#4 昼食の準備をしていたら向こうから食材が歩いて来た
「よし、ここら辺でいいか」
僕達は先ほど戦闘のあった場所から半刻ほど進んだ水場にて昼食を兼ねた大休憩をとる事にしていた。
「さて、今日の昼食は何にするかな?」
こんな旅の途中で食べる食事など普通は簡易食か携帯食くらいで、わざわざ調理に必要な食材や調味料等は荷物になるので持って行かないものであるが、僕達には異空間収納を持つシールが同行しているのでそう言った心配は無かった。
「今日は子羊のパイ包みとカナミスの果実酒と…」
ミルフィが出発前に作ってシールの異空間収納に収納していたメニューを読み上げていた時、セジュの広域探知網に反応があった。
「マスター、どうやら昼食前にもうひと運動しないといけないようです」
セジュによると、オークが数体近づいているらしい。
【オーク:豚の頭をもつ二足歩行の魔物、知能はそれほど高くないが武器を扱う事に加え人間よりも力が強い為、複数で襲われるとDランクハンターは当然、Cランクでもパーティーで対策を取らないと対応出来ない。追記:肉は焼くと旨い】
「オークか、ミルフィ悪いけど昼食メニューの変更だ」
「せっかく食材が歩いて来てるんだからありがたく頂こうじゃないか」
実際、魔物の肉は種類にもよるが旨いものが多い。しかも魔素を含んでいるので魔力回復薬の素材としても重宝するし、精霊達のエネルギーである魔力薬の精製素材としても必需品なのである。
「仕方がないですの。
シールさん、食事の方はそのまま異空間収納に入れたままでいいので、マスターの簡易錬金釜と包丁と調味料を出しておいてくださいの」
ミルフィはそう言うと賄いの準備を始めた。まだオークを狩ってもいないのに・・・。
「出来るだけ素材が痛まないように狩るように頼めるかな?」
僕は隣で剣の手入れをしているミスドに話を振った。
「了解だ。最高の状態でしとめてみせるぜ!」
ミスドはそう言うと手入れをしていた剣を『スッ』と天に掲げて最高の笑みを見せた。
* * *
それから十数分後…。
「前方約100メートル!数7!間違いなくオークの群れですね」
セジュが魔物達の情報を伝えた。
「了解!まかせとけ!」
ミスドが剣を構えて迎撃体勢をとりながら僕に向かって言った。
「オークに限らず魔物全般に共通する倒し方は『首を落とす事』につきるんだが、動き回る奴等の首を落とすのは難しいよな?」
僕達は周りを見ながら頷きあった。
「そんな時はセジュがよく使う『グラビティホールド』とかで動けなくしてから止めを刺すと簡単だ」
『ガサッ!ぐげーっ!』
そんな話をしている時にこちらに気がついたオーク達が手に持った剣や槍を振りかざして飛び込んで来た!
「おっと!」
『シュパッ!ザシュ!!ザシュ!!ドサッ!!!ドサドサッ!!!』
「っとまあ普通ならそうなんだけど、敵の数倍のスピードで剣を振ってやれば首をはねるのは造作もないんだがな…」
ミスドは僕達の方を向いてなにやら魔物狩りのやり方をレクチャーしながら後ろから来ているはずのオーク達の首を次々とはねていった。
相変わらずのチートぶりである。
「ほい、ラスト!」
ミスドが最後のオークを始末した後、セジュが水魔法で血を洗い流し、ミルフィが後で使いやすいように解体し、シールの異空間収納に収納するのであった。
「うん。便利だね君たち」
結局、僕の昼食は今回狩ったオークをミルフィが美味しく調理してくれたが、魔物の素材が捕れたのだから皆は各自好みの食事を要求してきた。
ミスドは『魔素酒』セジュは『魔素スイーツ』シールは『魔素お菓子』そしてミルフィからは『魔素紅茶』をお願いされた。
物は違うが作り方は基本的に一緒だ。僕は精霊の皆の要求は出来るだけ叶えてあげるようにしているので、常に携帯錬金釜はシールに持ってきて貰っている。
魔素酒は『魔素材+アコルの実』で調合する。味はそれぞれ素材のレベルによって変わるらしい。僕は魔素酒は飲まないので味はよく分からないんだが…。
魔素スイーツは『魔素材+スイーツ素材』だが、今回はスイーツ素材に『チコの実+じゃあじゃあミルク』を使い甘く作ってあげた。
魔素お菓子は『魔素材+爆裂こーん』でふわふわのお菓子に仕上げ、『岩塩』で味のアクセントをつけてみた。
魔素紅茶は『魔素材+ベニの葉+岩石砂糖』でほんのり甘めに仕上げた。
「「「「マスター、いただきます」」」」
「やっぱりマスターの魔素酒は旨いな」
「そうですね。このスイーツも甘く美味ですね」
「ふわっふわでさくさく、お塩のアクセントが効いてて凄く美味しいのだ」
「ほんのり甘くて優しいお味ですの」
皆は僕の作った食事を満足そうに食べながら目的地について話しあった。
「もう半日進んだ辺りに夜営が出来る水場があります。そこで一泊してから明日の午後過ぎに目的地の天象の森に入るようになると思いますの」
ミルフィが紅茶を飲みながら、これからの予定を確認した。
「よし、それじゃあ進もう」
僕は皆にそう告げると目的地に向かって歩きだした。