#16 錬金魔法士としてのお仕事 その一
「ねぇタクミ。あなたって日頃はどんな仕事してるの?」
ある晴れた日、工房で錬金釜の前で依頼の錬金をしていた僕にララが聞いてきた。
「そうだな。ギルドや貴族から特別な依頼を受けることもあるし、趣味で料理のレシピを作ることもある」
「でも、僕はこの世界には創造神のスカウトで来たからそれに添った仕事も定期的にする必要があるんだ」
「具体的に言うと、この世界ではまだ確立されていない薬の発明や便利な道具の開発をしてレシピに起こすとかをやってるんだ」
「ふーん。結構大変なんだね。ところで今は何を作ってるの」
「ああ、今はレシピのある洗髪薬と新しく開発を始めた洗った髪を乾かすドライ・ヤーのレシピを作る作業をやってるんだ」
「この世界では石鹸自体は一応あるんだけど手足を洗うくらいなら良いけど、まだまだ髪を洗うには使い勝手が良くないんだ。男はともかく女性には綺麗であって欲しいじゃない?まあ僕の勝手な主観だけどね。で、作ったものをテスト的に使って貰ってたんだけど在庫が切れてしまったから追加で作る事にしたんだ」
「そのついでに髪を早く乾かす方法が無いかと言われたので新しい魔法道具を作ってみる事にしたんだ」
「ドライ・ヤーは風の魔法と火の魔法を組み合わせた髪を乾かす魔法道具なんだけど魔法を使えない人でも使えるように魔石動力と魔力充填を効率よく出来るように作ろうと考えてるんだ」
僕はそう言うと洗髪薬の材料である生来の実と世界樹の雫とガーマの油を取り出した。
「そういったレシピって何処から調べてくるの?」
「洗髪薬は元々僕が作った薬でレシピも僕が作ってストックしてるんだ。まだ試験段階だからオープンにはレシピ公開してないけれどね」
「レシピを作る?」
「うん。そりゃあ誰かが作らないとレシピがひとりでに沸いて出る事はないからね」
「まあ、それはそうよね」
ララは興味深そうに僕の手元を覗き込んできた。
「普通は色々な素材を組み合わせて何度も実験してサンプルを作るんだけど僕の場合はかなり特殊で一番最初は作りたい完成形を思い浮かべて薬なら魔力液だけ、個体物なら外装に使いたい金属の塊を一緒に釜に入れて錬金するだけで大体思っていた物が出来るんだ」
「そのあとで出来た物を詳細分析して錬金レシピを作成するんだ」
「思った物が何でも錬金出来るって反則的にヤバイんじゃないの?」
「まあ、普通ならそうだね。知識さえあればどんな破壊力のある武器でも出来るし、大げさじゃなく世界征服でも出来る能力だと思うよ」
「でも、今の僕は世界征服には興味が無いし、色んな事を実験出来て周りの皆と楽しく過ごせたらそれ以上の幸せは考えられないんだよ。まあ、もし世界征服を考えてもおそらく創造神ガルサスが止めるか僕を殺す事になると思うけどね」
「ふぅん。竜族の私には人間の幸せの標準がどのくらいかよく知らないけれどタクミはかなりの変わり者って事だけは良く分かったわ」
「まあ、僕は人間だけど異世界の知識を持った特殊な立場の人間だからこの世界の基準とはズレがあるかも知れないね」
僕は笑いながら洗髪薬の仕上げに取りかかった。
「よし、このくらいでいいだろう。ララ、君も洗髪薬を試してみるかい?」
「えっ!?いいの?・・・でも、本当に大丈夫なんでしょうね。使った次の日には髪が抜けてしまったり、真っ白に染まったりしないでしょうね?」
(どんだけ信用ないんだよ・・・)
「大丈夫だよ。今までも何人かテストして貰ったけど、みんな綺麗になったと喜んでくれた人ばかりだからね」
「それならば試してあげないこともないんだからね!」
ララはそう言いながらも嬉しそうに洗髪薬の入った瓶を繁々と見つめていた。
「さてと、今回はドライ・ヤーを新しく作るんだけどいつもなら魔力液と金属塊、今回は鉄鉱石と持ち手用に木塊といった素材で作るけど」
「今回は風と火の魔法石も組み込まないといけないからちょっとだけ複雑なんだよ」
「素材を全て入れてから完成形を思い浮かべて・・・ぐーるぐーるっと」
「よし、出来た!」
「ふーん。それがドライ・ヤーなの?へんな形ね」
確かに僕が想像していた完成形とは形が少々違っていてパッと見銃のようにも見えた。グリップの辺りにはボタンらしき物が3つ着いていて上から【赤】【青】【黄】に分かれていた。
おそらく僕のイメージ通りなら、赤いボタンが温風で青いボタンが冷風、黄色いボタンが停止ってところだろう。
試してみたいが試運転で髪を乾かす為にわざわざ髪を洗うのも面倒だし、いきなり頭に向けて使うのもためらわれたので側にあった花瓶に生けてあった花に向かって赤いボタンを押してみた。
新年早々にリア仕事のおかげて身体中が筋肉痛で更新する余力がありませんでした。
今回少し短めです。
次回は今回の話の続きになります。
更新までしばらくお待ち下さいませ。




