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#8 無理な状況はチート(インチキ)で解決する事も厭わない

「よし、じゃあ次の素材回収に出発しよう。

 目的地はここから東へ約1日進んだ『魔草原』の『堅質樹の枝』ひと振り以上だ。

 皆、樹の周りは特に魔物が多数出没する確率が高いし、樹の枝は間違った切り方をすると枝が枯れるんだ。しかも切ってはいけない枝を傷つけると枝がトレントに変化して襲いかかってくるらしいんだ」


『なんとも採取が面倒くさい素材だよな。まあA級採取素材は伊達(だて)では無いってことだな』


 僕は苦笑いしながら作戦を組み立てていった。


『なんと言っても樹の周りに出る魔物の群れをどうするかだが・・・』


「正直ミスドとセジュだけならそれほど脅威では無いんだろうけど、僕は基本的に戦闘は無理だしシールやミルフィも戦闘向きでは無いからふたりが離れている時に魔物の群れに囲まれたら無傷じゃあ済まないだろう。下手をすると大怪我をするかも知れない」


『まあ、僕にはガルサスの加護があるらしいから最悪の状態は回避出来るかもしれないけど・・・。といっても堅質樹の枝はおそらく僕でないと採取出来ないと思うからふたりだけで行く案も没だな』


「空でも飛べたら地上の魔物は無視出来るんだけど、あいにくそんな乗り物はないし・・・」


 そう言いながら僕はララの方をチラッと見た。


「いや、無理ですよ?元々の姿の時ならいざ知らず、今の状態ではとても皆さんを乗せる事は不可能ですよ!」


「やっぱりそうだよなぁ・・・」


 僕は次にセジュの方を見た。


「浮遊の魔法自体はありますが、ただ浮くだけで高速飛行が出来るような魔法はありません。申し訳ありません」


「うーん。そうか・・・」


 僕は考えた末にシールに簡易錬金釜を出してもらった。


「何か作られるのですか?」


 セジュが興味津々に覗き込んできた。


「まあね、今回の採取場所での作業が僕にとってかなり危険な状況になりそうなんで回避道具を作ろうと思うんだ」


 僕は錬金釜に首に掛けていた白金(プラチナ)のロザリオネックレスを入れ、高濃度の魔力を混ぜながら必要な効果のイメージを明確に頭の中で組み立てていった。


 およそ半刻、錬金釜に向き合っていた僕は疲れた表情で呟いた。


「ふぅ。やっと出来た。これさえあれば楽に素材回収が出来るぞ」


 そう言いながら錬金釜から取り出したのは先端に少し大きめな鈴の付いたネックレスだった。


「それにはどんな効果があるのですか?」


「うん。ちょっと反則っぽいけど【魔物避けの鈴】を作ったんだ。これを身に着けていると魔力の消費力に比例して魔物を寄せ付けないフィールドを展開する事が出来るんだ」


 それを聞いたララが驚いた様子で叫んだ。


「ちょっとどころか国宝、いやアーティファクト級のアイテムじゃないですか!!」


「いや、実はそれほどでもないんだよ。さっきも言ったけど魔力消費が激しいから多分僕しか使えないのと、そもそも回収素材が魔物の一部とかだと対象の魔物自体が出現しなくて逆に邪魔になる事もあるんだ。

 今回みたいな樹の枝とか植物の素材回収の時は危険度を著しく軽減できるから重宝しそうだけどね」


 ネックレスを首に掛けながらララに答えた。


「いやいや、絶対異常なくらいの能力だから!」


『ララがやけに突っ込んでくるけど別に売ったり譲ったりする訳でもないし、大体僕しか使えないからレシピを公開するつもりもないからそれほど気にしないでいいんじゃないかと思うんだけどな・・・』


「とりあえずこれで殆んどの魔物は寄り付かなくなると思うけど、念のためセジュは探察魔法を展開しておいてね」


「了解です。マスター」


「よし、じゃあさっさと素材回収してこようか」


 そう言うと僕達は魔草原の奥へ向かって進んで行った。


   *   *   *


 僕達は半日と少しで目的の堅質樹の前にたどり着いていた。


「到着が異例の早さでしたね」


「まあ、大体1日くらいって言うのは魔物を排除しながら進むからかかるのであって、もともとの距離自体はそこまで遠くないんだよな」


 そう、結局道中1度も魔物の襲撃に会わなかったので早く着いたのであった。


 セジュの探察魔法では半径500mくらいは魔物が避けていたようだと報告された。


「このペンダント意外と役に立ったな。魔力はゴリゴリ削っていったけど・・・」


魔力回復ポーションを飲みながら堅質樹を前に見ながら僕は言った。


「さて、さっさと素材を回収するとしますか」


 僕はシールに今回の素材収集で必要な道具を事前に工房で作っておいた物を出してもらった。


 堅質樹の枝を採取するための【魔力音叉(まりょくおんさ)】と【魔力樹傷修復テープ】である。

 どちらも魔力を通すことによって使うことが出来る魔力道具である。


 堅質樹の枝は不用意に切るとすぐに枯れてしまうので切る場所にテープを貼り、その真ん中を切る事によって枯れないように魔力の膜が傷口を覆ってくれる仕組みになっている。


 また、切ってはいけない枝には魔力の流れが大きいといった特徴があるので魔力音叉(まりょくおんさ)で確認してから作業すると失敗が無い。


 どちらも採取対象の正確な情報がないと対策出来ない事なのでミルフィの情報収集能力あっての事だと有りがたく思っている。帰ったら何か特別報酬を考えてあげよう。


「よし、この枝にするか。テープを巻いてから・・・ミスド僕は枝の先の方を持っているから巻いたテープの真ん中辺りを切断してくれないか」


「了解だぜ、マスター」


 ミスドは剣を構えると慎重に綺麗に真ん中を切断して見せた。

 切断してから数分待ったが、切り取った枝は枯れる事なく僕の手のなかに収まっていた。


「どうやら大丈夫だったみたいだな。滅多に来ない場所だし、折角だからもう2~3本採取しておこう」


 こうして、僕達は本来なら危険極まりない魔草原を無傷で攻略して工房へ帰ることになった。


 帰り道も当然ネックレスは着けたままだったので1度も魔物に出会うことなく帰り着いたのでミスドが戦い足りないとぶつぶつ言っていた。


 道中、ララがまた突っ込みを言っていた。


「やっぱりインチキアイテムじゃないの・・・」


 街が近づいてきた頃、僕は大きめの袋を取り出してララに言った。


「今から工房につくまでこの袋に入っていてね」


「なんでよ?」


「いや、ララは目立つんだよ。この世界にはそもそもドラゴンは発見されていないんだからララみたいなのがうろうろしてたら直ぐに捕獲されて貴族や王族に献上されるか研究者に解剖されるかが落ちだぞ。

 それでも良いなら別に止めないけどな」


「・・・分かったわよ」


 ララが入った袋をミスドに持ってもらって僕達は街の門をくぐり工房へと向かった。

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