#31 王宮での料理錬金指導 その三
僕達が錬金術でケーキを作っている横の厨房ではミルフィによる通常調理によるチョコレートケーキの講習が行われていた。
「それではナリフさんチョコレート用の素材をこのすり鉢に入れて粉々に砕いて欲しいですの。それが終わったら調味料とこの蒸留水を加えて強火で液状になるまで撹拌します。ここをサボると舌ざわりが荒くなってしまいますので手を抜かないようにお願いしますの」
「わっわかりました。こんな感じで良いでしょうか?」
ナリフはミルフィに説明されたように素材を調理していくが初めて扱う素材も多く、異様に固い実や手際の悪さで成分が分離してしまうなど悪戦苦闘していた。
「違いますよ。こうですよこう!あーそれだと風味が全部飛んじゃいますよ!」
『ミルフィは料理の事になると本気で容赦ない教え方をするからナリフさんも大変だろうな。まあ自分から教えて欲しいと言い出した訳だしあれだけしっかり教えれば大丈夫だろう』
僕は自分のレクチャーをしながら横目にミルフィ達の講習も観察していた。ミルフィが暴走したら止めないといけないと思っていたが思ったよりもナリフさんが必死で食らいついているので任せることにした。さすがは王宮付きの総料理長だけあるな。
『さてと、こっちの二人は完成したかな?』
僕は仕上げにかかっている二人のほうを確認して声をかけていった。
「どうだい?上手く出来たかい?」
「すみません。思うようにチョコレートの部分が固まらなくてスポンジ部分がチョコレートを全て吸ってしまいました」
「私は何とか出来たわよ。ちょっと形は変形してしまったけれど・・・」
大体予想通りの結果になったな。ララも工房で特訓したんだから出来て当たり前なんだけどやっぱり緊張したのかな。
「まあ、とりあえず出来たようなので次のプリン・アラ・モードを作ってみましょう」
後のサプライズをする時間がなくなりそうだったのでとりあえず次のお菓子を作ろうと素材を準備してるとそこへ。
「娘が参加している講習はこっちか?どんな調子だ?」
突然入り口の方から数人の人影が現れたので皆が一斉に注目した。
「こっ国王様!なぜこちらに?」
「お父様どうされたのですか?」
「いやな、錬魔士殿とその弟子が来城されているのとメイシスが講習に参加してると聞いてどうしてるかと思ってな」
「これは国王様。錬魔士のタクミでございます。この度は王宮からの依頼を頂きましてありがとうございます。こちらは弟子のララでございます。まだまだ錬金術士としては未熟ですが光るものを持っておりますゆえ、鍛えている所でございます」
「これは可愛いお嬢さんだ。こんなお嬢さんが弟子なら教えがいもあるんじゃないか?」
「ははは。まあ本人を前に言う事ではないかも知れませんが確かにそうかもしれませんね」
僕は立場上国王とも面識がある。それは世の中に画期的な商品を数多く生み出したとして何度か褒賞を頂いたり、新しいアイデアに必要な許可を貰うために面会を申し出たりしたからである。
基本的に僕の立場は何処にも属さない中立の位置付けにしている。国王でも僕を強制的に従える事はしない。どうしてかと言うと僕の傍には精霊達が控えているからに他ならない。無理を通せば壊滅的な被害を出した上に拠点を他国に移動されてしまうからである。
そういう理由で表向きには国王に対して敬意を示す言動を心がけているが実の所取り立てて諂う事はしないのである。
「ところで錬魔士殿。娘のメイシスにも作り方を指導して欲しいんじゃが。どうかのう?」
「お父様。先程から私も見学をさせて頂いておりますが初めて見る物ばかりでとてもとても私が出来るレベルではありませんわ」
「ふーむ。それは残念だ。確かに王族の娘が厨房に立って料理をするなど殆んど機会がないに等しいからのう。しかし、だからこそ錬魔士殿から教えて貰う料理やお菓子を修得できれば三月後に控えているメイシスの成人お披露目パーティーでの目玉の一つになるかと思ったんじゃがのう」
「メイシス王女様にケーキ作りの指導ですか・・・。それは隣でナリフさんが受けている普通の調理方法ですか?それとも僕が教えている料理錬金ですか?」
「メイシスに錬金術の素養があれば錬魔士殿の無ければ普通の調理となるかのう。どうじゃ追加報酬を出すから受けてはくれんか?」
国王から直々の依頼となると普通なら断れるはずがないが僕には関係ない。だけど先程から目を輝かせて講習を見ているメイシス王女殿下が望むならば受けてもいいかと考えた僕は王女殿下に聞いてみた。
「メイシス王女殿下。あなたは国王陛下の依頼についてどうお考えでしょうか?僕はあなたの意見が聞きたいです」
「私は是非教えて欲しいです。私に錬金術の素養があるかは分かりませんが錬魔士さまの講習を受けたいと思います」
『やはりそう言うよな。王族だからと贔屓するつもりはないけど真剣に向き合ってひたむきに努力する人は僕は好きだ。まあ、もうすぐ成人を迎える王女殿下にサプライズプレゼントの前倒しだ』
「わかりました。上手くいくかは王女殿下の努力次第かと思われますが力になれるようにいたしましょう」
「ララ。悪いけどプリン・アラ・モードの料理錬金の講習は任せたからスプルスさんに指導を頼むよ。一応工房で特訓したから出来るだろ?スプルスさんも申し訳ないですけどそう言う事でお願いします。もちろんララの説明で分からないところがあれば対処しますので」
「わかったけど『貸しひとつ』よ。まあ、チョコレートケーキよりは簡単だから大丈夫だと思うけどね」
「わかりました。国王陛下様と王女殿下様の依頼に私が意見する事はありませんのでララさんよろしくお願いします」
お互いの行動が確認できたところでララはスプルスに作り方のレクチャーを始めた。
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