妹(ノエル)奪還 第8話
ノエルを救出したルビ。
目的を果した以上、研究所には用が無くなったのだが?
ゆっくりしている暇は無かったんだ。
温泉に浸かって今後の話を交わす暇さえも・・・だ。
「だからっ!何度言えば分かるのよ。研究所はもぬけの殻になっちゃうの!」
ほら・・・ロゼが牙を剥いてやがるだろ?
「良いか?私達の偵察を無に帰すというのなら。
これからはお前等だけで行動するんだな!」
・・・レオンもだぜ?
「証拠は・・・ほら!観てのとおりよ!」
俺を指すのは辞めてくれよ。
それでなくったって皆の視線が痛いんだから。
戻って来た温泉村で、仲間達が息巻いていやがった。
帰りが遅かったから、逃げたのではないかと疑われて。
信用され切ってはいないと分かったよ。
それに、俺達が開口一番に言ったのも気に入らなかったみたいなんだ。
「証拠だって?その女の子がどうして証拠なんだと言い切れる?」
「そうだそうだ!気を失った女の子がどうして研究所から連れだして来たと言えるんだ?!」
口々に疑うガッシュ率いる20名に、俺達は説明のしようがなくなってくる。
「偵察だけに留める予定じゃ無かったのか?
それなのに、どうして目的を果せたっていうんだよ?」
「その子がルビナスの妹だって証拠は?
それにも増して、件の研究所が空になるなんてどうして言い切れる?」
どれだけ真実を告げようと、一度疑い始めた者を説得するのは生半可じゃなかった。
「そうかい?!信じられないというんなら。
お前達だけで攻撃すりゃいいだろう?
その後で、私達が嘘を言っていなかったと知っても、後の祭りだからな」
吐き捨てる様にレオンがガッシュ達に言い渡した。
「あ~あっ、折角教えてあげたのに。
無意味な戦闘がしたいなんて・・・よっぽどの堅物だったようね」
肩を竦めてロゼが呆れ果てた。
でも、こいつらの言い分にも一理あるぜ?
信じ切れない情報だからさ、俺達が教えたのは。
「いや、待て。ルビ達が知らせた事が本当なら。
攻撃を一日待つ手もあるぞ。なにも今直ぐに攻撃しなくたっていい筈だ」
そうそう。焦りは禁物だ。
「もしルビ達が嘘を吐いているのが判ったのなら。
真っ先に突っ込ませれば事が済むんだからな・・・なぁ、そうだよな?」
・・・おいおい。そうくるか?
ガッシュを睨み返すロゼ。
そのロゼを押し留めるレオン。
件のガッシュは、平然と俺とノエルを見下ろしてやがる。
さすがに俺もカチンとくるぜ?!
「良いだろう。明日の朝に研究所へ行けばいいんだろ?」
吐き捨てる様に言い返してやった。
「待ちなよルビ。ガッシュに丸め込まれちゃ・・・」
レオンがノエルを気にして仲裁してくれた。
・・・けど。
「良いんだ。こいつは俺達を初めから捨て駒にする気だったんだから」
仲間になる時から気になっていた。
策士ガッシュが、なぜ敵国人である俺とロゼに近寄ったのかを。
魔法使いだから・・・だけだとは思えなかった。
ガッシュは初めから研究所の情報を掴んでいた。
そこに居る娘達を救い出すと言ったのも、本気で言っていた訳じゃない。
敵国人で魔法使いの俺達と、研究所で何が行われていたのかを知る者。
その接点が導き出すのは・・・
ー ガッシュは研究所を襲い、研究に使われていた術を盗み出そうとしている?
または、研究所自体を手に入れて・・・魔法使いを我が物にしようと目論んだ?
ロッソアの軍隊が求めたように、同じ過ちを繰り返そうとしている?
仮説が真実なら。
ガッシュに言っておかなきゃならねぇな。
<<お前なんかには到底無理だぜ>>って。
「策士、策に溺れる・・・まさに、その通りだぜ?!」
ブスリと呟いてやった。
「なんだ?何が言いたいんだルビナス?」
食いつきやがったところを観ると・・・大方予想通りなんじゃなかろうか?
「いや、ガッシュには無理だって言いたかっただけさ」
「無理ってなにがだ?」
ほらね、売り文句に買い文句だ。
「お前は魔法の恐ろしさが判っちゃいない。
あの研究所でなにが行われていたのかも知りはしないだろ?
それにもう、あの中には<魔王>が居ないんだってさ。
つまり、どう機械を弄ったってまともに動きはしやしないって言ったんだよ」
「なっ?!なぜ・・・その事を知ってるんだ?!」
ほらほら・・・自爆したぜ?
ガッシュに率いられて来た奴等も、怪訝な顔になったし・・・
「ガッシュだけで望みを果そうったって無理なんだよ。
魔鋼の術は素人には・・・いいや、専門の教授にだって解明できなかったんだぜ?」
これが俺の最期通牒だ。
俺の知り得るプロフェッサー島田からの情報だった。
ここにはもう魔力を放てる<魔王>はいない・・・機械は作動できない。
これの意味が解るというのなら、ガッシュは素人ではない事になる。
プロフェッサー島田でさえ、漸く掴んだ研究成果なのだから。
「馬鹿な・・・奴等は何処へ行くというんだ?
ロッソアでの活動を辞めて、どこへ消えると言ったんだ?!」
血相を変えてガッシュが掴みかかって来た。
「はい・・・そこまでよ。
胡散臭いとは思ってたけど・・・アタシに掴みかかって来た時からね」
蒼き目で・・・魔女の方のロゼが睨んでいる。
「このロゼッタに触って確かめたんでしょ?
私という魔女の力を、触診魔法・・・知らないとでも思ってたの?」
・・・え?!
ー もしかしてロゼさんってば、初めから知ってたの?
俺と同じ考えを、指輪が呟いた。
「いいえ。気が付いたのはこいつがロゼッタを厭らしい目で観ていたから。
なにか陰謀めいたものを感じ取ったから・・・こっそり調べただけ」
ロゼの瞳が戦闘色に変わる。
深い碧へと染まった瞳で、ガッシュと仲間達を睥睨する。
「アンタ達はガッシュに利用されて来た・・・そうは思わなかったの?
どんな条件を呑んだのよ?何を報酬に釣られて来たの?」
蒼き瞳は、普通の人間たる小物に白状する事を迫る。
「いや、俺達は・・・人質の解放を・・・だな」
「そ、そうそう。連行された娘達の救出を・・・」
魔女に睨まれた小悪党たちが嘘を吐く。しかも見え見えの。
「そ・・・それじゃあ、アンタ達にも与えてやるわ。
ガッシュと同罪であるのだから・・・この手でね」
突き出されたロゼの掌には、蒼き光が零れだしていた。
「いやいや?!待て待て!嘘なんかじゃない。
俺は助け出せば、その娘を貰えると・・・」
「アタシャー研究所には研究資金があるって。唆されただけだよ?!」
・・・おおかたそんなこったろうと思ったぜ?
小悪党にはお似合いの報酬だってね。
本気で国を思う志賊ならば、研究所攻略なんてまどろっこしい事に手を出す筈が無いと思ってたよ。
それに、凍り付いた同胞を見捨てるなんて、出来っこない筈じゃないか。
「はははっ、思ってた通りだ・・・」
思わず口に出してやった。
だってさ、憤慨してるんだぜ、指輪の中に居るもう一人の魔女が。
ー ルビ兄ィ・・・やっつけちゃう?
指輪からはノエルの魂が訊き、俺の手に抱かれた躰からは何も返って来ない。
「いや・・・ほっておけば良いさ」
魔女ロゼに威嚇されて尻込みしてるような奴等に、魔法を使う程落ちぶれちゃいないさ。
ノエルに教えてから魔女のロゼにも言ったんだ。
「もう帰ろう。こいつ等とは此処までだ」
全てが終わった訳じゃないが、この地で闘うべき相手ではないと教えたんだ。
俺はロッソア奥深く迄来て、妹の躰を救い出せたのだから。
それに魔女ロゼの希望は此処には無いのだから。
俺と同じく魔女ロゼが救いを得られる場所ではない・・・島田の言ったように。
「そうね・・・無駄に魔法をひけらかすのにも問題があるわね」
魔女が手を退き、レオンに同意を求める。
「そうさ、私達は一つの目的を果せた。
次に向かうべき場所がある・・・それを追い求めねばならない」
力強い同意を得られた。
レオンは新たな目標へと、既に向かっているようだ。
「先ずは西方に向かわなきゃな。しかる後に一旦フェアリアへ。
この子を確たる人の元に預けて・・・それからオスマンへ」
「砂漠の国だってプロフェッサー島田も言ってたしな?」
ロゼも俺も。
レオンに力を与えて貰った。
「まだまだ解決しちゃった訳じゃない。だろ?ルビ」
「ああそうさ!ノエルを元に戻す!
それに魔女の魂も解放してやらないと!」
「そうそう!解放された暁には、ちゃんとコクッて貰わないと!」
・・・あの、ロゼ・・・さん?
最後に叫んだロゼは、魔女か普通のロゼッタか?
「ぷーぴー」
口笛吹いて・・・あっちに行った。
俺はノエルをお姫様抱っこで抱え上げる。
「お前達が研究所を襲う気なら留めやしない」
最後にそう言い捨てるとロビーに向かう。
俺に続いてロゼが、そしてガッシュに一瞥を突き立てたレオンが続く。
20人の<盗賊>達は、棟梁であるガッシュを睨んでいた。
まぁ、この後どうなったのかは・・・関係ないがね。
「頼むぜ!越境迄エンジンが壊れないでくれよ?」
ジープを運転し、バックミラー越しに後部座席を観ていた。
そこには毛布にくるまれたノエルの躰と、大事そうに抱いてくれているレオンが居る。
荷台の機銃に掴まるのは、雪上迷彩を施されたコートを3重に着こんで着ぶくれたロゼ。
端から観たら、どうしてジープに雪達磨を載せてるんだって・・・思うだろ?
・・・な?
企む者達には加担しないと。
邪な目的には力は貸さないと。
ルビ達は懐かしい故郷へと足を向けたのです。
そう・・・運命が導くタイミングで!
次回 翻弄される希望 第1話
君は運命の邂逅ってモノを知ってるかい?