妹(ノエル)奪還 第6話
ノエルを連れて・・・
妹の身体を研究所から連れ出したルビ。
レオンの待つジープへと歩むのだったが・・・
時が刻々と過ぎていく。
待ち合わせの時間はとうに過ぎていた。
「遅い・・・まさかとは思うけど。ルビとロゼッタに何かが起きた?」
レオンは双眼鏡で観測を続ける。
そうするより、何も打つ手が無かったから。
2時間は既に過ぎ去り、隠しているジープの武装を解くか考えていた。
「少なくとも、銃音や爆発音は聞こえなかったが・・・」
戦闘には発展してはいないとだけは判るのだが。
双眼鏡に映る研究所からは、何も動きは見られない。
それだけがレオンにとっての救いだった。
「もしや?雪の中で立ち往生してるとか?」
それは・・・笑えるが。寒さに弱いロゼならあり得ると・・・
双眼鏡を一時降ろしたレオンが、視界の端に何かが動いた気がして身構えると。
「おお~い・・・たしゅけてぇ・・・」
か細い声が聞こえたように思えた。
「はぁっ?!」
双眼鏡を声のした方に急いで向ける。
「レ オ - ン・・・・たしゅけてぇ・・・」
声は確かに助けを求めている。
「埋もれちゃうよぉ・・・・」
助けを求める声は・・・・
「あ・・・雪ダルマが。ルビは何処に行った?!」
レンズに映るのはロゼと思われる雪達磨みたいな、フードを被る<白い者>。
「何やってんだよ?!そんな所で埋もれている場合か?!」
もそもそ動く雪達磨・・・本当に雪達磨に見える。
大きく膨らんだ胴体と、ロゼの顔だけが覗く雪まみれの頭部。
動きは怖ろしく緩慢・・・と、言うか。
「待ってろ!今車をまわすからな!」
しょうがないから助けに行く事にしたレオンに。
「ありがとーぉ」
感謝の声を上げる・・・ルビ?!
どこに居る?居るのは雪達磨のロゼだけの筈?
雪を掻き分けてジープが辿り着いた時。
「助かったぜ・・・一時は3人共遭難するかと思った」
・・・3人?!どこに居る?って、ルビはどこだ?
レオンがロゼに訊き質そうとしたら。
「ぷはぁーっ!早くのけよロゼ!ジープにコートがあるだろ?!」
ロゼの下からルビの声が聞こえた・・・・
「うるさいわね!アンタが頼んないからこうなったのよ!」
そう言うロゼは・・・暖かそうだが?
レオンは二人に絶句した。
良く見れば、一着の防寒コートにルビとロゼが二人羽織状態になっている。
「お前が退かないと、妹も動かせないだろーが!」
「はい?妹??」
素っ頓狂な声でルビに質してしまう。
「おう、レオン!救出完了だぜ!」
「はいぃっ?!ルビの妹ぉっ?」
目を点にして訊いてみる。
「そ。目的は果たせたわ!凄いでしょ?!」
「はいいいいいぃっ?!終わっちゃったの?」
顎を堕としてレオンが質すと、二人はコクンコクンと頷き返す。
「はおらぁっ?!これが観えぬかぁ!」
ばさっとロゼがフードをとっぱ外す。
ロゼがしっかり抱き寄せているのは。
栗毛の少女・・・ノエルの寝顔だった。
「意外でしょー、以外だよねぇ。ルビの妹ちゃんがこぉんなに可愛いなんて!」
ニマニマ笑うロゼは、満足そうにノエルを抱いている。
「はぁ・・・で?その兄貴はどこに居る?」
二人が居るのは分かるが、ルビは一体どこに居る?
「ここ・・・ここだよ!」
その声は、二人の下から聞こえて来た?!
「なっ?ルビよ・・・なんという怪力?!」
ロゼとノエルを背にしているルビが・・・・いた。
「雪の中で移動しようとしたら、こいつが凍死するって。
雪達磨でも何でもいいから寒さから逃れさせろって煩くてさぁ」
目を剥いたレオンの前で、損な男子がのたまう。
「バケモンかルビは?!」
「ん?!思い違いしてるよレオン。
ルビは肩車やおんぶなんてしてないし、してくれないよ?」
驚くレオンにロゼが横槍を噛ましやがる。
「確かに妹ちゃんはルビが背負ってるけど、アタシまでは無理だから。
ほら、ムカデ競争ってあるじゃない。あれと同じだよ」
「・・・どうでも良いけど。なんとかならなかったのか?!」
防寒コートに3人が入るなんて。
どう考えてもおかしいだろうに?!
「大きくって幸いぃー!」
ロゼはほかほかで。ルビは妹を背負えて。
「はぁ・・・聞くだけ馬鹿だった・・・」
がっくり肩を落としたレオンが嘆く。
「それじゃなにか?もう研究所を攻略しなくても良いってことか?」
「そー、必要無し子になりました・・・えっへん!」
問われて答えるロゼが胸を張る。
「・・・なにがどうなったのか・・・まぁ、結果オーライだな。
引き揚げてから詳しく話して貰うぞ?」
ジープの荷室からコートを掴み出してくれたレオンが、
「それと、妹からもだ」
何気なく訊いた瞬間に、それまで朗らかに話していたロゼの顔が固くなった。
「?なんだ?何かあるってのか?」
知らないレオンには悪気なんてない。
教えるかどうかを戸惑ったロゼが、ルビに訊こうとすると。
「いいや、その時が来たらな。今は帰るのが先決だろ?」
ルビが先手を打って応えた。
「?!ま、そうだな」
釈然としないレオンだったが、この雪の中で長々と話す事もあるまいと思い。
「帰って温まってからでいいさ」
温泉宿まで帰ろうと促して来た。
「ああ、帰ろう・・・」
ロゼはルビの心中を思い、何も言い出せなかった。
レオンに、本当は助けられずにいるだなんて・・・
ヘッドライトが検問所へ向けられた。
待っ正面に造られたバリケードへと・・・
「エル・・・往くよ!」
カインの右足がアクセルに乗せられた時だった!
「ちょっと待ちな!」
不意に横合いから声がかかった。
「アンタ等、検問所へ何をしに行くんだ?!」
続けて問われてから気が付いた。
「どうやら・・・やばい橋を渡るんだろ?」
ニヤニヤ笑うチュータの顔が、二人を見詰めていた事に。
「君は?この間の泥棒君じゃない?」
見覚えがあったエルが、直ぐに答えると。
「泥棒じゃないっ!義賊って呼べよな!」
剥れたチュータが言い返す。
「なんだ、お前?何か用なのか」
不審がるカインが、アクセルから足を外した。
「あるから呼びかけたんじゃないか。
アンタ等に恩があるから、手助けしてやろうって思ったんだけどな」
ポケットから何かを取り出したチュータが、勿体つけて答える。
「あら?この間の事?だったらお互い様だったから。もう良いのよ?」
優しいエルが、チュータに微笑んで答え直す。
「そ、そんなんじゃねぇよ。
アンタらが警察に狙われてんのなら、仲間だと思ったんだよ。
仲間なら助けないとならないのが義賊ってもんだからよぉ」
麗しいエルの微笑みに、顔を紅くしたチュータがそっぽを向きながら。
「だから、アンタ等を助けてやるんだよ。
あいつらの手になんて捕らえさせてたまるかっての」
ポケットから出したチュータの手には、重そうな鉄の塊が。
「なぁ、アンタ。走るのは早いかい?」
ニヤリと哂うチュータが、訊いて来た。
妹は奪還できた。
だが、救えたとは言い切れなかった。
一方危機に瀕していたエルたちの前に現れた少年は?
次回 妹奪還 第7話
2人は無事に逃避行を遂げれるのだろうか?