#32 王女殿下への料理指導と国王陛下の思惑 その一
「それではメイシス王女殿下。よろしくお願いします」
お辞儀した僕にメイシス王女殿下は優しく答えた。
「はい。こちらこそよろしくお願いします。今回は私が錬魔士さまの講義を受けるのですから王女殿下は必要ありませんので『メイシス』とお呼びくださいね」
いきなりの言葉に思わず国王陛下の方を見ると国王陛下も頷いていた。
『ふぅ。仕方ないか・・・』
「分かりました。しかし王女殿下を呼び捨てには出来ませんので『メイシス様』と呼ばせて頂きます」
僕の言葉に少し嬉しそうな顔をしたメイシスだったが直ぐに真剣な顔になり、王女としての凛とした振るまいになった。
『さすがは王族だ。良い教育を受けているな』
僕は感心しながらも講義の準備をしていった。
「それではメイシス様。まずは貴女に錬金術の素養があるかを確認させて頂きます。シールあれを出してくれ」
「マスター。了解なのだ。えーとアレは収納のどこにしまってたかな。ああ、あったこれなのだ」
僕はシールに出して貰った真っ白な球体をテーブル上に台座と一緒に置いてからメイシスに説明した。
「この球体は魔力を測定する道具です。今は白色をしていますが触った時に色が変化します。その色によって魔力の属性が分かるようになっていますので適正の有無が判断出来ます。ちょっと試してみましょうか。セジュちょっとこれに手を置いてみてくれないか?」
「了解です。マイマスター」
僕の指示でセジュが球体に触れると白色が濃い緑色に変化した。
「セジュの魔力属性は複数あるんだけどその中でも特に風属性に特化しているのと、魔力量が多いから濃い緑色になった訳なんだ。ちなみにミスドは魔力量が精霊にしては少ないから淡い赤色になるんだ。とりあえず危険はないから気楽に計測してみましょうか?あ、ちなみに魔力適正がない場合は白色から変わりませんのでそのときは普通の調理コースにしましょう」
セジュが触った緑の球体は僕がリセットさせて白色にしてある。メイシスの魔力を測定で変わる色があるならばそれが適正な属性だと言える。
メイシスは頷いて右手を球体の上に持っていきソッと触れた。皆の視線が球体に注がれ、息を飲んで色の変化を見守った。
「あっ!色がついてきましたわ!」
メイシスの声に皆が球体に視線を向けると白色の球体がぼんやり紫色に光り始めたのがわかった。
『よりにもよって紫色か。まさかこんな所で見るとは思わなかったな』
「それで、紫色の場合どうなんでしょうか?」
メイシス王女が期待しながら僕を見てくるので仕方なく色についての説明をすることにした。
「まず、色がついた時点で魔力が一定量体内から放出されていることが分かります。色については『赤色』が炎属性。『青色』が水属性。『緑色』が風属性。『茶色』が土属性。に強く適応しているのですが、例えば緑色でも風属性しかない訳ではなく実は複数の属性を持つ人も居ますので訓練次第で上達出来る場合もあります」
「それで、私の紫色はどんな属性になるのでしょうか?」
僕は国王陛下をチラリと見てからメイシス王女に向き直り質問に答えた。
「紫色は『錬金と治癒』の属性ですね。普通の人が持つには特殊な複数属性素養になります。ちなみに『錬金』だけの属性は黄色になりますのでおそらくスプルスさんは黄色になるかと思われます。試してみますか?」
「はい。是非お願いします」
スプルスは再度リセットされて白色になった球体に手をのせた。予想どおり球体は黄色に輝き始めた。
「やはりスプルスさんには錬金術士としての素養がおありですね。まあ、王宮付きの錬金術士で素養がないはずがないですけどね」
「ありがとうございます。しかし、このような魔道具で確認したことは無かったので少し驚いたのと今の職業に誇りを持ってやってきたのが間違いじゃなかった事嬉しく思います」
スプルスはお礼を言うとララとの料理錬金の講習に戻っていった。
「さて、メイシス様。あなたの魔力属性は『錬金と治癒』と言いましたが今までに魔法を使った事はありますか?」
「いいえ。ありませんわ。私の両親とも魔法を使う者はおりませんし、なぜ私に魔法の素養があるのかが不思議なのですが・・・」
普通、魔法の素養は遺伝的なものが多く突然能力開花する事は稀であった。今回の場合は考えられる事が3つありひとつは王族であるがために代々魔力の調査をしなかった可能性。もうひとつは今の両親は遺伝しなかったがさらに上の代からの隔世遺伝の可能性。最後はとても国王には聞けないが腹違いの娘の可能性。まあ、とりあえずやんわりと国王陛下に聞くとするか。
「国王陛下。一般的に魔法素養は遺伝によるものが多いのはご存知だと思いますが国王陛下および国王婦人に魔法素養があると聞いた事がありません。しかし、メイシス様は明らかに突然能力開花の域を越えた素養をお持ちですので何かご存知ではないでしょうか?」
僕はなんとなく答えは分かっていたが敢えて国王陛下の言葉を待った。
いつも閲覧ありがとうございます。
 




