス?魔女の言う通りにするのか?」
はた迷惑なのはレオンだろう。
計画によれば、ジープに乗って国境にまで行く予定だったから。
「そうだな、状況次第なんじゃないか?
確かにこんな雪の中を奔り回っても、国境まで行けるとは限らないし。
敵に遭遇するかもしれないし・・・汽車でならバレない限りは行きつくとこまで行けるんだから」
魔女の案に乗っかる訳じゃないが、どのみち補給をしなきゃならないのは間違いない。
「奴等がそのまま通り過ぎるかも知れない。
そうなったらそうなったで、その時に考えよう!」
行き当たりばったりだが、俺は奴等の後を追う事を提案した。
「そうよぉ~っ、食べ物ぉ~ぉ手にするのよぉ~」
・・・もういいって。
奴等から見えないまで距離を開いて。
俺達は<キャシミール>に向かう事にしたんだ。
それがどんな出会いを生むかも知らずに・・・
やっと。
ロッソア編もここまで辿り着きました。
2つの道がもう直ぐ其処まで近付いています。
王女とルビ・・・どうやって繋がるのでしょう?
それはこれから・・・
次回 翻弄される希望 第2話
シアワセは直ぐに逃げてしまう、まるで掴めないウナギのよう・・・うなぎ?!(食べたいよう)