#54 大切な人への贈り物 その一
紅茶で気分を落ち着けた僕はふたりに錬金術の課題を出した。
「ふたりとも錬金術の基礎はしっかりと身についているみたいだから複雑な応用錬金術について教えるつもりだったけど」
「「だったけど?」」
「ちょっと良いことを思い付いたから、ふたりには課題を出そうと思うんだ」
僕はそう言いながら素材棚から幾つか素材を取り出して机の上に置いた。
「まず、ふたりとも良く知ってると思うけど『魔力球』そして『魔力液』さらに『定着石』だ。ベースにする素材はこの棚から選んでも良いし、在庫があるかは分からないけどシールに言えば異空間収納にあるか調べてくれるから必要な素材は出して貰ってくれ」
僕はシールにその旨を伝えるとふたりに課題内容を告げた。
「課題の内容は『贈り物』だ。今回は僕からふたりに贈り物をしようと思う。それを作る間にふたりからも僕に今出来るレベルで何かを作ってみて欲しい。そしてこの研修が終わった時にも同じ事をしたいと思っている。期間は一週間だ。メイシスは自分の工房で、ララはこの工房の錬金釜を使うといい。僕は別に宛があるからそこで作るから心配しなくていい。何か質問はあるかい?」
僕はふたりの顔を見ながら問いかけた。ちょっと考えていたメイシスが質問をしてきた。
「今の私に出来る事はあまり多くはないのですけどどんな物でもいいのですか?」
「うん。今回は品物の出来で良し悪しを決めるとかじゃないからメイシスが僕にプレゼントしたいと思える物なら何でもいいんだ。日頃使うものでもいいし、特別な時に使うものでもいい。それこそ、変わった食べ物でも何でもいいんだ」
「それってタクミが喜ぶ物を考えるのが課題って事?それとも私達が今作る事が出来る最高の錬金術品の方がいいの?」
ララも何か考えがある様子だが的外れな事を防ぐためにどんどん質問をしてきた。
「そうだね。課題がテストならば今出来る最高の錬金術品なんだろうけれど、それは僕の講習が終わってから改めてって事にするから今回のテーマは贈り物だから相手が喜ぶ物がいいな」
僕がそう言うとふたりは僕の顔をじっと見ると考え込んでしまった。
「僕の顔を眺めていても欲しい物は書いてないからね。でも少しだけヒントをあげよう。僕は男だからね、どうしても男目線で物を考えてしまうんだよ。対してふたりとも女性だから僕とは違う目線で錬金術品が創れる可能性があると思うんだ。その辺りを考えてくれると嬉しいかな」
「そうなんだ。じゃあ逆に私が喜ぶ物ってタクミに分かるの?女の子の気持ちに鈍感な感じがするけど?」
ララは少し意地悪な質問を投げかけて僕の動揺を誘ってきたが僕は平然とした態度で「任せておけ」と強がった。
「よし、ふたりとも今日一日しっかりと何を作るか考えて明日から一週間、食事の時以外は工房に籠って試行錯誤してみるといい。最後に言っておくけど実力以上に良く見せようと無理をすると逆にどんどん劣化していくのも錬金術の常だ。魔力操作を誤らないように頑張ってくれ。僕もふたりが喜ぶ物を創れるように努力するよ」
「「はい。分かりました!」」
「よし、錬金術ウィークの始まりだ」
そう宣言した僕は、久しぶりの錬金術浸けにわくわくしていた。
 




