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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
<ロッソア>編 第6章 紅き旗
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妹(ノエル)奪還 第4話

プロフェッサー島田・・・


彼はルビ達にナニを求めるのか?

毟る取るように書類を奪い去った。

その眼で何度も確認する為に・・・だ。


「ノエル・・・俺の妹だ。これは俺のノエルなんだ!」


書類に写真が貼られてある訳じゃないが、書面を観る限り間違いないと思えた。


「俺の妹を・・・何に使ったんだ?!」


途端に俺の眼が赤く染まった。

怒りと動揺・・・そして。


「妹の躰に何をした?!俺のノエルをどこにやった?!」


指輪の中でノエルの魂が諫めて来るのも判らず、俺はプロフェッサー島田に掴みかかろうとした。


「待ってよルビ!この人に当たってもしょうがないわ!」


後ろからロゼが停めなきゃ殴り掛かっただろう。


「なぜ停めるんだ!こいつはノエルを!」


「落ち着きなよルビィ!今は妹ちゃんの事を聞くのが先よ!」


ロゼの言う通りだ、それは判る・・・分かるけど。


「こいつ達は俺の妹に、人体実験を!」


心が、身体の怒りが治まらないんだ!



 ボクッゥ!


背後からロゼの拳骨が、俺を正気に戻らせようと。


「がはっ?!ロゼお前ぇ~っ?」


「いい加減にしてよルビ!こいつを殴ったってどうにもならないわ!」


諭して来るロゼは、何故だか知らないが涙を浮かべている。


「・・・・?!」


そして気が付いたんだ、ロゼは今魔女のロゼと同化しているんだと。


「ルビ・・・良いこと?

 魔力には限りがある、どれだけ頑張っても求められない力があるの。

 人の限界って奴が・・・こいつはそれを言ってたのよ?」


俺に向けて言っていたロゼの眼は、島田に向けられている。


「この島田が言っていた魔王級の魔力ってやつ。

 そんな巨大な魔力をどうやって人間が手に出来ると思う?

 人間が使える訳がないじゃないの、人の手で魂をどうにかできる訳がないのよ」


魔女のロゼが教えてくれているのは・・・


「よく聞きなさいルビナス・ルナナイト。

 あなたの妹ちゃんは魔王によって魂を弄ばれた・・・の。

 この島田が言ったように、魔王に因ってロッソアの戦車に放り込まれたのよ!」


信じられない訳を知らせて来た魔女のロゼに、俺は毒気を抜かれてしまう。


「それじゃあ何?!妹は指輪に宿らされたままになるのか?」


俺にだって解るさ、自分が何を言ったのかを。

<妹の魂は二度と身体には戻れない>って、意味なのが。


「それは・・・魔王に訊かないと分らないわよ。

 術を解除させる方法があるのなら・・・そうでしょ島田教授?」


魔女のロゼが聴き確かめた。


「それは確かにそうだが。

 私は何としてもその術を我が手にしたいのだよ。

 助けねばならない者が居る限りは・・・」


言い難そうにプロフェッサー島田がロゼに返した。


「はんっ?!良くも言えたモノね?

 はっきりと言ったらどうなのよ!無理だって」


ため息混ざりにロゼが巻き返す。


「相手は悪魔。しかも魔王っていう次元の違う相手なのよ?

 人間の手に負えるような奴じゃないって分かってるでしょうに?!」


今度は魔女のロゼが怒りを剥き出す。


「あなたがどれだけ欲しても、思うようにはいかないってまだ分からないの?」


魔女ロゼの瞳に魔力が過る。


「私だってそうなのよ。

 何百年もの間、何かに宿らされてきたから。

 どれだけ苦しい事なのか、どれほど穢されそうになったか。

 普通の人間には分かりようが無いでしょう?

 魂の自由を奪われる意味なんて!」


その言葉には後悔と侮蔑が交っていた。自分に対しての・・・


「あなたには判らないでしょうね、魂の束縛ってモノが。

 人の世が流れていくのに、自分だけが何も出来ないもどかしさってモノが」


魔女の口から怨嗟が零れだす。


「どれだけ終末を欲しても救いが齎されない口惜しさ。

 自分がどれだけ望んでも、天に召されない無念さ。

 もし叶うのなら・・・地獄にだって堕ちても良いと。

 ・・・願った心なんて分からないでしょう?」


初めて・・・そう。初めて魔女が何を願っているかを知らされた。

ロゼッタに宿った魔女の本望って奴が。

漠然と俺は、彼女が思い描く終末が判った気がした。

それと同時に、どうしてロッソア迄つき合ってくれたのかも。


言葉にしてはならない・・・その想いを。



「君は?君もなのか?」


漸くロゼが落ち着いた頃合いを見計らって、島田が訊いて来た。


「ええ、そうよ。

 私も呪われたのよ・・・貶められたのよ、魔王って奴にね」


答えた魔女に宿られたロゼが、くすんだ瞳で俺を観ている。

今迄ずっと閉じ込めて来た想いを吐露するように。


「救われる可能性があったから。

 もしかしたら、ここに来れば最期を果せるかと思ったのよ。

 だけど・・・分かった。もう救いはないのだと・・・ね」


どんどんロゼの瞳が紫色に澱んでいく。

まるで本当の魔女の様に。


「そうか、君に宿る魂も・・・か。

 私の妻ミユキは、とある実験を経て魂を奪われたのだが・・・」


そう呟いたプロフェッサー島田が、奥の方に目を向けると。


「着いてきたまえ。こっちだ」


着いて来るように言って、歩んでいく先には。


「君の求める娘だ、今は眠ったままだが」


そこに居たのは・・・栗毛の少女。

ガラスケースについていたボタンを、島田が押し込んだ。



 プシュウンッ



解除された扉が、音を立てて開く。


「あ・・・あ・・・ノエル・・・」


扉が開いて・・・


「ノエル!眼を開いてくれっ、ノエル!」


抱き寄せた俺が、必死に揺さぶるのだが。


「魂が抜き去られた・・・眠り続けているのだ」


言葉の端にあるのは、死んではいないというだけ。

見下ろして来るプロフェッサー島田の声に、俺は指輪に語り掛ける。


「死んじゃぁいない・・・って、そんなの関係ねぇよな。

 ここまで来たのはノエルを取り戻す為なんだ!

 妹を連れて帰る為なんだ、俺達の故郷へ!」


指輪の中で。

求める俺にノエルが泣いて言って来たんだ。


ー ルビ兄ぃ・・・もう良いよ。もう十分だよ・・・ありがとう


・・・って!

こんなどうしようもない兄にだぜ?!

たった独りの妹も救えない・・・ていたらくな兄に!


「畜生っ!どうすりゃ良いんだよ?!

 ノエルを元通りに戻してくれ!」


抱き締めたノエルの躰からは、確かに心臓の音が流れ出している。

死んだ訳ではない。

唯、目を開けてくれない・・・声を溢してもくれない。


・・・・この身体には魂がない・・・・


指輪には妹が生きているのに、本当の躰からは何も感じられない。


「神は俺の妹を救おうと手を貸してくれないのかよ?!」


悪魔の王に魂を抜き取られたのなら、対する神は手を貸してはくれないというのか?


魔女のロゼが心を堕とすのも判る気がした。

この世には人に味方する神は居ないのか?!

人を貶める邪悪なる悪魔が居るというのに?!


俺は初めて、神たる者を憎んだ。

魔王の前では神なんか現れてもくれないのだと、思い知らされた。


「もう・・・助けられないというのなら・・・

 もうこの身体にノエルを戻せないのなら・・・」


悪魔に魅入られた思いが募る。

助けられない魂と身体を握り締めておきながら。



「君は諦めてしまうのかね?」


不意に駆けられた言葉に、我に返された。

澱んだ瞳で見下ろす島田を見返る。


「君は諦めるというのか・・・と、訊いたのだ」


頭の中が空白になってしまう。

諦めるのかと問う島田を見上げて。


「諦めない?・・・諦めなければどうにかなるとでも言うのかよ?」


言葉を紡いだ俺の眼に、島田が一冊の古書を手にしているのが映った。


「そうだ。私は諦めない、諦めれば何もかもが潰えてしまうからだ」


その古書には見覚えがあった。


ー ルビ兄ぃ・・・あれは?!


ノエルも・・・驚きの声を上げている。

そして・・・俺に届いたノエルの声が知らせて来た。


ー あの本って・・・これと同じだよ?!


そう・・・ノエルが携えている魔導書。

プロフェッサー島田が手に下げているのは、間違いなく時の魔導書と同じに思えたんだ。

魔導書・・・

それが与えるインパクト。


妹が持つ魔導書とどう違うのだろうか?

果して妹を救えるきっかけが載っているのだろうか?


次回 ノエル奪還 第5話

答えは何処?!島田が語るとき、魔女が吐露した?!

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