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魔鋼猟兵ルビナス  作者: さば・ノーブ
第1章 月夜(ルナティックナイト)に吠えるは紅き瞳(ルビーアイ)
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意外な命令

俺の分隊長は古狸~っ!


呑気な事を言ってたら・・・出撃させられた。

俺達第3分隊は、小隊の一番左に位置していた。


そう、大隊の一番左端に・・・だ。


運命の分かれ道が、そこにも存在したんだ。



「敵部隊は第1中隊に向かっています!」


小隊長の居る第1分隊は俺達より右に位置していた。

つまりは、敵に一番遠い場所に俺達は居たんだ。


「第1中隊には悪いが、俺達にはどうする事も出来んな」


薄い砲側面の防護板に凭れて、俺は砲撃準備に掛っていたロゼに言ったんだ。


「第1中隊には大隊長も居られるのよ?!ほってはおけないじゃない!」


ロゼはいつ応援に出撃を命じられても良いように、準備を整えている。


「指揮官も馬鹿じゃないだろう?

 あれだけの敵に大隊だけで挑んだってかなう訳がないじゃないか?!」


俺は機動連隊が壊滅した戦闘で得た教訓を思い出していた。


護る側が攻める者より有利なのは判る。

待ち構えて身を隠せておけるのなら・・・だ。

だけど、敵と相まみえる接近戦を挑んでしまえば、折角の陣地も意味を成さなくなってしまう。


防衛側は、あくまでも陣地に立て籠もってこそ、倍する敵を相手に出来る。

もし、敵へ陣地を放棄して突きかかってしまえばそれこそ敵に包囲殲滅されてしまう。


あの機動連隊での戦いが、それを証明していたんだ。

迎え撃つというのに、敵に突っ込ませるなんて馬鹿な指揮を執られたんだ。

その所為で俺の分隊は、全員戦車に辿り着く前に死んじまった・・・俺を残して。


戦車壕に半ば車体を隠蔽させた分隊長の判断。

他の小隊は直ぐにでも移動するつもりだったのか、車体を晒したままだ。

砲戦車の火力や防御力を考えれば、敵に見つかればたちどころに目標にされてしまうというのに。



「俺は運が良いんだ・・・な、ロゼ」


俺の声にロゼが振り返る。

駈けられた本意がどうゆう事なのかと、不審がって見詰めて来る。


「だってそうじゃないか。

 分隊長は古株で実戦経験があるみたいだし、間違った指揮は執らないだろう。

 それに何と言ったって、敵はこっちには来ていないんだからな」


運が良いと言ったのはこんな処だ。

俺には生きるか死ぬかを別けるのが運だけにも思えていた。

どんなに強力な部隊であろうと、味方に倍する敵に囲まれたら手の打ちようもない。

だけど、どんなに弱い部隊でも、運が良ければ敵の弱点を突ける。


俺達は敵に見つかっていない・・・今はまだ。

分隊長が造らせたこの戦車壕のおかげで。


納得しきれないのか、ロゼはまた照準器に取り付いた。

照準器に敵が捉えられているのだろうか。

それとも観えない敵戦車の影でも追っているのだろうか?


その時、大隊長の居る第1中隊から砲煙が上がった。


「始めやがった!」


思わず俺は怒鳴ってしまう。

敵を牽きつけてこその陣地戦じゃないのか?!


待ち伏せこそが弱者の戦法では無いのか?


俺はその時。

また地獄の蓋が開いたのを感じていた。






丘陵地帯に陣取った戦車猟兵大隊は、味方の増援を頼りに戦闘を開始してしまった。

師団からの増援を期待して、大隊長は判断を下したのだろう。

マッキンガム少佐は、これ以上敵を近寄らせるのは危険だと判断したようだ。

陣地である丘から退き下がるという戦術判断を下さず。


一つの丘を死守するとでも考えたのか、

戦略上重要でも何でもない丘に自分達が居る事を敵に教えてしまったんだ。



「手遅れだ・・・もう敵は待ち構えているのを知っちまったぞ!」


ハスボック軍曹は大隊長の判断が齎す結果を懼れた。


「良いか!俺が進めというまで絶対に動いちゃならねぇぞ!」


分隊長は7名の部下に大声で怒鳴った。

分隊に備えられた2両の砲戦車に乗る5名は、ハスボックに頷くだけだった。


37ミリ対戦車砲を備えたもう一両の車体の上に立った軍曹が、双眼鏡で戦況を見渡している。

俺とロゼの車両にも、予備砲員のラク2等兵が乗っている。

俺が運転中の時は、ラクが装填を任される手筈になっていた。


まぁ、走行中は砲撃なんて出来ないが・・・な。


中隊の中でも特異な車体である俺達の75ミリ砲戦車だったが、元々が砲戦車本来の車体なんだ。

味方の歩兵を支援する為に造られたんだからな。

戦車猟兵部隊に廻されて来たのが不思議なくらいだ。


今となっては、貴重過ぎる車体なのだが。


「ルビ、初弾は徹甲弾にしよう!」


ロゼが最早闘いは避けれないと思ったようだ、当たり前だが。


「徹甲弾の搭載量は少ないからな、注意しろよ?

 今の一発を含めて残りは7発だからな!」


小さな車体に載せれる弾数は、徹甲弾が8発と榴弾が8発だけ。

しかも補給が間に合わなくて、今回載せて来られたのは徹甲弾が7発と榴弾が3発。


たったの10発しか補給されてこなかった。

まぁ、まだ75ミリ砲なんて野砲くらいしかなかったから。

戦車砲に75ミリが使われるようになるのは今少し後の話。


「わかったわ!無駄弾を撃たないよう気を付ける!」


ロゼの射撃術がどんな物なのか知らなかったが、元々戦車兵として訓練を受けたそうだから。


「頼むぜ相棒!ここ一番外しっこ無しだぜ?」


おどけてロゼの気休めになる様に言ったつもりだったが。


「あ・・・相棒?!あ、あ・・・あんたねぇ!」


何故かは知らねど・・・ロゼが顔を紅くして怒りやがった?


「おーい!若けぇの。小隊長がなんか言って来たが動くなよ?!」


ハスボック軍曹が手をバッテンにして命じて来た。

その向こう側に位置した小隊長が、何やら喚いているようだが。


「俺達は車両故障中って言っておいたからな。

 間違っても壕から出るなよ!」


どうやら、小隊長は味方が砲撃を始めたので陣地を変更させようとしているようだ。

折角、砲戦車を持っているのだから、味方の援護にでも行きたいのだろう。


ここから37ミリ砲で撃っても、敵戦車に当てられない。

戦場となっている右側の丘に近寄れば、当てられるかもしれないが・・・


「距離は1000程もある。1キロも離れていたら、当てられたら奇跡よ」


砲弾のスピード、それに相手の速度。

37ミリ砲や、初速の遅い75ミリ砲で撃っても、当てられるかどうかも判らない。

仮に当たったとして、その装甲を打ち破れるのかも・・・当たってみなけりゃ分かりようが無かった。


ロゼのいう通り。

どれ程優秀な砲手だろうとも、今ある砲では命中の確率はゼロに等しい。


そう・・・普通の人間ならば。




「敵が砲撃を開始したぞ!」


俺とロゼの会話は軍曹の唸り声で中断させられた。


ロゼは照準器から離れ、座席に足を乗せて砲盾から顔を覗かせ砲煙を探した。

俺も右側で起きた砲撃音に耳を傾ける。


砲火の煌めきの後、約5秒の後に射撃音が聞こえる。

約2000メートルほどの距離が、敵との間にあると分った。


右の第1中隊との距離が約1キロ。

敵はその前方約1000メートルにまで近寄って来たということだ。


俺達の大隊の布陣が、横長だったから。


「味方には悪いが、手を出さない方が身の為だろう」


距離があり過ぎるし、こちらから出張れば返り討ちに遭う。

俺は闘いにならないと感じていた。

何故かって?


「ルビ・・・あんなに沢山の砲煙が・・・」


ロゼも言っただろう?

俺が眼にしただけでも数十両の戦車が居やがるようなんだぜ?!


大隊が保有する砲戦車は、各型取り併せて36両。

その中で有効な対戦車砲を備えた物は18両に過ぎない。

37ミリ砲では、敵の軽戦車にしかダメージを与えられ無い代物なんだ。

俺とロゼの乗る75ミリ砲だって、本来は戦車戦に向かない短砲身の野砲モドキなんだ。


その上、搭載された砲弾が決定的に足りない。

僅か10発の弾でどうしろって言うんだ?


尤も、それはこの車両に限った事じゃないんだけどな。



今配備されている24両の内、第1中隊には半数近い11両が居る筈だ。


おっと、数が合わないじゃないかって思ったかい?

さっき確か保有数が36両だって言ったじゃないかって?

そうさ、保有数は36両に間違いないんだ。だけど、相手は機械なんだ。

保有車両全てが使える訳がないじゃないか。故障車は前線に出せやしないだろ?

それに、そもそも。保有車両が全て装備されるなんて、先ず無理な話だぜ?

俺達の車両に渡された弾の数を思い出してくれよ、たったの10発しか補給されていないんだぜ?



俺達のフェアリアは、まだ戦争をおっぱじめられるような国じゃなかった・・・だけだ。


自分の国だけで闘う武器がないから、他所の国から武器弾薬を別けて貰って闘う羽目になった。

同盟を結んでいた国に泣きついて、なんとか融通して貰ってたんだ。


情けないが、フェアリアという国は紛争を闘うだけで、手一杯だったんだ。

戦車だってつい最近になってから開発が進んだって言う位、遅れていたんだ。


俺の知る限り、政府の役人達はのんびり構えてやがったらしい。

なんでも、フェアリア王が娶ったのはロッソアの王女だったそうだ。

だからロッソアとは暫く蜜月を共にしてたようだが、紛争によって険悪な関係になったらしい。


ま、俺には関係ないしどうすることも出来ないんだがね。


話しが中座したな。


兎に角だ、大隊の前に姿を現した敵の勢力は如何ともしがたいって事さ。

ハスボック軍曹の言った通りになりやがった。

手出ししてしまえば、俺達も第1中隊の後を追う事になるだろう・・・


「ルビ!もう第1中隊からの応射が観えないよ?!」


ロゼの悲痛な声で分ったかい?


「敵があんなに近寄ったのに・・・どうして撃たないの?!」


ロゼにも分ったのだろう、大隊長の判断が間違ったという事に。


「第1中隊が撤退したのなら、俺達も引き上げて師団と合流するべきだよ」


折角造った戦車壕を無駄にするけど、第2、第3中隊が残っているのなら。


「まだ全滅した訳じゃないんだから、防衛線を造り直せば良いだけだろロゼ?」


あの機動連隊みたいにならない為にも、後退して味方と合流し、総力を以って闘えば・・・


「だけど。アタシ達は戦車猟兵なんだよ?戻っても今より良くなるとは限らないんだよ?!」


確かにそれも一理ある。


「師団本部に戦術があれば良いけど。

 まかり間違えば、アタシ達に突撃させるなんて事は?」


「ないとは言えないな。そうなったら砲戦車を隠して徒歩で闘うさ」


俺はロゼに言いたかった。

もしも突撃命令が下されたら・・・


「ロゼは支援砲撃を掛けてくれれば良い。突撃は野郎達で完遂してやるさ!」


「馬鹿な事を言わないでよ!そんな事になる筈が無いじゃない!」


自分で言いだして自分で打ち消しやがったな。

ロゼに言ってやらないといけない事が、また一つ増えたようだ。


「まぁ・・・その時は俺に従えよ?」


「嫌よ、どうしてアタシがルビの命令を聴かなきゃいけないのよ!」


ツンとそっぽを向くロゼ。


横顔を見せる戦車猟兵ロゼ。その顔は俺の中で妹と重なる。

ノエルも直ぐに剥れて俺に言って返したもんだ<嫌だ>・・・と。


「やれやれ・・・とんだ相棒だな」


俺達が話し合う間も、軍曹は戦局を眺め続けていた。


小隊長を足止めさせ、陣地から動こうとしなかったハスボック軍曹が、

陣地の撤収を告げたのは、隊長からの転進命令が舞い込んで来た瞬間だった・・・

何とか闘わずに済んだ・・・

なんとか死地へ送られるのを防いでくれた。

俺はハスボック軍曹に感謝したい・・・


相棒ロゼと陣地を歩いていたと時、その人が現れたんだ。

あの日に出逢った准尉だったに。


次回 ツンなロゼとデレなロゼ


君の本当の心はどっちなんだい?

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