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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第1章 月夜(ルナティックナイト)に吠えるは紅き瞳(ルビーアイ)
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ツンなロゼとデレなロゼ

俺の前に居るロゼ。

いつものツンと、物憂いロゼ。


ドッチが本当の彼女なんだろう?

陣地の外れでロゼに問いかけた時の事だ。


「おいっ!そんな所で何をしているんだ?!」


窪地の縁から声が掛けられた。

少し高めの声が、俺達へ誰何して来たんだ。


「ルビナス、生きていたようね・・・」


俺は目を疑った。

呼びかけて来た女性の顔を観た瞬間に、あの日の姿が蘇った。


「あなたは・・・アリエッタ准尉・・・じゃなかった少尉?!」


ブロンドの髪を靡かせて俺を見詰めているアリエッタの襟章は、少尉の階級を表す星が一個ついていた。

数日の内に、昇進したのか。

あの時見たアリエッタは准尉、目の前に今立っているのは少尉。


まるで旧知の友人にでもであったかのように思える。

アリエッタ少尉は確か、戦車隊に属していた筈だが?


「ここは戦車猟兵大隊の陣地ですよ?俺達が居るのは不思議でも不自然でもありませんが?」


アリエッタ少尉が此処に居る方が不思議だと答えると。


「ここの部隊長達に訊いたんだよ。

 ルビナスが居るって・・・一言あの日のお礼が言いたくてさ」


はにかんだ様に笑みを浮かべて俺に言ってくれた時。


「何故よ?!なぜあなたが現れなきゃーならないのよ?」


不意にロゼが、顔を背けたままアリエッタ少尉へ問う。


「なぜ・・・ルビにお礼を言うのよ?ルビとどんな関係があるっていうのよ?!」


その声は上官へと向けて放ったとも思えない。

辛辣で、怒りを含んだロゼの声。


「どうして戦車猟兵でもないアリエッタが、此処に居るのよ!」


階級も目上も関係ない。

ロゼは明らかにアリエッタを知っている。

いいや、明らかにアリエッタ少尉を憎んでいる。


いや、仮にもここは軍隊で戦場なんだ。

俺はロゼに何があったかは知らないが。


「おい、ロゼ・・・」


上官に対してその口の利き様はないだろう、と止めに入ったが。


「あら、どこかで観たような顔だと思えば。ロゼッタ・・・一等兵じゃない?」


アリエッタ少尉の声で、次に出す言葉を失った。


「あなたこそ。ルビナスと同じ隊に居たなんて・・・」


アリエッタ少尉は俺に向けた瞳とは、全く違う色でロゼに睨み返した。


「ルビは端から戦車猟兵なのよ、アタシと同じ。

 それにルビと・・・同じ分隊に所属してるだけよ!」


言い返されたロゼがアリエッタ少尉に向けて、此処に居るのは不自然ではないと言い募る。


「そう?ロゼッタがこの部隊に居るのは知っていたけど。

 まさかルビナスと同じ分隊に居たとはね・・・おかしなこともあるものね」


「可笑しい?なにがどう可笑しいっていうのよ!アリエッタ?!」


呼び捨てにするロゼを停める気になれず、黙って二人の間に立つ俺。


ー二人の間に険悪な空気が流れる訳が、俺にあるっていうのか?

 いや、違うな。

 この二人の間には、いがみ合う理由があるのだろう。俺には判らないが・・・


「はんっ、ロゼッタ。可笑しいと言ったのは、あなたの事よ。

 元々あなたは、砲術学校を優等で卒業した筈よ。なぜ戦車猟兵に成れたのよ?

 砲手として訓練したあなたが、歩兵になってるのが可笑しいって言ったまでよ」


アリエッタ少尉が教えてくれた。

ロゼについて何も知らない俺に、砲手として学校を卒業した事を。

しかも・・・だ。


「優等で卒業したあなたは、戦車に乗る筈なのに。

 どうやって砲戦車部隊へ廻されたのよ?可笑しな話だわね?」


アリエッタ少尉の謂わんとしているのが、俺にも分って来た。


「ロゼッタ、あなたにも魔法力が備わっている筈よ?

 私と同じ血が流れているんですもの、魔女の異能ちからが受け継がれている筈よ?!」


そう・・・ロゼとアリエッタは。


「うっ、うるさいっ!あなたなんかと同じ血が流れている筈が無い!

 お母様の血を受け継いだのなら、闘いに使うような真似をする筈が無い!

 アリエッタ、あなたを姉だなんて認めないっ、マーキュリア家の人間だなんて思っちゃいないから!」


ロゼが眼の色を変えて怒鳴り散らした。

姉妹の間に何があるのかは知らない。

アリエッタ少尉とロゼの間に何があるのかは知りようがない。

だけど、二人の間に流れているのは・・・


「何とでも言うが良いわ。

 私達マーキュリア一族に流れている魔女の血は、間違いなくあなたにも受け継がれている。

 魔砲を使う事が出来る・・・古の魔女から引き継いだ異能まほうが・・・ね!」


「違うっ!違うぅっ!アタシは魔女なんかじゃないっ!

 魔砲なんて放てる訳がないのよ、あなたと違ってアタシには石が無いんだから!」


姉妹が争う理由は、魔女たる者と魔女に成りきれない者との差なのか?

それとも・・・他に理由があるのだろうか?


「落ち着けよロゼ。アリエッタ少尉も、です」


争う二人を執り成そうとして、俺が仲裁に入ると。


「ルビ!もう分隊に帰ろう!」


そう言うが早いか、ロゼが敬礼もせずに早歩きで踵を返した。


「お、おい?!」


俺はロゼを停めようとしたのだが、振り向きもせずに分隊に向けて行ってしまう。


「ルビナス、ごめんなさい。

 ロゼッタは私の妹、1つ年下の。

 妹は私の事を憎んでいるの・・・いつまでも昔の事を根に持って」


ロゼを追おうとした俺に、アリエッタ少尉が話した。


「あなたにも忠告しておくわねルビナス。

 ロゼッタを過剰に信用してはいけない。

 あの異能ちからを宛てにしていたら、死を招くわよ?」


ロゼに対する雑言ぞうごんをアリエッタ少尉が、俺に与える。


「ロゼが何をしたというのですか?

 ロゼと俺は仲間なんです、その仲間を信じられなくて戦えますか?」


カチンときた俺が、言い返すと。


「忠告しておいたわ、命の恩人だから。

 ロゼッタに深入りしてはいけない・・・信じるかどうかはあなた次第よ?」


どちらを信じろと言うのか。


上官であるアリエッタ少尉に敬礼し、俺は躊躇いも無くロゼの後を追う。


俺が信じるのは相棒であるロゼ。

俺と共に闘う仲間・・・ロゼの方だ、躊躇う必要なんてどこにも無い。





「待てよロゼ!待てってば!」


走り追いかけ、追いついた俺がロゼの肩を掴む。


「何をそんなにツンツンしてるんだよ?」


先程見せた怒りの表情が、今は陰を纏ったように暗く見える。


俺の手に掴まれた肩を、引き剥がすかに思われたが・・・


「ルビ・・・訳を訊かないでくれる?」


逆に俺の手を掴んで頼んで来やがった。


「ああ、ロゼが話したくないのなら・・・ね」


ロゼの声に覇気が感じられない。

何か言い難い理由があるのだろう。


「それと。アタシに魔砲力がある事も・・・黙っていて」


分隊に帰ってもか・・・知られたくない理由は?


「バレちゃったら・・・この部隊に居られなくなっちゃう。

 ・・・きっと転属させられちゃうから・・・嫌なの」


急に立ち止まったロゼが、俺に振り返ると。


「嫌だ、嫌なのよ!アタシにも魔女の血が流れているのを知られるのが。

 アタシに魔砲を撃つ資格がある事を、皆に知られてしまうのが怖いっ!」


俺の胸に掴みかかって、ロゼが泣きだした。


「戦争になるとは思わなかったのよ。

 アタシはアリエッタを辞めさせるために砲術学校に入ったの。

 姉を改心させる為に、軍へ入ったつもりだったのに!」


俺にはどう言う事なのか分かりようも無かった。

唯、ロゼが言いたい事は少しだが判る。


ロゼはアリエッタ少尉を憎んでなんかいない・・・ということ。

逆に姉を慕うが故に、軍から身を引かせようとしていたのだと。


そうだ、ロゼは自分が魔法使いだと認識している。

受け継がれた異能ちからを戦争に使う事にも躊躇っていない。

唯、姉を何かから救いたいと願うから。

自分を犠牲にしてでも、姉を軍から抜けさせたいと思っていたようだ。


「そうか・・・ロゼは姉想いなんだな?」


俺の言葉にロゼの身体がビクンと震え。


「違う、アリエッタの為だけじゃないの。

 お母様の為、思惟てはアタシ達マーキュリア家の為・・・」


「家の為?」


俺が問うと、ロゼは口を噤んだ。


「言いたくなければ言わなくて良いよ。俺も聴かない事にするから」


アリエッタ少尉とロゼの確執が、二人の間だけに留まらない事だけは分った。

それと同時に、ロゼッタ・マーキュリアという娘の宿命が如何に重いのかという事も。


「俺なんかよりも、ロゼの方が背負う物が大きいみたいだな?」


「え?ルビよりも?」


ロゼが訊いて来る。


「そうさ、俺は個人的に恨み、目標にしているだけなんだからな復讐の名の下に。

 けど、ロゼは生きている者との蟠りの中で、闘おうとしているんだ。

 俺なんかよりもっと難しく辛いんだろうな・・・良く解んないけど」


茶化してやったつもりだったのだが。


「うん、ルビに話して良かった・・・ルビだけには知られたくなかったけど。

 アタシの秘密を知っても、変な顔一つ見せないルビが居てくれる・・・」


ロゼが俺の胸に顔を埋めて、溢していたが。


「ねぇ、ルビが復讐するお手伝いをさせてよ。

 アタシが魔法使いだと知ったなら使わない手はないよね?」」


「うん、まぁな。ロゼが本当に魔法使いなら・・・」


俺は惚けてやった。

ロゼの瞳が蒼く替わっているのを、見てしまっているのに。


「あ、信じていないの?こう見えても魔法石さえあれば魔鋼騎にだって乗れる筈なんだからね!」


「あはは、いい加減な事を・・・って?石ってどんなものだよ?」


胸元で俺を見上げているロゼの瞳の色は碧い。

普段とは別人の色となっている。

ロゼが言うには、何かの石が無ければ魔砲は放てないというのだが。


「それはねぇ・・・蒼くて透き通るような石なの。

 ブルーサファイアよりももっと蒼くて・・・え?!」


俺はポケットにしまっていたノエルの形見を摘まみだす。

リングに描かれた俺の家に伝わる紋章、大神おおかみが光っていた。


「え?!えっ?どうして?どこで?」


手のひらに載せたリングを観て、目を見開いたロゼが訊いて来る。


「これ、ノエルの形見なんだ。

 代々俺の家に伝わる家紋が描かれてある・・・

 母さんから引き継いだのはノエル、死んだ妹の物だったんだ」


「ノエルって。ルビの妹なんだね?

 その子がどうして?・・・あ、ごめんなさい」


言ってからロゼが謝った。

俺の復讐が誰の為で、何故なのかを思い出して。


「不思議だね、ルビの妹さんも魔法使いだったの?」


「いや、確証はないけど。

 ノエルも元々俺と同じ、紅い瞳だったんだ。

 だけどリングを填めてからは、ずっと蒼いままだったから・・・」


目の前に居るロゼの変化を観て、俺がそう答えると。


「え?じゃあどうしてアタシが魔法使いだと確信したの?」


・・・・もしや、ロゼは気が付いていないのか?


「瞳が蒼く輝いてるんだけど?」


「・・・にゃ?!」


驚き過ぎてロゼの呂律がおかしくなった。


「じゃ、じゃあ・・・ルビはアタシの事を端から魔法使いだと?」


「うん?初めて逢った時、ノエルとそっくりだと感じたんだ。

 妹に似て瞳が蒼く輝いたから・・・そうかなって?」


俺が逢った時の印象をそのまま伝えると。


「・・・アタシ、今迄なにやってたんだろう?」


がっくりと肩を落として苦笑いするロゼ。


「それに言ったじゃないか。

 俺の復讐相手は、あくまでも敵の紋章付き戦車なんだって。

 味方の魔鋼騎までも撃破しようなんて思っちゃいないぜ?」


戦争だからって味方迄撃つ事はないと言い切った。当たり前の話だが。


「あは、あははっ。そりゃそうよね・・・」


ロゼが笑うのを辞めて俺をつつき出す。


「だったら。アタシの事も憎んだりしない?」


「?どういう意味かさっぱり分からんのだが?」


眉を潜めて俺が問うと。


「だぁかぁらぁっ!魔法使いのロゼッタ様を、邪険にしないのねってことよ!」


「言ってる意味が理解出来んのだが?」


俺にはロゼの真意が掴めなかった。


「ああーっ、もうっ!この鈍感っ!」


ツン娘が姿を現したかに思えた・・・次の瞬間。

胸元のロゼが俺の襟を掴み・・・


  つぅっ


襟を掴んだまま目を瞑り、頭一つ分背の低いロゼがつま先立ちになって。



  ふっ


双眸にノエルに良く似たロゼが写っていた。

思考が一瞬止まった気がした。

何が起きてどうなってるのか・・・俺はパニックになる。


  すっ


ロゼが視界から消えて、やっと何が起きたのかがわかり。


「ばっ、馬鹿っ?!ロゼっお前!」


口を押えて俺が怒ると。


アイン物だった?!もしかして?」


「そ、そーだよ!文句あるのかよ?」


ロゼが上目遣いに訊いてきたから、正直に答えちまった。


「そっか・・・忘れなさい!」


くるっと廻って背を向けたロゼが、忘れろと言いやがる。

人のファーストを奪っておきながら・・・だぜ?


「それとこれは忘れないでよね。

 ルビを頼りにしてるのは・・・ロゼッタなんだって事を。

 君の力がアタシを強くさせてくれているんだから・・・」


背を向けたままロゼが言う。


「ルビがもしアタシの魔砲を必要とするのなら。

 躊躇うことなく使ってみせる、闘いに使わないと誓った筈の魔砲力を!」


ツンとした口調だったが、ロゼは俺と共に闘う事を拒まない。

拒むどころか、俺の力になりたいと言ってくれた。


「ロゼ・・・ありがとう」


私的な復讐を遂げるのが俺の願いだと知っても、ロゼは共に闘うと言ってくれた。


「ば、馬鹿ね。感謝の言葉なんて君には似合わないよ!」


振り返ったロゼの顔には、いつもに増して微笑みが浮かんでいる。

気が付いていないとでも思っているのだろうか。


ロゼが俺を<アンタ>と呼ばずに、<君>と言ってくれたことに。


挿絵(By みてみん)


「そうかい?こう見えても俺は義を感じる男なんだぜ?

 古から引き継がれた、ルナナイト家の跡取りなんだぜ?」


「ルナナイト・・・まるで伯爵家みたいな家名ね?」


ふ~んと、ロゼが訊き返したのを俺は軽く聞き流した。


「さてと。

 それでは俺の相棒である魔砲使いよ。闘いの時が迫ったぜ?!

 奴等が来る前に準備と掛かろうか?」


気安く言って、ロゼを促した。


「ちょ、ちょっとぉ?!ルナナイトってどんな家柄なのよ?」


話の腰を折られたロゼがいつもの口調に戻ったのを知り、

俺はこれまで以上にロゼとの垣根が取り払われたと感じていた。

それはロゼだって同じだったと思う・・・まぁ、ひと意味違ったようだけど。


全く分からない。

ロゼという子の事が。

やはりツーンなほうがロゼらしくて良いのかもナ。


闘いは再び地獄の蓋を開ける。

出来るなら死に逝く者に安らぎを・・・


次回 新米は直ぐヤラレル

君はうっかり頭を出しちゃーいないかい?

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